異世界転生で貰ったチートがTS魔法少女変身能力でしたがこの世界で頑張るしか無いようです 

ベレット

58 回想 高校生編 前編

「プウプウッ!!」


「ちょっ!?おい、くー静かにしろって!!特別に許可貰ってるんだから!!」


折角の入学式だってのにくーが俺の服の内側で動き出した。


校長先生のご挨拶が始まってからというもの退屈極まりなく、余り普段身動きしないくーですらもぞもぞしだした。


俺も何度、えー、だの。そのー、だの聞いたか分からずついには暇潰しで数えだす始末。


正直辟易してしまう所だ。


「相変わらずその兎、伊織くんにベッタリなのね。....むかつくわ。」


「いい加減くーに嫉妬すんの止めろよ。なんで動物と張り合ってんの、お前...」


「それはそうでしょう?好きな人に自分以外の奴が触れるなんて嫌だもの。本当は衣音さんや紫音さんとも話してほしく無いぐらいよ。」


家族とも話すなとかこいつ頭おかしいんじゃないか?


「お前何言ってんの?頭大丈夫か?」


「だってあなたの事独占したいんだもの。悪い?」


「はは...悪いだろうな。普通に考えて。」


乾いた笑いを出している時だった。


ようやく校長先生の挨拶が終わり次に進むようだ。


「えー、では3年生代表、前へ。」


「はい。」


体育館の前側に並ぶ席の1番前の席から腕章をつけた男性が立ち上がり、壇上へと上がる。


そしてマイクに手を添えると歓迎の言葉を並べ始めた。


「生徒会の人かな?」


「そうでしょうね。」


「相澤は生徒会入るんだよな?書記だったか?」


「ふふ、そうよ。覚えててくれたの?嬉しいわね。」


こう可愛らしく笑う相澤ならある程度許容出来るのだが大体その後に余計な事を言うのがこの女だ。


「あなたに想って貰えてると思ったらお腹の奥がきゅんきゅんしてきたわ。」


「バカなの?所構わずそういうの言うなよ。」


両隣に座っている生徒が恥ずかしさの余りに顔を真っ赤にさせている。


物凄い居づらい...頼むから普通にしてくれんかな...


「ではこれより、入学生の挨拶に移ります。一年生代表、相澤永遠さん前へ。」


「え?」


「ふふん♪」


生徒会長らしき人が相澤の名を呼ぶなりどや顔を表しながら立ち上がった。


そして俺を一瞥し、すたすたとモデルのように肩で風を切りながら優雅に壇上に上がっていった。


相澤の芸能人の様なその容姿に場がざわめき立つ。


「うわー。綺麗な人ー。」


「あれが同級生なの?なんかレベルが違うってゆーか。」


「彼氏居んのかな?居ないならアタックしちゃおうかな?」


「止めとけよ。どうせ振られるだろ。」


先程までの荘厳とした入学式はなりを潜めまるでアイドルでも学校に降臨したかのようだ。


性格はあれだが、知らない人から見たら見た目だけは完璧だからモテるのは当然だろう。
まああの性格が露見してから中学校では皆遠巻きに見ていたけど。
外見も大事だが中身も大事なのだというのが良く分かる。


それはそうと誰か相澤を貰ってくれんかな...


壇上に上がった相澤と目が合いそれを合図にするようにスピーチでもするように名称が分からんマイクのセットしてある机みたいなのにバンッと思い切り両手を叩きつける。


その行動に体育館が静けさに覆われた。


「私達一年生はこの学校にふさわしい生徒になるように日々勉学を...」


何故そこで途切れる?....嫌な予感がしてきた。


「等とつまらないことはどうでもいいわ!!私達は勉強みたいなつまらない事ばかりするだけの為に入学したのかしら!?答えは否よ!!そう!!私達高校生がやるべき事は他にある!!それは青春を謳歌すること!!」


あいつ、やりやがった...やっぱり相澤永遠はイカれてやがる!!


教師陣は呆気にとられ、生徒会の面々は何やらウケているのかクスクス笑っている。


そして肝心の生徒達は皆一様にまるでライブ会場に居るかのように騒ぎ立て始めた。


「きみぃ!!何をしとるのかね!!」


勿論教師が数人程止めに入るがヒラリと身をかわし。


「そして私は恋をしたい!!皆はどうかしら!?高校生でしか味わえない恋がしたいでしょう!?」


言い放ったその言葉に「うおおーっ!」だの「きゃああーっ!」だの騒ぎが大きくなりもう収拾がつきそうに無くなっていた。


「あいつはバカかーっ!!あー!もう!!」


パイプ椅子にもたれ掛かりながら天井を見上げ顔を両手で覆っていると廊下に繋がる2つの出入り口扉の一つの近くにいた相澤の両親と衣音、母さんが目に映る。


妹は大爆笑し、相澤母は気を失い相澤父にもたれ掛かっており、相澤父は支えながらも顔を青くして、母さんは心配そうにおろおろしていた。


ふと前後左右からの視線に気付き首を回すと先程までの俺と相澤のやりとりを聞いていたのか視線が集まっている。


恐らくは俺がどうするのか期待しているのだがあいつと同族と思われたくは無い...無いのだがあのバカにこれ以上俺の生活を乱されたくない。


第一相澤のお父さんとお母さんが不憫すぎる。


「あー、もう!!分かったよ!!くそっ!!」


俺が止めなきゃなら無いんだろう?と憤りを感じつつわざと足音を大きくさせながら壇上に続く階段に歩き始める。


「相澤永遠ぁっ!!このバカ!!何やってんだ!!今すぐ先生方に謝れ!!」


怒りを露にした俺の怒号にあれだけ騒ぎ、興味深げに視線を送っていた生徒達が静まり返る。


だが俺の言葉など異にも介さず、指を指さしながら堂々と言い放つ。


「私がこれだけ騒げば出てくると思ったわ!!伊織くんの行動パターンはお見通しよ!!」


「うるせえっ!!それもう渡せ!!ちょっ、避けんなっ!!やめっ!ライブパフォーマンスかっ!!お前ほんといい加減にしろよ!!」


「プウプウ!!」


くーとのコンビネーションで追い詰めようとするが中々捕らえられず、ダンスの様にヒラリヒラリとかわす相澤に渾身の力でツッコミをすると場がドッと笑いに包まれた。


俺はコントしに来てんじゃねえんだよ。
マジギレした俺を見ながら相澤は口を邪悪に歪ませた。
そこではっとし、冷静になる。
何故相澤はわざわざ俺を挑発するような行動をした?
その理由は相澤の言葉ですぐに理解出来た。


「皆!!紹介するわ!!この人が私が何年も片想いしてる人!!井坂伊織くんです!!」


「.........」


やりやがったーーーーっ!!
こいつマジか!!


今更ながら止めに入ったのを後悔する羽目になった。
何故ならこの女、わざと俺を矢面に晒すことで今からするであろう告白を断れなくするつもりだ。


冗談じゃない。俺はもう戻るぞ...と踵を返そうとしたその時、相澤が言い放った。


「はあ...お前の遊びに付き合う暇は無いんだよ。じゃあな。」


「待って...私は本気よ、伊織くん。あの時から...ずっと気持ちは続いてる。それどころか前よりももっと好きになったわ。...だからお願いします。私と付き合ってください。」


いつになく神妙な顔つきでしてきた告白に若干心を揺さぶられ、相澤を真っ直ぐ見ると肩が震えている。


また振られるかもしれないと怯えているのだろう。


だからって付き合うとは言えない。
自分の信念に反するし、何よりもこんな方法でなし崩し的に付き合ったとして意味はあるのか?
そう思えて仕方なかった。


「俺は...お前とは...」


断ろうとそこまで言い終わるとボソボソとひそひそ声が聞こえ、その内容に心を締め付けられる。


「まさか振らないよね?ここで振るとか有り得なくない?」


「振ったら普通に屑でしょ。SNSに書き込んでやろ。」


これもし仮に振りでもしようものなら社会的に抹殺されるんじゃない?
もう選択肢も逃げ道もない。
俺は覚悟を決めた。


「分かったよ...お前と付き合う...これでいいか?」


「ええっ!!勿論よ!!嬉しい!こんな嬉しい事ってあるのね!!」


「ちょおおおいっ!!」


涙を浮かべながら抱きついてこようとした相澤を押さえつけていた時だった。


感動したのか、告白する前に振られたからかは知らないが皆涙を流している。


何故か生徒会の人達や先生方もだ。
何なの?この学校...来るところ間違えたかな...


「おまっ!!止めろ!!すっ飛ばしすぎだろっ!!....ん?何の音...うああっ!!俺はそういうのまだ早いと思います!!つーか力つよっ!!どんな握力してんだ!!」


「ちょっとだけ!!さきっちょだけだからっ!」


「くそウケるんだけど。」


「あらあら。あの子ったら。あんなに愛されてるのに何が嫌なのかしら?キスぐらいしてあげればいいのに。」




母さんと衣音さんちょっと黙って貰えます!?


すると心の声に呼応するかのようにガタンとパイプ椅子が倒れる音がしたのでその方向を見ながら無理矢理キスしてこようとする相澤をゾンビと戦うが如く、左腕を相澤の喉元にストッパーの様に置いて抵抗していると。


「あのさー、嫌がってるんだし止めたら?っていうかさ、なーんかやり方小ズルくない?」


見覚えのある女の子が眉間に皺を寄せながらこちらに近づいてきていた。


「つうかさ、その前に伊織くんは私のダーリンだから。取らないでくれない?」


「はあ?何であなたが出てくるのよ。彼から離れなさいよ!!」


「なんで君の言うこと聞かないといけないわけ?意味分かんないんだけど。あっ!!伊織くんに触らないで!!」


「それこそ言われたくないわよ!!」


「ちょっ!!ちょっと!!」


グラビアアイドル兼女子高生の緒川楓がおもむろに俺の腕に絡み付きながら相澤を威嚇していた。


相澤も対抗して反対側の腕に抱きついてきていた。


俺は俺で突然の出来事にフリーズしてしまったが両腕に感じる膨らみに違う意味で身動きできないで居るとパンパンと背後から手を叩く音がした。


「そろそろ入学式らしくしようか。君たちは向こうに言ってくれるかな?」と先程歓迎の挨拶をしていた生徒会長さんが階段下を指を指す。


その方角を三人揃って見てみると腕組みをした怖そうな教師が俺たちを睨んでいた。


「お前たち!!今すぐ職員室に来い!!説教と全校の掃除の罰だ!!」


「「「はい....ごめんなさい...」」」


俺達はとぼとぼと階段を下りた瞬間、生徒指導の先生に連行された。


その間にも二人はいがみ合っており、俺は...


「もういや...」


と、一人寂しく呟くのだった。


余談だが全校清掃は一月にも及び、入学して早々に俺の悪名は留まる事を知らず校内に広まっていった。


女子からは二股野郎の女の敵、男子からは屑だと言われ、教師からは問題児扱いされ入学して早々に前途多難である。


だが一つ言いたい。
俺のせいじゃないだろ、今回は。


唯一の癒しであるくーは俺の乳首を何度目かの甘噛みをしながらお腹をまさぐってきた。


最近くーが変態じみてきた行動をし始めたのはきっと相澤のせいだと思う。

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