前の野原でつぐみが鳴いた
Chapter.59
「今更だよー」右嶋が無邪気に笑う。
「だってね、つぐみのさん。こいつツアーのとき」
「待って」手で後藤を制す紫輝。「それはダメ」
「え? いいじゃん」
「だってあの時みんななんか引いてたじゃん」
ジャスミン茶を飲みながら、鹿乃江は皆の会話を眺めている。
「えー、じゃあ、つぐみのさんのハナシ聞いて判断しよ」
右嶋に急に話を振られてキョトンとした。
「シキくんにされて一番びっくりしたのってどんなことですか?」
「えー……っと」
言ってもいいものか、確認のために紫輝を見る。
「……どうぞ……」
どこか不安げな紫輝の承諾を得て、鹿乃江は少し考える。
「私の職場に、来てくれたこと、ですかね……」
「約束してたんですか?」
「いえ。えっと……」
どう説明していいものか悩んで、再度紫輝を見る。
「あー……なかなか連絡が取れなかったときがあって、どうしても会いたかったから、鹿乃江さんの職場で、帰るの待ってたことがあって……」
一瞬の静寂。
「ヤダ。ホントのストーカーじゃん」
「えっ、なに? さらおうとしてたの?」
「付き合う前でしょ? ヤバくない?」
「会いたかったんだから仕方ないじゃん」
「えー、でもじゃあ別にいいじゃん。メッセの画面スクショするくらい、聞いても引かないんじゃない?」
「ちょおぉい!」
「ん?」
「ゆってんじゃん! なんで言っちゃうの!」
「別に隠すことじゃないでしょ。つぐみのさんキョトンとしてるけど」
「や! 違うんすよ!」鹿乃江のほうに体を向け「めっちゃ久々に返信もらってうれしくて!」紫輝が必死に弁明する。
うんうん、と小刻みに頷く鹿乃江。受け入れる、というよりは、ちゃんと聞いていることへの意思表示だ。
「いつでも見れるようにしておきたくて」
うんうん。
「待ち受けにはしてないんで、安心してください」
ん? うんうん。少し疑問符を浮かべながらも、鹿乃江が相槌を打つ。そもそもその発想が若干アレだ。
「優しいカノジョさんで良かったネ」
「そうなの、優しいのよ。こないだも」
「いや、ノロケを誘導したわけじゃないだナ」
「えー、いいじゃん。そういうの聞いてくれる会なんじゃないの?」
「えっ」当事者になりえるであろう鹿乃江が驚く。
「え? ダメっすか?」
「私がいないところでなら……」
鹿乃江の耳が赤くなっていることに気付いて、
「そっすね。すみません」
謝りながらもデレデレする紫輝を、メンバーが薄ら笑いながら見ている。
それに気付いた紫輝は真顔に戻り、体の向きをメンバーのほうに変えた。それでも対面席の薄ら笑いは収まらない。
「はいはーい」と右嶋が挙手する。「二人の出会いはどんなだったんですかー?」エアマイクを持ち、自分の口元から紫輝たちのほうへ向ける。
「えぇ?」
二人で言って、顔を見合わせる。鹿乃江が紫輝に手で“どうぞ”と促したのを受けて
「……みんな覚えてるかわかんないけど、オレ、ロケ先でスマホ失くしたときあったじゃん?」
紫輝が話し始めた。
「だってね、つぐみのさん。こいつツアーのとき」
「待って」手で後藤を制す紫輝。「それはダメ」
「え? いいじゃん」
「だってあの時みんななんか引いてたじゃん」
ジャスミン茶を飲みながら、鹿乃江は皆の会話を眺めている。
「えー、じゃあ、つぐみのさんのハナシ聞いて判断しよ」
右嶋に急に話を振られてキョトンとした。
「シキくんにされて一番びっくりしたのってどんなことですか?」
「えー……っと」
言ってもいいものか、確認のために紫輝を見る。
「……どうぞ……」
どこか不安げな紫輝の承諾を得て、鹿乃江は少し考える。
「私の職場に、来てくれたこと、ですかね……」
「約束してたんですか?」
「いえ。えっと……」
どう説明していいものか悩んで、再度紫輝を見る。
「あー……なかなか連絡が取れなかったときがあって、どうしても会いたかったから、鹿乃江さんの職場で、帰るの待ってたことがあって……」
一瞬の静寂。
「ヤダ。ホントのストーカーじゃん」
「えっ、なに? さらおうとしてたの?」
「付き合う前でしょ? ヤバくない?」
「会いたかったんだから仕方ないじゃん」
「えー、でもじゃあ別にいいじゃん。メッセの画面スクショするくらい、聞いても引かないんじゃない?」
「ちょおぉい!」
「ん?」
「ゆってんじゃん! なんで言っちゃうの!」
「別に隠すことじゃないでしょ。つぐみのさんキョトンとしてるけど」
「や! 違うんすよ!」鹿乃江のほうに体を向け「めっちゃ久々に返信もらってうれしくて!」紫輝が必死に弁明する。
うんうん、と小刻みに頷く鹿乃江。受け入れる、というよりは、ちゃんと聞いていることへの意思表示だ。
「いつでも見れるようにしておきたくて」
うんうん。
「待ち受けにはしてないんで、安心してください」
ん? うんうん。少し疑問符を浮かべながらも、鹿乃江が相槌を打つ。そもそもその発想が若干アレだ。
「優しいカノジョさんで良かったネ」
「そうなの、優しいのよ。こないだも」
「いや、ノロケを誘導したわけじゃないだナ」
「えー、いいじゃん。そういうの聞いてくれる会なんじゃないの?」
「えっ」当事者になりえるであろう鹿乃江が驚く。
「え? ダメっすか?」
「私がいないところでなら……」
鹿乃江の耳が赤くなっていることに気付いて、
「そっすね。すみません」
謝りながらもデレデレする紫輝を、メンバーが薄ら笑いながら見ている。
それに気付いた紫輝は真顔に戻り、体の向きをメンバーのほうに変えた。それでも対面席の薄ら笑いは収まらない。
「はいはーい」と右嶋が挙手する。「二人の出会いはどんなだったんですかー?」エアマイクを持ち、自分の口元から紫輝たちのほうへ向ける。
「えぇ?」
二人で言って、顔を見合わせる。鹿乃江が紫輝に手で“どうぞ”と促したのを受けて
「……みんな覚えてるかわかんないけど、オレ、ロケ先でスマホ失くしたときあったじゃん?」
紫輝が話し始めた。
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