エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第77話
「どういうことでしょう?」
ファウストの父であるカンタルボス国王が、自分に関心を持ったと言われ、ケイは何故か嫌な予感しかしないでいた。
関心を持たれる理由が思い至らず、ケイは率直に尋ねることにした。
「国に戻り、この島のことを説明したのですが、私がケイ殿に負けたと聞き、父と兄が反応しまして……」
「……どのように?」
まさか子供がやられたからって、報復でもしようというのだろうか。
獣人は仲間との絆は大切にする傾向が強いとルイスに聞いてはいたが、もしかして親バカとブラコンなのだろうか。
さすがに失礼になるので口には出さないが、ケイはそんな風に考えていた。
「戦ってみたいと……」
「…………は?」
やや言いにくそうな表情をしながらファウストが言った言葉に、ケイは思わず素の反応をしてしまった。
獣人の大陸ではいくら強い者が偉いと言っても、脳筋なだけでは国を導くことなど出来る訳がない。
そういった国は、昔はいくつもあった。
しかし、それらの国が戦いの果てに消えていったことは、獣人大陸の歴史が証明している。
今獣人大陸に残っている国は、その歴史の上に成り立っているので、脳筋の王がいる国はないとルイスから聞いていたのだが、ファウストの言った言葉からすると、カンタルボスの王は今では珍しい脳筋なのかもしれない。
「……断ったり、負けたりしたら、こちらに何かあるのでしょうか?」
少しの間があり、お互いに気まずい空気が流れた中、ケイはとりあえず思っていたことを聞いてみることにした。
別に何かメリットが欲しいとか言うつもりはないが、無意味に戦うなんて全然気乗りしない。
はっきり言って、ケイからしたら、断れるなら断りたいところだ。
「いえ、特にないと思います。父は単純に戦いたいだけかと……」
「…………そう、ですか……」
ケイの中で、カンタルボスの王は脳筋だと確定した。
意味なく強い者と戦いたいだなんて、それ以外に言いようがない。
ファウスト自身、他の獣人とは違い王である立場の父が、簡単に戦いを挑むようなことをして困っている。
ただ、そもそも自分が負けたことが原因の一つのようなので、止めることもなかなか難しい。
「……失礼ながら、お父君はどれ程強いのでしょうか?」
この島の支配権のことでファウストと一度戦いケイが勝利をしたが、その時の戦いを思い起こすと、ファウストの実力はかなりのものだった。
前回ファウストと話をした時、父である国王には何度挑んでも勝てる気がしないと言っていた気がする。
そんな相手だと、自分もボコボコにされる可能性も出てくる。
ただボコられるくらいなら、何とか断る理由を考えないといけなくなる。
「……私が手合わせした感想ですが、父の方が上かと……」
「そうですか……」
「……受ければ? 負けても何も無いんだから……」
身内の贔屓目を加味しているかもしれないが、両方と戦ったファウストが言うのだからきっとそうなのだろう。
ケイがどうにかして断れないかと考えていると、これまで隣で黙っていた美花が話に入って来た。
「他人事過ぎない?」
「だって、他人事だもの」
旦那がボコられても良いと思っているのだろうか。
美花はかなり軽い感じで言って来る。
それにケイが文句を言うが、帰って来た答えはまたも軽かった。
「もしかしたら、俺ボコられるかもしれないんだぞ」
「なら、腕一本くらい折ってやりなさいよ!」
ファウストの前で言うにしてはちょっと不穏当な内容だが、仕方がない。
獣人の国王がどれほど強いのかは分からないが、美花はケイがただ何もできずに負けることはないと思っているからだ。
自分が見定めた旦那は、元々この島で納まるような器ではないと美花は思っていた。
ケイ自身はそれでも構わないようだし、美花もそれで良かった。
だが、急に他国の人間に認められることになったため、これはもしかしたらいい機会なのではないかと思った。
美花はケイとファウストが戦うのを見ていないが、カルロスと手合わせをしているのを見たので実力はある程度分かるつもりだ。
はっきり言って、ファウストは器用で発想も面白い。
だが、器用を利用することに逃げたように美花は思える。
カルロスと実力的にほぼ同等となると、恐らく自分でも勝てるだろう。
そんな相手が手も足も出ないといったからと言って、カンタルボス王がケイより強いと決まったわけではない。
「……まぁ、断る理由も思いつかないし、仕方ないか……」
美花が言うように、負けるにしても舐められる訳にはいかない。
逆に、小さな島のたった20人の集落を国にしたところで、いつでも捻じ伏せられると思われないようにしておきたい。
「手合わせの件、受けさせてもらいます」
「……ありがとうございます」
ケイと美花の話は、目の前なので当然聞こえていた。
強気な美花に面食らったところがあるが、我が儘を言っているのはこちらなので、文句など言う訳がない。
ケイには悪いが、自分にはやる気になっている父をどうにもできないので、相手をしてもらうしかない。
できれば、ケイが父を満足させてもらえるとありがたいところだ。
「それでは、明後日にでも出発しますか?」
「はい」
元々、ケイたちは調印のためにカンタルボスに向かう用意はしておいた。
ファウストたちも迎えにきただけなので、船に兵はそれ程乗せて来ていない。
簡単な話し合いの後に出発の日にちが決まり、数十年ぶりにケイはこの島から出ることになった。
ファウストの父であるカンタルボス国王が、自分に関心を持ったと言われ、ケイは何故か嫌な予感しかしないでいた。
関心を持たれる理由が思い至らず、ケイは率直に尋ねることにした。
「国に戻り、この島のことを説明したのですが、私がケイ殿に負けたと聞き、父と兄が反応しまして……」
「……どのように?」
まさか子供がやられたからって、報復でもしようというのだろうか。
獣人は仲間との絆は大切にする傾向が強いとルイスに聞いてはいたが、もしかして親バカとブラコンなのだろうか。
さすがに失礼になるので口には出さないが、ケイはそんな風に考えていた。
「戦ってみたいと……」
「…………は?」
やや言いにくそうな表情をしながらファウストが言った言葉に、ケイは思わず素の反応をしてしまった。
獣人の大陸ではいくら強い者が偉いと言っても、脳筋なだけでは国を導くことなど出来る訳がない。
そういった国は、昔はいくつもあった。
しかし、それらの国が戦いの果てに消えていったことは、獣人大陸の歴史が証明している。
今獣人大陸に残っている国は、その歴史の上に成り立っているので、脳筋の王がいる国はないとルイスから聞いていたのだが、ファウストの言った言葉からすると、カンタルボスの王は今では珍しい脳筋なのかもしれない。
「……断ったり、負けたりしたら、こちらに何かあるのでしょうか?」
少しの間があり、お互いに気まずい空気が流れた中、ケイはとりあえず思っていたことを聞いてみることにした。
別に何かメリットが欲しいとか言うつもりはないが、無意味に戦うなんて全然気乗りしない。
はっきり言って、ケイからしたら、断れるなら断りたいところだ。
「いえ、特にないと思います。父は単純に戦いたいだけかと……」
「…………そう、ですか……」
ケイの中で、カンタルボスの王は脳筋だと確定した。
意味なく強い者と戦いたいだなんて、それ以外に言いようがない。
ファウスト自身、他の獣人とは違い王である立場の父が、簡単に戦いを挑むようなことをして困っている。
ただ、そもそも自分が負けたことが原因の一つのようなので、止めることもなかなか難しい。
「……失礼ながら、お父君はどれ程強いのでしょうか?」
この島の支配権のことでファウストと一度戦いケイが勝利をしたが、その時の戦いを思い起こすと、ファウストの実力はかなりのものだった。
前回ファウストと話をした時、父である国王には何度挑んでも勝てる気がしないと言っていた気がする。
そんな相手だと、自分もボコボコにされる可能性も出てくる。
ただボコられるくらいなら、何とか断る理由を考えないといけなくなる。
「……私が手合わせした感想ですが、父の方が上かと……」
「そうですか……」
「……受ければ? 負けても何も無いんだから……」
身内の贔屓目を加味しているかもしれないが、両方と戦ったファウストが言うのだからきっとそうなのだろう。
ケイがどうにかして断れないかと考えていると、これまで隣で黙っていた美花が話に入って来た。
「他人事過ぎない?」
「だって、他人事だもの」
旦那がボコられても良いと思っているのだろうか。
美花はかなり軽い感じで言って来る。
それにケイが文句を言うが、帰って来た答えはまたも軽かった。
「もしかしたら、俺ボコられるかもしれないんだぞ」
「なら、腕一本くらい折ってやりなさいよ!」
ファウストの前で言うにしてはちょっと不穏当な内容だが、仕方がない。
獣人の国王がどれほど強いのかは分からないが、美花はケイがただ何もできずに負けることはないと思っているからだ。
自分が見定めた旦那は、元々この島で納まるような器ではないと美花は思っていた。
ケイ自身はそれでも構わないようだし、美花もそれで良かった。
だが、急に他国の人間に認められることになったため、これはもしかしたらいい機会なのではないかと思った。
美花はケイとファウストが戦うのを見ていないが、カルロスと手合わせをしているのを見たので実力はある程度分かるつもりだ。
はっきり言って、ファウストは器用で発想も面白い。
だが、器用を利用することに逃げたように美花は思える。
カルロスと実力的にほぼ同等となると、恐らく自分でも勝てるだろう。
そんな相手が手も足も出ないといったからと言って、カンタルボス王がケイより強いと決まったわけではない。
「……まぁ、断る理由も思いつかないし、仕方ないか……」
美花が言うように、負けるにしても舐められる訳にはいかない。
逆に、小さな島のたった20人の集落を国にしたところで、いつでも捻じ伏せられると思われないようにしておきたい。
「手合わせの件、受けさせてもらいます」
「……ありがとうございます」
ケイと美花の話は、目の前なので当然聞こえていた。
強気な美花に面食らったところがあるが、我が儘を言っているのはこちらなので、文句など言う訳がない。
ケイには悪いが、自分にはやる気になっている父をどうにもできないので、相手をしてもらうしかない。
できれば、ケイが父を満足させてもらえるとありがたいところだ。
「それでは、明後日にでも出発しますか?」
「はい」
元々、ケイたちは調印のためにカンタルボスに向かう用意はしておいた。
ファウストたちも迎えにきただけなので、船に兵はそれ程乗せて来ていない。
簡単な話し合いの後に出発の日にちが決まり、数十年ぶりにケイはこの島から出ることになった。
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