主人公は高みの見物していたい
第35話
「ほらっ! 乗れっ!!」
「…………」
皇都内の施設も決まり、伸によって捕えられた魔人が皇都へと送られる日が来た。
魔闘組合員により、魔人のモグラ男が護送車へと乗せられる。
自殺防止用に口輪をはめられているモグラ男は、苛立たし気にその指示に従う。
抵抗しようにも、両腕を失い、魔力封じの道具を脚にはめられているため、渋々といった感じだ。
「お願いします」
「お任せください!」
護送する職員に対し、これまでモグラ男を管理していた柊家当主の俊夫は軽く頭を下げる。
ここから先は皇都の管理になり、俊夫としては貴重品の管理から解放された気がして一安心といった気分だ。
その俊夫の意を汲むように、護送職員たちも頭を下げて返答した。
「それでは出発します!」
職員たちが俊夫に再度頭を下げると、魔人を乗せた車へと乗車していく。
そして、数台の護衛車と共に、魔人を乗せた護送車が発車していった。
「柊家はスゲエな、魔人を捕まえるなんて……」
「あぁ……」
魔人と共に護送車に乗車している皇都の魔闘組合の職員は、モグラ男を目の前にして改めて柊家のことを感心していた。
両腕を失い、しかも魔力を封じられていると分かっていても、魔人の側にいるというプレッシャーに嫌な汗が流れてくる。
そんな相手を戦闘で無力化してしまったのだから、感心したくなるのも分からなくない。
「これでこいつから魔人の生態が分かればいいんだが……」
魔物の出現についてはある程度分かっている。
空気中に漂う魔素が集まったことにより出現する場合や、動物のように繁殖することによって数を増やしたりするということだ。
魔物が進化した存在が魔人であるため、高濃度の魔素が発生している場所から偶然生まれるのではないかというのが説となっている。
しかし、魔物は危険で捕縛が難しかったため、これまでどこの国でも調査のしようがなかった。
今回柊家の功績は、世界にとっても大きなものとなっている。
これで魔人の誕生について分かれば対策も練れるため、多くの者を被害から守れるようになるだろう。
「これからこいつは実験体生活だな……」
「…………」
この世界では、魔人によって多くの人間が被害を受けてきた。
そのこともあって、魔人対策はどの国にとっても重要な問題だ。
それが今回の捕縛によって、進展が期待されている。
そのためにも、このモグラ男はありとあらゆる実験が施されることだろう。
別に憐れむ気持ちはないが、職員の男は何の気なしにモグラ男へと呟いた。
モグラ男の方もそうなることを理解しているのか、ただ黙って俯いているだけだった。
“ドンッ!!”
「「っっっ!!」」
順調に皇都へ向かう途中の周囲に田畑のみが広がる場所で、突如大きな音と共に車が急停止した。
あまりのことに、魔人と一緒にいた2人は驚く。
「何だ!?」「何が起きた!?」
「「……っ!!」」
魔人と共にいた2人は、すぐさまシートベルトを外して運転席の男に問いかける。
しかし、ガラス窓を通して前方を見て、驚きで声を失う。
この車を護送するために前方を走っていた車が大破し、黒煙を巻き上げている。
2人は事故かと思ったが、どうやらちがうようだ。
というのも、黒煙を上げる車のすぐ側には、人影のようなものが見えているからだ。
しかし、その人影がこちらに近付いてきたことで、2人は更に驚きの表情へと変わった。
「あ、あれは……」
「ま、魔人……?」
その人影は、柊家の捕縛したモグラ男と瓜二つの姿をしており、車を破壊したのがその者だというのがすぐに分かった。
「何で……」
「それよりも逃げるぞ!! 魔人相手にこの人数では無理だ!!」
「そうだ!! あの姿はどう考えてもこの魔人に関係するものだ!! 速く車を出せ!!」
運転手も魔人の姿に驚いているが、今はそんな場合ではない。
同じ姿をしているのだから、ここに捕まっている魔人と無関係であるとは思えない。
このまま止まっていては、この車も破壊されてしまう。
今取れる選択は、逃走の一手しかない。
そのため、2人は運転手に向かって大きな声で逃走を指示した。
「わ、分かった!」
後部の2人の指示に我を取り戻したのか、運転手の男はすぐさまギアをバックへと入れる。
そして、一気にアクセルを踏んで逃げようと試みる。
「逃がさないよ!!」
反応が遅かったのが災いした。
新たに現れたモグラ男は魔力による身体強化を施し、一気に護送車へと接近。
武器となる爪によって、エンジン部分を破壊した。
「くそっ! お前は俺が相手をしている間にそいつを連れて逃げろ!」
「わ、分かった!!」
魔人によって車が動かなくなってしまい、護送の2人は慌てて後部のドアを開けて道路に跳び降りる。
後方についてきていた護送車に乗っていた魔闘組合の者たちも、異変に気付いて走ってきた。
このままでは、折角捕まえた魔人を奪われてしまう。
魔闘組合員としてだけでなく、大和皇国にとっても大失態となる。
何としても捕まえた方の魔人を安全な場所へ届けるしかないと、1人の男が後方の車で逃げることを指示する。
誰が残って戦うかなんてことを言い合っている暇はないため、指示を受けた男はそれに従って拘束しているモグラ男と共に走り出す。
「……兄さん見っけ!」
拘束されているモグラ男を見て、新たに現れたモグラ男が笑みを浮かべる。
姿と言葉通り、この魔人たちは兄弟のようだ。
「行かせるか!!」
「…………」
兄を助けようと地を蹴ろうとしたモグラ男に対し、護送車から出た魔闘組合の男たちが周囲を囲む。
槍や刀などの武器を向けて、モグラ男を威嚇する。
「……邪魔するなよ」
「ぐふっ!!」
囲まれても慌てることなく、モグラ男は1人の魔闘組合員の男性に接近する。
そして、武器となる爪でその男性の腹を貫いた。
「速いっ……!!」
「驚く暇も与えないよ!」
「がっ!!」
一瞬にして間合いを詰めたモグラ男の移動速度に、他の魔闘組合員が驚きの声をあげる。
しかし、その次の瞬間には自分が標的にされる。
そして、振り下ろされた爪により、頸動脈を斬り裂かれて血をまき散らした。
モグラ男はそれで止まらず、周囲にいた魔闘組合員たちを次々と殺していった。
「なっ!? あっという間に……」
護送車に乗っていた男性は、後方の車に拘束したモグラ男を入れたばかり。
逃げる時間を稼ぐつもりだったが、あっという間に仲間がやられてしまった。
「少しでも俺が止める!! 車を出せ!!」
「了解!」
拘束したモグラ男だけでもこの場から移動させようと、護送車に乗っていた男性は運転手の男へと指示する。
仲間のように死ぬのを覚悟し、1人残って魔人の相手をすることにした。
運転手の男はその指示に従い、すぐさま車を出発させた。
「待てっ!!」
「行かせるか!!」
新たに出だモグラ男は、出発した車を追って走り出そうとする。
それを、1人残った護送員が阻止するように魔術を放って阻止する。
拳銃型の魔術支援装置で、魔力を注ぐと圧縮する手間を省いてくれる武器だ。
圧縮された魔力を引き金を引くだけで魔力弾が発射されるため、最近では人気の武器となっている。
「危ねえな……」
「ぐっ! く…そ……」
魔闘組合の男性は魔力を気にせず銃を連射する。
しかし、モグラ男には通用せず、接近されて腹を斬り裂かれてしまった。
「助かったぜ! 弟よ!」
「捕まったって聞いて焦ったよ」
魔闘組合員による命を懸けた戦闘も結局たいした時間を稼ぐことができず、逃げた車もあっさりと追いつかれてしまった。
そして、車を壊して運転手を殺したモグラ男は、兄の方のモグラ男に巻き付けられていた鎖や、魔力封じの道具を壊して解放した。
助かった兄のモグラ男は、弟に感謝の言葉をかけた。
「あのガキ、いつか絶対に殺してやる……」
数日ぶりに自由になった兄の方は、失くした腕を見て怒りが再燃する。
その張本人である伸のことを頭に思い浮かべ、復讐の言葉を呟くと、弟と共にその場から去っていったのだった。
「…………」
皇都内の施設も決まり、伸によって捕えられた魔人が皇都へと送られる日が来た。
魔闘組合員により、魔人のモグラ男が護送車へと乗せられる。
自殺防止用に口輪をはめられているモグラ男は、苛立たし気にその指示に従う。
抵抗しようにも、両腕を失い、魔力封じの道具を脚にはめられているため、渋々といった感じだ。
「お願いします」
「お任せください!」
護送する職員に対し、これまでモグラ男を管理していた柊家当主の俊夫は軽く頭を下げる。
ここから先は皇都の管理になり、俊夫としては貴重品の管理から解放された気がして一安心といった気分だ。
その俊夫の意を汲むように、護送職員たちも頭を下げて返答した。
「それでは出発します!」
職員たちが俊夫に再度頭を下げると、魔人を乗せた車へと乗車していく。
そして、数台の護衛車と共に、魔人を乗せた護送車が発車していった。
「柊家はスゲエな、魔人を捕まえるなんて……」
「あぁ……」
魔人と共に護送車に乗車している皇都の魔闘組合の職員は、モグラ男を目の前にして改めて柊家のことを感心していた。
両腕を失い、しかも魔力を封じられていると分かっていても、魔人の側にいるというプレッシャーに嫌な汗が流れてくる。
そんな相手を戦闘で無力化してしまったのだから、感心したくなるのも分からなくない。
「これでこいつから魔人の生態が分かればいいんだが……」
魔物の出現についてはある程度分かっている。
空気中に漂う魔素が集まったことにより出現する場合や、動物のように繁殖することによって数を増やしたりするということだ。
魔物が進化した存在が魔人であるため、高濃度の魔素が発生している場所から偶然生まれるのではないかというのが説となっている。
しかし、魔物は危険で捕縛が難しかったため、これまでどこの国でも調査のしようがなかった。
今回柊家の功績は、世界にとっても大きなものとなっている。
これで魔人の誕生について分かれば対策も練れるため、多くの者を被害から守れるようになるだろう。
「これからこいつは実験体生活だな……」
「…………」
この世界では、魔人によって多くの人間が被害を受けてきた。
そのこともあって、魔人対策はどの国にとっても重要な問題だ。
それが今回の捕縛によって、進展が期待されている。
そのためにも、このモグラ男はありとあらゆる実験が施されることだろう。
別に憐れむ気持ちはないが、職員の男は何の気なしにモグラ男へと呟いた。
モグラ男の方もそうなることを理解しているのか、ただ黙って俯いているだけだった。
“ドンッ!!”
「「っっっ!!」」
順調に皇都へ向かう途中の周囲に田畑のみが広がる場所で、突如大きな音と共に車が急停止した。
あまりのことに、魔人と一緒にいた2人は驚く。
「何だ!?」「何が起きた!?」
「「……っ!!」」
魔人と共にいた2人は、すぐさまシートベルトを外して運転席の男に問いかける。
しかし、ガラス窓を通して前方を見て、驚きで声を失う。
この車を護送するために前方を走っていた車が大破し、黒煙を巻き上げている。
2人は事故かと思ったが、どうやらちがうようだ。
というのも、黒煙を上げる車のすぐ側には、人影のようなものが見えているからだ。
しかし、その人影がこちらに近付いてきたことで、2人は更に驚きの表情へと変わった。
「あ、あれは……」
「ま、魔人……?」
その人影は、柊家の捕縛したモグラ男と瓜二つの姿をしており、車を破壊したのがその者だというのがすぐに分かった。
「何で……」
「それよりも逃げるぞ!! 魔人相手にこの人数では無理だ!!」
「そうだ!! あの姿はどう考えてもこの魔人に関係するものだ!! 速く車を出せ!!」
運転手も魔人の姿に驚いているが、今はそんな場合ではない。
同じ姿をしているのだから、ここに捕まっている魔人と無関係であるとは思えない。
このまま止まっていては、この車も破壊されてしまう。
今取れる選択は、逃走の一手しかない。
そのため、2人は運転手に向かって大きな声で逃走を指示した。
「わ、分かった!」
後部の2人の指示に我を取り戻したのか、運転手の男はすぐさまギアをバックへと入れる。
そして、一気にアクセルを踏んで逃げようと試みる。
「逃がさないよ!!」
反応が遅かったのが災いした。
新たに現れたモグラ男は魔力による身体強化を施し、一気に護送車へと接近。
武器となる爪によって、エンジン部分を破壊した。
「くそっ! お前は俺が相手をしている間にそいつを連れて逃げろ!」
「わ、分かった!!」
魔人によって車が動かなくなってしまい、護送の2人は慌てて後部のドアを開けて道路に跳び降りる。
後方についてきていた護送車に乗っていた魔闘組合の者たちも、異変に気付いて走ってきた。
このままでは、折角捕まえた魔人を奪われてしまう。
魔闘組合員としてだけでなく、大和皇国にとっても大失態となる。
何としても捕まえた方の魔人を安全な場所へ届けるしかないと、1人の男が後方の車で逃げることを指示する。
誰が残って戦うかなんてことを言い合っている暇はないため、指示を受けた男はそれに従って拘束しているモグラ男と共に走り出す。
「……兄さん見っけ!」
拘束されているモグラ男を見て、新たに現れたモグラ男が笑みを浮かべる。
姿と言葉通り、この魔人たちは兄弟のようだ。
「行かせるか!!」
「…………」
兄を助けようと地を蹴ろうとしたモグラ男に対し、護送車から出た魔闘組合の男たちが周囲を囲む。
槍や刀などの武器を向けて、モグラ男を威嚇する。
「……邪魔するなよ」
「ぐふっ!!」
囲まれても慌てることなく、モグラ男は1人の魔闘組合員の男性に接近する。
そして、武器となる爪でその男性の腹を貫いた。
「速いっ……!!」
「驚く暇も与えないよ!」
「がっ!!」
一瞬にして間合いを詰めたモグラ男の移動速度に、他の魔闘組合員が驚きの声をあげる。
しかし、その次の瞬間には自分が標的にされる。
そして、振り下ろされた爪により、頸動脈を斬り裂かれて血をまき散らした。
モグラ男はそれで止まらず、周囲にいた魔闘組合員たちを次々と殺していった。
「なっ!? あっという間に……」
護送車に乗っていた男性は、後方の車に拘束したモグラ男を入れたばかり。
逃げる時間を稼ぐつもりだったが、あっという間に仲間がやられてしまった。
「少しでも俺が止める!! 車を出せ!!」
「了解!」
拘束したモグラ男だけでもこの場から移動させようと、護送車に乗っていた男性は運転手の男へと指示する。
仲間のように死ぬのを覚悟し、1人残って魔人の相手をすることにした。
運転手の男はその指示に従い、すぐさま車を出発させた。
「待てっ!!」
「行かせるか!!」
新たに出だモグラ男は、出発した車を追って走り出そうとする。
それを、1人残った護送員が阻止するように魔術を放って阻止する。
拳銃型の魔術支援装置で、魔力を注ぐと圧縮する手間を省いてくれる武器だ。
圧縮された魔力を引き金を引くだけで魔力弾が発射されるため、最近では人気の武器となっている。
「危ねえな……」
「ぐっ! く…そ……」
魔闘組合の男性は魔力を気にせず銃を連射する。
しかし、モグラ男には通用せず、接近されて腹を斬り裂かれてしまった。
「助かったぜ! 弟よ!」
「捕まったって聞いて焦ったよ」
魔闘組合員による命を懸けた戦闘も結局たいした時間を稼ぐことができず、逃げた車もあっさりと追いつかれてしまった。
そして、車を壊して運転手を殺したモグラ男は、兄の方のモグラ男に巻き付けられていた鎖や、魔力封じの道具を壊して解放した。
助かった兄のモグラ男は、弟に感謝の言葉をかけた。
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