てんぷれーと・てんぷてーしょん! 〜テンプレが起きないので、こっちから起こさせることにしました〜

kitatu

演劇の練習2

 翌早朝。若葉が雫を垂らし、緑香る時間。登り始めた朝日は地平線から顔を出し、野原を煌めかせている。


 僕は、基地のハッチを開けて入り、中の魔導ランプを点けた。


 広めに作られたリビングには誰もいない。奥から物音もしないので、逃げているか、寝ているかだが、早朝であることを鑑みると、後者の方が可能性としては高いだろう。


 僕はリビングの奥の扉を開け、各自の部屋へと繋がる廊下へと出る。


 すぐに演技の練習を始めるため、起こして回りたいのだが、いきなり起こしてやる気を失われないか、男達の反応が怖い。


 僕は逡巡したのち、エイリカといれば男達の憤りも緩和するのではないか、と考え、まずはエイリカを起こそうと決めた。そんなわけで、エイリカの部屋の扉を開く。


 部屋はクローゼットとベッドだけ。まだ初日なこともあって片付いている。綺麗で整っていると言えばそれまでだが、エイリカくらいの少年の部屋だと鑑みると、殺風景とも言える。


 まあ、どうでも良いけど。


 僕は、ベッドの上でゆっくりと上下する毛布を引っぺがし、声をかける。


「おい、朝だぞ。起きろ」


 僕がそう言うと、エイリカが寝ぼけた目を猫が顔を洗うようにこすりながら、こっちを見てきた。段々とエイリカの瞳は大きく開かれていく。


「うわあああああ!?」


 突如、エイリカは悲鳴を上げた。そして、着崩していた寝巻きの胸部を掴みながら、慌ててベッドの奥へと身を寄せる。


「なんだよ。女子供みたいな悲鳴を上げて」


「び、びびび、びっくりするよ!?」


「うるさい。ほら、早く他のやつも起こしにいくぞ」


「うぅ……」


 不満げにしながらも付いてくるエイリカと共に全員を起こし、身なりを整え外に出てくるように、と伝え、僕は一足先に外へと出た。


 深呼吸して朝の新鮮な空気を吸い込み、気持ちを落ち着ける。


 昨日帰ってから、休む暇なしで演技の練習をしてきた。それは、エイリカに「同じ絵が見えていない」と言われ、「絵が見えていないのなら、具体的に見せてば良い話。実際に演技してみせて真似させればいい」といった思考に至ったからである。


 演技の経験がない僕は、最初全くできなかった。余りの自分の大根っぷりに、挫けかけた程である。だが僕は諦めず、あらゆる魔法を使い尽くし、今日の朝まで休みなしで練習した。その結果、なんとか、それなりの演技を身につける事に成功したのだった。


 努力した分、気が逸る。だけど、表に出してやる気を削がないようにしないと。


 僕はもう一度深呼吸して、皆んなを待つ。


 ーー10分経った。誰もこない。


 チュン、チュンと煩わしい鳥の鳴き声を聞いて、登りゆく朝日を眺める。


 大丈夫、朝早いからな。うん、こっちが無理やりにやらせようとしてるんだ。待たないとなぁ。


 ーー30分経った。誰もこない。


 二度寝してるんだろうな。仕方ない、朝早いから。


 いやうん、こっちの都合で付き合わせてるんだ。30分くらいでうだうだ言ってるようじゃ、ただの嫌なやつだ。


 ーー1時間経った。誰もこない。


『ああうん。良いよ全然、怒ってないから。さあ、皆んなで練習しよう』こんな感じで言えば良いかな。上手く笑顔も作らないと。昨日寝ずに演技の練習をしたことがすぐに活かせられるなんて、ワア、ラッキーダ……。


 ーー2時間経った。僕はハッチを開けて中に入った。


「おっせええええ!!」


 思いっきり叫んだ。階段を駆け降りてリビングに行くと、みんなはテーブルを囲んで朝食を摂っている最中だった。


「うるさい。食事中に大声を上げるなんて、なんて不躾な野郎だ」


「はあ!? 人を2時間も待たせる奴は不躾じゃないのか!? そもそも悠長に飯食ってんなよ! 2時間かけて食い続けるなんて何!? 枯葉食べるダンゴムシなの!?」


「いや、ダンゴムシでいいなら、もっとゆっくり食べるけど?」


「屁理屈を言うんじゃねえ!」


 クッソこの野郎ども。明らかに昨日のことを引きずっていて、やる気のかけらも見られない。


 もうイライラし過ぎて、なんかどうでも良くなってきた。わざわざ演技させずとも、エイリカを人質にとって無理矢理に襲わせよう。こいつらが、死のうが、生きようが、もう知らない。


 そうと決まれば、相手の事なんか考えず、飲み込んできた言葉を全部ぶつけて気持ちよくなってやる。


 募った不満をぶつけようと口を開きかけた時、エイリカが声を発する。


「あ、あの!? その隈……もしかして、寝ておられないのですか?」


「え、あ、ああ、うん」


 予想外の言葉が飛んできて、少しどもってしまった。


「その、もしかしてなんですけど、昨日僕が、絵が見えない、って言ったから、見せてくれるために?」


「う、うん」


 僕が頷くと、エイリカは目を輝かせた。


「やっぱり!! 皆んな! 今から演技を頑張ろう! この人は僕達の為に、寝ないで演技を練習してきてくれたんだよ!」


「エイリカ様、どういう事ですか?」


「ほら! 僕達がどうしていいのかわからないって言ったよね? それでこの人は僕達に見本を見せてくれる為に、徹夜で努力してくれたんだよ!」


 エイリカがそう説明すると、男達も目を輝かせた。そして、頭を下げてくる。


「お前にとっちゃ俺たちなんて、死んでも良い存在なのに。すまねえ、そこまでしてくれるなんて……」


「ああ、そうだ。不貞腐れてる俺たちに演技を身につけさせるより、エイリカ様を盾にとって、襲わせた方が楽なのに、苦労してくれたなんて。お前は本当に良い男だな」


「俺たちが悪かった。早速演技を見せてくれ。すぐに上手くなってみせる!」


 男達が急にやる気を取り戻し、僕は、とてつもなく微妙な心境に至る。


 いや、まあ、うん。最初は、こうなって欲しかったから良いんだけど。それでも、それでも、なんだろうか……。


「さあ、早速演技の練習に向かいましょう」


「……うん」


 僕はエイリカに手を引かれ、重い足取りで外へと出た。



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