主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

第100話


「ぐぅ……、お、おのれっ!!」

 顎を蹴られたティベリオは数m飛ばされ、宙返りして着地することで俊夫の追撃に警戒する。
 そして、反射的に蹴られた顎を撫でる。
 ダメージはかなりのもので、顎を蹴られたことにより口から血が流れ、脳が揺れたことで視界が歪む。

「その体毛の斑点と速度自慢な所を見ると、お前チーター種だろ?」

 魔族がどのように生まれるかは分からないが、その種類によって戦い方は変わってくる。
 以前俊夫が戦った魔族はモグラ種。
 そのため、地面に潜って攻撃してくるというようなことをいてきた。
 それに対し、ティベリオは高速移動による攻撃を得意としている。
 見た目から猫科だと分かるため、何の種類なのかはすぐに予想がつく。
 猫科で速度自慢と言ったら、チーター以外思いつかない。

「だったら何だ!?」

 予想は的中したらしく。
 ティベリオは俊夫の質問に返答する。

「確かにお前の速度はかなりのものだが、戦闘ってのは速さで決まるもんじゃないんだよ」

 たしかにティベリオの速さはとんでもない。
 しかし、速度ばかりに意識がいっていて、直線的で単調になりがちだ。
 速度がある程度近いものなら、対応も難しくない。
 この結果はそれによるものだ。

「だ、黙れ!! 速さこそ強さ!! 俺が人間なんかに負けるはずがない!!」

 速さでは勝っているのに、自分がやられている理由を指摘され、ティベリオは怒りを露わにする。
 速度こそが強さだと考え、その能力を徹底的に鍛えてきた。
 そのせいで、俊夫の言うように直線的で単調になりがちだというのも分からなくない。
 しかし、そもそも自分の速度に付いてこれる人間がいるなんて考えていなかったため、このような結果になることが認められないようだ。

「っと! 回復したら面倒だ!」

「っ!!」

 ティベリオは気付かれないようにしているが、脚がわずかに震えているのは分かる。
 思いっきり顎を蹴り上げたのだから、ダメージがないわけがない。
 魔族について色々と聞きたいことがあるが、仕留めることができる時に仕留めておかないと、何が起きるか分からない。
 鷹藤親子に任せたカルミネのことも気になるため、時間をかける訳にはいかない。
 ダメージが抜ける前に畳みかけるべく、俊夫はティベリオに抜けて走り出す。
 迎え撃つわけにはいかないティベリオは、震える脚を無理やり動かした。

「自慢の速さも、ダメージでガタ落ちだな」

「くっ!!」

 ティベリオが動いて距離を取ろうとするが、俊夫はあっという間に追いつき斬りかかる。
 その攻撃を、ティベリオは爪で弾いてなんとか回避する。
 逃げて回復を狙ったのだろうが、ティベリオの動きは鈍い。
 相当なダメージを負っていたようだ。
 図星を突かれたティベリオは、表情を歪める。

「ハッ!!」

「ッ!! ガッ!!」

 俊夫は手のひら大の魔力の玉を、ティベリオの胸へ向けて発射する。
 体を捻って躱そうとするが、動きが鈍っている上に至近距離では躱せる訳もなく、ティベリオは左肩に魔力球が当たった。

「くそっ!!」

 攻撃が当たったことにより、ティベリオのバランスが崩れた。
 そこを逃さず、俊夫は一歩前に出る。
 追撃してくると察したティベリオは、俊夫に向けて両手の爪を振り回した。

「落ちた速度で、ただ振り回すだけの攻撃が通用すると思っているのか?」

 ティベリオの攻撃は速い。
 しかし、戦闘開始時に比べたら遅くなっているため、俊夫は刀で難なく攻撃を防ぐ。

「シッ!!」

「っ!!」

 振り回してくる攻撃を防ぎながらタイミングを計り、俊夫は待っていたかのように攻撃をいなす。
 攻撃をいなされてつんのめるティベリオに、俊夫は刀を振り下ろす。

「ギャッ!!」

 俊夫の攻撃によって、攻撃をいなされて突き出していたティベリオの左腕が宙を舞う。
 伸によって斬り落とされて、持っている回復薬を全て使ってくっ付けることに成功したというのに、またも同じ個所を斬られたティベリオは、痛みに悲鳴を上げる。

「ハッ!!」

「うぐっ!!」

 俊夫の攻撃はまだ終わっていない。
 ティベリオの左腕を斬りつけると共に体を回転させて、後ろ回し蹴りを放つ。
 それが脇腹に当たり、ティベリオは鈍い音と共に吹き飛ばされた。

「ガッ……ガハッ!!」

 蹴り飛ばされたティベリオは、何とか倒れることなく着地する。
 しかし、左腕と脇腹の痛みで片膝をつくと、口から血を吐きだした。
 回し蹴りによって折れた肋骨が、内臓に傷をつけたのかもしれない。

「グウゥ……、おのれ……」

 魔族にとって人間は食料でしかない。
 そのはずが、今自分は人間によって大ダメージを負っている。
 信じられないと思いながらも吐き出した自分の血を見て、ティベリオは一気に怒りが沸き上がってきた。

「おのれーーー!!」

「っ?」

 憤怒の表情となったティベリオは、大きな声を上げて立ち上がる。
 そして、左半身を前にし、右腕を腹の高さに構えた。
 何かするつもりだと察した俊夫は、警戒して追撃を止める。

「殺す!! 絶対殺す!!」

 構えを取ると同時に、ティベリオの魔力がこれまで以上に一気に膨れ上がる。
 まともに戦っては勝てないうえに左腕の出血がひどいため、回復を計るために少しでも早く俊夫を始末する必要がある。
 そのため、ティベリオは残っている魔力を使って、一撃に賭けることにした。

「すごい魔力だ……」

 一気に膨れ上がると、更にティベリオの魔力はジワジワと大きくなっていく。
 その魔力量はかなりのものだ。
 周囲を囲っている魔闘師が、この魔力のプレッシャーを受けたら立っていられないだろう。
 斯く言う俊夫も、伸によって操られていなかったら腰が引けていたかもしれない。

「ハアァーーー!!」

「なるほど……」

 膨れ上がった魔力が、段々とティベリオの下半身へと集中していく。
 それを見て、ティベリオが何をしたいのか理解した。
 全速力の接近による一撃。
 それをおこなうため、全魔力による身体強化を図るつもりなのだろう。

「ならば、こっちは迎え撃つ!」

 ティベリオの狙いを理解した俊夫は、刀を鞘へと納刀する。
 そして、腰を落として抜刀術の構えを取る。

「死ねーーー!!」

 徹底的に強化したことにより、膨張した脚の筋肉が爆発を生み出した。
 ティベリオが地面を蹴ったことにより、地面が吹き飛んだのだ。
 その爆発によって生み出された加速により、ティベリオは超高速で俊夫へと接近した。


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