主人公は高みの見物していたい
第43話
「「っ!?」」
離れた場所で戦う柊家当主の俊夫が、兄の魔人に放った火球で大ダメージを与えた爆発音。
それが弟の魔人とその配下の魔物たちと戦闘をしていた伸の耳へも届き、爆発音がした方向へと視線を向けた。
伸の目には、足にかなりの怪我を負っているものの他は平気そうな俊夫が映り安堵する。
「あっちは終わりのようだな?」
「…………」
大きな爆発と共に巻き上がった煙。
その煙が消えて兄の方の魔人が倒れたのを見て、伸は弟の魔人へ問いかける。
俊夫を先に倒し、その後兄弟で伸と戦う予定をしていたのだろうが、これでそれも出来なくなった。
魔物を使った連携をとった攻撃をしてきているが、時間稼ぎにしかならないその戦い方がもう通用しないのはこの魔人も分かっているはずだ。
何を考えているのか、魔人は無言で倒れた兄の魔人を眺めている。
「……行けっ!!」
「「「「「ギュッ!!」」」」」
「っ!? 何を……」
止めを刺すために立ち上がった俊夫を見て、こちらにいた魔人は配下の魔物を伸へと差し向ける。
魔人の指示に従い、配下の魔物たちは一斉に伸へと襲い掛かった。
これまで同様の攻撃かと思ったのだが、魔人は配下の魔物を差し向けておきながら伸とは別の方向へと走り出した。
「まさか!? 狙いは柊殿か……」
戦っていた魔人が向かったのは、俊夫が戦っている方向。
もしかしたら、兄をやられた敵を討つために、俊夫を始末しに行ったのかもしれない。
そう思った伸は、襲い掛かってきた魔物を斬り殺して、すぐに魔人の後を追いかけた。
「グゥ……、オノ…レ……」
「しぶとい奴め……」
大量の魔力を込められた火球魔術の直撃で、大ダメージを受けたのにもかかわらず息があるだけとんでもない生命力だ。
しかも、気を失う訳でもなく、うめき声を上げているのもたいしたものだ。
そのしぶとさに脅威を覚えつつも、鞘に納めた刀を杖にして怪我をしている足を庇いながら、俊夫はゆっくりと魔人へと歩み寄った。
「っ!? くっ!」
止めを刺しに向かっていた俊夫だが、伸と戦っていたはずの魔人がこちらへ向かって来るのを確認してその足を止めた。
伸もその後を追いかけているのも見え、やられた訳ではないと分かるが、狙いが自分かもしれないと思った俊夫は、その場で刀を抜いて伸が追い付くまで攻撃を受けないようにと身構えた。
“バッ!!”
「っ!?」
「柊殿っ!!」
こちらに向かって来ていた魔人だったが、倒れていた魔人を抱きかかえると俊夫から距離を取る。
魔人の狙いが瀕死の兄を助けに来たのだと分かり、安堵した俊夫の下へ伸が駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ……」
気遣うように問いかける伸に、俊夫は平静を保つように返事をする。
足の怪我は平気じゃなさそうだが、とりあえず命に別状はなさそうだ。
しかし、さっきの火球魔術で結構な魔力を使用したため、戦える魔力も残り少なく見える。
「…………」
「助…かった…ぞ……」
「兄を連れて逃げる気か!? そうはさせないぞ!!」
兄の魔人を抱えて、伸たちを無言で睨みつめる弟の魔人。
自分を助けに来てくれたと分かり、重症の魔人は途切れながらも喜びの声をあげる。
モグラの魔人らしく地下へと逃れる可能性もあるが、怪我している魔人を連れて逃げられるようなことはあり得ない。
これまでの戦いから、もしかしたらまたどこかへ逃げる気なのかと思った伸は、刀を向けて魔人へと問いかけた。
“ニッ!”
「な、何…を……!? グ、グアァーーッ!!」
「「なっ!?」」
伸の言葉を受けた魔人は、何故か笑みを浮かべて瀕死の兄を見つめると、武器となる爪で胸のあたりを抉った。
弟に攻撃をされ、瀕死の魔人は強烈な痛みに断末魔の声をあげた。
突然のことに、伸と俊夫は目を見開く。
それもそのはずで、あの魔人の目的が何なのか分からないからだ。
「仲間を……」
「しかも、兄を……」
2体の魔人は、同じモグラで、しかも兄弟だという話だったはずだ。
それなのに躊躇なく殺した弟の魔人に、伸と俊夫は小さく呟き言葉を失った。
「フフッ! あんたはもう少し頭を使うべきだったな……」
兄の亡骸を蹴り飛ばし、弟の魔人は小さく呟く。
その右手には、兄の魔人の体内からとしだした魔石のようなものが握られていた。
“バリッ! ボリッ! ゴクッ!!”
「「っ!!」」
「っ!! ……ハハッ!! やっぱり!!」
わざわざ兄を殺して何をするのかと思ったら、魔人は取り出した魔石を食べ始めた。
そして、その魔石を飲み込むと、魔人に変化が起きる。
先程までスマートであった魔人筋肉が、兄のように急激に膨れ上がったのだ。
この急激な変化を予想していたかのように、魔人は笑い声を上げた。
「魔力もこれまで以上に膨れ上がっている……」
見た目に分かるように筋肉が膨れ上がったが、それだけではない。
内包する魔力にも変化が起きていた。
それに気付いた俊夫は、その魔力に当てられたのか冷や汗を掻きつつ呟いた。
「これが狙いだったのか……?」
「その通りだ!」
魔人の急激なパワーアップに、伸はこれまで感じていた違和感の答えがようやくつながった。
これまでのおかしな戦い方は、こうなるための時間稼ぎだったようだ。
それを確認するように問いかけると、魔人は笑みを浮かべながら頷きを返した。
「パワーアップするなら、わざわざ医者を攫って腕を治す必要なかったんじゃないか?」
モグラの魔人の彼らにとっての最大の武器は爪。
護送車から救出した時、兄の魔人の方は伸によって両腕が切断されていた状態だった。
その時なら造作もなく殺せたはずだ。
なのに、今さら兄を殺した理由が理解できない。
「それではお前が呼び寄せられないだろ?」
「……俺だと?」
もっともなことを指摘された魔人は、伸を指差して答えを返す。
指差された意味が理解できず、伸は首を傾げるしかない。
「このパワーアップした状態がどれほどのものか、兄を圧倒したお前で確認したかったんだよ!」
八郷地区の東と西に分かれて、数人の人間を食料として手に入れている時、自分はどうすれば能力を上げることができるのかを考えていた。
そして、一気に能力を上げる方法に思い至った。
それが兄の魔石を体内に取り込むことだった。
能力アップの方法を導き出した時、兄は人間によって捕えられたということを知った。
まさかと思ったが、八郷地区の人間はその情報で持ち切りだった。
脳筋の兄がヘマをしたのだろうと助け出してみると、1人の人間にやられたという。
しかも、それが若い人間だと知り、その実力に興味を持った。
人間と同様に、兄弟と言うだけで自分に何の警戒をしていない兄を殺すことは容易だったが、逃亡した兄を探しにその若い人間が姿を現すと考えていた。
兄とは違い、自分は人間擬態して人間ついての情報をなるべく手に入れるようにしていた。
集めた情報により、人間にも縄張りのようなものがあると理解し、それを利用することにした。
兄を捕まえた者をここへおびき寄せるために、兄を生かしておいたのだ。
「……結局は自己満足か」
「そう言われればそうだな」
自分をおびき寄せてパワーアップの確認相手としたのは、完全にこの魔人の考えでしかない。
そのために兄ですら平気で利用するこの魔人に、伸は若干不快に感じた。
伸の指摘を受けても、魔人は特に悪びれもなく返答した。
「柊殿。少し避難をしてください」
「……分かった」
パワーアップした魔人に、足を怪我をしていなくても恐らくは勝てないと、俊夫はすぐに敗北を覚悟した。
この場にいてはただの足手まといにしかならないと理解した俊夫は、すぐに伸の言葉に頷いた。
「……勝てるか?」
「やってみないと分からないですね……」
これまでの魔人だったら、余裕で倒せる自信はあった。
しかし、パワーアップした状態の魔人の強さは未知数。
俊夫の去り際に問いに、伸は曖昧に返答することしかできなかった。
「……死ぬなよ!」
「頑張ります!」
伸の返答に表情を曇らせた俊夫は、せめてもの激励として呟き、その場から退避を開始した。
その激励を受けた伸は、返答と共に気合を入れて刀を構えた。
離れた場所で戦う柊家当主の俊夫が、兄の魔人に放った火球で大ダメージを与えた爆発音。
それが弟の魔人とその配下の魔物たちと戦闘をしていた伸の耳へも届き、爆発音がした方向へと視線を向けた。
伸の目には、足にかなりの怪我を負っているものの他は平気そうな俊夫が映り安堵する。
「あっちは終わりのようだな?」
「…………」
大きな爆発と共に巻き上がった煙。
その煙が消えて兄の方の魔人が倒れたのを見て、伸は弟の魔人へ問いかける。
俊夫を先に倒し、その後兄弟で伸と戦う予定をしていたのだろうが、これでそれも出来なくなった。
魔物を使った連携をとった攻撃をしてきているが、時間稼ぎにしかならないその戦い方がもう通用しないのはこの魔人も分かっているはずだ。
何を考えているのか、魔人は無言で倒れた兄の魔人を眺めている。
「……行けっ!!」
「「「「「ギュッ!!」」」」」
「っ!? 何を……」
止めを刺すために立ち上がった俊夫を見て、こちらにいた魔人は配下の魔物を伸へと差し向ける。
魔人の指示に従い、配下の魔物たちは一斉に伸へと襲い掛かった。
これまで同様の攻撃かと思ったのだが、魔人は配下の魔物を差し向けておきながら伸とは別の方向へと走り出した。
「まさか!? 狙いは柊殿か……」
戦っていた魔人が向かったのは、俊夫が戦っている方向。
もしかしたら、兄をやられた敵を討つために、俊夫を始末しに行ったのかもしれない。
そう思った伸は、襲い掛かってきた魔物を斬り殺して、すぐに魔人の後を追いかけた。
「グゥ……、オノ…レ……」
「しぶとい奴め……」
大量の魔力を込められた火球魔術の直撃で、大ダメージを受けたのにもかかわらず息があるだけとんでもない生命力だ。
しかも、気を失う訳でもなく、うめき声を上げているのもたいしたものだ。
そのしぶとさに脅威を覚えつつも、鞘に納めた刀を杖にして怪我をしている足を庇いながら、俊夫はゆっくりと魔人へと歩み寄った。
「っ!? くっ!」
止めを刺しに向かっていた俊夫だが、伸と戦っていたはずの魔人がこちらへ向かって来るのを確認してその足を止めた。
伸もその後を追いかけているのも見え、やられた訳ではないと分かるが、狙いが自分かもしれないと思った俊夫は、その場で刀を抜いて伸が追い付くまで攻撃を受けないようにと身構えた。
“バッ!!”
「っ!?」
「柊殿っ!!」
こちらに向かって来ていた魔人だったが、倒れていた魔人を抱きかかえると俊夫から距離を取る。
魔人の狙いが瀕死の兄を助けに来たのだと分かり、安堵した俊夫の下へ伸が駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ……」
気遣うように問いかける伸に、俊夫は平静を保つように返事をする。
足の怪我は平気じゃなさそうだが、とりあえず命に別状はなさそうだ。
しかし、さっきの火球魔術で結構な魔力を使用したため、戦える魔力も残り少なく見える。
「…………」
「助…かった…ぞ……」
「兄を連れて逃げる気か!? そうはさせないぞ!!」
兄の魔人を抱えて、伸たちを無言で睨みつめる弟の魔人。
自分を助けに来てくれたと分かり、重症の魔人は途切れながらも喜びの声をあげる。
モグラの魔人らしく地下へと逃れる可能性もあるが、怪我している魔人を連れて逃げられるようなことはあり得ない。
これまでの戦いから、もしかしたらまたどこかへ逃げる気なのかと思った伸は、刀を向けて魔人へと問いかけた。
“ニッ!”
「な、何…を……!? グ、グアァーーッ!!」
「「なっ!?」」
伸の言葉を受けた魔人は、何故か笑みを浮かべて瀕死の兄を見つめると、武器となる爪で胸のあたりを抉った。
弟に攻撃をされ、瀕死の魔人は強烈な痛みに断末魔の声をあげた。
突然のことに、伸と俊夫は目を見開く。
それもそのはずで、あの魔人の目的が何なのか分からないからだ。
「仲間を……」
「しかも、兄を……」
2体の魔人は、同じモグラで、しかも兄弟だという話だったはずだ。
それなのに躊躇なく殺した弟の魔人に、伸と俊夫は小さく呟き言葉を失った。
「フフッ! あんたはもう少し頭を使うべきだったな……」
兄の亡骸を蹴り飛ばし、弟の魔人は小さく呟く。
その右手には、兄の魔人の体内からとしだした魔石のようなものが握られていた。
“バリッ! ボリッ! ゴクッ!!”
「「っ!!」」
「っ!! ……ハハッ!! やっぱり!!」
わざわざ兄を殺して何をするのかと思ったら、魔人は取り出した魔石を食べ始めた。
そして、その魔石を飲み込むと、魔人に変化が起きる。
先程までスマートであった魔人筋肉が、兄のように急激に膨れ上がったのだ。
この急激な変化を予想していたかのように、魔人は笑い声を上げた。
「魔力もこれまで以上に膨れ上がっている……」
見た目に分かるように筋肉が膨れ上がったが、それだけではない。
内包する魔力にも変化が起きていた。
それに気付いた俊夫は、その魔力に当てられたのか冷や汗を掻きつつ呟いた。
「これが狙いだったのか……?」
「その通りだ!」
魔人の急激なパワーアップに、伸はこれまで感じていた違和感の答えがようやくつながった。
これまでのおかしな戦い方は、こうなるための時間稼ぎだったようだ。
それを確認するように問いかけると、魔人は笑みを浮かべながら頷きを返した。
「パワーアップするなら、わざわざ医者を攫って腕を治す必要なかったんじゃないか?」
モグラの魔人の彼らにとっての最大の武器は爪。
護送車から救出した時、兄の魔人の方は伸によって両腕が切断されていた状態だった。
その時なら造作もなく殺せたはずだ。
なのに、今さら兄を殺した理由が理解できない。
「それではお前が呼び寄せられないだろ?」
「……俺だと?」
もっともなことを指摘された魔人は、伸を指差して答えを返す。
指差された意味が理解できず、伸は首を傾げるしかない。
「このパワーアップした状態がどれほどのものか、兄を圧倒したお前で確認したかったんだよ!」
八郷地区の東と西に分かれて、数人の人間を食料として手に入れている時、自分はどうすれば能力を上げることができるのかを考えていた。
そして、一気に能力を上げる方法に思い至った。
それが兄の魔石を体内に取り込むことだった。
能力アップの方法を導き出した時、兄は人間によって捕えられたということを知った。
まさかと思ったが、八郷地区の人間はその情報で持ち切りだった。
脳筋の兄がヘマをしたのだろうと助け出してみると、1人の人間にやられたという。
しかも、それが若い人間だと知り、その実力に興味を持った。
人間と同様に、兄弟と言うだけで自分に何の警戒をしていない兄を殺すことは容易だったが、逃亡した兄を探しにその若い人間が姿を現すと考えていた。
兄とは違い、自分は人間擬態して人間ついての情報をなるべく手に入れるようにしていた。
集めた情報により、人間にも縄張りのようなものがあると理解し、それを利用することにした。
兄を捕まえた者をここへおびき寄せるために、兄を生かしておいたのだ。
「……結局は自己満足か」
「そう言われればそうだな」
自分をおびき寄せてパワーアップの確認相手としたのは、完全にこの魔人の考えでしかない。
そのために兄ですら平気で利用するこの魔人に、伸は若干不快に感じた。
伸の指摘を受けても、魔人は特に悪びれもなく返答した。
「柊殿。少し避難をしてください」
「……分かった」
パワーアップした魔人に、足を怪我をしていなくても恐らくは勝てないと、俊夫はすぐに敗北を覚悟した。
この場にいてはただの足手まといにしかならないと理解した俊夫は、すぐに伸の言葉に頷いた。
「……勝てるか?」
「やってみないと分からないですね……」
これまでの魔人だったら、余裕で倒せる自信はあった。
しかし、パワーアップした状態の魔人の強さは未知数。
俊夫の去り際に問いに、伸は曖昧に返答することしかできなかった。
「……死ぬなよ!」
「頑張ります!」
伸の返答に表情を曇らせた俊夫は、せめてもの激励として呟き、その場から退避を開始した。
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