エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第76話

「お久しぶりです。ケイ殿」


「無事のご到着何よりです」


 少し沖に帆船を停泊させ、小舟に乗って東の海岸にたどり着いたファウストは、出迎えたケイと挨拶と握手を交わした。
 その背後には、以前と同様に熊の獣人のアルトゥロが控えている。


「長い船旅でお疲れでしょう? 休息を取れる場所を用意しましたので、そちらでお寛ぎ下さい」


「ありがとうございます」


 前回の時の時、突然のことだったとは言っても、客人を泊めるような場所を用意していなかった。
 さすがに一国の王子を野宿させるわけにはいかないため、ファウストにはケイの家の空いている部屋で休んでもらった。
 まだ同盟を結んでいないので、警護のためにアルトゥロの部屋も隣に用意しなければならなかった。
 これからのことを考えると、カンタルボス王国から要人を招く機会が増えるだろう。
 その時のために、ちゃんと招き入れる施設を用意することにした。


「これは……大きな邸ですね?」


「物作りは好きなもので……」


 村の東側にひと際大きな建物が建っている。
 その前に立ち、ファウストは驚いた表情をしている。
 それもそのはず、前回来た時にはこのような建物は存在していなかった。
 なのに、2週間ちょっとの間に、これほどのものを造り上げるとは思わなかったからだ。
 若干呆れているようにも見えたため、ケイは照れくさそうに呟いた。


「こちらをお好きにお使いください」


 中には家具も作って入れてある。
 豪華な感じはしないかもしれないが、シンプルで寛げるようにはできていると思う。
 ケイは玄関の扉を開けて、ファウストを招き入れつつ軽くお辞儀をした。


「いい施設ですけど、宜しいのですか?」


「えぇ、兵の方々も入れるように作ってありますので……」 


 前回の時、ファウストと護衛のアルトゥロはケイの家で休めたが、ファウストの多くの部下はテントを張って寝るしかなかった。
 食事は満足させることができたとは思うが、彼らには何の歓待もできなかった。
 この東側の島にいれば魔物が来るようなことが起きるとは思わないが、もしもの時には部下が側にいた方が良いだろう。
 そう思って、兵の人たちも寝泊まりできる場所も作っておいた。


「食事の方ですが、我々と一緒で申し訳ないのですが、前回同様食堂をお使いください」


 村には幾つかの住宅が造られている。
 もちろんケイが造ったので、ちゃんと一軒一軒調理場もあるのだが、みんな家で料理を作って食べるようなことをあまりしていない。
 というのも、この島で一番料理が上手いのがケイで、みんなケイに作ってもらいたいのだ。
 そのことを相談されたケイは、ならばと、食堂をみんなの家から近い場所に建てた。
 雨が降っても毎日来れるように、ちゃんと雨風凌げる通路まで作った。
 王国の人間を招く施設を造ったが、この島でできる歓迎と言えば、島の食材で作った料理を振舞うことしかできない。
 そのため、彼らにも食堂で食べてもらおうと思ったのだが、身分の差があることを忘れていた。
 前回はともかく、もしかしたら今回は別にした方が良いのではないかと思い、ケイはファウストに尋ねた。


「分かりました。まぁ、王国内でもないので、そういった細かいことは気にしません」


「そう言っていただけるとありがたいです」


 聞いてみると、ファウスト自身もここの食事を気に入ったらしく、堅苦しいことはなしにして、みんなで美味しい料理を楽しく食べたいのだそうだ。
 どうやら気にする必要はなかったようだ。


 その後、施設内を一通り案内し、ファウストたちには今日の所は休んでもらい、翌日に一応村長宅であるケイの家で話し合いを行うことになった。


「父である国王に、この島と皆さんのことを伝えたのですが……」


「何か不都合なことでも?」


 翌日にファウストを招き、話し合いが始まったのだが、開始早々ファウストは表情を少し曇らせながら言い淀んだ。
 その様子を見て、いくら何でも20人程度の人間が住む島を国と認めるという約束は、無理があったのではとケイは思い始めた。
 一国の王子が約束したと言っても、ここの20人を消してしまえば無かったことにできる。
 さすがにそうなるくらいなら、こちらから約束をやめても全然構わない。
 取りあえず、ファウストの話の続きに耳を傾けることにした。


「いえ、ここを国として認めるということ自体は問題ないです」


「そうですか……」


 そもそも、ここの島が敵対しそうな人族に支配されたら面倒なことになると考えたため、ファウストが派遣されたのだ。
 王国としたら、金をかけて島を開拓するよりも、このままケイたちに自由にさせて、自分たちの下に付けておくのが手っ取り早い。
 発展したなら、尚のこと好都合だ。
 国と認めるだけで良いなら大したことではない。
 王国に呼び寄せて、調印すればいいだけのことだからだ。
 ファウストもそのことを説明したうえで報告したのだが、その後が問題だった。


「父がケイ殿のことが気になる様でして……」


「……えっ?」


 はっきり言って、獣人の王になんて会ったことなんて当然ない。
 それなのに、何か気に障るような事でもしたのだろうか。
 もしかして、気に入らないから潰してしまおうかとでも思っているのではないだろうか。
 そんな嫌な想像が浮かんできて、ケイは顔を青くするしかなかった。





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