主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

第49話

「予定通りだな……」


 前期末試験も終了し、テストが返却されることになった。
 そのテスト結果に、伸は密かに呟く。
 目立たないように平均点より少し上の点数を狙っていたが、狙い通りの点数を取ることができた。
 当然ながら赤点もなく、後は夏休みを待つだけだ。


「うげっ!」「くっ!」「うっ!」


 いつもの了・石・吉の3人は、返却されたテストの点数におかしな声をあげている。
 その表情を見る限り、あまりいい点数がとれなかったようだ。


「……赤点でもあったのか?」


「いや、ギリギリなかったけど、この点数だと対抗戦のメンバー入りは無理かも……」


「お前入る気だったのか?」


「そりゃ、誰でも出てみたいと思うだろ?」


 3人の中でも一番学力的には心配だったのは了に問いかけると、意外な答えが返ってきた。
 了はたしかに戦闘技術に関してはかなりのものがあるが、身体強化の魔術による接近戦しかない。
 距離を取られての戦いになった時、近付けなければ敗北は必至。
 学園対抗戦となると高校生ではトップの集まりのため、接近戦だけで勝利しようなんてかなり難しいだろう。
 勝てても1、2回戦程度、それから先だとほぼ無理といっていいだろう。
 本人もそのことが分かっているので、対抗戦に参加したいと思っているとは気づかなかった。
 しかし、言われてみれば、あの大会に出られるだけでも実力があると認められているようなものなので、チャンスがあるなら出たいと思うのが普通だ。
 全く出る気のない伸の方が、ある意味特別と言った方が正しいかもしれない。


「終わったことはいいとして、伸は夏休みはどうするんだ?」


 昼休みにいつもの3人と学食で昼食をとった後、伸は了から問いかけられた。
 2学期制を導入している学園では、8月の初めから9月の終わりまでの2ヵ月間が夏休みで、前期試験も終了した今、後は夏休みを待つばかりだ。
 テストから解放されたことにより、3人はその長期間に何をするのか楽しみで仕方がないというような表情だ。


「実家には掃除に行くくらいで、後はバイトでもするかな……」


 伸は両親も祖父母も亡くなっているため、実家に帰っても寮にいるのと変わりがない。
 転移の魔術がある伸は、休みの日に時折荒らされていないか確認に行っているため、別に行く意味がないため、バイトをして過ごすくらいしかない。


「3人は?」


「俺は実家で過ごすのと、剣道部の合宿があるだけだな」


「俺はサバゲ―だな」


「俺は射撃場通いだな」


 伸が聞き返してみると、どうやら3人には予定があるらしい。
 了は右菅うすが州の出身で、実家は剣術道場をおこなっているそうだ。
 実家での訓練に加え、剣道部の合宿をする事が決まっているようで、剣の訓練漬けの毎日といったところだ。
 魔術の連射が得意な石塚は、入っているチームでサバゲ―三昧。
 遠距離からの射撃が得意な吉井は、射撃場で訓練をするつもりらしい。
 3人とも、問題児っぽいにもかかわらず、実力アップを目指して真面目に過ごすつもりのようだ。


「バイトの当てはあるのか?」


「知り合いに頼んであるけど、学生なら回復薬の作成か、魔物の解体かな……」


「解体ってキツッ!」


「でも、まあまあいい金額だからな……」


 バイトの内容を聞かれて、伸は思い付きで答える。
 魔術師の見習いができるバイトなんて、回復薬の作成か魔物の解体作業くらいだろう。
 その発言に石塚は顔をしかめる。
 倒された魔物は、魔石だけでなく毛皮や肉など色々と利用価値がある。
 しかし、魔物の解体は結構手間がかかるため、バイトが良く募集されている。
 力仕事な上に血を見る作業のため、人気はあまりない。
 きついからこそ吉井の言うように賃金が良く、稼ぎたい人間にとってはいいバイトだろう。
 だが、伸のバイトはこの2つとは違う。










「えっ? 柊家の仕事?」


「あぁ……」


 実は先日綾愛と料亭で会った時も、夏休みの話になったので聞いておいたのだ。
 魔物の討伐をするのが一番稼げるのに、伸は学生なので参加できない。
 しかし、柊家なら伸の強さを知っているため、魔物討伐に参加させてもらえるはずだ。
 昔なら、花紡州にある魔闘組合支部長の紅林に頼んでいたことを、今度は柊家に代わってもらうということだ。


「バイトって、あなたには魔人討伐の報酬もかなり出したはずだけど?」


 今回出た魔人の討伐によって柊家の評判はうなぎのぼりになったが、それはほぼ伸による成果と言っていい。
 そのため、倒した魔人や魔物によって柊家が得られた資金の多くを伸へと支払った。
 それだけあれば、バイトなんてしなくても十分なはずだ。


「あの金は、実家が古いから家を建て直す資金にしようと思ってる。だからそれ以外の資金を得ようと思って……」


「……そう」


 伸の実家は、田舎の山奥に祖父が建てたものでかなり古い。
 卒業後に実家へ戻るかは決まっていないが、もしも帰るなら立て直そうと思っている。
 その時のために、もらった金額は貯金しておくつもりだ。
 伸の家庭のことを少しは聞いているのか、誰も住んでいないことを知っているのだろう。
 なんとなく綾愛の反応が重い。


「たぶんいくらでもあると思うけれど、父に聞いてみるわ」


 魔物はどこにでも発生する。
 そのため、魔物を退治する仕事は探せばいくらでもあるだろう。
 柊家ともなると大口の案件が多いため、伸に参加してもらえるなら助かる所だろう。
 父の俊夫も了承すると思った綾愛は、すぐにその場で連絡を取った。


「……オッケーが出たわ。後で仕事の内容を送ってくれるそうよ」


「速いな……」


 綾愛が俊夫に連絡を入れて少しすると、すぐに答えが返ってきた。
 まるで待っていたかのように了承を得られて、伸としても少し驚いた。


「しかも、私と奈津希も参加するように言われたわ……」


「えっ? 私も?」


 その伸の魔物討伐に、綾愛と柊家の従者の家系である杉山奈津希も参加することになったらしい。
 自分もそのうち魔物討伐に参加することになるとは思っていたが、いきなりの提案に奈津希は驚く。


「なるほど、2人を鍛えてくれって事か……」


「そうみたいね」


 綾愛の魔物討伐に参加したが、魔人が出るという災難に遭ってしまった。
 しかし、これは稀有なことでしかない。
 今度はそんなことになるとは思えないので、また伸に任せることにしたのだろう。


「まぁ、別にいいか……」


 今回は杉山も一緒のようだが、別にそれ程変わることはないだろうと思い、伸はその提案を受け入れることにした。





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