主人公は高みの見物していたい
第128話
「グハハ……」
「くっ!」
「グウ……」
綾愛たちと別れた鷹藤家の兄弟と森川と塩見の4人は、木の魔人と戦う綾愛とは違い苦戦を強いられていた。
笑みを浮かべる緑色の肌をした魔人の前で、怪我を負った鷹藤家の文康・道康の兄弟が膝をつく。
「2人共勝手に攻めるなといっただろ!」
「フンッ!」
怪我を負った鷹藤兄弟に対して前川が声をかけるが、文康は鼻を鳴らして聞き流した。
今回の魔物狩りを利用して、自身の名と、上手くいけば綾愛を手に入れることを画策した。
しかし、その企みはあっさりと露見し、このままでは名を上げるどころか地に落とす。
そんななか、鷹藤家の部下に姿を変えていた魔人と戦うことになった。
魔人出現という人類にとって脅威となる出来事を、鷹藤兄弟はこんな時でありながら好機と判断していた。
自分たちがこの魔人を倒せば、汚名を返上できる。
そんな甘い考えから、前川たちの協力を拒否しているのだ。
「もしかしてこのガキ……」
前川の言葉を無視するのを見て、塩見は文康が考えに気が付く。
そのため、鷹藤家の跡継ぎだからと、遠慮することなく睨みつけた。
「塩! 先のことはひとまず置いておこう! まずはこの魔人を倒すんだ!」
「あぁ!」
塩見が思ったことに、森川もすぐに思い至る。
当然あの兄弟には腹が立つが、今はそんな事を言っている場合ではない。
この魔人を放置しておけば、一般人に被害が及ぶかもしれない。
そうなる前に、この場で始末するしかない。
前川の言う通りと判断した塩見は、鷹藤兄弟のことはひとまず置いて、目の前の魔人を倒すことに専念することにした。
「ハァ!!」「セイッ!!」
「ハハッ! なかなかの攻撃だが、当たらば意味がない!!」
「ガッ!!」「うっ!!」
前川たちが魔人に攻めかかろうとすると、またも鷹藤兄弟が動く。
2人共中身はクズでも、さすが鷹藤家の人間というべき動きをしている。
しかし、その攻撃も緑色の魔人には通用しない。
鷹藤兄弟の攻撃を、蔓の鞭と化した両手で弾いた。
そう、綾愛たちが相手にしたのが木の魔人で、こちらに残った緑色の肌をした魔人は草の魔人だった。
刀でも切れないような草の魔人の蔓鞭によって、鷹藤兄弟はジワジワと痛めつけられていた。
「斬牙!」
「ガウッ!!」
鷹藤兄弟が攻めるのを援護するのもいいが、2人は自分たちのことを考えていて援護しようにも邪魔になっている。
この山に来ているのは、本来合宿の仕上げとして若手同士の連携による魔物討伐を訓練するのが目的だったはずだ。
しかし、鷹藤兄弟のせいで連携は最悪だ。
そっちがその気ならと、前川と塩見も独自で動くことにした。
草の魔人の鞭によって弾かれた鷹藤兄弟を横目に、前川が従魔の斬牙と共に草の魔人へと襲い掛かった。
蔓の鞭は、リーチが長いため間合いが遠いが、その優位性はあくまでも2人を相手にする場合のみ。
鞭の特性上、攻撃したら隙ができる。
鷹藤兄弟に攻撃したことで出来たその隙を利用し、移動速度の速い斬牙を仕向けたのだ。
「ムッ!!」
その斬牙の噛みつき攻撃に対し、草の魔人は咄嗟にバックステップを取る。
そして、斬牙に反撃するために、左手の鞭を振り上げた。
「チュン!!」
「っ!? ……雀? くっ!」
斬牙のへの攻撃をおこなおうとした草の魔人だが、その攻撃を中断してその場から横に跳んで回避に移る。
背後から小さい魔力の弾が飛んできたため、反射的に動いたのだ。
魔力を飛ばして来たのが何者かと思って視線を向けると、そこには小さな鳥がいた。
その姿を見た瞬間、草の魔人は当たっても少し痛い程度でしかなかった攻撃を躱してしまった自分にイラ立つ。
「ハッ!!」「シッ!!」
「っっっ!!」
雀に目を向けた草の魔人の死角から、前川と塩見が刀で左右から同時に斬りかかる。
連携を取ろうとしない鷹藤兄弟を利用し、従魔に意識を向けさせてからの攻撃。
自身に迫る2人の刀を見て、草の魔人は躱しきれないと目を見開いた。
「ハッ!!」
「ガッ!!」
「「っっっ!?」」
前川と塩見の刀が草の魔人の胴と首を斬り裂く寸前、道康の放った石弾の魔術が草の魔人の胸に直撃した。
「お前……!!」
「何を……!?」
魔人を仕留める寸前の攻撃に、前川と塩見は怒気と共に魔術を放った道康を睨みつける。
石弾が当たったことにより、草の魔人の体がズレた。
それにより、前川と塩見の攻撃が浅くなってしまったのだ。
「おのれ……、せっかく魔人になれたというのに……」
前川と塩見の攻撃は、直撃こそしなかったがかなりの深手を草の魔人に負わせた。
特に、前川が負わせた腹の傷はかなり深く入ったようだ。
大量の血を噴き出す腹を抑え、草の魔人は片膝をついた。
「魔人に……なれた?」
不意に放った草の魔人の言葉に、前川は引っかかりを覚える。
「ハアァーー!!」
「っ!!」
前川が一瞬躊躇っているうちに、文康が動く。
弱っている草の魔人目掛け、一直線に走り出したのだ。
「オラッ!!」
「グフッ!!」
速度に任せた突き。
それにより、文康は草の魔人の胸を貫いた。
一瞬文康を睨みつけるが、出来たのはそれだけのこと。
草の魔人は血を吐きだし、動かなくなった。
「ハ、ハハッ! やったぞ!」
草の魔人を倒した文康は、喜びと共に拳を握りしめた。
「俺!! 鷹藤家の文康が魔人を打ち取った!!」
「やった!」
魔人を殺して血に染まった刀を掲げ、文康は高らかに声を上げる。
その顔は、まるで全部自分の手柄だと言いたげな態度だ。
そんな兄を見て、弟の道康も嬉しそうに拳を上げた。
「おいっ! さっきのは何なんだ!?」
「は? 何のことだ?」
上機嫌の文康に、塩見が文句と共に詰め寄る。
何のことに対して文句を言っているのか分からないせいか、文康は首を傾げる。
「さっきの石弾だ! あれがなければ、俺と哲が仕留めていた!」
「そんなの知らねえよ。仕留めたのは俺だ」
塩見が言いたいのは、前川との連携によって左右から斬りかかった時、道康が放った石弾のことだ。
あれが草の魔人に当たったことで、前川と塩見の攻撃が浅くなってしまったのだ。
あれさえなければ、仕留めそこなうということはなかった。
魔人という危険な生物を相手にしているというのに、急造で組んでいるとは言え、味方の邪魔になるようなことをして何を考えているのか。
それを糾弾するように問いかけるが、文康は興味なさげに返答した。
「お前……、さては自分たちが止めを刺すために邪魔をしたな!?」
「ハッ! 何言ってる。止めを奪われたからってイチャモン付けんなよ!」
鼻で笑う文康の態度を見て、塩見はあることに気が付いた。
鷹藤兄弟が邪魔をしたのは、意図的だったということに。
そのことを問い詰めると、文康は若干眉を顰める。
その反応から、塩見は自分の考えが正しかったのだと確信した。
「このガキ……」
ここまで来ると、完全に頭に来た。
塩見は、文康をぶん殴ってやろうと拳を握った。
「こちらも終わったようですね?」
「「「「っっっ!!」」」」
塩見が今にも文康へ殴りかかろうとした時、何者かが近寄ってきて声がかけられる。
木と草の魔人が、まだ他にも魔人がいるようなことを言っていたことを4人は思いだし、声がした方に身構えた。
「柊さん! 杉山さん! 無事だったんだね?」
声をかけて来た人間の顔を確認し、4人は胸をなで下ろした。
姿を現した綾愛と奈津希に、前川が声をかける。
「こちらも魔人を倒せました」
「おぉ……」
「さすが柊家……」
綾愛はここまで運んできた亡骸を見せる。
首が斬られた魔人を見て、前川は本当に綾愛たちが魔人を倒したのだと理解した。
冷静に魔人を分析し、分断して戦う指示を出し、きちんと結果を出した綾愛を見て、鷹藤家とは違って柊家の方はちゃんとした教育がされているのだと感心したのだった。
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