主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

第96話


「……来てみたら魔族かよ」

 ホテルのテレビを見て異変を察し、競技場へと駆けつけた伸は思わず呟く。
 柊家の俊夫と鷹藤家の2人が、魔族と睨み合っているではないか。

「しかも2体……」

 1体でも出現すれば危険なはずの魔族が、2体も存在している。
 国を挙げての討伐を考えなければならない状況だ。

「鷹藤家の2人もいるし、どうしよう……」

 そして、対応しているのが俊夫と康義・康則親子だ。
 鷹藤家と因縁ある伸は、この状況をどうするべきか悩む。
 出ていって魔族と戦くのが正解だが、そうなると康義・康則に自分の実力がバレてしまう。
 一応大叔父に当たる康義が自分の存在を知ったら、鷹藤家の人間として利用されるかもしれない。
 そんなのは絶対に嫌なので、伸はこんな状況にもかかわらずどうにかできないかと考え始めた。

「あっ! そうだ……」

 少し考えると、伸はあることが思いついた。
 つまりは、鷹藤家の人間に戦っている所を見られなければいいわけで、自分にはそうする方法を持っていた。

「柊のおやっさんに協力してもらうか……」

 ある方法を思いついた伸は、観客席の影に隠れて行動を開始することにした。





「俺が鷹藤を相手するから、お前は柊を相手しろ」

「えっ!? それずるくねえか?」

 伸のことなど気付かず、ティベリオはカルミネに対して指示を出す。
 しかし、その指示が不服なカルミネは、ティベリオに抗議をする。
 標的である鷹藤と柊。
 どちらかと言うと、鷹藤を殺すことの方がこの国に大打撃を与えることになる。
 危険だったところを助けてもらったとはいえ、上物の獲物を後から来たティベリオにとられるのは気に入らないようだ。

「分かった、分かった。じゃあ、お前が鷹藤でいい」

「おぉ、サンキュ!」

 カルミネの不満そうな態度に、ティベリオは大人な対応をする。
 今回はカルミネの補助役で来た側面もあるし、仲間内で揉めて無駄に時間を消費するのを嫌ったからだ。

「……という訳だ。お前の相手は俺がしてやろう」

「チッ! 舐められてるな……」

 どうやってさっきの攻撃からカルミネを救い出したのか知らないが、戦ってもいないのに舐められるのは気に入らない。
 完全に上から目線のティベリオに、俊夫は思わずイラ立つ。

「そりゃそうだろ? 実力差があるんだから……」

「っっっ!?」

 先程まで目の前にいたティベリオが、いつの間にか背後に回りつつ俊夫の呟きに答える。
 姿がブレたと思った瞬間に、背後へと回ったようだ。
 あまりの速さに反応できなかった俊夫は、目を見開き兵後へと振り返った。

「ほらっ! 来いよ!」

 驚いている俊夫の顔に満足しつつ、ティベリオは挑発するように手招きする。

「このっ!!」

「フッ!」

 その挑発に乗った訳ではないが、俊夫は余裕をかましているうちに叩こうと刀で斬りつける。
 その攻撃を、ティベリオは余裕の態度で回避する。

「遅い遅い……」

「っ!? くっ! 何て速さだ……」

 攻撃を躱しつつ、ティベリオは俊夫の背後、背後へと回り込む。
 懸命に付いて行こうとするが、俊夫の振る刀は空を切るばかり。
 攻撃している俊夫も、当たる気配がないことに焦りを覚える。

「俺は速さが自慢の魔族なんでな……」

「っ!! っ!!」

 慌てる俊夫に、ティベリオは上機嫌な様子だ。
 心なしだが、速度が上がっていっている気がする。
 事実上げているのだろう。
 俊夫は攻撃の手を止めて、追いかけることで精一杯だ。

「そこだっ!!」

「っと! そんな無闇な攻撃が当たるかよっ!」

「っ!!」

 なんとかティベリオの姿を追いかけ、俊夫は先読みをするように突きを繰り出す。
 俊夫の突きを、ティベリオはギリギリのところで躱す。
 そして、そのまま体が流れた俊夫の腕を掴み、一本背負いの要領で上空へと放り投げた。

「いけね。外まで投げちまった……」

 ちょっと焦るような攻撃を繰り出してきたからか、ティベリオは若干力の加減を間違う。
 そのせいで、俊夫は競技場の外にまで飛んで行ってしまった。

「カルミネ! そっちは任せたぞ?」

「了解!」

 高所から落ちたとしても、俊夫がこのまま死ぬとは思えない。
 キチンと始末をつけるために、ティベリオはカルミネに一声かけ、投げ飛ばした俊夫を追いかけて競技場の外へと向かっていった。
 カルミネがティベリオの言葉に返事をした時には、もうその姿は小さくなっていた。

「行っちゃった……」

 返事が聞こえたのかどうかも分からないほどの速さで競技場の外へ行ってしまったティベリオに、カルミネは溜め息交じりに呟く。

「可哀想に、あいつにあっさりやられちゃうんだろうな……」

「父さん……」

 あの移動速度の魔族相手に、たった1人で戦うのは危険すぎる。
 魔族を相手にするというのに、俊夫がやられてしまっては戦力がかなり落ちる。
 そう感じた康則は、父の康義に助けに行くべきかどうか目で問いかける。

「こっちはこいつを放置できない。今は柊殿のことは忘れろ」

「……わかった」

 たしかに追いかけたいところだが、目の前のカルミネがそれを許すはずがない。
 先にカルミネを倒してからでない限り、助けに行くことなんてできない。
 そのため、康義は康則にカルミネとの戦闘に集中するように言った。
 それに対し、康則は少し思案した後頷いた。





「くっ! あの野郎……」

 ティベリオが思った通り、競技場の外に放り投げられた俊夫は、風の魔術を使って無事に着地していた。
 俊夫が豊川と戦っている間に、選手や観客たちは避難していたらしく、周囲に人の姿は見えない。
 代わりに、魔闘組合員がこちらへ向かって来ている。
 皇都の組合員といったら、恐らくは鷹藤家の者だろう。
 援軍としてはありがたいが、魔族を相手にするとなるとちょっとやそっとの数では足りない。
 かと言って、柊家の人間を呼び寄せても、到着するには何時間かかるか分からない。

「ハハッ!」

「くっ! もうきやがったか……」

「やっぱり生きていたか。感心、感心」

 考え事をしている俊夫に向かって、高速で向かってくる者が現れる。
 俊夫を放り投げたティベリオだ。
 元気そうな俊夫を見たティベリオは、嬉しそうに頷いた。

「っと! 援軍が近付いてきているようだな……」

 鷹藤家の援軍らしき者たちが集まってきていることに、ティベリオも気付く。

「さっさと終わらせてもらう!」

「くっ!」

 俊夫たちに比べればたいした強さの者たちではあっても、数が集まれば危険になる可能性がある。
 そうなる前に俊夫を倒そうと、ティベリオはこれまでよりも1段速度を上げた。

“スッ!!”

 俊夫に迫るティベリオ。
 その横から、何かが高速で迫る。

「ぐあぁっ!!」

 ティベリオが気付いた時には、片腕が宙に飛んだ。
 その痛みに、ティベリオが悲鳴を上げて何が起きたのかを確認する。

「君は……」

「どうもっす!」

 ティベリオに怪我を負わせたのは、俊夫のことを密かに追いかけてきた伸だった。


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