復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!!

ポリ 外丸

第96話 全滅


「っ!!」

「キュ!」

“ガキンッ!!”

「くそっ! また……」

 死角をついて、1人の敷島兵が無言でレラに襲い掛かる。
 しかし、その刀がレラに届くことはなく、彼女の数センチ手前で阻まれる。
 ニールによる魔力障壁だ。
 仲間が殺される怒りに耐え、せっかく隙を見て攻撃をしたというのに、防がれては全くの無意味だ。
 攻撃を防がれた敷島兵は、歯噛みするしかなかった。

「ハッ!!」

 渾身の攻撃が防がれたことで、敷島兵は隙だらけになった。
 そこを逃しはせず、レラは魔法を放つ。

「ぐあっ!!」

 至近距離から放たれたレラの風魔法により、敷島兵は飛んできた風の刃で胴を斬り裂かれた。

「くそっ!! 白狼ごときのくせになんて速度だ!!」

 レラとニールのコンビから少し離れた所で戦うアルバ。
 敷島兵たちは、アルバを取り囲もうと動くが、速度に付いて行けない。

「ガウッ!」

「ぐあっ!!」

 自分の動きを追えない敷島兵たちを、アルバは各個撃破していく。
 アルバの体当たりを受けた敷島兵は吹き飛び、猛烈な勢いで樹に直撃する。
 背中から直撃した敷島兵は、その衝撃で数か所の骨が砕け、血を吐いて動かなくなった。

「残り1桁になったわね?」

「くっ! だから何だ!?」

「敷島を舐めるなよ!」

 ほとんどが限の方に向かって行ったが、レラたちの方にも結構な数の敷島兵が集まっていた。
 しかし、それもようやく終わりが見えて来た。
 そのことをレラが告げると、敷島兵たちは悔し気に強がりを叫ぶ。

「たとえ数が減ろうとも、源斎様がいる限り……」

「おい。こっちは終わったぞ」

 不利な状況でも、当主である源斎さえいればどうにかなる。
 残った敷島兵たちにはそういう思いがあったのだろう。
 しかし、そんな彼らの前に限が姿を現した。

「限さま!」「ワンッ!」「キュッ!」

「貴様……」

「まさか、源斎様が……」

 限が現れたことにより、レラたちは笑みを浮かべる。
 それに反し、敷島兵たちは希望が砕け散ったらしく、闘気が落ちたようだ。

「申し訳ありません限さま。すぐに終わらせます」

「あぁ」

 自分たち以上の数に軍の大将を相手にした限の方が、先に敵を殲滅してしまった。
 限を待たせる形になってしまったことを謝罪し、レラは残った敷島兵たちに視線を向ける。
 手助けをしようかと思っていたが、レラのその言葉で手出し無用なのだと受け取り、限はただ見守ることにした。

「くっ!」

「クソがー!!」

 源斎が殺されたとしたら、もう帝国の相手なんて言っていられる場合ではない。
 だからといって、独断専行した自分たちが敷島の地へ逃げ帰ることもできない。
 どちらも無理なら、最後は戦って死ぬことを選んだ敷島兵たちは、レラたちに向かって襲い掛かっていった。





◆◆◆◆◆

「……どういうことだ?」

 敷島の地。
 頭領の敷島良照はたった今届いた情報を話し合うため、下座に座る斎藤重蔵と五十嵐光蔵に問いかける。
 声は抑えられているが、こめかみに血管を浮き上がらせている所から、完全に怒りで血が上っているようだ。

「完全に菱山家の独断によるものですね。源斎殿は何を考えているのやら……」

「私もです……」

 良照の曖昧な問いに対し、重蔵は頭を振りながら答える。
 源斎がどうしてこんなことをしたのか、自分には全く理解できないと暗に言っているような態度だ。
 そんな重蔵の言葉に乗っかるように、光蔵も返答する。
 口では考えが分からないように言っているが、本当の所は2人共源斎がどうしてこのような行動に出たのかは理解している。
 先だっての帝国との戦いが引き分けに終わったことを、源斎は引きずっていたのだろう。
 光蔵も同じ気持ちだ。

「問題はそこではない」

「菱山家が全滅したことですね?」

「そうだ!」

 全ての敷島の人間を導く立場にある頭領の立場からして、源斎が菱山家と傘下の者たちを率いて独断で動いたのは許しがたい。
 しかし、自分も頭領の立場に近い位置にいたとしたら、同じように行動をしていた可能性がある。
 自分の許可なく動いたのは許せないが、それでも結果さえ出せば不問にするつもりでいた。
 だが、届いた情報は菱山家の全滅という、とても信じられないような内容だ。

「敷島の人間が、人造兵器を失った帝国なんぞに何故負けるのだ!?」

 前回の戦いで引き分けになったのは、帝国側に人造兵器が存在していたからだ。
 しかし、斎藤家の調査によって、帝国側の人造兵器を生み出すための薬品工場は破壊された。
 そのことは、重蔵の息子の天祐の軽口によって敷島中に広まり、良照の耳にも入っている。
 人造兵器のない帝国なら、多少数が多くても敷島の人間からすれば全く脅威にならない。
 源斎が引き連れていった者たちなら負けるはずがない。
 そのため、良照は全滅という結果が信じられない

「しかも、たった数人に殺されたという話ではないか! 帝国にそんな強者がいたということか!?」

「そう考えるしかないのかと……」

 全滅の報告だけでも信じっれないというのに、それを成したのが数人の帝国兵だという話だから、なおも信じがたい。
 長年の調査で、帝国内にそこまで強力な戦力を持つ者の存在は確認されていない。
 しかし、菱山家の者たちが全滅したということは、強者が存在していると考えざるを得ない。
 確認するように問いかける良照に、重蔵は自信なさげに返答した。

「ワシはこれから陛下に釈明に向う! 光蔵! 帝国領の調査をおこない、菱山家を潰した者たちを見つけ出し連れてこい! 生死は問わん!」

「か、畏まりました!」

 アデマス王国にとって、敷島の敗北は大問題だ。
 国王の信頼があるからこそ、敷島の者たちは国内で確固たる地位を持てているのだ。
 今回のことが国王の耳に入れば、また敷島に代わる人造兵器の開発に乗り出しかねない。
 そうならないため、良照は国王のもとへ釈明に向かうことにした。
 当然菱山家の者たちを全滅させた者たちを探し出し、始末をつけなければならない。
 その件は、菱山家と同様に前回帝国と引き分けることになる失態を犯した五十嵐家だ。
 光蔵に命令を下し、良照は部屋から退室していった。

「光蔵殿……」

「……何ですかな?」

 良照が退室した後、残された2人は立ち上がる。
 そして、良照の命令に従い、菱山家を全滅させた者たちの捜索を開始するべく、退室して行動に移ろうとした。
 そんな光蔵に、重蔵が話しかける。

「菱山家が敗れたのです。どうぞお気を付けください」

「……ご忠告感謝します。重蔵殿……」

 良照に代わる次期頭領争いをする2人。
 もしも菱山家を全滅させた者たちを始末すれば、五十嵐家としては汚名返上になる。
 つまり、頭領候補の中では一歩上にいる斎藤家の重蔵としては、菱山家同様に自分たち五十嵐家も潰れてくれることを望んでいるはずだ。
 それなのに、心配したような言葉をかけて来た重蔵のことを意外に思いつつ、光蔵は返礼して退室していった。

「…………」

 部屋から出ていく光蔵の背中を、重蔵は無言で見送る。
 そして、光蔵の姿が無くなると、密かに笑みを浮かべた。


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