復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!!

ポリ 外丸

第23話 申し込み

「おいっ! 今頭下げんなら許してやるぞ?」


「寝言は寝て言え!」


「っ!! てめえ……」


 いきなりマナー違反をおこなってきたにもかかわらず、男たちは謝るそぶりを見せない。
 それどころか、限たちに謝罪を求めてくる始末だ。
 最初は流そうかと思ったが、彼らの態度がその考えを否定させた。
 それに限の中には受け流せない理由がもう一つある。


「おい! さっさとそいつ殺しちまえよ!」


「狙いはあの女だろ?」


 帯剣をしている男以外は下卑た笑みでレラを見ている。
 限がイラついているのは、それも原因だ。
 彼らの足運びから実力があるのは分かる。
 そんな連中が一角兎の横取りなんてわざわざしてくる理由があるのかと思っていたが、狙いはレラだったようだ。
 帯剣している男以外の意識は完全にレラへ向いている。


「女や犬はお前たちが抑え込んどけ、俺はこいつを殺る!」


 帯剣の男はこめかみに青筋立てつつ仲間に顔を向けて指示を出す。 
 どうやら相手をしてくれるようだ。


「っ!?」


 仲間に指示を出しているが、限から視線を外したのは間違いだ。
 帯剣の男の横を通り抜け、限は一瞬で他の3人に接近していた。


「うがっ!!」


「ごっ!!」


「へぶっ!!」


 レラに目を向け全く警戒していなかったためか、3人とも完全に無防備の状態。
 その3人に向かって、限は躊躇もたいした手加減もせずに殴りつけた。
 ある程度の力でないと、この3人を一発で動けなくすることはでいないと判断したからだ。
 限の放った拳が、3人の急所へ突き刺さると、3人とも白目を剥いて昏倒した。


「て、てめえ!!」


「何だ?」


 全く警戒していなかったとは言っても、高ランク冒険者パーティーの仲間をあっという間にやられ、残った男は怒りで目を血走らせている。
 視線で殺さんと言わんばかりだが、限はそんなことで動揺なんてしない。
 冷めた目で男の目を見つめ返す。


「てめえの相手は俺だろうが!!」


「俺はお前ら全員を相手にするつもりだったからな……合図でも欲しかったか?」


 どんな時でも冷静に敵を見、隙を見たら行動に移るのが戦いの基本。
 それは人間相手でも魔物相手でも同じ。
 敷島ではまず最初に教わるようなことだ。
 実力はあるようだが、彼らは相手を見抜く目が低すぎる上に油断をし過ぎだ。


「この野郎!!」


 戦闘における基本を教えてあげただけなのに、男はまだ限を倒すつもりらしく、腰に付けている剣を抜こうと柄に手をかける。


「がっ!?」


「遅いよ!」


 柄に手をかけはしたが、男が剣を抜くことはできなかった。
 そんなことをさせる間を与えないように、懐に入った限が男の手を蹴り上げ、そのまま腰に手を伸ばして腰に付けていた剣を奪い去った。


「お前は遊んでやるよ……」


「て、てめえ……」


 のぼせ上った天狗を相手に、限は少し遊んでやることにした。










「おかえりなさ……っ!!」


 依頼を受けて出て行った新人が無事に帰って来たことに、書類に目を通していたギルドの受付嬢は笑みを浮かべて対応をしようとした。
 しかし、彼が人間を数人背負っているのを見て言葉が詰まる。
 何が起きたか全く分からない。


「どうも……」


「な、何が……」


 固まっている受付嬢に対し、限は依頼を受けた時と同様に平然と話しかけた。
 それに対し、女性は挨拶よりも背負っている人間の方が気になった。


「こいつらがマナー違反して来たんですがどうしたらいいんでしょうか?」


「マナー違反……っ!!」


 限の言葉にどうやら揉め事があったことを理解した女性は、ギルド内に備え付けられたベンチに積み上げられた男たちに目を向ける。 
 その者たちの顔を見て、またも驚き表情が固まった。


「彼らはAランクパーティーの……」


「へぇ~……結構ランク高いんだな」


 何だか自分たちを知っていることが当然とでも言うような態度だったが、どうやら本当に有名人のようだ。
 彼らを背負ってギルド内に入った時から、他の冒険者の視線が集まっていたのはそのせいだったようだ。


「彼らがマナー違反をしたというのですか?」


「えぇ……そうですけど? 一応殺さないで連れてきたんですけど……」


「お前ら!! どうした!?」


 結構高いどころか、相当な成果を示さないと与えられないSランクに次いでであるAランク。
 いくらなり立てだと言っても、彼らは多くの難易度の高い依頼を達成してきた。
 若手のホープとも言って良い彼らがマナー違反と言われても、彼女はいまいちピンと来ていないようだ。
 限の方としては、今日ここに来てすぐに絡んで来た人間のランクのことなんか知ったこっちゃない。
 放っておいて魔物の餌にしても構わなかったのだが、この町のことを考えて、ちょっとはできる彼らを始末しないであげた。
 起きたら一言頭を下げさせるだけで済ませるつもりだ。
 それを受付女性に話そうとしていたところへ、ギルドの奥からホールへ一人の若者が駆けつけてきた。


「カトゥッロ!!」「ファブリツィオ!!」「デチモ!!」「うっ! ルッジエロ?」


 その若者は、限が伸してベンチで横になっている男たちに声をかけている。
 最後の一人は顔がボコボコで、確認するかのように問いかけている。


「何だお前?」


「俺は彼らの仲間だ!」


「じゃあ、お前からもこいつらに言っておいてくれよ。「雑魚が調子に呑んじゃねえよ!」って……」


 どうやらこの者たちの知り合いのようなので、彼にも忠告をしておいた方が良いようだ。
 まだ若干腹の虫がおさまらず、彼らのことが気に入らない限はその若者に高圧的に話した。


「なっ!! 彼らが何をしたって言うんだ!!」


 限の言い方が悪く、その若者も事情が分からないのに上から来られて腹を立てたようだ。
 仲間をこのようなことにしたのが限だと言い方で判断した彼は、眉根を寄せて限へ問いかけた。


「人の獲物の横取り行為だ」


「なんの魔物だ!?」


「一角兎だ」


「…………何だと?」


 限の言う通り魔物の横取り行為をしたのならたしかに彼らが悪いということになるが、それも魔物によって話が変わってくる。
 もしかしたら強力な魔物が出て、限たちを救うために戦ったのかもしれない。
 それを判断するために聞いたのだが、一角兎と聞いて思考が一時停止する。


「彼らはDランクですので……」


 その若者が無言で受付の女性に目を向けると、女性は限たちの簡単な説明をした。


「なるほど……どうやら君たちの方が間違っているようだ」


「…………何を言っている?」


 受付の女性の説明と魔物の種類から、彼らが受けた依頼が一角兎の討伐だと判断した彼は、限たちがおかしなことを言っていると判断したようだ。
 限たちからしたら何も間違ったことを言っているつもりがないので、若者の言葉に首を傾げるしかない。


「彼らは僕の仲間でAランクパーティーだ。一角兎なんて手に入れる必要がない」


「……っで?」


「つまり、君の言っていることの方が偽りだということだ」


「…………何だと?」


 Aランク冒険者パーティーの彼らなら、横取りなんてしなくても一角兎くらい手に入れられる。
 そのため、しなくてもいいことをする必要性がないので、限の言葉の信憑性が疑わしい。
 彼の中では、限の最初の印象が悪かったために仲間がそんなことをするはずが無いという考えから推察しているようだ。


「ん? んん~……」


「デチモ!!」


 若者と限が揉めている所で、ベンチに横になっていた槍を持っていた男が目を覚ました。
 体を起こした彼は、周辺の景色と、限と一緒にいる仲間の顔を見てここがギルドだと理解する。


「デチモ!! 目を覚ましてすぐで悪いが、彼らと何があったか教えてくれ!」


「……何があったか?」


 起きたデチモと言う男は、自分たちがレラを襲うためにちょっかいをかけたことに、限がチクったのかと空気を探る。


“ニッ!!”


 ギルド内の他の冒険者たちは、限たちが嘘を言っているようにヒソヒソ話している。
 つまりは自分たちのことは詳しく話されていない。
 もしくは、限たちの発言が信用されていないということが理解できた。
 そのため、デチモは限たちがこのまま嘘つきだということにしてしまおうと判断して、密かに笑みを浮かべた。


「俺たちが散歩がてら町の外に出ると、彼らに不意打ちを食らい、訳も分からず袋叩きに逢っちまった」


「……だそうだ。被害者の言葉だ」


 現場を見ていなかった者たちは、Aランクの自分たちが嘘を吐くとは思わないだろう。
 そう考えたデチモは、平然と嘘をついた。
 デチモの嘘に、若者は限への睨みを一層きつくする。


「被害者が嘘をついているって考えないのか?」


「その可能性もなくはないが、結局どっちを信じるかだ」


 デチモの意見を受けて、彼は意を得たりと言うが如く話してくる。
 しかし、最初から本当のことしか言っていないのに、面倒なことになってきたため限はイラついてきた。


「何だその馬鹿な意見は?」


「……馬鹿だと?」


 イラついたがゆえに言葉を選ぼうとしなかった。
 それが若者にとっての我慢の限界線を越えてしまったらしく、怒りで震え出した。


「君に勝負を申し込む!!」


「………………はぁっ?」


 仲間なのだから、彼もデチモたちのように力でねじ伏せて来るのかと思ったら、何だか堂々と決闘を申し込まれてしまった。





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