復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!!
第18話 山登り
「またか……」
「「「「「グルルル……!!」」」」」
国境を越えるため、危険な山登りを開始した限たち。
中腹まで登ってきたが、やたらと魔物が出現することに限は面倒になってきた。
今もゴブリンが集団になって限たちを取り囲んでいる。
「ガウッ!!」
「アルバ様! ゴブリン程度ならば私に任せてください!」
魔物が出ても、大体がアルバの牙であっという間に始末されている。
今回も自分が相手をしようと、アルバは飛び掛かる体勢へと変える。
それを見て、アルバばかりに任せてしまっていることに申し訳なく思ったのか、自分が相手をするとレラが一歩前へ出る。
元々は聖女見習いとして生きてきたレラは、回復魔法は使えても攻撃の魔法は使えなかった。
しかし、限の言葉を受けて練習をしたことでいくつかの攻撃魔法が使えるようになっている。
数を相手にするなら魔法で対処した方が速いため、自分の番だと思ったのかもしれない。
「いや、たまには俺がやる」
「ワウッ?」「えっ?」
アルバにしてみれば主人である限。
レラからすると崇拝に近い存在である限。
お互い立場は少し違うが、限の手を煩わせないようにと思って買って出たのだが、その限が動くということに首を傾げる。
「暇すぎてしょうがない。たまには体を動かしたい」
「ワウッ!」「分かりました!」
ゴブリンなんて、限からすれば相手にするような魔物ではない。
倒した時の返り血などを考えると、自分たちに任せてほしいという思ったのだが、限にそう言われては仕方がない。
そのため、アルバとレラは素直に引き下がった。
「……運動にもならないか」
英助から奪い取った刀を抜き、自分たちの周りを囲んでいるゴブリンを相手に斬りかかった限。
しかし、呟いたように全く手ごたえを感じない。
ゴブリンたちでは限の動きに反応することすらなく、上半身と下半身が崩れ落ちるように二手に分かれた。
限の剣筋があまりにも速すぎたのか、斬ったにも関わらず刀にはゴブリンの血が付いていなかった。
とは言っても、ゴブリンを斬ったことに変わりがないので、限は魔法で綺麗にしてから刀を鞘へと納めた。
「……すごいな。限は……」
基本的にアルバに乗っているだけの小人族のゼータは、限の目にもとまらぬ早業に驚きの声をあげる。
アルバの強さやレラの魔法はよく見ているので、ゴブリンなんてなんてことないと思っていたが、限の強さは異次元のように思えた。
聞いた話では、これで元魔無しだというのだから恐ろしい。
研究所の実験によって魔力を得られるようになったという話だが、たった数年でこんな強さを得るなんて、どれだけ過酷な実験に耐えたのだか考えると寒気がしてくる。
「一族の奴を殺って少し気分が高まっていたのかもな……」
やはり相手にならなかったゴブリンに、何かスッキリしない限はアルバかレラに任せた方が良かったかもしれないと思い始めた。
ゴブリンごときの殺気に反応してしまった自分のことを冷静に判断し、原因を考えて一つ思い至った。
研究所を破壊した一族の者たちを見つけて英助一人しか捕まえなかったが、本当は全員始末してしまいたかった。
しかし、自分の実力がどれほど通用するか分からなかったため、安パイに英助だけ攫ったのは失敗だったかもしれない。
どうせいつかは全員殺してやろうと思っているのだから、あの時全員始末してもよかった。
そう考えると、何だかもったいなかった気がしてムズムズし、体を動かしたくなった。
「今頃奴らは英助の死体を見つけているかもしれないな……」
「追ってきたりしないでしょうか?」
急に仲間がいなくなったのだから、奴らは原因追及の意味も込めて捜索をすることだろう。
研究所に戻る道からずれているが、もしかしたらもう発見しているかもしれない。
限のその言葉に、レラはちょっとした不安を覚える。
もしも死体を見て犯人が突き止められたら、限を標的にしてくるかもしれない。
聞いた話でしかないが、敷島の人間が強いことは分かっている。
そうなると、限やアルバは何とか対応できても、自分やゼータは完全に足手まといになる。
その不安から、限へと問いかけた。
「大丈夫。見つけてもわかりゃしないさ……」
英助の死体から何に殺られたのかというのを探ろうとするだろうが、それは想定の範囲内。
魔物はどこにでもいる存在。
英助の血の匂いに釣られた魔物が、数匹近くにいたのには気付いていた。
その魔物によって、英助の肉体は所々食いちぎられていたはずだ。
それによって魔物に殺られたと錯覚するはず。
例え人に殺られたと分かったとしても、自分がやったと分かるような痕跡は残してこなかったため、追跡してくることはないだろう。
「来たら来たで、返り討ちにしてやればいいだけだ!」
「……そうですね」
追っ手が来る可能性が低いのは限の自信ありげな表情で分かる。
それで安心できたのだが、どうも限は追っ手が来てほしいようにも感じられる。
限の復讐のことを考えるとその方が良いのかもしれないが、自分がネックになるかもしれない。
そうならないように、せめて身を守れるくらい強くなろうと思ったレラだった。
「一族の前に研究所の奴らの始末が先かもな……」
はっきり言って、一族の人間を相手にするよりも、研究所の人間を始末する方が簡単にできそうだ。
生物の研究ばかりしていて、個人個人はゴブリン並みの戦力しかないような連中だ。
研究している合成獣のことが気になる所だが、所詮は敷島の連中に止められる程度の成果しかないのなら気にするほどではない。
「アルバとレラは別に付いてこなくていいぞ」
「グルッ!?」
「そんな!? 私も研究所の者たちには怒りが湧きます。邪魔かもしれませんがただ限様に付いて行くだけです!」
発言内容にアルバとレラは目を見開く。
命を救われた恩を返すために限についてきているというのに、いきなりそんなこと言われて悲しくなる。
たしかに限に比べれば弱いかもしれないが、せめて盾くらいにはなれるはずだ。
それに、研究所への恨みがあるのはレラも同じ。
そのため、付いて行きたいことを必死にアピールした。
「まぁ、付いてきたいなら構わないぞ。ゼータはどうする?」
アルバとレラが付いてくる気満々の表情をしているので、限はそれを了承する。
2人(1人と1匹)とも、研究所で廃棄されるまで実験の苦痛を受けさせられた恨みがあるのは分かる。
同じ相手への復讐を考えているのなら、別に気にすることはない。
研究所への恨みはゼータも持っていると思ったので、限は彼女にも聞いてみることにした。
「俺は故郷に帰れればそれでいいぞ!」
「そうか……」
聞かれたゼータは、あっさりと返答してきた。
彼女は研究所での実験はそれ程受けていなかった。
研究員たちの逃亡によって空腹にされたという感情しかないのかもしれない。
「限様ほどの強さなら、敷島の者たちを倒せないのですか?」
「まだ無理だな……」
廃棄場で限の魔力の一端を見ただけだが、とんでもない強さを持っているということは分かっているつもりだ。
そのため、レラはもうすでに敷島の全滅をする力を持っていると思ったのだが、限はあまり時間を置かずに答えた。
「何故ですか?」
「一番のネックは親父だ。奴の剣を子供の時に一回見ただけだが寒気がした」
昔、新年の初めとして斎藤家の一族で稽古をした事があった。
妾の子で魔無しの限は呼ばれなかったが、せめて父親の剣の腕を少しでも見たいと思って、窓の隙間から覗き見た。
その時の父の剣に鳥肌が立った記憶がよみがえる。
魔力が無いのならと、懸命に剣の練習をしてきた自負があるが、まだまだ奴の剣には届いていないと分かってしまう。
「しかし……」
「言いたいことは分かる。確かに魔力の量だけならかなり近付いたと思うが、それだけで奴に勝てるとは思わない」
剣の腕で勝てなくても、限には膨大な魔力がある。
それを使えば勝てるのではとレラは思ったのだろう。
魔無しだった昔と違い、今は尋常じゃない魔力を有するようになった。
父の魔力量がどこまであるのか分からないが、他の一族の者たちのことを考えると、かなり近付いていると思う。
しかし、あの剣の腕を考えると、魔力が互角なら勝てる相手とは言い切れない。
「まぁ、魔力もそのうち追い抜く。それまでは一先ずお預けだ」
魔力を増やすための訓練は続けている。
そのたびに増えていっているのが分かるくらいなため、今父と互角ならそのうち追い抜くはずだ。
剣で勝てないなら魔力でねじ伏せるのが手だろう。
つまり、父に勝つには、魔力量を増やすためにもうしばらくの時間が必要だ。
ゼータを送り届けるのも、それまでの時間を稼ぐという意味もある。
「そろそろ厚い服を着ましょう。ここからはどんどん寒くなってくるはずです」
「バウッ!」「おう!」
話しながら山を登って来たが段々と肌寒くなってきた。
そのため、レラは厚手の服を人数分取り出し、防寒対策を促したのだった。
「「「「「グルルル……!!」」」」」
国境を越えるため、危険な山登りを開始した限たち。
中腹まで登ってきたが、やたらと魔物が出現することに限は面倒になってきた。
今もゴブリンが集団になって限たちを取り囲んでいる。
「ガウッ!!」
「アルバ様! ゴブリン程度ならば私に任せてください!」
魔物が出ても、大体がアルバの牙であっという間に始末されている。
今回も自分が相手をしようと、アルバは飛び掛かる体勢へと変える。
それを見て、アルバばかりに任せてしまっていることに申し訳なく思ったのか、自分が相手をするとレラが一歩前へ出る。
元々は聖女見習いとして生きてきたレラは、回復魔法は使えても攻撃の魔法は使えなかった。
しかし、限の言葉を受けて練習をしたことでいくつかの攻撃魔法が使えるようになっている。
数を相手にするなら魔法で対処した方が速いため、自分の番だと思ったのかもしれない。
「いや、たまには俺がやる」
「ワウッ?」「えっ?」
アルバにしてみれば主人である限。
レラからすると崇拝に近い存在である限。
お互い立場は少し違うが、限の手を煩わせないようにと思って買って出たのだが、その限が動くということに首を傾げる。
「暇すぎてしょうがない。たまには体を動かしたい」
「ワウッ!」「分かりました!」
ゴブリンなんて、限からすれば相手にするような魔物ではない。
倒した時の返り血などを考えると、自分たちに任せてほしいという思ったのだが、限にそう言われては仕方がない。
そのため、アルバとレラは素直に引き下がった。
「……運動にもならないか」
英助から奪い取った刀を抜き、自分たちの周りを囲んでいるゴブリンを相手に斬りかかった限。
しかし、呟いたように全く手ごたえを感じない。
ゴブリンたちでは限の動きに反応することすらなく、上半身と下半身が崩れ落ちるように二手に分かれた。
限の剣筋があまりにも速すぎたのか、斬ったにも関わらず刀にはゴブリンの血が付いていなかった。
とは言っても、ゴブリンを斬ったことに変わりがないので、限は魔法で綺麗にしてから刀を鞘へと納めた。
「……すごいな。限は……」
基本的にアルバに乗っているだけの小人族のゼータは、限の目にもとまらぬ早業に驚きの声をあげる。
アルバの強さやレラの魔法はよく見ているので、ゴブリンなんてなんてことないと思っていたが、限の強さは異次元のように思えた。
聞いた話では、これで元魔無しだというのだから恐ろしい。
研究所の実験によって魔力を得られるようになったという話だが、たった数年でこんな強さを得るなんて、どれだけ過酷な実験に耐えたのだか考えると寒気がしてくる。
「一族の奴を殺って少し気分が高まっていたのかもな……」
やはり相手にならなかったゴブリンに、何かスッキリしない限はアルバかレラに任せた方が良かったかもしれないと思い始めた。
ゴブリンごときの殺気に反応してしまった自分のことを冷静に判断し、原因を考えて一つ思い至った。
研究所を破壊した一族の者たちを見つけて英助一人しか捕まえなかったが、本当は全員始末してしまいたかった。
しかし、自分の実力がどれほど通用するか分からなかったため、安パイに英助だけ攫ったのは失敗だったかもしれない。
どうせいつかは全員殺してやろうと思っているのだから、あの時全員始末してもよかった。
そう考えると、何だかもったいなかった気がしてムズムズし、体を動かしたくなった。
「今頃奴らは英助の死体を見つけているかもしれないな……」
「追ってきたりしないでしょうか?」
急に仲間がいなくなったのだから、奴らは原因追及の意味も込めて捜索をすることだろう。
研究所に戻る道からずれているが、もしかしたらもう発見しているかもしれない。
限のその言葉に、レラはちょっとした不安を覚える。
もしも死体を見て犯人が突き止められたら、限を標的にしてくるかもしれない。
聞いた話でしかないが、敷島の人間が強いことは分かっている。
そうなると、限やアルバは何とか対応できても、自分やゼータは完全に足手まといになる。
その不安から、限へと問いかけた。
「大丈夫。見つけてもわかりゃしないさ……」
英助の死体から何に殺られたのかというのを探ろうとするだろうが、それは想定の範囲内。
魔物はどこにでもいる存在。
英助の血の匂いに釣られた魔物が、数匹近くにいたのには気付いていた。
その魔物によって、英助の肉体は所々食いちぎられていたはずだ。
それによって魔物に殺られたと錯覚するはず。
例え人に殺られたと分かったとしても、自分がやったと分かるような痕跡は残してこなかったため、追跡してくることはないだろう。
「来たら来たで、返り討ちにしてやればいいだけだ!」
「……そうですね」
追っ手が来る可能性が低いのは限の自信ありげな表情で分かる。
それで安心できたのだが、どうも限は追っ手が来てほしいようにも感じられる。
限の復讐のことを考えるとその方が良いのかもしれないが、自分がネックになるかもしれない。
そうならないように、せめて身を守れるくらい強くなろうと思ったレラだった。
「一族の前に研究所の奴らの始末が先かもな……」
はっきり言って、一族の人間を相手にするよりも、研究所の人間を始末する方が簡単にできそうだ。
生物の研究ばかりしていて、個人個人はゴブリン並みの戦力しかないような連中だ。
研究している合成獣のことが気になる所だが、所詮は敷島の連中に止められる程度の成果しかないのなら気にするほどではない。
「アルバとレラは別に付いてこなくていいぞ」
「グルッ!?」
「そんな!? 私も研究所の者たちには怒りが湧きます。邪魔かもしれませんがただ限様に付いて行くだけです!」
発言内容にアルバとレラは目を見開く。
命を救われた恩を返すために限についてきているというのに、いきなりそんなこと言われて悲しくなる。
たしかに限に比べれば弱いかもしれないが、せめて盾くらいにはなれるはずだ。
それに、研究所への恨みがあるのはレラも同じ。
そのため、付いて行きたいことを必死にアピールした。
「まぁ、付いてきたいなら構わないぞ。ゼータはどうする?」
アルバとレラが付いてくる気満々の表情をしているので、限はそれを了承する。
2人(1人と1匹)とも、研究所で廃棄されるまで実験の苦痛を受けさせられた恨みがあるのは分かる。
同じ相手への復讐を考えているのなら、別に気にすることはない。
研究所への恨みはゼータも持っていると思ったので、限は彼女にも聞いてみることにした。
「俺は故郷に帰れればそれでいいぞ!」
「そうか……」
聞かれたゼータは、あっさりと返答してきた。
彼女は研究所での実験はそれ程受けていなかった。
研究員たちの逃亡によって空腹にされたという感情しかないのかもしれない。
「限様ほどの強さなら、敷島の者たちを倒せないのですか?」
「まだ無理だな……」
廃棄場で限の魔力の一端を見ただけだが、とんでもない強さを持っているということは分かっているつもりだ。
そのため、レラはもうすでに敷島の全滅をする力を持っていると思ったのだが、限はあまり時間を置かずに答えた。
「何故ですか?」
「一番のネックは親父だ。奴の剣を子供の時に一回見ただけだが寒気がした」
昔、新年の初めとして斎藤家の一族で稽古をした事があった。
妾の子で魔無しの限は呼ばれなかったが、せめて父親の剣の腕を少しでも見たいと思って、窓の隙間から覗き見た。
その時の父の剣に鳥肌が立った記憶がよみがえる。
魔力が無いのならと、懸命に剣の練習をしてきた自負があるが、まだまだ奴の剣には届いていないと分かってしまう。
「しかし……」
「言いたいことは分かる。確かに魔力の量だけならかなり近付いたと思うが、それだけで奴に勝てるとは思わない」
剣の腕で勝てなくても、限には膨大な魔力がある。
それを使えば勝てるのではとレラは思ったのだろう。
魔無しだった昔と違い、今は尋常じゃない魔力を有するようになった。
父の魔力量がどこまであるのか分からないが、他の一族の者たちのことを考えると、かなり近付いていると思う。
しかし、あの剣の腕を考えると、魔力が互角なら勝てる相手とは言い切れない。
「まぁ、魔力もそのうち追い抜く。それまでは一先ずお預けだ」
魔力を増やすための訓練は続けている。
そのたびに増えていっているのが分かるくらいなため、今父と互角ならそのうち追い抜くはずだ。
剣で勝てないなら魔力でねじ伏せるのが手だろう。
つまり、父に勝つには、魔力量を増やすためにもうしばらくの時間が必要だ。
ゼータを送り届けるのも、それまでの時間を稼ぐという意味もある。
「そろそろ厚い服を着ましょう。ここからはどんどん寒くなってくるはずです」
「バウッ!」「おう!」
話しながら山を登って来たが段々と肌寒くなってきた。
そのため、レラは厚手の服を人数分取り出し、防寒対策を促したのだった。
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