主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

第105話


「うがっ!!」

 康則の援護を受けて、康義に攻撃のチャンスができた。
 その機会を利用して距離を詰めた康義は、刀でカルミネの体を斜めに斬り裂いた。

「チッ!! 浅いか!?」

 康義は舌打ちと共に呟く。
 この一撃で仕留めるつもりで放った攻撃だが、その手応えがやや弱い。
 攻撃に対して、僅かに回避の反応したようだ。

「ぐうぅ……」

 袈裟斬りにされたカルミネは、体から溢れる血を止めるかのように傷口を抑える。
 しかし、傷口はかなり深いため、出血が収まる気配はない。

「止めだ!!」

 蹲るようにして呻き声を上げるカルミネ。
 その場にとどまっているのなら、止めを刺すべき。
 康義は再度攻撃を放つため、先程の攻撃で流れた体を反転してカルミネに迫った。

「っっっ!!」

「なっ!?」

 康義の攻撃が空振りに終わる。
 それに驚く間もなく、すぐさま予備動作もなしに攻撃を回避したカルミネを探す。

「ハァ、ハァ、痛え……」

「……くっ!!」

 垂れる血によって、康義はすぐにカルミネの姿は見つける。
 カルミネは、戦闘中は畳んでいた背中の翼を羽ばたかせ、上空に浮かんでいたのだ。

「ハッ!!」

「おっと!!」

 上空にいられては刀による攻撃はできない。
 ならば魔術による攻撃で仕留めようと、康義はカルミネに風の刃を放つが、難なく躱されてしまう。
 しかも、攻撃を躱したカルミネは、更なる魔術攻撃を受けないように、より上空へと舞い上がった。

「くそっ!! 下りてきやがれ!!」

「馬鹿ぬかすな! 少し待ちやがれ!」

 あれだけ上空に逃げられては、魔術攻撃の威力は半減する。
 それどころか、魔術攻撃をすればするほど魔力の無駄になりかねない。
 この状況ではなにも出来なくなった康義は、カルミネに降りて来るように言う。
 それに言い返しながら、カルミネは傷口を抑えて息を整えた。

「まさか……、回復している?」

 様子を見るしかない康義は、カルミネの僅かな変化に焦る。
 カルミネから垂れ落ちる血液が、段々と治まってきているように感じたからだ。
 魔族特有の高い生命力によるものなのか、僅かだが傷が塞がってきているのかもしれない。

「俺にこれだけの傷を負わせるなんて……、流石鷹藤家だ。しかし、それも終わりだ」

「っ!! 逃げろ康則!!」

 名前持ち魔族である自分をここまで追いつめた康義を称賛すると、カルミネは自分の血で染まった手を客席の方へと向ける。
 それを見て、康義は慌てて息子の康則に指示を出した。

「ハッ!!」

「っ!? グアッ!!」

 狙いは康則。
 カルミネの手から、強力な火炎魔術が発射される。
 康義なら避けられる魔術攻撃も、康則となると話が違う。
 父の指示が聞こえた時には時すでに遅く、康則のすぐ側まで火炎魔術が迫っていた。
 康則にできたのは、体内の魔力を体外へ放出して身体強化し、一時だけ防御力を上昇させる事だけだった。
 康義の指示も虚しく、回避できなかった康則は火炎魔術の直撃を受けた。

「貴様!!」

「まだ死んでねえよ。お前を殺ってから、あいつも殺してやるよ」

 火炎魔術を受けた康則は、崩れるようにその場に倒れる。
 辛うじて動いているのを見る限り即死は免れたらしいが、大火傷を負っているのは間違いない。
 孫のみならず、息子までもが大怪我を負った。
 そのことに、康義は激昂するが、カルミネは真面目な顔をして話す。
 カルミネからすると、先程のように、康則に邪魔をされて攻撃を受けないようにするための処置だ。

「ハッ!!」

「くっ!!」

 康則を動けなくしたカルミネは、次に康義を仕留めにかかる。
 石弾だけでなく、火水風の魔術弾も混ぜた攻撃を康義へ放つ。
 最初の方は距離もあるため回避できたが、カルミネは少しずつ降下しつつ魔術攻撃をしてくる。
 そのため、段々と回避だけではどうにもならなくなり、康義は防戦一方を余儀なくされた、

「地を這う虫が、この俺に深手を負わせたんだ。死ね!! 死んで詫びろ!!」

 康義から受けた一撃は、はっきり言って間一髪だった。
 野生の勘とでもいうのか、咄嗟に体を反らすことで浅く斬られるだけで済んだ。
 しかし、一瞬死を感じさせられたことに、カルミネは怒りが湧いてきた。
 荒い口調と共に、どんどんと魔術攻撃の手数を増やしていった。

『耐えろ! 翼があっても、飛空に魔力を使っている。奴の魔力が切れるまで耐え抜くしかない』

 刀を使って攻撃を防ぎつつ、康義はまたも勝機を待つ。
 蝙蝠のような翼があるが、カルミネは風魔術を使用して空中を移動しているのが分かる。
 それにプラスするように、様々な系統の魔術攻撃をしているのだから、魔力を消費していっているはずだ。
 そのことから、耐えていればカルミネの魔力が尽きると康義は考えた。

「……耐えてれば勝てると思っているようだが、甘いな!」

「っっっ!!」

 攻撃を懸命に防ぐ康義の狙いを見透かすように、カルミネは笑みを浮かべる。
 そして、魔術を放つ手とは反対の手を見せる。
 その手を見て、康義は目を見開く。
 いつの間にかその手には大量の魔力が集まっていたのだ。

「この魔力による一撃で、このスタジアムごとお前を葬り去ってやるわ!!」

「貴様!!」

「ハーハッハッハ!!」

 上空にいるカルミネならば、スタジアムが吹き飛ぼうと巻き添えになることはない。
 しかし、康義はそうはいかない。
 スタジアムと共に瀕死、もしくは即死もあり得る。
 速くカルミネを殺して、あの魔力を使った攻撃をさせないようにするしかない。
 だが、空と地では一撃入れることは難しい。
 そのため、康義はこのまま敗北する結末ばかりが、脳裏をよぎった。

“ヒュン!!”

「……へっ!?」

「なっ!?」

 高笑いするカルミネだったが、その笑いはすぐに治まる。
 どこからともなく超高速の魔力弾が飛んできて、自分の翼に直撃したのだ。
 翼に風穴を開けられたカルミネは、飛空のバランスを崩し地面へと落下する。
 そのため、着地をするために空中で体勢を整えた。

「だ、誰が……」

 何とか着地したカルミネは、飛んできた方向を視線を送る。
 しかし、誰も見当たらない。

「ッ!!」

 攻撃してきた相手を探している場合ではない。
 地面へ落ちたということは、距離さえ詰めれば康義にも勝機がある。
 カルミネがそのことに気付いた時には、もう康義は目前へ迫っていた。

「ハーーーッ!!」

「ガッ!! バ、バカ…な……、この…俺が…………」

 接近と共に、康義は残った魔力をこの攻撃につぎ込む。
 康義が放った薙ぎ払いにより、カルミネの胴は両断された。
 上半身と下半身に分かれた状態で地面へと崩れ落ちたカルミネは、信じられないと言った様子で呟くと、大量の出血をしてそのまま動かなくなった。

「ハァ、ハァ……、いったい誰が……」

 ボロボロになりながらもなんとか勝利を収めた康義は、息を切らしてその場に座り込む。
 そして、鷹藤家の応援部隊が到着するまでカルミネの翼に風穴を開けた人間を探すが、結局見つからずじまいだった。





「鷹藤の成果になっちまうが、まぁ、仕方ないか……」

 カルミネの翼に風穴を開けた張本人。
 康義の勝利を見届けた伸は、小さく呟くとホテルに向けて移動を開始したのだった。


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