てんぷれーと・てんぷてーしょん! 〜テンプレが起きないので、こっちから起こさせることにしました〜

kitatu

賊の住処を作ろう! part2

 
 これはどうだ、あれはどうだ?
 この部屋はこうしようぜ!
 あれがあればよくないか?
 滑り台とか作るか?
 天才かよ!


 やる気を漲らせた男達と頭を合わせ、きゃっきゃしながら地面に設計図を描いていた。使用しているのは木の棒で、一本、また一本と線を引いていく。


 気がつけば陽はもう頂点を過ぎていた。楽しいときはすぐに過ぎるものである。それは男達も同じで、目を爛々と輝かせており、老人ですら喋りっぱなしであった。暇そうだったのは、小川で石を投げているエイリカくらいのものである。


 エイリカくらいの年頃の少年であれば、僕たちなんかより心を弾ませる筈だというのにつまらない奴だ。まあ別に、約束で賊と関係することはやらせるつもりはないから良いんだけど。


 昨日、エイリカに対して「あ、ああ本当だ!! エイリカ、お前が僕を満足させるような賊になれたらな!!」と、全員の無事を約束する嘘をついた。


 その後全員を解放すると、男の一人がこっそりと「エイリカ様に危険な賊の真似事をさせるなんて、話が違う」と耳打ちしてきた。
 僕は「言ったが、あれは納得させるためにやったことで関係はない。いくらあいつが努力しようと、襲撃に参加させるつもりはない」と本音で返したのだった。


 そういうわけで、エイリカが何してようと僕には関係がないのだ。


 やがて設計図が完成し、僕は6本のシャベルをつくり出した。これで今日使用可能な魔法はラスト2回となる。が、気にしない。設計図通りに型を嵌める魔法と帰りの移動魔法の分さえ残せればそれで良いからだ。


 僕は出来たシャベルを男達に渡し、最後の一本を自分で持つと口を開く。


「とりあえず、今から設計図の壁の部分を固める」


 僕は地面に描かれた設計図を見ながら、壁や柱となる部位がコンクリートや鉄となるイメージを脳裏に描く。空想が鮮明な映像として固まった瞬間、魔力を放出した。すると一瞬だけ地が震えた。


 最初に掘った穴の中を見ると、壁や地面は乾いたコンクリートで固められている。さらに見渡すと、未だ土が残されている箇所が存在していた。


「成功だ! それじゃあ、この設計図通りに掘り進めるぞ!」


 まずは階段となる部分を掘り起こすため、穴の上から土をシャベルで削っていく。突き刺しては、力を込めて掘り、シャベルに乗った土を後ろへと投げる。たった数回で腕が痺れそうになるほどの作業。それでも、完成した時の喜びを想起して、止まってはいられない。


 男達も老人も僕の横に並んでシャベルを地面に突き立てた。彼らは凄い勢いで掘り進んでいく。僕の体は子供で彼らは大人。そんな理由では説明出来ない程、彼らはとんでもない速さで土を削っていた。既に顔は真っ黒に汚れ、降りた時には真っさらだったコンクリートの上には、シャベルから溢れた土で山が出来上がっている。


 思った以上に彼らの腕力は強かった。やっぱり彼らならば、侯爵令嬢の護衛もすんなりと倒してくれるに違いない。


「あ、あの〜〜!?」


 背中に声が届いた。無視して掘り進めようかと思ったが、土をかけるのも憚られたので構ってやることにする。


「なに?」


 小川で石を投げていたエイリカは、僕たちの様子を見て駆け戻ってきていた。


 僕は作業の邪魔にならないように、エイリカに歩み寄るようにして穴から離れる。


「ぼ、僕も手伝います!」


 エイリカは僕の前まで来ると膝に手をついてそう言った。肩で息をしており全力で走ってきたことは明白で、無自覚な誠意って奴を感じる。だが、作ったシャベルは6つ。ちょっと走って疲労の色を見せるエイリカができる事はない。


「いや、無理だよ。だって6本しかないし」


「あなたの分を僕がやります!」


 あの男達の前じゃ僕も戦力にはなっていないが、エイリカがやるよりは僕の方がマシだった。


「う〜ん、僕の方がまだ掘れるからなあ」


「いえ! 僕は一生懸命やりますから! だって貴方の役に立たないと皆んなの命が!」


 うっ。エイリカについた嘘が再び心に刺さる。


 エイリカが頑張れば頑張るほど、僕の罪悪感ゲージにダメージが溜まる。幼き子の必死の頑張りに酬いることができないのは非常に気持ちよくない。それどころか裏切るなんて人として恥ずかしい。


 エイリカの蒼と翠の瞳は強い光を放っており、強い意志を感じる。これは本当にシャベルを渡せば僕以上には働きそうである。これは渡すわけにはいかない。


「へえ、そう言うなら、さっきはなんで設計に参加しなかったの?」


 僕がそう言うと、エイリカはバツの悪い顔に変わる。


「うっ、だって、話についていけなくて……」


「ついていけない? それはおかしいなあ? 君達の住居を作ろうって言うんだ。なぜ張本人の君が考えない?」


「いや、最初は僕も嬉しかったし感動したよ。でも冷静になって考えると、賊の、しかも1週間だけの住処に滑り台とか訳がわからなくて」


「ぐっ……」


「それに張本人の僕より、貴方がなんだか楽しそうで。むしろ、貴方が作りたいから……」


「カンのいいガキは嫌いだよ!!」


 僕はそう言って、エイリカにシャベルを突きつけるように差し出した。


 クソ、こいつと居ると本当に気持ちよくない。的確にダメージを与えて来るし、口で勝てそうもない。


「あ、あのカンが良いとはどういう?」


「うるさい! 早くいけ! しっし!」


 僕はおずおずとシャベルを受け取ったエイリカに向けて手を払った。


 エイリカは不思議そうにしながらも穴に向かっていき、シャベルで地面を掘り始めた。掘る速度は僕がやってた時よりも速く、有言実行している。


 ああ!! 全くもって気持ちよくない!!


 だが、ルーテ様(ヒロイン(CV:人気女性声優))に惚れられるまでの我慢だ。あの素敵な美少女であるルーテ様に惚れられた時の嬉しさや優越感、後は救ってくれてありがとうという各所からの感謝は、今の鬱屈としたものを全てを吹き飛ばしてくれる事だろう。


 いや、今我慢している分、もっと欲張っても良いかもしれない。


『ルーテ様の護衛を倒した猛者を一瞬で倒すなんて!?』的な俺つええ的なものも貰おう。そう言われたら僕は、『ええ!? あの賊、そんなに強かったんですか!?』みたいなことを言おう。


 やばい、気持ちいい。これは悪魔的に気持ちいい。な、なんて奴だ、的な展開になって、王様に報告されて、国から重宝されるパターンの奴になるかもしれない。うへへ。


 そんな妄想に口をふやふやにしながら、工事の様子を眺めていると、エイリカがシャベルを突き立てた瞬間、固い音が鳴り、体が揺らいだのが見えた。シャベルから伝わる衝撃に手を離したどころか、バランスを取ろうとふらついた足は穴の方へ進んでいく。


 あの馬鹿!!


 僕は咄嗟に移動魔法で穴の中へと転移し、降って来るエイリカをお姫様抱っこのように受けとめる。が、重い衝撃が伝わってきて膝が崩れ、押しつぶされるように背中から地面に倒れ込んた。


 車に轢かれたような衝撃が身体中に響く。鳩尾を殴られた時みたいに肺が押しつぶされて息ができない。


 かろうじて空いている目は、穴の上から心配そうな顔をしている男達が何事か言っている。が、苦しすぎて聞こえない。


 体の上に乗っていたエイリカは、何が起こったのか理解していないのか、ただ静かに腕の中で収まっていた。

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