エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第84話
「「「「「ワー!!」」」」」
ただの手合わせだから、こじんまりと済ませるかと思ったのだが、ケイと美花が案内されたのは大規模な闘技場だった。
控室に案内されてから少しずつ人の声が聞こえてくるようになったので何となく察していたのだが、明らかに観客を入れている。
もしかしたら、兵にでも見せるつもりなのかと思っていた。
しかし、それはまだ考えが甘かった。
闘技場内に入っていくと、多くの人、人、人が、ケイの登場を大歓声で迎え入れたのだ。
たしかに兵らしき人間もいるが、服装から察するに、多くの市民で席は溢れかえっている。
「「「「「「「ワー!!」」」」」」」
「お待たせした」
ケイ以上の大歓声を背に、カンタルボス国王のリカルドがゆっくりと登場した。
金髪に黒い髪が混じり、虎人族というだけあって虎柄になっている髪をなびかせ、軽装とも重装とも言えないような程度の鎧を纏っている。
余裕がにじみ出ているように見えるのは、一国を背負う王だからだろうか。
「……これはさすがに驚きました」
ここまでの大歓声の前で、実力差を見せつけたいのだろうか。
言ってはなんだが、命を取られないのであれば負けた所でケイは恥ずかしいとも思わない。
最初のうちに、国の関係性を市民にも分からせる考えなのかもしれない。
そうだとしても、確かにケイが文句を言える立場ではない。
せめて軽く非難めいたことを言うしかできない。
「薄々気づいていませんでしたかな?」
「何かあるとは思っていましたが、こんな形だとは思いませんでいた」
昨日の対話で、リカルドはケイと話しているうちに明晰な頭脳の持ち主だと推察していた。
ファウストの反応を見ていたのだから、何かあるということは予想していたはず。
そう問いかけると、案の定察していたらしく、大観衆に見られているこの状況でも、慌てふためくような態度をしていない。
「それにしても大規模ですね?」
王都にはこれほどの人間が住んでいるのだろうか。
パンパンに詰まった観客席を眺め、ケイは呆気にとられる。
昨日町中を歩いた時、ケイたちに向けられていた視線の意味はこれだったようだ。
王が戦う所を見れるのは、強さが重視される獣人市民からしたら、最高の娯楽なのかもしれない。
「6万人収容できるこの国で最大の闘技場です」
「6……」
前世でもこんな人数に見られるようなことはなかった。
それもそのはず、ただの普通の高校生だったのだから。
ミュージシャンのコンサートすら行ったこともないのに、初めて見聞きするような人数に、緊張をするというより、人ごとのように感じてしまう。
「……さて、ではやりましょうか?」
「……そうですね」
緊張を感じるようになる前に、さっさと始めた方が良いかもしれない。
リカルドの提案はケイにとっても都合がいい。
登場前にしてきた準備運動も意味がなくなりそうなので、お互いある程度離れた位置に立ち、戦いの合図が鳴るのを待つことにした。
“ヒュ~……”“パンッ!!”
““フッ!!””
「ゴッ!?」「がっ!?」
花火のような合図と共に戦闘は開始された。
そして、お互い打ち合わせをしたかのように、開始早々にしかけた。
ケイは魔闘術を発動して、消えたような速度で一気にリカルドに殴りかかり、リカルドは大腿四頭筋や下腿三頭筋などの強力に発達した筋肉を使い、爆発的な速度を出してケイへ迫り拳を突き出した。
繰り出された拳はお互いの頬にぶつかり、相打ちとなり2人ともダメージを追った。
ただ、体が軽いからなのか、殴られた反動でケイだけ開始時に立っていた元の場所へ戻された。
「…………フフッ、ハハハッ……!!」
「…………」
ケイ同様に口から血が出たことを確認したリカルドは、目の色が変わったように感じた。
獰猛な獣が、獲物を見定めたような目つきだ。
その目に、ケイは背筋がゾクッとして無言になった。
どうやらリカルドを本気にさせてしまったのかもしれない。
「父上相手に素手喧嘩勝負?」
「狂ってる……」
「「………………」」
闘技場の一角にある王族用の観覧席に座って、試合開始直後の交錯を見ていたカンタルボス王国王太子のエリアスと弟のファウストは、ケイのまさかの行動に一気に額から汗が噴き出た。
王妃のアデリナと娘のルシアは、驚きで言葉も出ていないようだ。
ファウスト以外の3人は、ケイがファウストに勝っているとは知っている。
それでも、リカルド相手に素手でのタイマンを挑むような人間だとは想像していなかった。
ケイと手合わせした経験のあるファウストでさえ、ケイのこの行動が信じられない。
魔力が多いエルフという人種の本領は、遠距離戦闘によって発揮されるはず。
リカルドの接近を阻止するように、ケイが距離を取って魔法や銃で攻撃する。
そんな戦いを予想していたのに、まさか自分から殴りかかるとは思わなかった。
ファウスト自身、父に対してそんな無謀な行動を取るなんて考えたことがない。
せめて一撃入れるために考えたのが、父や兄にない手先の器用さを利用した手品のような戦闘スタイルだ。
兄も強いが、武器無しで父に挑むなんてしないし、できない。
それを躊躇なしに行うなんて、正気の沙汰とは思えなかった。
「「「「「「「…………………」」」」」」」
そう思ったのはファウストだけでなく、この会場にいる全観客が驚きで歓声が止まった。
『ただの筋肉ダルマじゃないようね』
この会場でただ1人、美花だけはケイの速攻勝負を予想していたので、逆にリカルドのことを感心していた。
ただ、その内容が酷いため、口に出さなかった。
ただの手合わせだから、こじんまりと済ませるかと思ったのだが、ケイと美花が案内されたのは大規模な闘技場だった。
控室に案内されてから少しずつ人の声が聞こえてくるようになったので何となく察していたのだが、明らかに観客を入れている。
もしかしたら、兵にでも見せるつもりなのかと思っていた。
しかし、それはまだ考えが甘かった。
闘技場内に入っていくと、多くの人、人、人が、ケイの登場を大歓声で迎え入れたのだ。
たしかに兵らしき人間もいるが、服装から察するに、多くの市民で席は溢れかえっている。
「「「「「「「ワー!!」」」」」」」
「お待たせした」
ケイ以上の大歓声を背に、カンタルボス国王のリカルドがゆっくりと登場した。
金髪に黒い髪が混じり、虎人族というだけあって虎柄になっている髪をなびかせ、軽装とも重装とも言えないような程度の鎧を纏っている。
余裕がにじみ出ているように見えるのは、一国を背負う王だからだろうか。
「……これはさすがに驚きました」
ここまでの大歓声の前で、実力差を見せつけたいのだろうか。
言ってはなんだが、命を取られないのであれば負けた所でケイは恥ずかしいとも思わない。
最初のうちに、国の関係性を市民にも分からせる考えなのかもしれない。
そうだとしても、確かにケイが文句を言える立場ではない。
せめて軽く非難めいたことを言うしかできない。
「薄々気づいていませんでしたかな?」
「何かあるとは思っていましたが、こんな形だとは思いませんでいた」
昨日の対話で、リカルドはケイと話しているうちに明晰な頭脳の持ち主だと推察していた。
ファウストの反応を見ていたのだから、何かあるということは予想していたはず。
そう問いかけると、案の定察していたらしく、大観衆に見られているこの状況でも、慌てふためくような態度をしていない。
「それにしても大規模ですね?」
王都にはこれほどの人間が住んでいるのだろうか。
パンパンに詰まった観客席を眺め、ケイは呆気にとられる。
昨日町中を歩いた時、ケイたちに向けられていた視線の意味はこれだったようだ。
王が戦う所を見れるのは、強さが重視される獣人市民からしたら、最高の娯楽なのかもしれない。
「6万人収容できるこの国で最大の闘技場です」
「6……」
前世でもこんな人数に見られるようなことはなかった。
それもそのはず、ただの普通の高校生だったのだから。
ミュージシャンのコンサートすら行ったこともないのに、初めて見聞きするような人数に、緊張をするというより、人ごとのように感じてしまう。
「……さて、ではやりましょうか?」
「……そうですね」
緊張を感じるようになる前に、さっさと始めた方が良いかもしれない。
リカルドの提案はケイにとっても都合がいい。
登場前にしてきた準備運動も意味がなくなりそうなので、お互いある程度離れた位置に立ち、戦いの合図が鳴るのを待つことにした。
“ヒュ~……”“パンッ!!”
““フッ!!””
「ゴッ!?」「がっ!?」
花火のような合図と共に戦闘は開始された。
そして、お互い打ち合わせをしたかのように、開始早々にしかけた。
ケイは魔闘術を発動して、消えたような速度で一気にリカルドに殴りかかり、リカルドは大腿四頭筋や下腿三頭筋などの強力に発達した筋肉を使い、爆発的な速度を出してケイへ迫り拳を突き出した。
繰り出された拳はお互いの頬にぶつかり、相打ちとなり2人ともダメージを追った。
ただ、体が軽いからなのか、殴られた反動でケイだけ開始時に立っていた元の場所へ戻された。
「…………フフッ、ハハハッ……!!」
「…………」
ケイ同様に口から血が出たことを確認したリカルドは、目の色が変わったように感じた。
獰猛な獣が、獲物を見定めたような目つきだ。
その目に、ケイは背筋がゾクッとして無言になった。
どうやらリカルドを本気にさせてしまったのかもしれない。
「父上相手に素手喧嘩勝負?」
「狂ってる……」
「「………………」」
闘技場の一角にある王族用の観覧席に座って、試合開始直後の交錯を見ていたカンタルボス王国王太子のエリアスと弟のファウストは、ケイのまさかの行動に一気に額から汗が噴き出た。
王妃のアデリナと娘のルシアは、驚きで言葉も出ていないようだ。
ファウスト以外の3人は、ケイがファウストに勝っているとは知っている。
それでも、リカルド相手に素手でのタイマンを挑むような人間だとは想像していなかった。
ケイと手合わせした経験のあるファウストでさえ、ケイのこの行動が信じられない。
魔力が多いエルフという人種の本領は、遠距離戦闘によって発揮されるはず。
リカルドの接近を阻止するように、ケイが距離を取って魔法や銃で攻撃する。
そんな戦いを予想していたのに、まさか自分から殴りかかるとは思わなかった。
ファウスト自身、父に対してそんな無謀な行動を取るなんて考えたことがない。
せめて一撃入れるために考えたのが、父や兄にない手先の器用さを利用した手品のような戦闘スタイルだ。
兄も強いが、武器無しで父に挑むなんてしないし、できない。
それを躊躇なしに行うなんて、正気の沙汰とは思えなかった。
「「「「「「「…………………」」」」」」」
そう思ったのはファウストだけでなく、この会場にいる全観客が驚きで歓声が止まった。
『ただの筋肉ダルマじゃないようね』
この会場でただ1人、美花だけはケイの速攻勝負を予想していたので、逆にリカルドのことを感心していた。
ただ、その内容が酷いため、口に出さなかった。
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