前の野原でつぐみが鳴いた

小海音かなた

Chapter.67

 多幸感が溢れ、涙と一緒にこぼれ出す。
 少し恥ずかしそうにうつむく鹿乃江の頬を指で拭い、紫輝が抱き寄せた。自分と同じ洗髪料が仄かに香る。
「近いうちに時間作っておいてください。親に紹介したいです」
 耳のすぐそばで、紫輝の声が聞こえる。
「はい。予定調整します」
 紫輝の肩に頬をすり寄せ、腰に腕を回した。
「……鹿乃江。……好きだよ」
 ソファの背もたれに身体を預け紫輝がゆるやかに身体を倒す。鹿乃江を胸に抱いたまま、いくつかのクッションを支えにして横たわった。しかし身体の座りが悪いのか、紫輝がもぞもぞと動く。
「体勢、苦しくないですか……?」
「そうすね、ちょっと無理しました」
 苦笑する紫輝の言葉に笑って、んしょ…と鹿乃江が身体を起こす。その下をすり抜けるようにして、紫輝が脚を座面に上げた。立てた脚の間に座る鹿乃江に
「はい」
 呼びかけて、両手を広げる。
 のしかかるようにして、紫輝の胸に鹿乃江が乗った。
 トクトクと心臓の音が聞こえる。紫輝の長い指が鹿乃江の髪を撫でる。
 お互いの呼吸する音が聞こえてきそうな静けさ。テレビ画面には星座の成り立ちを解説する番組が映っている。満点の星空に何本かの白線が引かれ、星と星とをつなげていた。
 呼吸をするたび胸が上下動する。規則正しいその動きが心地よい。
 さりげなく座面に置いた腕で自重を多少ささえる鹿乃江に気付き、
「もっと、体重かけていいですよ?」
 紫輝が肩を抱き寄せる。
「……重いですよ?」
「鍛えてるんで大丈夫です。ほら」
 身体を支えていないほうの手を紫輝が取り、腹部に当てた。
 以前、胸にそうされたときも思ったが、細い割にかなりの筋肉質だ。しかもそのころよりも更に厚みが増している。仕事の関係で鍛えていると聞いていたが、実際に触れてみて、想像以上のトレーニングを自分に課しているのであろうことがわかる。
「もっと、色々頼ってください。心も身体も、もっと、甘えて欲しいです」
「…いいの?」
「もちろん。好きなようにしちゃってください」
「襲ったりするかもですよ?」
「襲う……?」
 右斜め上を見て想像するが、いまいち映像が浮かばない。
「ちょっと想像つかないんで、やってみてもらっていいですか?」
 冗談めかして言う紫輝の胸から体を起こして紫輝に乗り、覆いかぶさった。恥ずかしそうに視線をさまよわせながら顔をゆっくりと近付ける。

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