主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

第48話


「あっ! まただ……」

 逃走した魔人と、それを援護した魔人。
 兄弟の魔人が出現したが、それが討伐された。
 その報告を受けて、報道陣が大騒ぎした。
 討伐翌日の各紙の朝刊は、柊家の名前で溢れかえっていた。
 昼休みの時間、学食に置かれたテレビでは朝刊の一面を取り上げて、コメンテーターたちが色々と話し合っていた。
 取り上げているのは、当然のように魔人の討伐。
 そして、それを成した柊家への賛辞ばかりだった。
 どのチャンネルも、朝から同じような内容を繰り返している。
 八郷地区の者としたら、柊家は代表といってもいい。
 その柊家が褒められ続けていることに、同郷なだけで関係ないとは言っても嬉しいせいか、学園内の雰囲気は明るい。
 また同じようなニュースだが、それが流れたのを見て伸の友人の了は嬉しそうに指差した。

「スゲエよな……」

「前回に続いてだもんな……」

 いつものように一緒にいる石塚と吉井も了と同じような心境なのか、笑顔で感心したように呟く。
 突如現れた魔人を捕まえたと言うだけでもすごかったのに、逃げた魔人と新たに現れた魔人までも倒してしまったのだから、魔術師を目指す者として尊敬に値する成果だ。
 特にこの3人は、伸と共に学園に出た巨大モグラと戦ってやられた口だ。
 配下の魔物も倒せないような自分たちからすると、その上にいる魔人と戦うなんてとてもできない。
 それゆえに、他の生徒以上に魔人を倒した柊家の凄さを感じているのだろう。

「ってか、鷹藤も動いてたって話だよな?」

「そうらしいな……」

 了に話しかけられ、伸は無難に返す。
 ニュースではあまり報道されていないが、鷹藤家も今回討伐に参加したとされている。
 柊家との話し合いによって、鷹藤は協力をしたという形に収めることになった。
 というのも、魔人2体を当主の俊夫のみで倒したというのは、どんなに隠そうとしても隠しきれない。
 そのため、魔人討伐をした人間の追及をしない代わりに、鷹藤家と協力して魔人の討伐を果たしたということにしたのだ。
 これなら鷹藤から伸の追及をされずに済むし、鷹藤としては一族総出の出動が無駄骨だったという恥を広めなくて済む。
 しかも、早期発見・討伐を急ぐあまり、調査不足をした尻拭いをしてもらった形になるのだから断る訳もなく、鷹藤家は柊家の要望を受け入れることになった。
 俊夫からの連絡を受け、伸も了承している。
 どうやら、思た通り鷹藤の恥のことは広まっていないようなので、伸は密かに安心した。





「おっす!」

「どうも!」

 いつものように、放課後伸は柊綾愛に料亭へ呼び出された。
 仲居さんの案内で通された部屋には、柊家に使える杉山奈津希と共に綾愛が待っていた。
 先に到着していた様子に、伸は軽い挨拶をして対面に座った。

「昨日はどうもありがとうございました。当主俊夫共々お礼申し上げます」

「……いや、そう言うの良いから……」

 伸が座って早々、綾愛は感謝の言葉と共に深く頭を下げてきた。
 奈津希もそれに合わせて頭を下げる。
 彼女たちは、俊夫から事前に伸が魔人討伐に参加するという報告を受けていた。
 俊夫も魔人を1体倒したが、より強力な方の魔人は伸が倒したため、被害を抑えた伸に感謝を述べたいと思ったらしい。
 しかし、何だかものすごく重い空気に、伸は居心地が悪く感じてそれ以上の感謝の言葉を断った。

「感謝なら、ここで好きなだけ食わせてもらったら構わないよ」

「……分かったわ」

 ここ料亭は、政治家や企業の社長などが使うかなりの高級店だ。
 田舎育ちの高校生が、足を踏み入れるような店ではない。
 柊家の縁が深い店ということで、伸は入れてもらっているのだ。
 高級店だけに味も一流。
 コースを頂いた金額は、とても伸が払える額ではない。
 それを毎回食べさせてもらっているので、感謝というなら今日も頂きたいというのが伸の本音だ。
 料理だけで魔人討伐なんて、そっちの方が大盤振る舞いだ。
 しかし、それでいいならと、綾愛は神妙な態度をやめて、いつもの口調に戻したのだった。

「そう言えば、もうテストが始まるけれど大丈夫なの? まぁ、魔人を倒すような人に聞くのもどうかと思うけど……」

 コースを頼んだ伸だけでなく、綾愛と奈津希も一緒に軽めの食事をした。
 寮の食事も美味いが、せっかくだから食べてから寮に帰ろうということになったのだ。
 食事も終わって一息つくと、綾愛は伸の学力のことが気になった。
 何やら身分を隠す必要があるというため、伸は入試で手を抜いた。
 魔人を倒せるほどの実力なのだから、本気を見せれば主席入学は伸だったかもしれない。
 そんな伸なら大丈夫だとは思うが、もうすぐ始まる前期終了テストのことが気になった。

「了と違って脳筋じゃないから大丈夫。問題なのは、平均点がどれくらいなのかが調整できない所だな」

 頭が良くても魔術師として一流とは限らないが、一流の魔術師は馬鹿ではなれない。
 身体強化一本槍で年齢の割には強い了は、特別な例と言っていいだろう。
 魔術を理解していないで行使するのは、暴発を招いたりと術者にとっても危険だからだ。
 伸は貴重な転移魔術を使いこなすと共に、魔人を倒す威力の魔術を平気で使いこなしている。
 亡くなった祖母に教え込まれたのもあり、筆記のテストでも高得点を出す自信があるが、鷹藤家に目をつけられないように、平均点より少し上を取る程度に収めるつもりだ。

「……それでいいの?」

「どういう意味だ?」

「あなたほどの実力があるのなら、綾愛ちゃんに代わって学年主席も取れるだろうし、学園対抗戦にも参加……、いえ、優勝もできるのに……」

 綾愛との会話に、奈津希が入ってきた。
 この2人は鷹藤との関係を教えていないため、何で実力を隠しているのか分からない。
 分からないからこそ、もったいないと思っているのかもしれない。
 学園対抗戦とは、8つの地区にある国立魔術師学園の成績優秀な人間を集め、トーナメント方式で実力を競い合う大会のことだ。
 どこの学園も1学年が2名、2、3学年は3名ずつの計8名が選ばれる。
 恐らく、八郷学園なら綾愛と誰かが選ばれることだろう。

「よほどのことがない限り優勝ならできるだろうな」

「だったら……」

「でも出場するつもりはない。アマの戦いにプロが出てもつまらないだろ?」

「……まあ、そうね……」

 魔人を倒すような人間が参加したら、よほどのことがない限り優勝するに決まっている。
 学園対抗戦は高校生魔術師の品評会的な側面もあり、そこで上位に行けば名門家からのお呼びがかかるかもしれない。
 プロの魔術師を目指すなら、是非とも参加したい大会だろう。
 しかし、伸はもう柊家と協力関係にあるため、ある意味プロの伸がわざわざ出る意味がない。
 そう言われると奈津希も言い返すこともできなくなり、黙ってしまった。

「今年は八郷の人間が上位に行けるかもしれないと思っていたのだけど……」

 対抗戦において、八郷学園は毎回上位に行く選手が出ていない。
 時折出たとしても、柊家の関係者くらいのものだ。
 去年もベスト16に入った選手が1人いただけで、それ以外は1、2回戦で敗退した。
 しかし、今年は綾愛がいるし、伸という規格外がいる。
 八郷学園の名を上げるチャンスだと思っていたが、伸が出ないのでは綾愛が頑張るしかない。

「しかも、今年は……」

「鷹藤家の文康か……」

「えぇ……」

 今年は官林地区の魔術師学園に鷹藤家の神童が入学しているため、代表として出場するのは間違いない。
 その実力から、1年でありながら優勝候補だ。
 彼を2、3年生が止められるかが関係者の見たいところだろう。
 文康と比べれば綾愛の存在は霞んでしまう。

「……まぁ、がんばってくれ」

 聞いた話だと、文康は今回の魔人討伐に参戦したらしい。
 つまりは、最低でも巨大モグラと戦える実力がるということだ。
 学園で戦った時、伸に止められたとは言っても、綾愛が巨大モグラに勝てるか微妙だ。
 現状では文康の方が上だということだろう。
 伸としては、鷹藤家といっても文康のことは眼中にないので、他人事のように綾愛を励ますだけにとどめたのだった。


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