主人公は高みの見物していたい
第15話
「柊家へ来てくれ?」
「えぇ……」
魔物退治の事件もようやく落ち着いたというのに、柊綾愛がまた嫌な予感しかしないことを伸へ言ってきた。
先日のことがあり、綾愛は昼食時は伸の近くの席で食事するようになった。
それもあってか話す機会が増え、この日はいきなり柊家へ来てほしいと誘ってきた。
「ヒュー!」
「家に来てくれなんて、もしかしてプロポーズ?」
「仲いいねお二人さん!」
綾愛と柊家の従者である杉山奈津希の側で、伸たちはいつものように4人で食事をしていた。
当然伸と綾愛の話が聞こえていて、2人のことを茶化すようなことを言って来た。
伸が危惧していたように、魔物のことで話があると2人で学校から出ていったことが広まり、尾ひれや背びれが付いて2人が付き合っていると噂になってしまった。
最初そんなたいしたことがなかったのだが、綾愛と話すようになったことで噂に熱が加わり、何となく居心地の悪い生活を送ることになってしまった。
「お前らうるさいぞ! 中坊じゃないんだから……」
特に始末に悪いのは、友人であるはずの問題児3人がこのように冷やかして来ることだ。
噂が広まったのも、この3人の協力があったのではないかと疑いたくなる。
高校生になったというのに、子供のような煽りは不愉快だ。
伸は若干イラ立つように、3人の煽りを止めた。
「何で俺が行かないといけないんだ?」
「私との関係で父が聞きたいことがあるらしいの……」
「もう噂が耳に入ってんのかよ? さすが名門家……」
3人が静まってカレーを食べ始めたのを見て、伸は話しを戻す。
名門柊家の当主に呼ばれる理由が思いつかなかったため、呼ばれている理由を綾愛に尋ねたら、まさかの噂による呼び出しだった。
柊家ともなると多くの情報が入ってくるのだろうが、まさか学園の噂まで届いているとは思いもしなかった。
「何を聞きたいのか分からないが、親父さんには何の関係もないことを言っといてくれよ」
「う~ん……」
「……何だ?」
高校生の噂なんかでいちいち呼び出すなんて、暇なのかと聞きたくなる。
綾愛の父といえば、柊家の当主。
そんなお偉いさんになんて会いたくない伸は、綾愛に止めてもらおうと思った。
しかし、伸の言葉に綾愛は渋い表情になる。
何か問題があるかのような反応に、伸はそうなる理由を尋ねた。
「綾愛ちゃんに代わって説明しましょう」
「……頼む」
どういっていいか悩んでいるような綾愛に代わり、いつものように綾愛と一緒にいた奈津希が説明を引き継ぐ事を名乗り出る。
娘からは言いにくいことでもあるのかもしれない。
説明さえ受けられればいい伸は、奈津希に説明を求めた。
「私が目を離した隙にどうしてこのようなことになったのか分かりませんが……、当主様の招待を断ると尚のこと面倒ですよ」
友人であるのと同時に柊家の従者の家系であるため、奈津希はいつも綾愛と一緒にいる。
しかし、伸の話を聞いてから話すつもりだったためか、料亭に行った時に奈津希はいなかった。
付いてこないように綾愛に言われていたので仕方なかったとは言っても、こんな風におかしな噂になるくらいなら自分も一緒に行けばよかったと、奈津希は少し後悔していた。
綾愛の父である柊家当主なら、このようなことになることは予想できたのだから。
「……面倒ってどういうことだ?」
「強制的なご招待になるかもしれません」
「強制的?」
学園内の噂なんて信じてもしょうがないというのに、断ったら面倒事になるという理由が分からない。
その理由を尋ねたら、奈津希からは信じられない答えが返ってきた。
強制的ということは、つまりは力尽くで連れていかれるということだ。
伸ならそうなっても返り討ちできるが、噂ごときでそのような手に出るなんて、柊家の当主はどうなっているのだろう。
「名門家の強制的なお誘いなんて、伸とはもう会えなくなるな……」
「縁起でもないこと言うなよ」
話の途中で、了が冗談交じりに入ってくる。
普通の学生なら、たしかにそのまま姿を見なくなったなどということもあり得るかもしれない。
さすがに殺しなどをするとは思えないが、強制的に連れ去るようなことをするのだから転校を迫られるかもしれない。
そういう意味では、たしかに会えなくなるということになるかもしれないため笑えない。
「当主様は綾愛ちゃんを溺愛しているので、あながち冗談でも……」
「……マジで?」
噂ごときで強制的な招待をする可能性があると聞き、伸は何となくそんな気がしていたが、思った通りだった。
どうやら柊家当主は、娘の綾愛に男の噂が広がったのが許せないのかもしれない。
もしかしたら昔の誘拐未遂事件のことも関係しているのかもしれないが、度が過ぎている。
同じことを思っていたから、綾愛は言いにくそうだったのだろうか。
「仕方ない。行くよ」
強制的な招待に来たとしても返り討ちすることもできるが、そうすれば確実に自分の実力を知られてしまう。
別に絶対に知られてはいけないという訳ではないが、大人しく学園生活を過ごすなら、出来る限り知られないようにしたいのが本音だ。
噂ごときのために目を付けられる訳にもいかないため、伸は招待を受けるしかなかった。
「今週の土曜だったか?」
「えぇ、迎えを寄越すから寮近くの公園で待っていてもらえるかしら?」
「分かった」
学園は、土日休みの完全週休2日制だ。
今週の土曜は回復薬を届けに花紡に行こうと思っていたのだが、日にちをずらすしかないようだ。
強制連行なんてことにならないように、伸は諦めて行くことにした。
◆◆◆◆◆
「んっ? ……すげえ車だ」
土曜日になり、伸は言われた通りに学生寮の近くの公園で柊家の迎えが来るのを待っていた。
すると、遠くから黒塗りの高級車が向かってきた。
「……マジか?」
まさかこんな高級車で迎えに来るとは思っていなかったのだが、自分の近くで停車させる姿を見て伸は思わず呟いた。
どうやら迎えというのは、この高級車のことだったようだ。
田舎出身の伸からすると、見ることはあっても乗ることはないと思っていた。
こんな車で迎えに来るなんて、柊家の財力の高さの一端を感じた気がした。
「新田伸様ですか?」
「えぇ……」
まさかの高級車に驚いていた伸へ、助手席から降りてきた男性が話しかけてきた。
180cmは優に超える身長で、黒いスーツにサングラスをしている。
しかも、体つきが全体的に太いところを見ると、恐らくスーツの下は筋肉に覆われているのだろう。
魔術なしでの戦闘だと、伸ではとても勝ち目はないだろう。
それくらい強そうな雰囲気を出している。
「お迎えに上がりました。私、木畑と申します」
「それはどうも……」
伸だと確認を取った男性は、自己紹介と共に頭を下げてきた。
それに対し、伸も思わずペコペコと頭を下げてしまう。
「では、どうぞ……」
「あっ、はい……」
車の方に手を向け、木畑は伸に車に乗るように促してきた。
こんな高級車に乗るのは何だか気が引けるが、木畑によってわざわざ後部座席の扉を開けられた状態で断るわけにもいかないので、伸はおとなしく従うことにした。
「おぉ……」
乗ってみても、まだ何か落ち着かない。
座席の椅子は硬すぎず柔らかすぎず肌触りが良いため、伸は思わず感動気味の声がこぼれてしまった。
『いい予感はしないが、まあいいか……』
車が発車して少しすると、伸はようやく冷静に考えられるようになってきた。
何だか好待遇でマウントを取ろうとして来ているように感じるため、穏便に済みそうにない気がしてきた。
とりあえず高級車の乗り心地を楽しもうと、伸はのんびり外の景色を眺めることにした。
「えぇ……」
魔物退治の事件もようやく落ち着いたというのに、柊綾愛がまた嫌な予感しかしないことを伸へ言ってきた。
先日のことがあり、綾愛は昼食時は伸の近くの席で食事するようになった。
それもあってか話す機会が増え、この日はいきなり柊家へ来てほしいと誘ってきた。
「ヒュー!」
「家に来てくれなんて、もしかしてプロポーズ?」
「仲いいねお二人さん!」
綾愛と柊家の従者である杉山奈津希の側で、伸たちはいつものように4人で食事をしていた。
当然伸と綾愛の話が聞こえていて、2人のことを茶化すようなことを言って来た。
伸が危惧していたように、魔物のことで話があると2人で学校から出ていったことが広まり、尾ひれや背びれが付いて2人が付き合っていると噂になってしまった。
最初そんなたいしたことがなかったのだが、綾愛と話すようになったことで噂に熱が加わり、何となく居心地の悪い生活を送ることになってしまった。
「お前らうるさいぞ! 中坊じゃないんだから……」
特に始末に悪いのは、友人であるはずの問題児3人がこのように冷やかして来ることだ。
噂が広まったのも、この3人の協力があったのではないかと疑いたくなる。
高校生になったというのに、子供のような煽りは不愉快だ。
伸は若干イラ立つように、3人の煽りを止めた。
「何で俺が行かないといけないんだ?」
「私との関係で父が聞きたいことがあるらしいの……」
「もう噂が耳に入ってんのかよ? さすが名門家……」
3人が静まってカレーを食べ始めたのを見て、伸は話しを戻す。
名門柊家の当主に呼ばれる理由が思いつかなかったため、呼ばれている理由を綾愛に尋ねたら、まさかの噂による呼び出しだった。
柊家ともなると多くの情報が入ってくるのだろうが、まさか学園の噂まで届いているとは思いもしなかった。
「何を聞きたいのか分からないが、親父さんには何の関係もないことを言っといてくれよ」
「う~ん……」
「……何だ?」
高校生の噂なんかでいちいち呼び出すなんて、暇なのかと聞きたくなる。
綾愛の父といえば、柊家の当主。
そんなお偉いさんになんて会いたくない伸は、綾愛に止めてもらおうと思った。
しかし、伸の言葉に綾愛は渋い表情になる。
何か問題があるかのような反応に、伸はそうなる理由を尋ねた。
「綾愛ちゃんに代わって説明しましょう」
「……頼む」
どういっていいか悩んでいるような綾愛に代わり、いつものように綾愛と一緒にいた奈津希が説明を引き継ぐ事を名乗り出る。
娘からは言いにくいことでもあるのかもしれない。
説明さえ受けられればいい伸は、奈津希に説明を求めた。
「私が目を離した隙にどうしてこのようなことになったのか分かりませんが……、当主様の招待を断ると尚のこと面倒ですよ」
友人であるのと同時に柊家の従者の家系であるため、奈津希はいつも綾愛と一緒にいる。
しかし、伸の話を聞いてから話すつもりだったためか、料亭に行った時に奈津希はいなかった。
付いてこないように綾愛に言われていたので仕方なかったとは言っても、こんな風におかしな噂になるくらいなら自分も一緒に行けばよかったと、奈津希は少し後悔していた。
綾愛の父である柊家当主なら、このようなことになることは予想できたのだから。
「……面倒ってどういうことだ?」
「強制的なご招待になるかもしれません」
「強制的?」
学園内の噂なんて信じてもしょうがないというのに、断ったら面倒事になるという理由が分からない。
その理由を尋ねたら、奈津希からは信じられない答えが返ってきた。
強制的ということは、つまりは力尽くで連れていかれるということだ。
伸ならそうなっても返り討ちできるが、噂ごときでそのような手に出るなんて、柊家の当主はどうなっているのだろう。
「名門家の強制的なお誘いなんて、伸とはもう会えなくなるな……」
「縁起でもないこと言うなよ」
話の途中で、了が冗談交じりに入ってくる。
普通の学生なら、たしかにそのまま姿を見なくなったなどということもあり得るかもしれない。
さすがに殺しなどをするとは思えないが、強制的に連れ去るようなことをするのだから転校を迫られるかもしれない。
そういう意味では、たしかに会えなくなるということになるかもしれないため笑えない。
「当主様は綾愛ちゃんを溺愛しているので、あながち冗談でも……」
「……マジで?」
噂ごときで強制的な招待をする可能性があると聞き、伸は何となくそんな気がしていたが、思った通りだった。
どうやら柊家当主は、娘の綾愛に男の噂が広がったのが許せないのかもしれない。
もしかしたら昔の誘拐未遂事件のことも関係しているのかもしれないが、度が過ぎている。
同じことを思っていたから、綾愛は言いにくそうだったのだろうか。
「仕方ない。行くよ」
強制的な招待に来たとしても返り討ちすることもできるが、そうすれば確実に自分の実力を知られてしまう。
別に絶対に知られてはいけないという訳ではないが、大人しく学園生活を過ごすなら、出来る限り知られないようにしたいのが本音だ。
噂ごときのために目を付けられる訳にもいかないため、伸は招待を受けるしかなかった。
「今週の土曜だったか?」
「えぇ、迎えを寄越すから寮近くの公園で待っていてもらえるかしら?」
「分かった」
学園は、土日休みの完全週休2日制だ。
今週の土曜は回復薬を届けに花紡に行こうと思っていたのだが、日にちをずらすしかないようだ。
強制連行なんてことにならないように、伸は諦めて行くことにした。
◆◆◆◆◆
「んっ? ……すげえ車だ」
土曜日になり、伸は言われた通りに学生寮の近くの公園で柊家の迎えが来るのを待っていた。
すると、遠くから黒塗りの高級車が向かってきた。
「……マジか?」
まさかこんな高級車で迎えに来るとは思っていなかったのだが、自分の近くで停車させる姿を見て伸は思わず呟いた。
どうやら迎えというのは、この高級車のことだったようだ。
田舎出身の伸からすると、見ることはあっても乗ることはないと思っていた。
こんな車で迎えに来るなんて、柊家の財力の高さの一端を感じた気がした。
「新田伸様ですか?」
「えぇ……」
まさかの高級車に驚いていた伸へ、助手席から降りてきた男性が話しかけてきた。
180cmは優に超える身長で、黒いスーツにサングラスをしている。
しかも、体つきが全体的に太いところを見ると、恐らくスーツの下は筋肉に覆われているのだろう。
魔術なしでの戦闘だと、伸ではとても勝ち目はないだろう。
それくらい強そうな雰囲気を出している。
「お迎えに上がりました。私、木畑と申します」
「それはどうも……」
伸だと確認を取った男性は、自己紹介と共に頭を下げてきた。
それに対し、伸も思わずペコペコと頭を下げてしまう。
「では、どうぞ……」
「あっ、はい……」
車の方に手を向け、木畑は伸に車に乗るように促してきた。
こんな高級車に乗るのは何だか気が引けるが、木畑によってわざわざ後部座席の扉を開けられた状態で断るわけにもいかないので、伸はおとなしく従うことにした。
「おぉ……」
乗ってみても、まだ何か落ち着かない。
座席の椅子は硬すぎず柔らかすぎず肌触りが良いため、伸は思わず感動気味の声がこぼれてしまった。
『いい予感はしないが、まあいいか……』
車が発車して少しすると、伸はようやく冷静に考えられるようになってきた。
何だか好待遇でマウントを取ろうとして来ているように感じるため、穏便に済みそうにない気がしてきた。
とりあえず高級車の乗り心地を楽しもうと、伸はのんびり外の景色を眺めることにした。
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