前の野原でつぐみが鳴いた

小海音かなた

Chapter.46

 ポコン♪ ポコン♪
 寝かけたところで通知音が聞こえて、思わず体をビクリと震わせる。

『夜分にごめんなさい』
『どうしても伝えたいことがあるんです』

 【マエハラシキ】からの通知は続く。

『明日19時、コリドラスで待ってます』

 通知はそこで途切れた。

 もう会うつもりはなかった。遠くから見守るだけでいいのではないかと、実際にライブを目の当たりにして改めて思った。
 未来に向かって邁進する紫輝の足手まといになりたくない。
 しかし、自分が行かなかったら……。
 いつまでも待ち続ける姿を想像すると胸がきしむ。思わず退勤してからの移動時間を計算してしまう。いつも通りに終われば充分間に合う時間だ。
 だけど……。
(…既読つけなければ、前原さんも行かないよね…)
 途切れた眠気がよみがえってくる。
 うつらうつらと眠りに入りながら、頭の片隅で紫輝が自分になにかを問いかけている映像が浮かんでいた。


 ――なんですか? きこえないです。

 まるで水中にいるような感覚。
 ソフトフォーカスのかかった紫輝の輪郭。
 何かを伝えるように唇が動いているが、見えない壁に挟まれたように、どんなに耳を凝らしても声が聞こえない。
 目を凝らして、唇を読む。

 オ…ノコト………モ………ス…。

 紫輝の唇が同じ動きを繰り返す。

 オ…ノコト…ウ…モ…テ…ス…。

 もう一度同じ動きをしたところで、何を言っているのかがようやくわかった。

 ――オレノコト、ドウ、オモッテマスカ――

 そんなの…決まってる……。

 私は、前原さんのこと――

 ♪~…♪~~…♪♪~……♪~…
 突如空から降ってきた音楽が、目覚めを誘導する。

 待って。私まだ、前原さんにホントのこと伝えてない……!

 私、ホントは前原さんのこと……!――

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