エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第90話
自己回復によって完治したケイは、その後リカルドと同盟の内容についてまとめた。
内容をめちゃめちゃ簡単に言うと、「困ったら助け合いましょう」って所だろう。
ケイたちの島には、まだまだ人が少ない。
なので、人族側の侵入に備えて、精鋭の兵士を50人程駐留させるということになった。
その兵士らも、半年に一回交代、増員、帰還などをしたりするということだ。
彼らの食料はカンタルボスが用意し、半年ごとの定期船で補充なりをするらしい。
しかし、その補充だけでは兵士たちも切り詰めた生活を送らなければならないため、こちらからもある程度食料を供給してほしいとのことだ。
兵士を置くための代償にしては負担が少ないので構わないが、帰ったら少し畑を大きくする必要が出てきそうだ。
ケイと美花は、思っていたよりかなり良い内容だったため一安心した。
自分たちの島を出る前にみんなを集めておこなった会議では、質が悪い兵を多く送り、食事もこちらが全部負担させられるような内容になる可能性もあると考えていた。
それだけ、この国とケイたちの島では国としての格が違いすぎるからだ。
「こちらにはかなりの好条件ですけど、いいのですか?」
「私がケイ殿を気に入ったからだ!」
かなり頑張って試合を引き分けに持ち込んだのが良かったのかもしれない。
強い者が好まれるという獣人の特有の感情によって、条件がかなり良くなったと聞いた。
兵を置いてくれて、人族の侵入に対応してくれるのはケイたちにはありがたいが、カンタルボス王国側のメリットはあまりないように思える。
ケイたちが提供できるものが何もないと思っていたが、どうやらあの島を人族にとられないようにしてもらうのがメリットだと言われた。
獣人側からは仕掛けるつもりはないが、どの国も領土拡大を図っている人族側はそうはいかない。
人族側から獣人族側に攻め込もうとした場合、距離と海流の関係から一度補給できる場所があると好ましい。
そうなると、ケイたちの島は候補に挙がっている可能性がある。
そして、いつかは接触を計って来るだろう。
その時に、兵と協力して追い払ってくれることを頼まれた。
エルフが人族に捕まれば悲惨な末路しかない。
それが分かっているため、ケイは当然それを受け入れた。
「っ!? ケイ殿? 怪我はもう良いのですか?」
「えぇ、自己回復魔法で治したので大丈夫です」
右手と肋骨を骨折して安静にしているはずのケイが、ピンピンした様子でリカルドと話し合っていたので、病室に見舞いに来たファウストはびっくりしていた。
ケイの島がカンタルボス王国に、より重要な国として見てもらえるためには、何か特別なことを提供するのが手っ取り早い。
そのためにも、ケイはこの国にいる間に、できる限り情報を得ておくつもりなのだが、獣人の薬師は骨折をすぐに治せないというのは覚えておいた方が良いかもしれない。
翌日、集められたカンタルボス国の議員たちの前で調印式を行うことになった。
リカルドとの試合で、ケイが骨折したことによりしばらく延期する予定だったのだが、それも1日だけで済んだ。
ケイの骨折がもう治ったことに驚く者たちばかりだったが、結構すんなりと式の準備が用意された。
ケイの実力を見たのが大きな要因だと思うが、この調印行に反対を口にする者はいなかった。
それまでは、同盟どころか国として認めることすらおこがましいと言っていた者もいたそうだ。
それはもっもな意見だとケイも思う。
書類に自国名と代表者氏名をサインをして、ケイは拇印を押した。
「えっ? アンヘル王国?」
「えぇ、島のみんなが案を挙げて決まったんだけど……」
調印式で正式にサインをする前に、契約書類の内容を確認した時のこと。
自国名を書く欄にケイが悩みだすと、一緒にいた美花がいつの間にか決まっていた国の名前を言った。
「……聞いてないよ?」
ケイの知らない間に、いつの間にか決まっていたらしい。
しかも、島のみんなで決めたというのだから、なおも首を傾げる。
「そう言えば、あなた会議に遅れてきたんだっけ? あまりにもあっさり決まってから会議したから、言うの忘れてたわね……」
「忘れてたって……」
国の名前なんて、後々まで続く結構重要なものだと思うのだが、それを一応代表である自分が知らないというのはどうなのだろう。
しかも、自分の名前を付けるなんて、ケイとしては何とも思わないが、普通だったらちょっと恥ずかしい気がするものだ。
「あなたは何か候補あるの?」
「いや、そもそも考えていなかった」
代表が誰だか分かっていればいいと思ったので、国の名前が必要になるなんて考えていなかった。
なので、候補と言われても何も出ない。
「じゃあ、いいじゃない」
「う、うん」
そう言われたら、ケイとしたら頷くしかない。
先ほども言ったように自分の名前を国名にするというのは、何か恥ずかしい思う。
だが、アンヘルの名前は、この体の元の持ち主の物。
記憶があっても人格は前世の松田啓なので、そんなに恥ずかしいとも思わない。
むしろ、ケイとしては体を奪った形になってしまったアンヘルへの恩返しになる気がした。
「アンヘル王国…………いいかもな」
国名を呟いてみると、何だか良い響きのような気がしてきた。
そのため、ケイたちの島の国名はこれに決定したのだった。
「じゃあ、帰ろうか?」
「えぇ!」
調印式が終わり、夕方からカンタルボス王国の要人が集まったパーティーが開かれた。
貴族はいないが、大臣や軍などのお偉いさんとの挨拶続きに、ケイは食べ物の味が分からないほど頭を使った。
みんなリカルドと引き分けたケイに、一目置いてくれているような態度だった分、不快にさせてくる相手もいなかったのでまだ気が楽だった。
パーティーも終わって夜も深くなると、リカルドが飲みに誘いに来た。
ケイは別に酒に弱くないが、強いという訳でもない。
対面に座り、まるで水のようにガバガバ飲んでいるリカルドとは違い、自分のペースで飲んでいたのだが、話し合っているうちに途中で記憶を失い、翌日は案の定二日酔いで頭が痛かった。
リカルドは二日酔いに無縁らしくピンピンしてるのとは違い、ケイはまた自己回復する羽目になった。
ケイと美花は、昨日のうちに島への帰還を伝えていたので、ケイたちは借りていた部屋を後に、また港へ向かう用意してもらった馬車へと乗車したのだった。
「ケイ様ー!」「美花様ー!」「アンヘル王国万歳ー!!」
来た時は何もなかったのに、城から出てすぐの道には王都の市民が集まっていた。
試合を見たことが要因なのだろう。
みんな尊敬の眼差しでケイたちの馬車へ手を振ってくれている。
「何だか恥ずかしいな」
昨日の調印式によって、ケイは正式に国の代表になった。
来た時は、馬車の外にいる者たちとほぼ同じ平民の立場だったのに、たった数日で褒め称えられる立場になると、慣れないからかケイは顔が熱くなる。
「そうね。……でも嬉しいわね」
「あぁ……」
何もせずにいるのはいたたまれないので、ケイと美花は市民のみんなに手を振り返した。
「……ワン!!」
そしてケイたちを乗せた馬車は、王都の門を出て港町へと走り出したのだった。
内容をめちゃめちゃ簡単に言うと、「困ったら助け合いましょう」って所だろう。
ケイたちの島には、まだまだ人が少ない。
なので、人族側の侵入に備えて、精鋭の兵士を50人程駐留させるということになった。
その兵士らも、半年に一回交代、増員、帰還などをしたりするということだ。
彼らの食料はカンタルボスが用意し、半年ごとの定期船で補充なりをするらしい。
しかし、その補充だけでは兵士たちも切り詰めた生活を送らなければならないため、こちらからもある程度食料を供給してほしいとのことだ。
兵士を置くための代償にしては負担が少ないので構わないが、帰ったら少し畑を大きくする必要が出てきそうだ。
ケイと美花は、思っていたよりかなり良い内容だったため一安心した。
自分たちの島を出る前にみんなを集めておこなった会議では、質が悪い兵を多く送り、食事もこちらが全部負担させられるような内容になる可能性もあると考えていた。
それだけ、この国とケイたちの島では国としての格が違いすぎるからだ。
「こちらにはかなりの好条件ですけど、いいのですか?」
「私がケイ殿を気に入ったからだ!」
かなり頑張って試合を引き分けに持ち込んだのが良かったのかもしれない。
強い者が好まれるという獣人の特有の感情によって、条件がかなり良くなったと聞いた。
兵を置いてくれて、人族の侵入に対応してくれるのはケイたちにはありがたいが、カンタルボス王国側のメリットはあまりないように思える。
ケイたちが提供できるものが何もないと思っていたが、どうやらあの島を人族にとられないようにしてもらうのがメリットだと言われた。
獣人側からは仕掛けるつもりはないが、どの国も領土拡大を図っている人族側はそうはいかない。
人族側から獣人族側に攻め込もうとした場合、距離と海流の関係から一度補給できる場所があると好ましい。
そうなると、ケイたちの島は候補に挙がっている可能性がある。
そして、いつかは接触を計って来るだろう。
その時に、兵と協力して追い払ってくれることを頼まれた。
エルフが人族に捕まれば悲惨な末路しかない。
それが分かっているため、ケイは当然それを受け入れた。
「っ!? ケイ殿? 怪我はもう良いのですか?」
「えぇ、自己回復魔法で治したので大丈夫です」
右手と肋骨を骨折して安静にしているはずのケイが、ピンピンした様子でリカルドと話し合っていたので、病室に見舞いに来たファウストはびっくりしていた。
ケイの島がカンタルボス王国に、より重要な国として見てもらえるためには、何か特別なことを提供するのが手っ取り早い。
そのためにも、ケイはこの国にいる間に、できる限り情報を得ておくつもりなのだが、獣人の薬師は骨折をすぐに治せないというのは覚えておいた方が良いかもしれない。
翌日、集められたカンタルボス国の議員たちの前で調印式を行うことになった。
リカルドとの試合で、ケイが骨折したことによりしばらく延期する予定だったのだが、それも1日だけで済んだ。
ケイの骨折がもう治ったことに驚く者たちばかりだったが、結構すんなりと式の準備が用意された。
ケイの実力を見たのが大きな要因だと思うが、この調印行に反対を口にする者はいなかった。
それまでは、同盟どころか国として認めることすらおこがましいと言っていた者もいたそうだ。
それはもっもな意見だとケイも思う。
書類に自国名と代表者氏名をサインをして、ケイは拇印を押した。
「えっ? アンヘル王国?」
「えぇ、島のみんなが案を挙げて決まったんだけど……」
調印式で正式にサインをする前に、契約書類の内容を確認した時のこと。
自国名を書く欄にケイが悩みだすと、一緒にいた美花がいつの間にか決まっていた国の名前を言った。
「……聞いてないよ?」
ケイの知らない間に、いつの間にか決まっていたらしい。
しかも、島のみんなで決めたというのだから、なおも首を傾げる。
「そう言えば、あなた会議に遅れてきたんだっけ? あまりにもあっさり決まってから会議したから、言うの忘れてたわね……」
「忘れてたって……」
国の名前なんて、後々まで続く結構重要なものだと思うのだが、それを一応代表である自分が知らないというのはどうなのだろう。
しかも、自分の名前を付けるなんて、ケイとしては何とも思わないが、普通だったらちょっと恥ずかしい気がするものだ。
「あなたは何か候補あるの?」
「いや、そもそも考えていなかった」
代表が誰だか分かっていればいいと思ったので、国の名前が必要になるなんて考えていなかった。
なので、候補と言われても何も出ない。
「じゃあ、いいじゃない」
「う、うん」
そう言われたら、ケイとしたら頷くしかない。
先ほども言ったように自分の名前を国名にするというのは、何か恥ずかしい思う。
だが、アンヘルの名前は、この体の元の持ち主の物。
記憶があっても人格は前世の松田啓なので、そんなに恥ずかしいとも思わない。
むしろ、ケイとしては体を奪った形になってしまったアンヘルへの恩返しになる気がした。
「アンヘル王国…………いいかもな」
国名を呟いてみると、何だか良い響きのような気がしてきた。
そのため、ケイたちの島の国名はこれに決定したのだった。
「じゃあ、帰ろうか?」
「えぇ!」
調印式が終わり、夕方からカンタルボス王国の要人が集まったパーティーが開かれた。
貴族はいないが、大臣や軍などのお偉いさんとの挨拶続きに、ケイは食べ物の味が分からないほど頭を使った。
みんなリカルドと引き分けたケイに、一目置いてくれているような態度だった分、不快にさせてくる相手もいなかったのでまだ気が楽だった。
パーティーも終わって夜も深くなると、リカルドが飲みに誘いに来た。
ケイは別に酒に弱くないが、強いという訳でもない。
対面に座り、まるで水のようにガバガバ飲んでいるリカルドとは違い、自分のペースで飲んでいたのだが、話し合っているうちに途中で記憶を失い、翌日は案の定二日酔いで頭が痛かった。
リカルドは二日酔いに無縁らしくピンピンしてるのとは違い、ケイはまた自己回復する羽目になった。
ケイと美花は、昨日のうちに島への帰還を伝えていたので、ケイたちは借りていた部屋を後に、また港へ向かう用意してもらった馬車へと乗車したのだった。
「ケイ様ー!」「美花様ー!」「アンヘル王国万歳ー!!」
来た時は何もなかったのに、城から出てすぐの道には王都の市民が集まっていた。
試合を見たことが要因なのだろう。
みんな尊敬の眼差しでケイたちの馬車へ手を振ってくれている。
「何だか恥ずかしいな」
昨日の調印式によって、ケイは正式に国の代表になった。
来た時は、馬車の外にいる者たちとほぼ同じ平民の立場だったのに、たった数日で褒め称えられる立場になると、慣れないからかケイは顔が熱くなる。
「そうね。……でも嬉しいわね」
「あぁ……」
何もせずにいるのはいたたまれないので、ケイと美花は市民のみんなに手を振り返した。
「……ワン!!」
そしてケイたちを乗せた馬車は、王都の門を出て港町へと走り出したのだった。
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