てんぷれーと・てんぷてーしょん! 〜テンプレが起きないので、こっちから起こさせることにしました〜

kitatu

宴会(まえ)

 
 青紫と桃色の混じった空が草原の奥に広がり、伸びた草は影に黒くなっている。夕暮れの涼しい風が吹き、汗がさらわれて、落ち着いた爽快感を得た。


「よし、今日はここまで」


 演技の練習をする男達に、気分良くそう言った。


 僕が演技を実際にして見せると、男達の演技は驚くほど上達した。モチベーションの上昇が影響し、日が暮れるまで休まず練習したにも関わらず、集中力が続いていた。その結果、本番で通用しそうだ。


 朝ゴタゴタ言われた時には、イライラして仕方なかった。だが今は苛立ちなんて一切ない。ただただ、大きな満足感に満たされている。


「いいのか、もう終わりで?」


「ああ。俺たちはまだまだやれるぜ」


 男達の言葉に、鼻の奥がツンとした。目頭が熱くなるのを感じながら、感情の赴くままに言葉をはく。


「大丈夫、もう本番に挑んでも問題ないくらい上達したよ」


「そうか?」


「勿論。1日通して頑張ってくれてありがとう」


 男の一人は、恥ずかしそうに人差指で鼻の下を擦った。


「へへ。何だか恥ずかしいぜ。だけど、あんたの為だ。こんくらいのことはわけないぜ」


 朝とは別人の反応だが、そんなことどうでも良かった。


 僕もやり遂げた爽快感に浸っているが、男達も同じ感覚を共有できているように思える。


 単純に嬉しい。こんな時は美味しいものでも食べてさせて……そうだ!


「お前達ちょっと待っててくれ!」


 僕は創造魔法でバーベキューセットを作り出した。さらに、パラソルのついたテーブルセット、その上には食器類と、トレイに載せた肉、野菜、海鮮などの豪華な食事。そしてなにより、美味しい酒を用意した。


 突然現れたものに、男達は目を丸くする。やがて恐る恐るといった様子で近づいてきた。


「これは?」


「頑張ってくれたお礼さ!」


「と、いうことは、これ全て俺たちが食べても?」


 僕がこくりと頷くと、全員が歓喜の声をあげた。草原いっぱいに喜びの声は広がり、綺麗な夕暮れの空に吸い込まれていく。これまた、爽快感に似た心地良さ、心温まる感覚を覚えて、僕の口元は勝手に緩む。


 手早く火を起こす。金網越しの炭からぱちぱちと音がなり、良い香りの煙がゆらゆらと立ち上る。夜の寒さを覚え始めた敏感な肌に、緩急がついた火の暖かさが伝わって、とても気持ちがいい。


「さあ! 焼いて、食って、飲んで!」


 再び歓声が湧き、男達は我先にと食材を金網に載せ始めた。


 全員が喜んでいる様子を見ていると、自分も満たされる。やって良かった。


「じゃあ、僕は帰る。次に会うのは本番、明後日の朝にまた会おう」


 帰ろうとすると、老人に腕を掴まれた。


「何言ってるんじゃ。お主がいなくてどうする?」


 老人に続いて声が上がる。


「そうだぜ! 俺たちと一緒に楽しもうぜ!」


「ああ! 主役がいねえと話になんねえ!」


「誰が俺たちに与えてくれたんだよ。恩人が楽しめないんじゃ、こっちもつまらねえだろ」


 男達は純真な笑顔を向けてきた。気遣いでなく、本心で引き止めてくれたことがわかる。


 少しの間動けなかったが、照れ隠しに頭を掻いて憎まれ口を叩いた。


「仕方ねえなぁ! この馬鹿どもめ! お前らの分が減ると思って引いたのによ! こうなりゃ、食べれるだけ食ってやる!」


「あ、おい! ふざけんな!」


 焼いた肉の争奪戦に加わり、足や手を引っ張り会う。全員口も態度も悪い。だけど顔には、曇りのない笑顔が浮かんでいた。





コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品