エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第121話
「…………な、なんてことだ!!」
レイナルドとカルロスが捕まってしまったのを、離れて見ていた者がいた。
島に残って共に戦うことにした人間の一人で、普段は主に農業をしているイバンだ。
ちゃんと訓練はしていたが、今回の場合後方支援をメインにしてもらっていたが、他の人間が怪我をしたので、動き回れるイバンがレイナルドたちの様子を見に来たのだ。
そして、最悪な状況を目撃してしまったのだ。
「ケイ殿!! ケイ殿!!」
「おぉっ! イバン、遅かったな……」
レイナルドとカルロスを助けに行きたいところだが、自分の戦闘力はちゃんと理解している。
普通の人族兵なら3、4人相手にしてもそうにかなりそうだが、2人を捕まえるような相手に向かって行ったところで、あっさり返り討ちにあうのは明白だ。
あの敵2人相手に戦うなら、ケイしか適任者はいない。
そう判断したイバンは、ケイに報告をするため慌てて集合場所へと駆け戻った。
そして、拠点まであと少しと言う所で、目当てのケイを発見して慌てて声をかけた。
敵が拠点に接近してきていないか、少し離れて探っていたらしい。
「レイナルド殿とカルロス殿が……」
「何っ!? 捕まっただと!?」
イバンから息子2人が捕獲されたとの報告を受け、ケイは目を見開く。
敵兵の動きや様子を見る限り、レイナルドたちが苦戦するような人間はいないと思っていた。
その考えが少し甘かったようだ。
こんなことなら、自分がモイセスたちを救いに行った方が良かったかもしれない。
そう思うケイだが、怪我をした獣人たちの手当てに奔走していたので、結局は無理だっただろう。
「動ける者だけでも連れて助けに行かないと……」
「……それは無理だ」
ケイに行ってもらうのは当然としても、敵がいる拠点は西海岸だろう。
そこまで進むには、敵の邪魔が入る事は間違いない。
イバンは、ケイが邪魔を受けずにレイナルドたちのもとへ向かえるように、一緒に行く露払い役を募ろうと拠点に戻ろうとした。
それにケイが待ったをかける。
「どうしてですか!?」
「ほとんどの人間が怪我を負っている。まともに戦えるのは僅かしかいない」
イバンは当然の疑問をケイに投げかける。
それに対して返って来たのは、絶望的な言葉だった。
「じゃ、じゃあ、俺が行きます」
「駄目だ。隠しているつもりなのかもしれないが、お前も足を痛めているだろ?」
「うっ!?」
後方支援役とは言っても、イバンも仲間を守るために人族兵と戦った時に足を少し痛めている。
それを、ケイはイバンの足運びで気付いた。
まだまだ多くいる人族兵に突っ込んで行くのに、それではあっという間に殺られてしまいかねない。
そのため、ケイは連れて行くことを許可しなかった。
「イバン…………レイたちのことはみんなに黙っていてくれないか?」
「何故っ!? 2人を助けに行くのでは……!?」
怪我をしているとは言っても、動ける人間はまだいるはず。
この程度の足の痛みなんかまだ我慢できる。
少しの思案の後にケイが発した言葉を、イバンは全く理解できなかった。
「これからみんなをカンタルボスへ送る。2人は俺が1人で助けに行く」
「そ、それは、無理です!! 奴らはまだ多くの兵がいます。ケイ殿だけでは……」
魔物の縄張りへ誘い込んだりと罠に嵌めてきたが、減らせた敵兵は多く見積もっても恐らく総数の半分くらい。
そんな数を相手に、いくらケイでもレイナルドたちを救えるとは思えない。
1人で行こうとするのは無謀だ。
「奴らは分散して東へ向かって来ている。全員相手にしてたらたしかに俺でもきつい。しかし、気配を消して近付けば、敵はレイたちを捕まえた奴らと少しの兵だけになるはずだ」
「……みんなをカンタルボスへ送るのは?」
ケイの強さはイバンには計り切れない。
そんなケイなら、もしかしたらそんなことができるかもしれない。
しかし、そうなると魔力を温存したいはず。
それなのに、魔力を使ってみんなをカンタルボスへ送る理由が分からない。
「……俺がみんなの安否を気にする事無く行動できるからだ」
「なるほど……」
怪我をしている島民と駐留兵たちを置いてレイナルドたちを救出に向かうと、ここまで到達した敵兵に皆殺しにされかねない。
かと言って、人族を全部倒してレイナルドたちの所へ向かうには、ケイの身がもたない。
ならば、魔力を使っても彼らを安全な場所へ送って、1人で行動した方が動きやすい。
悪く言えば、今の彼らは足手纏いだ。
「2人を救うためにも頼む!! みんなには黙っていてくれ……」
「……分かりました。あなたに従います」
2人を助けられるのはケイだけだ。
彼がそれが一番いい方法だと導き出したのなら、イバンとしては彼に従うしかない。
そのため、イバンは渋々ケイの指示に頷いた。
「イバンが戻って来たぞ!!」
ケイがイバンを連れて拠点に戻ると、島民と駐留兵たちは怪我で痛む体に鞭打ち集まる。
無事なものはどこにもおらず、みんな痛々しい。
「レイナルド殿たちは、ちょっとしぶといのがいてもう少しかかりそうだ」
「そうか……」
レイナルドとカルロスのことを聞いてくる者も当然おり、イバンはケイとの約束通りみんなには言わないようにした。
嘘をついて申し訳ないが、イバンはケイにかけたのだ。
そのため、イバンは迷うことなく彼らへ嘘の報告をしたのだった。
「怪我人が多いし、治療は早い方が良い。先にみんなだけカンタルボスに行ってもらおうと思う」
「レインルド殿たちを待たなくていいのですか?」
無事なものが全くおらず、重傷者も何人かいる。
カンタルボスへ行けば、先に行った美花たちが国王のリカルドに救助を求めているはずだ。
回復師も用意してくれているかもしれない。
ケイの言葉に納得するものがほとんどだったが、当然レイナルドたちのことを気にする者もいた。
「あの二人なら大丈夫。俺が責任もって連れて行くから安心してくれ」
「……分かりました。」
そういった者たちに、ケイがいつもと変わらない表情で話す。
この中で怪我をしていないのはケイだけで、彼が言うのであれば納得するしかない。
そうなれば行動は早い方が良い。
「ハッ!!」
ケイは早々に転移の扉を出現させたのだった。
まずは重傷者を乗せたタンカを比較的怪我が軽い者たちが運び、そのあとぞろぞろとみんな扉をくぐって移動していった。
「……ケイ殿」
「任せておけ! イバン!」
イバンは意図的に最後になった。
ケイとレイナルドとカルロス。
3人を置いていく心配が消えず、不安で仕方がないといった表情だ。
しかし、ケイは自信満々に微笑むので、言葉が出てこなくなる。
「ご無事を……」
「あぁ……」
短いがイバンなりのエールだろう。
ありがたく感じながら、ケイは返事をする。
そうしてイバンの姿も消え、ケイは転移の扉を消した。
「さてっ! 行くか!」
両手で顔を叩き、ケイは気合いを入れる。
そして、捕らわれたわれた息子2人の救出すべく、ケイは西へと向かって行ったのだった。
レイナルドとカルロスが捕まってしまったのを、離れて見ていた者がいた。
島に残って共に戦うことにした人間の一人で、普段は主に農業をしているイバンだ。
ちゃんと訓練はしていたが、今回の場合後方支援をメインにしてもらっていたが、他の人間が怪我をしたので、動き回れるイバンがレイナルドたちの様子を見に来たのだ。
そして、最悪な状況を目撃してしまったのだ。
「ケイ殿!! ケイ殿!!」
「おぉっ! イバン、遅かったな……」
レイナルドとカルロスを助けに行きたいところだが、自分の戦闘力はちゃんと理解している。
普通の人族兵なら3、4人相手にしてもそうにかなりそうだが、2人を捕まえるような相手に向かって行ったところで、あっさり返り討ちにあうのは明白だ。
あの敵2人相手に戦うなら、ケイしか適任者はいない。
そう判断したイバンは、ケイに報告をするため慌てて集合場所へと駆け戻った。
そして、拠点まであと少しと言う所で、目当てのケイを発見して慌てて声をかけた。
敵が拠点に接近してきていないか、少し離れて探っていたらしい。
「レイナルド殿とカルロス殿が……」
「何っ!? 捕まっただと!?」
イバンから息子2人が捕獲されたとの報告を受け、ケイは目を見開く。
敵兵の動きや様子を見る限り、レイナルドたちが苦戦するような人間はいないと思っていた。
その考えが少し甘かったようだ。
こんなことなら、自分がモイセスたちを救いに行った方が良かったかもしれない。
そう思うケイだが、怪我をした獣人たちの手当てに奔走していたので、結局は無理だっただろう。
「動ける者だけでも連れて助けに行かないと……」
「……それは無理だ」
ケイに行ってもらうのは当然としても、敵がいる拠点は西海岸だろう。
そこまで進むには、敵の邪魔が入る事は間違いない。
イバンは、ケイが邪魔を受けずにレイナルドたちのもとへ向かえるように、一緒に行く露払い役を募ろうと拠点に戻ろうとした。
それにケイが待ったをかける。
「どうしてですか!?」
「ほとんどの人間が怪我を負っている。まともに戦えるのは僅かしかいない」
イバンは当然の疑問をケイに投げかける。
それに対して返って来たのは、絶望的な言葉だった。
「じゃ、じゃあ、俺が行きます」
「駄目だ。隠しているつもりなのかもしれないが、お前も足を痛めているだろ?」
「うっ!?」
後方支援役とは言っても、イバンも仲間を守るために人族兵と戦った時に足を少し痛めている。
それを、ケイはイバンの足運びで気付いた。
まだまだ多くいる人族兵に突っ込んで行くのに、それではあっという間に殺られてしまいかねない。
そのため、ケイは連れて行くことを許可しなかった。
「イバン…………レイたちのことはみんなに黙っていてくれないか?」
「何故っ!? 2人を助けに行くのでは……!?」
怪我をしているとは言っても、動ける人間はまだいるはず。
この程度の足の痛みなんかまだ我慢できる。
少しの思案の後にケイが発した言葉を、イバンは全く理解できなかった。
「これからみんなをカンタルボスへ送る。2人は俺が1人で助けに行く」
「そ、それは、無理です!! 奴らはまだ多くの兵がいます。ケイ殿だけでは……」
魔物の縄張りへ誘い込んだりと罠に嵌めてきたが、減らせた敵兵は多く見積もっても恐らく総数の半分くらい。
そんな数を相手に、いくらケイでもレイナルドたちを救えるとは思えない。
1人で行こうとするのは無謀だ。
「奴らは分散して東へ向かって来ている。全員相手にしてたらたしかに俺でもきつい。しかし、気配を消して近付けば、敵はレイたちを捕まえた奴らと少しの兵だけになるはずだ」
「……みんなをカンタルボスへ送るのは?」
ケイの強さはイバンには計り切れない。
そんなケイなら、もしかしたらそんなことができるかもしれない。
しかし、そうなると魔力を温存したいはず。
それなのに、魔力を使ってみんなをカンタルボスへ送る理由が分からない。
「……俺がみんなの安否を気にする事無く行動できるからだ」
「なるほど……」
怪我をしている島民と駐留兵たちを置いてレイナルドたちを救出に向かうと、ここまで到達した敵兵に皆殺しにされかねない。
かと言って、人族を全部倒してレイナルドたちの所へ向かうには、ケイの身がもたない。
ならば、魔力を使っても彼らを安全な場所へ送って、1人で行動した方が動きやすい。
悪く言えば、今の彼らは足手纏いだ。
「2人を救うためにも頼む!! みんなには黙っていてくれ……」
「……分かりました。あなたに従います」
2人を助けられるのはケイだけだ。
彼がそれが一番いい方法だと導き出したのなら、イバンとしては彼に従うしかない。
そのため、イバンは渋々ケイの指示に頷いた。
「イバンが戻って来たぞ!!」
ケイがイバンを連れて拠点に戻ると、島民と駐留兵たちは怪我で痛む体に鞭打ち集まる。
無事なものはどこにもおらず、みんな痛々しい。
「レイナルド殿たちは、ちょっとしぶといのがいてもう少しかかりそうだ」
「そうか……」
レイナルドとカルロスのことを聞いてくる者も当然おり、イバンはケイとの約束通りみんなには言わないようにした。
嘘をついて申し訳ないが、イバンはケイにかけたのだ。
そのため、イバンは迷うことなく彼らへ嘘の報告をしたのだった。
「怪我人が多いし、治療は早い方が良い。先にみんなだけカンタルボスに行ってもらおうと思う」
「レインルド殿たちを待たなくていいのですか?」
無事なものが全くおらず、重傷者も何人かいる。
カンタルボスへ行けば、先に行った美花たちが国王のリカルドに救助を求めているはずだ。
回復師も用意してくれているかもしれない。
ケイの言葉に納得するものがほとんどだったが、当然レイナルドたちのことを気にする者もいた。
「あの二人なら大丈夫。俺が責任もって連れて行くから安心してくれ」
「……分かりました。」
そういった者たちに、ケイがいつもと変わらない表情で話す。
この中で怪我をしていないのはケイだけで、彼が言うのであれば納得するしかない。
そうなれば行動は早い方が良い。
「ハッ!!」
ケイは早々に転移の扉を出現させたのだった。
まずは重傷者を乗せたタンカを比較的怪我が軽い者たちが運び、そのあとぞろぞろとみんな扉をくぐって移動していった。
「……ケイ殿」
「任せておけ! イバン!」
イバンは意図的に最後になった。
ケイとレイナルドとカルロス。
3人を置いていく心配が消えず、不安で仕方がないといった表情だ。
しかし、ケイは自信満々に微笑むので、言葉が出てこなくなる。
「ご無事を……」
「あぁ……」
短いがイバンなりのエールだろう。
ありがたく感じながら、ケイは返事をする。
そうしてイバンの姿も消え、ケイは転移の扉を消した。
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