エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第111話
「おいっ! 魔闘部隊だ……」
「本当だ……」
エルフの入って行ったダンジョンに集まっていたリシケサ王国の兵は、数人の兵を残してほとんどが中へ入って行ってしまった。
ダンジョン内の魔物がどれほどの強さかは分からないが、出て来た頃には仲間は疲労しているはず。
その時、指揮官のセレドニオの所までエルフを連れて行く人間がいた方が良い。
そのための兵が数人残っているのだが、仲間が戻ってくるまで時間があるため、軽い食事をして休憩していた。
そこに、魔闘術を使う戦闘自慢の部隊が近付いてきた。
他の隊が魔物相手に苦戦しながらようやくたどり着いたこの場所に、セレドニオの指示を受けた彼らは、ものの数分で追いついたのだった。
「ここがエルフが入ったってダンジョンか?」
「え、えぇ……」
魔闘部隊の中の中肉中背で槍を持った男に急に声をかけられ、兵の男は慌てたように返事をしする。
彼らは普通の隊とは違い、戦争が起きた時や危険な魔物が出た時にしか出動しない。
そのせいか、関わり合うことが少ないため、どう対応していいのか分からないというのもある。
ここまでに来る途中で、どうやら魔闘部隊の彼らもこのダンジョンのことを聞いたようだ。
「いいね。攻略したいな……」
「おいおい、俺たちはもう冒険者じゃないんだから……」
兵の返事を聞いた槍持ちの男は、うずうずしたように洞窟の内部を眺め始めた。
それを、背中に斧を持った筋肉隆々の男が止めに入る。
この部隊の者たちはほとんどが冒険者上がりだ。
魔物を倒したり、町の清掃や薬草探しなど、何でも屋と言った感じの職業である冒険者。
仕事の中でも、特に魔石や牙や爪などは武器や防具の素材として使われるため、主に魔物の討伐をする者たちの方が多く、高額の魔石や素材を手に入れる一番の近道は、強力な魔物を倒して手に入れることだ。
つまり、戦闘力が高い方が冒険者としての格が高い。
彼らはそんな冒険者の中でも、上位のランクに所属していた者たちで、高額な資金と待遇を与えることを条件に、彼らはリシケサ王国に所属することを受け入れたのだ。
「さっさと先へ行こう!」
「分かってるよ。お前はいつも真面目ちゃんだな……」
2人が話をしている近くで、フードの付いたローブを着て眼鏡をかけた男が注意を入れる。
彼らの目的は獣人の始末。
見た目通りの真面目な台詞に、槍の男はやれやれと言った感じで言葉を返した。
「獣人は数人に怪我をさせたらしいが、まだ誰も倒していないらしいな?」
「あぁ、まともに戦ったら手強いらしいぞ」
意気揚々と多くの兵が森へと向かって行ったが、獣人たちの罠にかかり、多くの兵が魔物にやられて怪我をしたり命を落とした。
それに引きかえ、圧倒的に数に違いがあるというのに、相手の獣人たちは何人かが怪我を負っただけで、いまだに殺害したという報告が入って来ていない。
普通の兵たちでは、どうやら倒すのは難しいらしい。
「出現していた場所からいなくなったらしいが?」
「あぁ……」
報告によると、獣人たちは魔物のいる所へ兵たちを誘導をしていたらしいが、その魔物もほとんど退治したら姿を見せなくなったらしい。
怪我を負った者もいるのにその者たちも見ないということは、連れて逃げて行ったのだろう。
「西から追い立てているんだから、そうなると……」
「東か……」
数は減らされているが、島の侵略はジワジワと進んでいっている。
そうなると、逃げる先は自然と東になって来る。
それを共通で認識すると、彼らは東へ向けて歩き出した。
「3、3に別れて、どっちが多く獣人を狩るか勝負するか?」
「いいな!」
今度は、剣と盾を装備した男が思いついたように言い始めた。
それに槍の男が賛成の声をあげる。
どうやら彼らからしたら、獣人を倒すことはゲームのように思っているのかもしれない。
他の兵が怪我を負わせる事が出来る程度の相手なら、たいしたことがないと思っているからだろう。
「おいおい、ふざけてるとセレドニオ様にしかられるぞ……」
「……さすがに本人の前では言わねえよ」
先程の眼鏡の男に注意を受けると、彼らは少し顔を引きつらせつつ答えを返してきた。
「ライムンド様までいるもんな……」
続いて斧の男が言ったように、魔闘部隊の6人も、あの2人を相手にしたくない。
もしも彼らが冒険者であったなら、きっと自分たちよりも上のランクに所属していただろう。
そう思えるほど程あの2人の戦闘力は高い。
「まぁ、指示をこなすのだから、そういったゲーム性があってもいいかな……」
「おぉ、話が分かるな……」
冒険者上がりだけあって、眼鏡の男以外はやる気の波が激しい。
こういったゲーム性がないと、すぐに飽きてしまうから扱いづらい。
内容的にはセレドニオの指示に反しないのだから、眼鏡の男はこれぐらいは良しとすることにした。
それを聞いて、他の者たちは誰もが気合いが入ったようだった。
敵の部隊は、何もみんなダンジョンに向かったわけではない。
数組の隊は、森を抜けて獣人たちの捜索を続けており、モイストたち駐留兵と遭遇して戦闘が行われていた。
“バキッ!!”
「うがっ!?」
モイストの槍を受け、リシケサの兵がまた1人倒れる。
槍術が得意なモイストは、所々切り傷を負っているが、仲間と共に多くの敵兵を打ち払っていた。
「数が多くてもこの程度の実力なら大丈夫そうだな……」
「くそっ!! 獣人がこんなに強いとは……」
仲間がまたも殺られ、どんどん不利になって来たことを感じた人族兵は、苛立たし気に呟いた。
ここまでの戦いで、兵の数が少し違うくらいならモイストたちの方がまだ優位に運べるようだ。
やはり、獣人特有の身体能力がかなり優位に働いているのかもしれない。
駐留しているモイストたちは、日頃の訓練の成果を出して懸命に敵を打ち倒していった。
「くそっ!! せめて1人でも殺してやる!!」
同数では獣人には勝てない。
そう感じた敵兵は、モイスト1人を狙って攻撃を開始した。
「ぐあっ!!」
しかし、1人で掛かっていっても当然返り討ちに遭い、柄の部分で顎をかち上げられた敵兵は、たたらを踏んで後退し、ダメージが足に来てそのまま尻もちをついた。
「止めだ!!」
その状態ならもう相手にならない。
モイストはその兵を仕留めようと、槍を向け一歩踏み込んだ。
“バキッ!!”
「がっ!?」
モイストの槍がその兵に突き刺さる直前、サッカーボール大の魔力の球がモイストに向けて飛んできた。
魔法に無警戒だったモイストは、その魔力球を右腕に食らい、そのまま吹き飛ばされていった。
「モイスト隊長!?」
他の獣人兵たちも、突然の出来事に慌てた。
いきなり隊長のモイストがやられたからだ。
「ぐ、ぐぅ……!?」
魔力球の攻撃が直撃したモイストは、右腕を抑えながら立ち上がる。
かなりの勢いで吹き飛んでいたが、腕が折れただけで済んだようだ。
「直撃したのにしぶといな……」
モイストが魔力球が飛んできた方角へ目を向けると、杖を持った壮年の男が歩いてきた。
言葉からして、彼が先程の魔力球を放ってきたのだろう。
「だから言ったでしょ。カルリトさん」
そのすぐ後ろには眼鏡をかけた青年がおり、呆れたように呟いた。
「獣人はその身体能力によって防御力も人族とは違うって……」
「聞いてなかったのか? おっさん」
その眼鏡の青年の隣で、大剣を背負っている背の低い男がツッコミを入れた。
3人とも魔力を纏っており、戦う気満々と言った感じだ。
モイストたち駐留兵たちは、その状態の人間の強さを毎日の訓練で分からされている。
「みんな、退け!!」
10人程で行動をしていたが、モイストの腕は折られ、まともに戦える状態ではない。
他の者たちも細かい傷を所々負っていて、疲弊している。
人数で勝っていても、魔闘術を使った人間3人相手にするには心許ない。
咄嗟に判断したモイストは、仲間の獣人たちに一旦引くように指示を出した。
「「「「「は、はい!!」」」」」
「行かせるかよ!!」
獣人たちがモイストの指示に従い引こうとするが、それを阻止しようと大剣持ちの男が追いかけて、その大剣で斬りかかって来た。
“ガキンッ!!”
「なっ!? ……ハーフエルフ!?」
逃げる獣人たちに大剣が振り下ろされたが、誰1人斬ることなく1人の男に受け止められた。
その阻止した人間を見て、大剣の男は驚きの声をあげたのだった。
「本当だ……」
エルフの入って行ったダンジョンに集まっていたリシケサ王国の兵は、数人の兵を残してほとんどが中へ入って行ってしまった。
ダンジョン内の魔物がどれほどの強さかは分からないが、出て来た頃には仲間は疲労しているはず。
その時、指揮官のセレドニオの所までエルフを連れて行く人間がいた方が良い。
そのための兵が数人残っているのだが、仲間が戻ってくるまで時間があるため、軽い食事をして休憩していた。
そこに、魔闘術を使う戦闘自慢の部隊が近付いてきた。
他の隊が魔物相手に苦戦しながらようやくたどり着いたこの場所に、セレドニオの指示を受けた彼らは、ものの数分で追いついたのだった。
「ここがエルフが入ったってダンジョンか?」
「え、えぇ……」
魔闘部隊の中の中肉中背で槍を持った男に急に声をかけられ、兵の男は慌てたように返事をしする。
彼らは普通の隊とは違い、戦争が起きた時や危険な魔物が出た時にしか出動しない。
そのせいか、関わり合うことが少ないため、どう対応していいのか分からないというのもある。
ここまでに来る途中で、どうやら魔闘部隊の彼らもこのダンジョンのことを聞いたようだ。
「いいね。攻略したいな……」
「おいおい、俺たちはもう冒険者じゃないんだから……」
兵の返事を聞いた槍持ちの男は、うずうずしたように洞窟の内部を眺め始めた。
それを、背中に斧を持った筋肉隆々の男が止めに入る。
この部隊の者たちはほとんどが冒険者上がりだ。
魔物を倒したり、町の清掃や薬草探しなど、何でも屋と言った感じの職業である冒険者。
仕事の中でも、特に魔石や牙や爪などは武器や防具の素材として使われるため、主に魔物の討伐をする者たちの方が多く、高額の魔石や素材を手に入れる一番の近道は、強力な魔物を倒して手に入れることだ。
つまり、戦闘力が高い方が冒険者としての格が高い。
彼らはそんな冒険者の中でも、上位のランクに所属していた者たちで、高額な資金と待遇を与えることを条件に、彼らはリシケサ王国に所属することを受け入れたのだ。
「さっさと先へ行こう!」
「分かってるよ。お前はいつも真面目ちゃんだな……」
2人が話をしている近くで、フードの付いたローブを着て眼鏡をかけた男が注意を入れる。
彼らの目的は獣人の始末。
見た目通りの真面目な台詞に、槍の男はやれやれと言った感じで言葉を返した。
「獣人は数人に怪我をさせたらしいが、まだ誰も倒していないらしいな?」
「あぁ、まともに戦ったら手強いらしいぞ」
意気揚々と多くの兵が森へと向かって行ったが、獣人たちの罠にかかり、多くの兵が魔物にやられて怪我をしたり命を落とした。
それに引きかえ、圧倒的に数に違いがあるというのに、相手の獣人たちは何人かが怪我を負っただけで、いまだに殺害したという報告が入って来ていない。
普通の兵たちでは、どうやら倒すのは難しいらしい。
「出現していた場所からいなくなったらしいが?」
「あぁ……」
報告によると、獣人たちは魔物のいる所へ兵たちを誘導をしていたらしいが、その魔物もほとんど退治したら姿を見せなくなったらしい。
怪我を負った者もいるのにその者たちも見ないということは、連れて逃げて行ったのだろう。
「西から追い立てているんだから、そうなると……」
「東か……」
数は減らされているが、島の侵略はジワジワと進んでいっている。
そうなると、逃げる先は自然と東になって来る。
それを共通で認識すると、彼らは東へ向けて歩き出した。
「3、3に別れて、どっちが多く獣人を狩るか勝負するか?」
「いいな!」
今度は、剣と盾を装備した男が思いついたように言い始めた。
それに槍の男が賛成の声をあげる。
どうやら彼らからしたら、獣人を倒すことはゲームのように思っているのかもしれない。
他の兵が怪我を負わせる事が出来る程度の相手なら、たいしたことがないと思っているからだろう。
「おいおい、ふざけてるとセレドニオ様にしかられるぞ……」
「……さすがに本人の前では言わねえよ」
先程の眼鏡の男に注意を受けると、彼らは少し顔を引きつらせつつ答えを返してきた。
「ライムンド様までいるもんな……」
続いて斧の男が言ったように、魔闘部隊の6人も、あの2人を相手にしたくない。
もしも彼らが冒険者であったなら、きっと自分たちよりも上のランクに所属していただろう。
そう思えるほど程あの2人の戦闘力は高い。
「まぁ、指示をこなすのだから、そういったゲーム性があってもいいかな……」
「おぉ、話が分かるな……」
冒険者上がりだけあって、眼鏡の男以外はやる気の波が激しい。
こういったゲーム性がないと、すぐに飽きてしまうから扱いづらい。
内容的にはセレドニオの指示に反しないのだから、眼鏡の男はこれぐらいは良しとすることにした。
それを聞いて、他の者たちは誰もが気合いが入ったようだった。
敵の部隊は、何もみんなダンジョンに向かったわけではない。
数組の隊は、森を抜けて獣人たちの捜索を続けており、モイストたち駐留兵と遭遇して戦闘が行われていた。
“バキッ!!”
「うがっ!?」
モイストの槍を受け、リシケサの兵がまた1人倒れる。
槍術が得意なモイストは、所々切り傷を負っているが、仲間と共に多くの敵兵を打ち払っていた。
「数が多くてもこの程度の実力なら大丈夫そうだな……」
「くそっ!! 獣人がこんなに強いとは……」
仲間がまたも殺られ、どんどん不利になって来たことを感じた人族兵は、苛立たし気に呟いた。
ここまでの戦いで、兵の数が少し違うくらいならモイストたちの方がまだ優位に運べるようだ。
やはり、獣人特有の身体能力がかなり優位に働いているのかもしれない。
駐留しているモイストたちは、日頃の訓練の成果を出して懸命に敵を打ち倒していった。
「くそっ!! せめて1人でも殺してやる!!」
同数では獣人には勝てない。
そう感じた敵兵は、モイスト1人を狙って攻撃を開始した。
「ぐあっ!!」
しかし、1人で掛かっていっても当然返り討ちに遭い、柄の部分で顎をかち上げられた敵兵は、たたらを踏んで後退し、ダメージが足に来てそのまま尻もちをついた。
「止めだ!!」
その状態ならもう相手にならない。
モイストはその兵を仕留めようと、槍を向け一歩踏み込んだ。
“バキッ!!”
「がっ!?」
モイストの槍がその兵に突き刺さる直前、サッカーボール大の魔力の球がモイストに向けて飛んできた。
魔法に無警戒だったモイストは、その魔力球を右腕に食らい、そのまま吹き飛ばされていった。
「モイスト隊長!?」
他の獣人兵たちも、突然の出来事に慌てた。
いきなり隊長のモイストがやられたからだ。
「ぐ、ぐぅ……!?」
魔力球の攻撃が直撃したモイストは、右腕を抑えながら立ち上がる。
かなりの勢いで吹き飛んでいたが、腕が折れただけで済んだようだ。
「直撃したのにしぶといな……」
モイストが魔力球が飛んできた方角へ目を向けると、杖を持った壮年の男が歩いてきた。
言葉からして、彼が先程の魔力球を放ってきたのだろう。
「だから言ったでしょ。カルリトさん」
そのすぐ後ろには眼鏡をかけた青年がおり、呆れたように呟いた。
「獣人はその身体能力によって防御力も人族とは違うって……」
「聞いてなかったのか? おっさん」
その眼鏡の青年の隣で、大剣を背負っている背の低い男がツッコミを入れた。
3人とも魔力を纏っており、戦う気満々と言った感じだ。
モイストたち駐留兵たちは、その状態の人間の強さを毎日の訓練で分からされている。
「みんな、退け!!」
10人程で行動をしていたが、モイストの腕は折られ、まともに戦える状態ではない。
他の者たちも細かい傷を所々負っていて、疲弊している。
人数で勝っていても、魔闘術を使った人間3人相手にするには心許ない。
咄嗟に判断したモイストは、仲間の獣人たちに一旦引くように指示を出した。
「「「「「は、はい!!」」」」」
「行かせるかよ!!」
獣人たちがモイストの指示に従い引こうとするが、それを阻止しようと大剣持ちの男が追いかけて、その大剣で斬りかかって来た。
“ガキンッ!!”
「なっ!? ……ハーフエルフ!?」
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