エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第28話
「えっ? エルフを知らないの?」
「うん。エルフという種族がいるなんて聞いたことないわ」
雲一つない快晴。
もうすぐ夏に入る11月後半。
陽気な気候にのんびりしたくなったケイは、今日は釣りをしようと思った。
美花も一緒にどうだと誘うと、二つ返事で楽しそうについてきた。
「子供の頃、家族3人で釣りに行ったな~……」
テキパキと餌をつけて糸を投げる仕草で経験者だと分かる。
久々の釣りに懐かしく思ったのか、美花はしみじみ呟いた。
ケイとしては、女子っぽく餌をつけるのにワーワーいうようなら面倒だと思ったのだが、その心配がなくて助かった。
楽しんでもらえて嬉しいのだが、家族のことをいう時に表情が暗くなるのは少し困る。
何があったのか聞いてもいいものか判断に困るからだ。
「あっ!? 釣れた!!」
その表情も、少し経って魚が釣れれば霧散した。
釣れた魚を見せてきた美花の表情は、とてもいい笑顔だった。
美花がちょこちょこ釣り上げる中、ボウズのケイはサマーチェアに腰かけてキュウとマルを相手に暇つぶしをしていた。
ケイの方が予備の竿だからといっても、この差はちょっとへこみそうだ。
そんなケイをじっと見ていた美花は、
「ケイの耳は長いのね?」
と言ってきた。
そして冒頭のようなやり取りになる。
どうやら美花は本当にエルフを聞いたことがないようだ。
エルフは元々人族大陸の西の端に住んでいた少数種族、両親とも極東の国の日向出身だから仕方がないかもしれない。
「色々あって人族大陸では生きにくくなってね……」
知らないなら、貴族に献上したら大儲けなどとか教える必要はないだろう。
せっかく話ができる人間ができたのだから、多くを語ってギクシャクした関係になるのは控えたい。
ケイは言葉少なにこの話をきりあげた。
「じゃあ、私と同じようなものね……」
美花も祖父の追っ手からずっと逃げ続けてきた身。
ケイも自分と同じように何かを隠しているようだが、同じ境遇に少し気が楽になる。
似た者同士なのだということが、なんとなく嬉しい気持ちも美花には沸いていた。
「それにしてもいい天気ね……」
釣りたての魚をおかずに海を眺めながら昼食をとると、美花の竿の方も当たりが来なくなった。
少し暇な感じがして不安だったが、どうやら美花もこんな時間を楽しんでいるようだ。
暇を楽しんでいると心に余裕が生ませる。
辛いことを忘れるとまではいかなくても、一時考えなくてすむ。
そだけでも今の美花には新鮮な発見だった。
「昨日ケイが使ってた筒のような武器はなんなの?」
「あぁ……、これ?」
暇な時間が続き、眠くなってきた。
その眠気を飛ばそうと、美花は昨日見て気になっていたケイの武器のことを尋ねた。
ケイも釣れずにいたので丁度良かった。
「これは銃っていう武器で、ここを引くと弾が出るんだ」
“ポンッ!”
そう言って、ケイは一発海に向かって発射した。
魔力は纏っていないため、飛び出た弾は大した距離飛ばずに落ちた。
「魔力を纏わないとこんなもんだけど、魔力を纏うと……」
“パンッ!!”
軽く銃に魔力を纏い先程と同じように引き金を引くと、先程とは比べ物にならないほどの威力で弾が沖へと飛んで行った。
「流木とかで小さい弾を作ってそれを入れてあるんだけど、それを魔力を覆った銃で発射ってわけ」
「なるほど……」
原理は分からないが、昨日の腕前を見る限りケイは遠距離の攻撃が得意なのだろう。
ケイの長所を生かすには最適な武器かもしれない。
「でも、それが通用しなかったら?」
「発射された弾にも魔力が纏ってあるから、撃った後でも多少はコントロールはできるし、相手の弱点に合わせて弾の魔力を属性付与・変化できる。この島ではその可能性はないけれど、外の世界ではありえるかもね」
この10年で魔力の総量や操作もかなり上がったと自負している。
それでも世界は上には上がいる。
その謙虚さを失った人間は傲慢になりがちだ。
色々な状況を想定しておかないと、命が軽く扱われるこの世界では淘汰される。
エルフ族がいい例だ。
とは言っても、ケイも四六時中そんなこと考えている訳ではないが。
「別にこの銃は遠距離で戦うだけの物ではないよ。ちゃんとこれを使った近接戦も想定している」
“ボッ!”
「こうやって全身に魔力を纏って戦えば大丈夫」
銃に魔力を纏えば威力が増す。
ならば、自分に魔力を纏ったらどうなるかとケイは考えた。
銃や手に集められるのなら他の場所にもできるはずだ。
そう思ってやってみたらかなり難しく、使いこなせるようになるまで数年かかった。
「魔、魔闘術……」
全身に魔力を纏ったケイを見て、美花は目を見開いた。
ケイは15歳といっていたが、日向の剣士にとって秘中の技ともいえる技術を、その若さで、しかも独学で使いこなせるようになるなんて信じられなかった。
相当な鍛練をおこなったことが容易に予想できる。
「へ~……、これ魔闘術って言うんだ?」
どうやらケイはこの技の名前すら知らなかったようだ。
父の憲正は使いこなせたが、美花はまだ無理だ。
『もしかしたら、ここに流れ着いたのは本当に天からの導きなのかもしれない』
ケイに教われば、自分も父のように魔闘術を使えるようになるかもしれない。
追っ手が来ても返り討ちにできる。
そう思うと、美花は心の中で神に感謝した。
「うん。エルフという種族がいるなんて聞いたことないわ」
雲一つない快晴。
もうすぐ夏に入る11月後半。
陽気な気候にのんびりしたくなったケイは、今日は釣りをしようと思った。
美花も一緒にどうだと誘うと、二つ返事で楽しそうについてきた。
「子供の頃、家族3人で釣りに行ったな~……」
テキパキと餌をつけて糸を投げる仕草で経験者だと分かる。
久々の釣りに懐かしく思ったのか、美花はしみじみ呟いた。
ケイとしては、女子っぽく餌をつけるのにワーワーいうようなら面倒だと思ったのだが、その心配がなくて助かった。
楽しんでもらえて嬉しいのだが、家族のことをいう時に表情が暗くなるのは少し困る。
何があったのか聞いてもいいものか判断に困るからだ。
「あっ!? 釣れた!!」
その表情も、少し経って魚が釣れれば霧散した。
釣れた魚を見せてきた美花の表情は、とてもいい笑顔だった。
美花がちょこちょこ釣り上げる中、ボウズのケイはサマーチェアに腰かけてキュウとマルを相手に暇つぶしをしていた。
ケイの方が予備の竿だからといっても、この差はちょっとへこみそうだ。
そんなケイをじっと見ていた美花は、
「ケイの耳は長いのね?」
と言ってきた。
そして冒頭のようなやり取りになる。
どうやら美花は本当にエルフを聞いたことがないようだ。
エルフは元々人族大陸の西の端に住んでいた少数種族、両親とも極東の国の日向出身だから仕方がないかもしれない。
「色々あって人族大陸では生きにくくなってね……」
知らないなら、貴族に献上したら大儲けなどとか教える必要はないだろう。
せっかく話ができる人間ができたのだから、多くを語ってギクシャクした関係になるのは控えたい。
ケイは言葉少なにこの話をきりあげた。
「じゃあ、私と同じようなものね……」
美花も祖父の追っ手からずっと逃げ続けてきた身。
ケイも自分と同じように何かを隠しているようだが、同じ境遇に少し気が楽になる。
似た者同士なのだということが、なんとなく嬉しい気持ちも美花には沸いていた。
「それにしてもいい天気ね……」
釣りたての魚をおかずに海を眺めながら昼食をとると、美花の竿の方も当たりが来なくなった。
少し暇な感じがして不安だったが、どうやら美花もこんな時間を楽しんでいるようだ。
暇を楽しんでいると心に余裕が生ませる。
辛いことを忘れるとまではいかなくても、一時考えなくてすむ。
そだけでも今の美花には新鮮な発見だった。
「昨日ケイが使ってた筒のような武器はなんなの?」
「あぁ……、これ?」
暇な時間が続き、眠くなってきた。
その眠気を飛ばそうと、美花は昨日見て気になっていたケイの武器のことを尋ねた。
ケイも釣れずにいたので丁度良かった。
「これは銃っていう武器で、ここを引くと弾が出るんだ」
“ポンッ!”
そう言って、ケイは一発海に向かって発射した。
魔力は纏っていないため、飛び出た弾は大した距離飛ばずに落ちた。
「魔力を纏わないとこんなもんだけど、魔力を纏うと……」
“パンッ!!”
軽く銃に魔力を纏い先程と同じように引き金を引くと、先程とは比べ物にならないほどの威力で弾が沖へと飛んで行った。
「流木とかで小さい弾を作ってそれを入れてあるんだけど、それを魔力を覆った銃で発射ってわけ」
「なるほど……」
原理は分からないが、昨日の腕前を見る限りケイは遠距離の攻撃が得意なのだろう。
ケイの長所を生かすには最適な武器かもしれない。
「でも、それが通用しなかったら?」
「発射された弾にも魔力が纏ってあるから、撃った後でも多少はコントロールはできるし、相手の弱点に合わせて弾の魔力を属性付与・変化できる。この島ではその可能性はないけれど、外の世界ではありえるかもね」
この10年で魔力の総量や操作もかなり上がったと自負している。
それでも世界は上には上がいる。
その謙虚さを失った人間は傲慢になりがちだ。
色々な状況を想定しておかないと、命が軽く扱われるこの世界では淘汰される。
エルフ族がいい例だ。
とは言っても、ケイも四六時中そんなこと考えている訳ではないが。
「別にこの銃は遠距離で戦うだけの物ではないよ。ちゃんとこれを使った近接戦も想定している」
“ボッ!”
「こうやって全身に魔力を纏って戦えば大丈夫」
銃に魔力を纏えば威力が増す。
ならば、自分に魔力を纏ったらどうなるかとケイは考えた。
銃や手に集められるのなら他の場所にもできるはずだ。
そう思ってやってみたらかなり難しく、使いこなせるようになるまで数年かかった。
「魔、魔闘術……」
全身に魔力を纏ったケイを見て、美花は目を見開いた。
ケイは15歳といっていたが、日向の剣士にとって秘中の技ともいえる技術を、その若さで、しかも独学で使いこなせるようになるなんて信じられなかった。
相当な鍛練をおこなったことが容易に予想できる。
「へ~……、これ魔闘術って言うんだ?」
どうやらケイはこの技の名前すら知らなかったようだ。
父の憲正は使いこなせたが、美花はまだ無理だ。
『もしかしたら、ここに流れ着いたのは本当に天からの導きなのかもしれない』
ケイに教われば、自分も父のように魔闘術を使えるようになるかもしれない。
追っ手が来ても返り討ちにできる。
そう思うと、美花は心の中で神に感謝した。
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