異世界転生で貰ったチートがTS魔法少女変身能力でしたがこの世界で頑張るしか無いようです 

ベレット

38 フタリニトッテノエイユウ テンサイノオッタキズ

懐かしい夢を見ている....


まだアリアとガレトが隣にいて皆で遊んでいた4年前の夢...


この頃は幸せだった...いや幸せだと気づかないくらい謳歌していた。


だからこそ、僕の犯した過ちは消えることは無いのだろう。


~現代から4年前~


当時13歳だった僕は今のような後ろ向きな性格ではなく、どちらかと言えば前向きな性格だった。


僕とアリアが付き合っているのは仲間で知らない人はいなかったが、元々僕、アリア、ガレトが最初のメンバーなので、シンオ達がいない間に挙式の予行練習をする事になった。


「お互いを愛し合うと誓えますか?」


「誓うに決まっているわ!あたしとラケルタは運命の赤い糸で結ばれているもの!」


「はは...うん。誓うよ。僕はアリアを一生大事にします。」


僕達三人だけの秘密の花園で将来しようと思っている結婚式を子供の知識でやってみることにした。
それは見事に滅茶苦茶で、アリアの熱い想いやガレトの緊張した面持ち、僕の嬉し恥ずかしの表情...本物とは遠すぎるものだったが、僕達にとっては掛け替えの無い時間だった。


「あー、何だっけ...ああ、そうそう。じゃあ誓いのキスを....ってアリア!がっつきすぎだろ!」


「んー。ぷはっ!良いじゃない!母さんも強気でいきなさいって言ってたもの!」


「んん!はは...アリアはいつも情熱的だなあ。」


いきなりキスをされるのも、それを見たガレトが慌てふためくのも、そしてそんな二人を宥める僕もいつもの光景で、それがずっと続くと思っていた。


「ガレト...良かったのか?僕がアリアと...」


「おいおい、ラケ!お前以外は絶対に認めねえがな、お前なら良いって言ってんだろ!?ラケはつえーし、頭いいし。何よりアリアを幸せに出来るのは俺なんかよりお前だからな。だから良いんだよ。」


疑似結婚式が終わり、アリアは僕とお揃いの木彫りの髪飾りを丹念に拭き、僕とガレトは話に夢中になっていた。


「だからよ。お前ら幸せになれよ?」


だがはにかみながらそう告げたガレトの表情は少し寂しそうで僕も少し悲しかった。
だから自分の気持ちを伝えることにした。


「うん。アリアを幸せにするよ。だけど僕とアリアだけじゃ僕らは幸せになれない....。だって僕達にはガレトが居てくれないといけないからね。それともサヨナラするつもりだった?」


「ラケ...お前...」


ガレトは涙を拭きながら僕の肩に手をおいた。


「当たり前だろっ!?まあお前らにゃあ俺がいないと駄目だかんなっ!死ぬまで一緒にいるから覚悟しろよっ!」


「はは...これからもよろしくね。ガレト。」


僕達はお互い笑い合い固く熱い握手を交わしていると、髪飾りをつけ直したアリアがガレトの左隣に座るなり。


「そうそう、ガレトにはあたし達の幸せにしてるの見守ってくんなきゃね。あとあとあたし達の子供が出来たら名付け親にもなって貰わなきゃだし!」


「は!?何だよそれ!聞いてねえぞ!」


「今いったもん。」


目を剥き出しにしながら驚いているガレトに頷き。


「うん。僕からもお願いするよ。アリアも僕もガレトが大事だから。」


「ラケ...アリア...」


彼は少し俯き考えていたが、決心したのかガバッっと立ち上がり。


「おっしゃ!任せとけ!俺が最高の名前考えてやるよっ!」


「任せたよ、ガレト。」


「良い名前宜しくねっ!」


「おうっ!」


そんな風に久しぶりの三人の時間を堪能している時だった...急に虫の鳴き声が止み、風の音も聞こえなくなり、僕の肌がピリピリと違和感を感じ始めた。


そしてザッと音をたてながら勢い良く立ち上がり。


「どうした、ラケ?」


「静かに...何かおかしい.......!?おいっ!そこにいる奴出てこい!」


「え?誰か居るの?」


僕が帯刀していた長剣を引き抜くと木々の合間からローブを纏い、フードから覗く紫色の唇をした怪しげな女が現れた。


その異様な“存在”に恐怖感が涌き出て咄嗟に剣を構える。


「何者だ!名乗れ...何処に......!?」


「ラケ!後ろだっ!」


「ラケルタ!逃げてっ!」


瞬時に詰め寄る距離にいない筈のそいつが僕達三人の中心...僕の真後ろに一瞬にして移動していた。


「くっ!はっ!せやっ!」


「ふふふっ!なかなか良い反応ね?これは面白い玩具になりそうね?」


「何を言って!」


振り返り様の剣戟を避けられたが、逃がさないように逃げ道に剣を小振りにしつつ、後ろに引いた瞬間の足が宙に浮くその一瞬の隙を突き。


「もらった!奥義!〈連覇狼鋭斬〉!」


「よっしゃあ!ラケだけが使える竜神一族最強の剣技だからな!これは避けらんねえだろ!」


特殊な歩法交えた8連撃の剣戟を四方八方から繰り出した。
だが、一つとして当たった感覚がなく、最後の一刃がからぶるとその合間を縫ってその女の右手が僕の頭を覆うように掴み。


「う、嘘...」


「ラケ!」


「じゃあさようなら。私の知る中で最強の剣士さん?」


「二人とも...逃げ...」


そこで僕の意識は途切そうになった。
その状況でも諦めなかったからか身体が変化していく感覚はあり、頭には自分の今の有り様が理解できた。
それは話に聞く先祖返り...魔獣化で、牙が生え左腕は竜種の外郭を為し初めており、自分の身体が何かに支配される感覚に包まれていく。


「なに...してるんだ...二人とも...早く逃げて...」


「い...いや...」


「ラケを置いていけるかよっ!」


何とか僕を助けようと立ち上がろうとするがその女のローブの下から形容しようがないが敢えて言うなら『闇』が這い出て二人の身体に触れようとしていたのを目にし。


「逃げろよっ!頼むから...頼むから逃げてくれよ!」


「ラケルタを置いてなんていけない!」


そう叫んだ僕をアリア助けようと闇に手を伸ばそうとしていた。


「駄目だ!何やってんだ、ガレト!ガレト、アリアを連れてけっ!」


「ラケ...すまんっ!アリア来るんだ!アリア!」


「い、嫌!離して!ラケ!ラケルタ!」


何とか連れ出そうと懸命に腕を引いたガレトだったが、努力の甲斐なくアリアが手を振りほどきこちらに近づいてきた時だ。


「アリア....?アリア!そんなっ!」


「ラケ...ルタ?...う...あ...」


「そ、そんな....嘘だ...嘘だ嘘だ嘘だあああっ!」


「ふ、はははははっ!そうこれよ!ああ、美しい!!これこそ生命の真骨頂!愛するものを殺す時のその感情!ああ、素晴らしい!これこそが私の求めた時間!」


ローブの女が狂っているのもお構い無しに自分のアリアを“貫いた”左腕を見つめる。
そこからは血が滴っておりその光景に目眩がする。
そして僕の中の何かが囁いた。


『飲まれるな』と。


僕はこの声が何なのか理解できなかったが飲まれたらきっと助けることだって出来ないだろうと変異していた身体を力ずくで抑え込んだ。


「うああああああっ!!ああっ!はあはあはあ!アリア!アリア!そんな...くそっ!くそっ!どうしたらっ!」


「だ、大丈夫だからラケルタ...ギリギリ急所は外したから...」


「今すぐ治療すれば助かるっ!」


身体が治り直ぐ様倒れて血を流すアリアに駆け寄ると背後から声がした。
それも腸が煮え繰り返る程の...汚い笑い声が。


「きゃははははっ!あなた何?何なの面白すぎるわっ!普通あそこから戻れないのにどういう事!?あははははっ!...ん?この感じ...ああ、そう言うこと...貴方今回で何回生まれ変わってるのかしら?」


「な、にを言ってる...あんた一体何なんだ!何が目的で!」


怒りを顕にした表情で問いかけるがその飄々とした態度でかわされてしまい。


「さあ、何かしらね?それじゃあね?転生の継承者君?」


「ま、待てっ!」


逃げようとしているそいつに腕を伸ばすもすり抜けてしまい、影も形も失くなってしまった。


呆然としているとガレトが。


「おい、ラケ!今すぐ谷に帰るぞ!」


「あ、うん!急ごう!」


僕達はアリアを二人で抱えて谷に戻っていった。
僕が怪我を負わした旨も全て話したが「ラケルタのせいではない」と不問とされた。


それに安堵しつつも少しでも罰せられるべきなのでは?と思いながらも修行に打ち込み下らない考えを振り払おうと剣を抜いたのだが...


「な、何で...そんな...はは...嘘だろ、剣を握るのが怖いのか?僕は...」


僕は剣が握れなくなり、次第に戦うことその物を畏怖するようになっていった。


それから時が経ち...


~現代から二週間前~


「やはり症状が悪化してますな。やはり四年前のあの怪我が原因かと。」


「そ、そんな...あなた...」


「くっ!」


「アリア...すいません、おじさん、おばさん僕のせいで...」


魔獣化した一件で受けた傷は完治しているもののその際に体内の魔力器官が壊れ魔獣化までは至らないまでもこのままだと近い内絶命してしまうらしい。
その事実に僕が押し潰されようとしていると。


「君のせいではない。悪いのはそのローブの女だろう?」


「そうよ?貴方はずっと娘に良くしてくれたわ。感謝しているもの。」


「ありがとう...ございます...」


どれだけ慰められ、許されようとも僕の中の後悔と罪は消えやしない。
すると見かねた医者や両親が二人でいなさいと部屋を後にした。


「アリア...」


椅子に座り彼女の手をとった時だった。その女はまた現れたのだ。


「あらあら、死にそうね。まあいい実験台にはなるでしょうけど。」


「....っ!?お前っ!...くそっ。」


帯刀していた長剣に手をかけるがカタカタ言うばかりで全く抜けやしない。
いや、恐怖から自分で抜けなくしているのだ。
情けない...彼女を傷つける要因になった存在が目の前にいるのにそれをなす事も出来ないなんて...情けなさ過ぎる...
そしてその様子を察した女は見下しながら。


「つまらなくなったわね、貴方。はあ...本当につまらない。まあ今回は貴方ではなく、そこの子に用事があるのだけれどね?」


「な、何をするつもり...うっ!」


そう告げるとローブを広げその下の何もない空間からあの闇が這い出てきて僕を組伏せた。


それがアリアの身体を覆っていくと。


「うあああああっ!!」


「アリア!何をしたっ!」


何とか立ち上がろうとあれからろくに鍛えてもいない身体でもがくがびくともしなかった。


「貴方がなり損なったあれにするだけよ?貴方程では無いけどかなり面白い玩具になるでしょうね?」


「や、止めろっ!」


その叫びは空間に消え、アリアの呻き声だけ木霊している。
そして女はまた消えかけていた。


「何でこんなことをっ!」


「ただの実験よ。これからの大舞台に向けてね?それじゃあ...死なないように頑張りなさい。最低最弱の英雄さん?」


「ま、待てっ!...あ、アリア!」


「ど、どうしたんだ!...お前は一体誰だ!娘に何をした!」


「アリア!」


女が消え去る前に入ってきたアリアの両親とガレトがその女と対立していたが。


「これから面白いショーが始まるわよ?あの女風に言うなら...『イッツパフォーマンス』かしら?」


そう言うと煙の様に消えていった。
すると、か細い声でアリアが何かを訴えかけていたので、近づいて耳を傾ける。


「アリア...どうした?」


「アリア!くそっ!身体が!」


ガレトの言うとおり身体が既に変異し始めており、両親もそれを見てしまい顔を青ざめさせていた。
そして皆でアリアの言葉を聞いたのだがそれはとんでもない事だった。


「ラケルタ...こんな事頼んでごめんね?でも君にしか頼めないから...」


「な...なんだ?一体何を...」


「私を殺して。」


その言葉に全員言葉を失った。
誰を殺すって?誰が誰を?...僕がアリアを?そんなの無理だ...剣すら持てないのに出来る筈がない。


「それは...」


僕が苦しそうな表情をするとアリアは微笑んで。


「きっとラケルタなら出来るから...今は無理でも...ね。...これだけは覚えておいて?殺されるなら私はラケルタがいいから...私をラケルタの胸の中で眠らせて?」


「う...あ...」


何も言えない僕の代わりにガレトが。


「分かった。こいつにやらせる。ほらラケ...」


「無理だっ!殺すだなんてっ!僕には無理だ!君がやってくれ!」


「ラケルタ!アリアの想いを無駄にする気か!見てみろ!」


胸ぐらを掴み、苦しいほどに首を締め上げ僕の顔をアリアに向けさせる。


「.....っ!」


「もうどうにもならねえっ!お前がやるしかっ!」


「だから無理だ!僕にはもう...」


「お前!やろうともしねえで!」


「うあああああっ!!」


喧嘩にもならないやり取りを繰り広げていると容態が一気に変化し、アリアの肉体が急激に変貌し始めた。


そして最後の力を振り絞ってアリアが。


「ごめん。ラケルタ....逃げて...」


「アリア!」


それだけ告げるととてつもない巨大な竜種に姿を変えアリアが村を蹂躙し始める。
その巨体から逃れる術もなくアリアの両親は食われてしまい、村の半数以上が犠牲になり、僕達は隠れることしか出来なかった。


ーーーーーーーーー。


そして一通り暴れた後何処かに去っていった直後ガレトが声をあげる。
その内容は許容出来るものではなかった。


「残った誰かでギルドに討伐依頼を出してくれ。俺はアリアを見張る。最悪自分で殺す。」


殺す?殺すってなんだ?相手はあのアリアだぞ?ガレトも好きだったアリアを殺すだって?
僕はいつの間にかガレトに掴みかかっていた。


「ガレト!どうしてそんな事出来るんだ!あれはアリア...」


「うるせえよ。じゃあてめえでやれ。ほらよ。」


「う...」


すると僕の腕を振り払い足元に剣を放り投げ、それを取ろうとするも手が震えて取れやしない。
その情けない姿に鼻をならしたガレトが。


「てめえにアリアを任せるんじゃなかった。もうお前はライバルでもダチでもねえ。目の前から消えやがれ。」


「ーー!」


僕はそのまま走り出した。
戦うのが怖くて、アリアを殺さなければいけない事実が怖くて...僕は逃げ出した。


「ばか野郎が...てめえがやるしかねえだろうが...」


ガレトの発した言葉は届いてはいたが、聞こえないように耳を閉じ、見たくないものを見ないように目を閉じて、そして傷付きたくない一心から僕は心を閉じ込めた。


これが僕の罪、僕の後悔、そして僕がやらなくてはならないこと。
僕はまた剣を取る。

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