主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

第75話

『何やってんだ? あいつら……』

 縄張りを無視して八郷地区に入ってきた鷹藤家の文康たち。
 その文康たちがオーガと戦っている姿をスマホに録画しながら、伸は不思議そうに眺めていた。
 たしかにオーガは危険な魔物だが、プロの魔術師なら戦い方くらい知っているはずだ。
 それなのに、何故か内輪で揉めるようにして全然戦闘になっていない。
 録画に自分の声が入らないように、伸は心の中で感想を述べる。

『文康の奴足手まといじゃねえか?』

 問題の原因は文康だ。
 仲間が止めるようなジェスチャーをしている所を見ると、指示を無視して1人で戦おうとしているよに見える。
 あれでは他の者たちの邪魔にもなりかねない。
 完全なる足手まといだ。

『それに、気のせいか昔からそんなに成長していないな』

 伸が文康を見たのは、中学1年の夏だった気がする。
 鷹藤家の人間が官林地区東の町に来た時、伸は興味本位で見に行った。
 その時、父親である康則の仕事に付いて来た文康をついでに見ることができた。
 当時から天才呼ばわりされて少し有名だったためどれほどのものかと思ったが、たいしたことないというのが印象だった。
 そもそも、当主の康義を基準にしていたからそう言う考えになっていたのだろう。
 同じ年の人間として考えるなら、一番自分に近い力を有していた。
 自分の次の実力というのは今も変わらないだろうが、3年経っても思ったより成長しているように思えない。
 成長速度で言えば、同じ学園に通う柊家の綾愛の方が速いかもしれない。

『ライバルがいないから天狗にでもなったか?』

 祖父や父という身近に目標とすべき人間がいるが、同年代にライバルがいないと成長も鈍るものだ。
 伸も小学生の時に同じようなことを感じた時期がある。
 とは言っても、伸の場合はすぐに祖父母に正されたので天狗の時期はごくわずかだが。

『まぁ、ヤバくなったら入ればいいか……』

 オーガ相手にモタモタしているが、さすがにプロの魔術師が付いているのに負けるなんてことはないだろう。
 最悪の場合は助けに入れば良いと思いつつ、伸はそのまま文康たちの戦いを眺めることにした。





「オーガの攻撃は強力です。食らえば一撃で骨が折れること間違いないでしょう」

 鷹藤家当主の孫を叩いてしまったのだから、首になる可能性もあったが、みすみす目の前で大怪我を負われるよりかはいいため、横山としては一安心した。
 文康が落ち着いたことを見て、ようやくオーガ退治の方法を説明ができる。

「しかし、オーガの動き自体は遅い。そこで周囲を囲んでの魔術攻撃で弱らせていくのが最も安全な仕留めかたです」

「なるほど……」

 オーガくらいは自分一人で倒せると思っていたが、頭に血が上った状態で戦っていたら、大怪我を負っていただろう。
 そう考えると、力尽くで止めてもらえてよかったかもしれない。
 まだ自分の実力は祖父どころか父にも届いていない。
 それが分かっただけでも、今回魔物の討伐に参加して良かったかもしれない。

「では、行こう!」

「「「おう!」」」

 オーガ討伐法を受け、文康の合図と共に4人は木の陰から飛び出す。
 そして、そのままオーガへと迫っていった。

「ガゥ!?」

 見失っていた文康たちが姿を現したことに、オーガはすぐに気付く。
 そして、自分目掛けて突っ込んでくるような4人の動きに合わせ、武器替わりに手に持つ竹を頭の上へと振り上げた。

「散開!」

「ガッ?」

 武器による攻撃をしてくることを察知した横山が、他の仲間に対して指示を出す。
 その指示に従うように、4人は一斉に四方へとバラけた。
 それを見て、オーガは攻撃の狙いを絞れなくなりキョロキョロと目を動かす。

「本当だ。頭が悪いみたいだな」

 オーガの反応を見て、文康は納得したように呟く。
 先程の説明で、オーガの知能が低いということを受けていた。
 学校でも魔物の生態を学ぶ授業があるが、頭に血が上っていたということもあって、抜け落ちていたようだ。

「よし! オーガの反応を見て、攻撃をおこなってください」

「分かった」

 散らばった4人は、オーガの四方を囲むような立ち位置へとなった。
 その様子を確認した横山から、攻撃開始の合図がされる。
 それにより、文康たちはオーガが自分に意識を向けるようにと魔術攻撃を開始したのだった。

「ガッ!!」

 何発目かの魔術攻撃を受け、オーガは短く悲鳴を上げる。
 文康が魔術による火球を当てれば、反対に位置する横山が火球の攻撃をする。
 その後に高木が攻撃し、高木に意識が向いたのを確認したら小川が攻撃を開始する。
 頭が悪いため、オーガはどれか1人に攻撃を集中するということをしない。
 そのため、攻撃してきた相手に向かって視線や体を向けることしかできずにいた。
 それが何度も続き、体の至る所に火傷を負ったオーガは、みるみる動きが鈍くなっていった。

「グウゥ……」

 特に足に攻撃を受けていたオーガは、苦悶の表情になり、とうとう膝をついた。

「今だ!」

「「「おうっ!」」」

 膝をついたことで、オーガはその場から動けなくなった。
 それを見て高木から合図が送られる。
 その合図を受けた他の3人は、これまでバラバラだった攻撃を、今度は一斉攻撃をするように戦い方を変えた。

「グッ! ガッ! グウゥ……」

 顔面に向けての魔術の集中砲火に、オーガは手でガードしながら小さく呻き声を上げる。
 両腕でなんとか防ぐも、その腕もどんどん火傷を負っていくばかりだからだ。

「ガゥッ!!」

「止めだ!!」

 確実に弱くなっていくオーガ、とうとう両腕も使い物にならなくなり、防御に使うことができなくなった。
 それを見逃すことなく、文康は魔術攻撃で仕留めにかかった。
 風属性である風刃の魔術だ。

「ガアァー……!!」

 無数に放たれた風神は、がら空きになったオーガの首目掛けて飛んで行く。
 その魔術がオーガの首の動脈を斬り裂き、大量の血が噴き出した。
 首を斬られたオーガは呻き声を上げるが、出血量と共に弱くなり、とうとう前のめりに倒れ伏した。

「やったか?」

「お待ちください! 若!」

「んっ? 何でだ?」

 オーガが倒れて動かなくなったため、文康は死んだことを確認するために近付こうとする。
 それを横山が制止する。
 その制止の理由が分からないが、文康はとりあえず言われた通りに足を止めて答えを求めた。

「魔物の中には死んだふりをするものがおります。きちんと探知で確認してから近付いて下さい」

「わ、分かった」

 制止を聞かずに近付き、もしも死んだふりなんてされていたらひとたまりもなかったかもしれない。
 そのことを考えると、文康は顔を少し歪めた。

「大丈夫そうだな。今のうちにこの死体を八郷地区から官林地区へと運んでしまおう」

「そうですね……」

 この場所は八郷地区内。
 もしも八郷地区の者に気付かれれば、鷹藤家が縄張りを荒らしたと言われること間違いない。
 そのため、文康は当初の予定通り、官林地区に入ったオーガを倒したということにした。
 文康の指示に従い、横山たちはオーガの死体を魔法の指輪に収納し、まき散ったオーガの血液は土魔術で隠ぺいしてその場から去っていった。

「はい。終了っと」

 文康たちがそのまま官林地区へといなくなった所までを録画した伸は、今後鷹藤家が受けるであろうバッシングを楽しみにしながら、すぐさまその映像データを柊家の当主である俊夫へと送信したのだった。


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