主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

第124話


「待ちかねたぜ」

「全くだ」

 姿を現した2人は、凝りでも取るかのように首を回したりして体をほぐしながら話す。
 言葉から察するに、どうやらこの場で自分たちが来るのを待っていたかのようだ。

「お前ら……」

「何でここに……」

 文康・道康の兄弟は、2人を見て驚きの表情と共に話しかける。
 2人がこの場にいるのが不思議そうだ。

「彼ら……」

「……誰っスか?」

 伸に全く見覚えがない。
 しかし、呟いた言葉から森川は2人を知っているようだ。
 そのため、伸は2人のことを森川に尋ねてみた。

「たしか鷹藤家の配下の人だったと思うよ。何でここにいるのかは分からないけど」

「そうスか……」

 思った通り、森川は2人のことを知っていたようだ。 
 といっても、顔を知っているというだけで名前までは分からないようだ。

「お前ら何でこの場にいる?」

「訓練の邪魔になるから早く帰れ!」

 文康と道康の兄弟は、若干慌てた様子で2人に指示を出す。
 何で慌てているのか分からないが、たしかに現在伸たちは訓練中だ。
 危険な状態でもないのに、助けに来られる理由がない。

「たしか、こいつらを痛めつけるために魔物をここに集めておけって指示でしたっけ?」

「「なっ!?」」

 2人の発言に、文康と道康は驚愕の表情へと変わる。
 文康たちが慌てていた理由は、密かに企んでいた計画のことだ。
 この場に魔物を集めることで、自分たちの評価を上げようとしていた。
 それをおこなうために、この配下の2人に魔物を集めておくように指示していたのだ。
 しかし、その計画も、知られてしまっては何の意味もない。
 それどころか、他家にそんなことを計画していたなんて知られてしまえば、鷹藤家というブランドに巨大な傷をつけるということになる。
 そんな事くらい、この2人も分かっているはず。
 なのに、どうしてこの計画をバラしたのか。

「おいっ! どういうことだ?」

「い、いや……」


 魔物を意図的に集めて自分たちを痛めつけるなんて聞いたら、当然その理由が知りたくなる。
 文康たちに対し、塩見は怒気のこもった声で問いかけた。
 怒りを覚えているのは塩見だけではない。
 伸たちも、嫌悪するような視線を文康たちに向けた。
 そんな重苦しい雰囲気に、文康たちは言葉を詰まらせた。

「それは俺たちが答えてやるよ」

 言いにくそうにしている所を見ると、碌でもないことを考えているのは分かる。
 そんな文康たちを見て、2人組はニヤケ顔で話し始めた。

「鷹藤家の名声を取り戻すためと……」

「柊家の綾愛を手に入れるためだとよ」

「「「「「っっっ!!」」」」」

 本人たちに代わって発せられた言葉に、伸たちは更に怒りが沸き上がる。
 そんな全員の視線に、文康と道康は顔を背けた。

「ふざけるなよ!!」

「そんな事のために私たちを危険に晒そうとしたって言うの!?」

 森川と綾愛が怒りの声を上げる。
 高校生にもなって、この兄弟はやって良いことと悪いことの区別ができないのだろうか。
 先に綾愛たちが声を上げただけで、伸も同じことを言いたいところだ。

「お前たちの行為は、鷹藤家に厳重に抗議させてもらう!!」

「なっ!?」

「いや、ちょ……」

 こんなことを聞いて、黙っておくわけにはいかない。
 森川は、文康たちの企てた計画を大々的に抗議することに決めた。
 その発言に、文康たちは顔を青くする。
 鷹藤家の名声を取り戻すどころか、地に落とすようなことになりかねないのだから当然だろう。

「お、お前ら何で指示通りに動かないんだ!?」

「そ、そうだ! お前らただで済むと思っているのか!?」

 この2人がちゃんと指示通りに動いていれば、こんなことになることはなかった。
 そう考えた文康と道康は、みんなの視線から逃れるように、部下の2人へ当たり散らした。

「ガッ!!」「ゴッ!!」

 文康と道康の怒りに対し、部下の2人は拳で返して来た。
 突然部下から殴りかかられたことで反応できず、拳が2人の顔面に直撃した。

「き、貴様ら……」「な、なにを……」

「何言ってんだ?」

「俺らがお前らの指示に従うわけないだろ?」

 殴られて吹き飛んだ2人は、部下に抗議の目を向ける。
 これまでどんな指示も聞いて来た部下たちが、どうして今回に限って反旗を翻したのか。
 そんな思いから出た言葉かもしれない。
 そんな文康たちに対し、部下の2人は裂ける程に口を釣り上げた。

“ズッ!!”

「「「「「「っっっ!!」」」」」」

 笑みと共に部下たちの姿が変化する。
 そして、変化したその姿に、伸以外の全員が目を見開いた。

「ま、魔人……」

「ハハッ! ようやく気付いたか!?」

「この数週間ずっと側に居たって言うのによ!」

 簡単に言うと、緑色の皮膚に、頭に葉のような物が生えた人型生物。
 それと、木でできた人型生物といったところだ。
 そんな異形な姿をして言語を話していることから分かるように、この人型生物たちは魔人だ。
 どうやら、文康たちはもちろんのこと、鷹藤家の人間に気付かれないようにいつの間にか入れ替わっていたようだ。

「何で魔人がこんな所に……」

 驚きと共に呟く綾愛。
 去年に続いての魔人の出現。
 どうしてこの国にばかり魔人が現れるのだろうか。

「何でここにいるかって?」

 木の体をした魔人が、蒼の呟きに反応する。
 その表情はにやけたままだ。

「ここに大和皇国の有力な若手が集まっているって情報を得たからだよ!」

「っっっ!!」

「まさか……」

 木の体をした魔人の言葉を聞いて、森川と塩見が目を見開く。
 先程の言葉から、この魔人たちは文康たちの部下と入れ替わって数週間近く潜伏していたということだ。
 つまり、今回の合宿のことを知って、襲撃を加えることを計画していたということだ。
 そのことから、最悪の状況が頭に思い浮かんだ。

「気付いたか? ここにきている魔人は俺たちだけじゃないって事だ!!」

「「「「「「っっっ!!」」」」」」

 仕上げとして、合宿の参加者は数組に分かれてこの山を探索している。
 たまたま自分たちが受け持ったエリアに魔人が来たのではなく、この山に入っている他の合宿参加者たちの方にも魔人が向かっている。
 笑みを浮かべたまま木の魔人から発せられた最悪な情報に、伸以外の者がまたも驚き、言葉を失った。

「おいおい、他の連中のことは気にしなくていいぜ!」

「お前らはこの場で死ぬんだからな!」

 自分たち魔人の出現に驚く文康たち。
 そんな彼らの表情を見て嬉しそうな笑みを浮かべる魔人たちは、戦闘態勢に入り、体に魔力を纏い始めた。


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