前の野原でつぐみが鳴いた
Chapter.17
♪~…♪~~…♪♪~……♪~…
意識の遠くから聴き覚えのあるメロディが聞こえる。
毎朝の習慣。
休日だというのに、解除し忘れた目覚ましのアラームに起こされた。
(うぅ……)
枕元に置いたスマホを操作し、アラームを止めて時間を確認した。
(……ねむい……)
夢の中に紫輝が出てきたような気がするが、記憶はおぼろげだ。昨日の夜の記憶とごちゃまぜになって、なにが現実でなにが夢かも判然としない。
眠い目をこじ開けもう一度スマホを確認するが、新着メッセの通知は来ていない。
(あぁ……)
「呑むんじゃなかった……」
乾いた口からかすれた声が出る。
久しぶりのアルコールに、少々飲まれた感はある。しかし残った記憶を手繰ってみても、特になにかやらかした覚えはない。左右に揺れるのは、酔った時の鹿乃江の習性に過ぎない。
(……読んだあと、寝落ちしちゃったのかもしれないし…)
だんだん覚醒する脳が、昨晩の記憶を呼び起こす。
触れた指先。熱っぽい視線。言いかけて遮られた言葉。
(……思い上がりじゃ……ないのかな……)
期待を交えた考えは、鹿乃江一人で答えが出せるものではない。
(ちゃんとお礼言えてないな……それに……)
ベッドサイドのミニラックに置かれた紫輝のキャップを眺める。
(……うん……)
意を決して、鹿乃江はアプリを立ち上げた。
『昨日はありがとうございました。』
『酔って変なことしていたらごめんなさい。』
『帽子とタクシー代、今度お返しします。』
勢いに任せて立て続けに送信する。
(今度……あるのかな)
画面を眺めながらため息をつく。と同時に、メッセに既読がついた。すぐに『大丈夫です!』という文字入りのイラストが届く。続けて文章。
『タクシー代のことは気にしないでください』
『それより、おうちまで送れなくてごめんなさい』
『帽子は今度会った時に返してもらえれば大丈夫です』
(今度、あるんだ……)
ふと口元が緩む。
『ありがとうございます。』
気持ちとは裏腹な簡素なお礼を送信すると、すぐに返信が届く。
『また、お店さがしておきますね』
『鶫野さんも、行きたいところ見つけたら教えてください!』
(今度、あるんだ)
紫輝からの返信に笑顔が溢れだす。
会えてうれしいと思える人がいる。いまはそれだけで充分だ。
連絡が来たらドキリと心臓が跳ね、会えるとなったらソワソワと着ていく服を選んだりする。久しぶりのその感覚は、やはり鹿乃江の心を躍らせる。
紫輝も同じ気持ちでいてくれたらいい。
鹿乃江はアプリを操作して、【マエハラシキ】の詳細画面に表示された星印をタップする。
空白だった星印の内側が塗りつぶされて、ウィジェット一覧に紫輝のIDが表示された。
(なんとなく……)
少しの言い訳。それでも、それがとても大切な儀式のように思えた。
* * *
意識の遠くから聴き覚えのあるメロディが聞こえる。
毎朝の習慣。
休日だというのに、解除し忘れた目覚ましのアラームに起こされた。
(うぅ……)
枕元に置いたスマホを操作し、アラームを止めて時間を確認した。
(……ねむい……)
夢の中に紫輝が出てきたような気がするが、記憶はおぼろげだ。昨日の夜の記憶とごちゃまぜになって、なにが現実でなにが夢かも判然としない。
眠い目をこじ開けもう一度スマホを確認するが、新着メッセの通知は来ていない。
(あぁ……)
「呑むんじゃなかった……」
乾いた口からかすれた声が出る。
久しぶりのアルコールに、少々飲まれた感はある。しかし残った記憶を手繰ってみても、特になにかやらかした覚えはない。左右に揺れるのは、酔った時の鹿乃江の習性に過ぎない。
(……読んだあと、寝落ちしちゃったのかもしれないし…)
だんだん覚醒する脳が、昨晩の記憶を呼び起こす。
触れた指先。熱っぽい視線。言いかけて遮られた言葉。
(……思い上がりじゃ……ないのかな……)
期待を交えた考えは、鹿乃江一人で答えが出せるものではない。
(ちゃんとお礼言えてないな……それに……)
ベッドサイドのミニラックに置かれた紫輝のキャップを眺める。
(……うん……)
意を決して、鹿乃江はアプリを立ち上げた。
『昨日はありがとうございました。』
『酔って変なことしていたらごめんなさい。』
『帽子とタクシー代、今度お返しします。』
勢いに任せて立て続けに送信する。
(今度……あるのかな)
画面を眺めながらため息をつく。と同時に、メッセに既読がついた。すぐに『大丈夫です!』という文字入りのイラストが届く。続けて文章。
『タクシー代のことは気にしないでください』
『それより、おうちまで送れなくてごめんなさい』
『帽子は今度会った時に返してもらえれば大丈夫です』
(今度、あるんだ……)
ふと口元が緩む。
『ありがとうございます。』
気持ちとは裏腹な簡素なお礼を送信すると、すぐに返信が届く。
『また、お店さがしておきますね』
『鶫野さんも、行きたいところ見つけたら教えてください!』
(今度、あるんだ)
紫輝からの返信に笑顔が溢れだす。
会えてうれしいと思える人がいる。いまはそれだけで充分だ。
連絡が来たらドキリと心臓が跳ね、会えるとなったらソワソワと着ていく服を選んだりする。久しぶりのその感覚は、やはり鹿乃江の心を躍らせる。
紫輝も同じ気持ちでいてくれたらいい。
鹿乃江はアプリを操作して、【マエハラシキ】の詳細画面に表示された星印をタップする。
空白だった星印の内側が塗りつぶされて、ウィジェット一覧に紫輝のIDが表示された。
(なんとなく……)
少しの言い訳。それでも、それがとても大切な儀式のように思えた。
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