主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

第72話

「何で俺はこんなことしてるんだ?」

 目の前にいたムカデの魔物を倒しつつ、伸は思わず独り言を呟く。
 朝、寮の前に来た柊家の車に乗った了を見送った後、伸は転移で柊家へと転移した。
 用件を聞き忘れていたというのもあって、何をするのか疑問に思っていたところ、八郷地区西の山の魔物退治の仕事を手伝わされることになった。
 以前モグラの魔族と戦った山の南にある山の魔物退治だ。
 魔物はいつ出るか分からないため、伸はいつでも対応できる準備をしている。
 とはいえ、何も聞かされていなかったからか、その独り言も少し愚痴のようになっている。

「金井君の件を受ける代わりに仕事をしてもらおうって事なんじゃない?」

「人使いが荒いな」

 友達でもあるし、対抗戦に出ることになっている了が魔物退治で何か強くなるきっかけでも掴めれば良いとは思って、柊家の仕事に参加できるようにしてほしいとは頼んだが、その見返りに魔物退治をさせられるとは思ってもいなかった。
 頼んだのはたしかなので、伸は仕方がないと諦めるしかなかった。

「柊たちも一緒なのは何でだ?」

 先程も伸の言葉にツッコミを入れていたが、今回の魔物退治にも綾愛と奈津希が伸の補助役として付けられた。
 突然仕事をさせられたとは言っても別にサボるつもりはないので、自分は単独で動いても問題ない。
 むしろ、単独の方が仕事は早く済むかもしれない。
 当主婦人の静奈に有無を言わさないような圧力を受け、伸は綾愛たちを連れていくになった。
 だが、ここの魔物は了が向かった場所よりも魔物の脅威度が高い場所だ。
 綾愛たちが強いと言っても、所詮は高校生としてのため、連れて歩くのは少し危険な気がする。

「私たちも金井君と同じ理由よ」

「強くなるために少しでも経験を積ませようって考えみたい」

 奈津希、綾愛の順で伸の疑問に返答する。
 了と同じく、対抗戦に出ることになっている綾愛。
 平日は学園近くにある柊家の道場で訓練している。
 相手が柊家が抱えるプロの魔術師たちのため、剣技と魔術の実力は順調に伸びている。
 綾愛の場合、卒業すれば柊家に入ることが決定しているので、対抗戦で成績を残す必要はない。
 だからといって、最近の柊家の評判を考えるとあっさり負けるわけにはいかない。
 奈津希は、今回の選考会で準決勝で綾愛と対戦することになってしまった。
 そのため、出場できないのは運がなかっただけで、実力は了と比較しても差がある訳でもない。
 彼女も綾愛と共に訓練しているので、しっかりと実力を付けている。
 このままいけば、来年の対抗戦に出場できるだけの実力になっているはずだ。
 2人とも了と同様 少しでも強くなるきっかけを掴むために、今回も伸についてきているようだ。
 
「なら、了の方に行った方が良かったんじゃないか?」

「お母さんの指示だから」

「……あっそ」

 何度か一緒に仕事をしたためか、2人は魔物退治にも慣れてきている。
 とは言っても、ここの魔物はこれまで相手にしていたのよりも上のランクの魔物が多い。
 急いで上を目指すより、これまで通り弱い魔物を相手にして地道に訓練を重ねていった方が良いように思える。
 しかし、戦闘力があっても母親特有の圧力というものに慣れていないせいか、静奈の考えだといわれると伸もあまり文句が言えず、仕事の魔物退治を再開することにした。





「ハッ!」

「セイッ!」

 綾愛と奈津希が協力して魔物を倒す。
 伸が相手を選んで戦わせているため、魔物退治の仕事は順調に進んでいた。
 しかし、伸には気になることがあった。

「……気のせいかもしれないが、何だか魔物多くないか?」

「そう言われると……」

「そうかも……」

 魔物退治は昼から始めたのだが、時間が経過するごとに魔物が多くなっているような気がする。
 綾愛たちも言われて気付いたらしく、3人はなんとなく無言になってしまう。

「何だか嫌な予感がしてきたな。山奥だからってここまで多いと、魔素溜まりでもあるんじゃないかと思えて来る」

「ちょっと、変なこと言わないでよ」

「フラグみたいじゃない」

 嫌な間が空いてしまったため、伸は少し場を和ませようと軽い口調で話す。
 しかし、冗談にしては今言うような内容ではないため、2人は伸へと強めにツッコミを入れてきた。
 魔素だまりとは、その名の通り、魔素が溜まっている場所のことだ。
 この世界には、魔素と呼ばれる物質が空気中に飛散している。
 人間はその魔素を体内に取り込み、魔術を使う時のエネルギーとなる魔力に変換している。
 そして、魔物はその魔素が集合したことで出来た生物といわれているが、実際の所は分かっていない。
 しかし、魔素の多いところには多くの魔物が集まるというというのは分かっているため、あながち外れでもないように思われている。
 厄介なのは、その魔素が多いところには数だけでなく強力な魔物も存在していることが多いことだ。
“ズンッ!”

「「「…………」」」

 冗談とは言えそんな事を言っていると、本当に大量の魔物か強い魔物が出現してきそうだと思っていたら、離れた所で大きな物音がする。
 嫌な予感がした3人は、無言で顔を見合う。

「マジか……?」

 冗談のつもりでいたのだが、もしかしたら冗談ではないかもしれなくなった。
 先程の音が何によるものなのかを確認するため、伸は探知魔術の範囲を広げた。

「っ!? オーガ!?」

 伸が広げた探知に引っかかったのは、オーガと呼ばれる3m以上ある巨大な鬼の魔物だった。
 1体でもかなり危険な魔物で、放って置いたら大惨事になってしまう。
 その魔物が、木を削って作ったような巨大な棍棒で猪の魔物を叩き潰していた。

「オーガは2人には荷が重い。無線で連絡を取って他の人と合流した方が良い」

「分かった!」「了解!」

 オーガなんて数人の魔術師が準備をして挑むような相手だ。
 高校生の綾愛と奈津希では、相手にするのは危険すぎる。
 そのため、他の場所で魔物のたいじをしている柊家の人に連絡して、避難するように指示を出す。
 その指示を受けた2人は、すぐさま無線を使って連絡を取り始めた。

「新田君は?」

「俺はあいつを仕留めてくる」

 無線で他の者と連絡を取った綾愛は、避難しようとした。
 しかし、そうしようとしない伸に問いかける。
 すると、その問いに対し、伸はオーガ討伐に向かうことを告げた。

「……分かったわ!」

 一瞬止めようと綾愛は思ったが、魔族を倒した経験のある伸がオーガごときにミスを犯すとは思えなかったためやめた。

「気を付けて!」

「あぁ!」

 それよりも、被害が出る前に倒してもらおうと、伸にすぐさま向かってもらうことにした。
 綾愛の後押しを受けて伸は、すぐさまその場から移動を開始したのだった。


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