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前の野原でつぐみが鳴いた

小海音かなた

Chapter.57

 付き合って二か月ほどが経ち、ようやくFourQuartersと鹿乃江の都合が合うときが来た。
 右嶋が予約した洒落た居酒屋の個室でテーブルを囲む。
 左々木、右嶋に遅れ後藤と紫輝が、さらにその少しあとに鹿乃江が到着した。週刊誌に待ち伏せされても大丈夫なように示し合わせた時間通りだ。
「お疲れ様です、お邪魔します」
 個室のドアを閉め、鹿乃江が挨拶をする。
「こんばんはー、初めましてー」
 と、フォクのメンバーが口々に言う。それに答える鹿乃江に
「鹿乃江さん」
 紫輝が呼びかけ、手招きをする。
「いまちょうどなににするか決めてたんです」
「あっ、そうなんですね」
 壁面に取り付けられたハンガーにコートをかけ、隣に着席した鹿乃江に紫輝がメニューを広げて見せる。
 全員分の希望を取りまとめて、左々木がオーダーした。
「ご挨拶遅れてすみません。鶫野と申します」
 業務口調で鹿乃江が言って頭を下げると、それに続いて各々が簡単に自己紹介した。
「こないだのライブ、来てくださってたみたいで」
「はい、とても楽しかったです」
「チケット取るの大変じゃなかったですか?」
 後藤の問いに
「……職場の後輩に、みなさんのことが好きな子がいて…その子に連れて行ってもらいました」
 言っていいものかどうかと一瞬悩んで、簡潔に伝える。
「あ、そうだったんですね」
 答えたのは紫輝だ。
「え、知らなかったの?」
「なんか色々あって聞き忘れてた」
 ねっ、と紫輝が鹿乃江に同意を求めると、鹿乃江がうんと頷く。
「じゃあちょっと、そのあたりの話から聞かせてもらおっかなー」
 組んだ指の上に顎を乗せたアイドルポーズで、右嶋が可愛らしく首をかしげる。
(わあぁー。プロすごいー)
 園部から度々聞かされてはいたが、右嶋にはそこらの女性では敵わない“女子力”が備わっていた。
「そのあたりってどのあたりよ」
「ツアー終わってから付き合うまでの間、短すぎなんじゃね? ってことでしょ」
「そうそれ」左々木を指さして右嶋がウインクする。
「今日まで二か月もあったのになんで聞かなかったの」
「だってこうやって身内だけで話せるような機会なかったじゃん」
「まぁ確かにそうだけど……」
「で? なにがあって付き合うようになったの?」
「えー?……メッセで呼び出したら来てくれて…オレから付き合いましょうって言ったら、オッケーしてくれた」
「簡潔過ぎない?」
「だってあんまり細かく話すのも……ねぇ」
 紫輝が気まずそうに鹿乃江に問いかける。
「んー……」
 良いとも駄目とも言いづらくて、答えを言い淀む。
「あんだけ泣いたりわめいたりしてたから、もっとドラマチックなの期待してた」
「泣きはしたけどわめいてはいない」
(えっ、泣いたの?!)
 考えが顔と動作に出たのか、紫輝がハッとして「いやっ! 違うんです! 泣いたのは一回だけで!」慌てて弁明した。
「あれでしょ? オレらだけのダンスリハの日」
「あったねぇ! あれなんで泣いてたの?」
「すーごい突っ込んでくんじゃん。恥ずかしいんだけど、そんなの言うの」
「だってボクらが聞かないとつぐみのさんだって聞けないじゃん」
「聞いたほうがいいこととそうじゃないことがあるでしょ」
「それはつぐみのさんが決めることでしょ」
 紫輝の抵抗をものともせず、右嶋はガンガン攻め込んでくる。
「ねっ。つぐみのさんも聞きたいですよねっ」
 相変わらずのアイドルスマイルで無邪気に笑いかける。
(三月が見たら卒倒しそう……)
「聞きたいですけど……前原さんが嫌だったら、無理に言わなくても大丈夫…ですよ?」
「えー、つぐみのさん優しすぎー」
 右嶋が不満げに唇を尖らせた。
「初対面の人にあんまりわがまま言うんじゃないの」
 左々木が保護者のように右嶋をなだめる。
「えー」
 次はどの方向から攻めようかと企む右嶋を遮るように、個室のドアがノックされた。「失礼いたします」店員が飲み物と食事を配膳しに入室する。
 若い男性が四人ともなると、食事の量もすごい。
 六人掛けの大きなテーブルに所狭しと皿が並ぶ。
 すべての飲み物と食事が揃ったところで、「紫輝くん音頭とってよ」後藤が促した。

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