異世界転生で貰ったチートがTS魔法少女変身能力でしたがこの世界で頑張るしか無いようです 

ベレット

13 シャンテの心情

シャンテはあんな事があった後も媚びようとしてくる二人に怒りを感じつつも、関わりたくない一心で無視をし続けている。
そういう態度を取るのも当然で、数年前にある地方で路銀を稼いでいる時に、貴族の数人に目をつけられいい様に暴行を長時間受けた折りにこの二人は今日と同じくシャンテを置いて逃げ出したからだ。
彼女でなくともその事実は許せないであろうし、心に深い傷を負って他人を信じられなくなるのも当然である。


今シャンテの中にあるのはイオンへの嫌がらせや制裁ではなく、また仲良くすると約束して今度は自分が2人を裏切って、慰み物にさせるためだった。
そしてこのカンシェル一座を地のそこまで堕とさせ瓦解させるのが、シャンテの計画の全容であり。


(絶対こいつらは許さない。私を助けなかった一座も、座長も許せない!いおり...あんたには悪いけど私の復讐の糧にさせて貰うわよ。)


その精神は黒く病んでいた。


そう思いながらも彼女は不安に駆られ、公演会場の踊り場で本番を想定した稽古に一人勤しんでいた。


「...........!」


「シャンテ...」


「怖い...」


その鬼気迫る雰囲気に踊り子二人は飲まれてしまい、そこから退散を余儀なくされ広い空間に一人になりつつも、シャンテもイオンと同じく、心の有り様は違いながらも一層稽古に励んでいく。


「.....ふう、こんな所かしらね。...暑いわね、少し夜風でも...」


独り言を呟きながら長く続く階段を上がりながら、肌の露出が激しい服装を隠すためローブを手に取り、幕を捲り外に出た。


同時にイオンも皆が寝静まった頃にカンシェル一座のテントから外に足を踏み出し、近場の公園にあるベンチに腰掛けていると、公演会場のある公園郊外の方からシャンテが歩いてくるのを発見し、駆け寄っていく。


「シャンテ!何してんだよっ!危ないぞ。また襲われたらっ!」


「気安く名前を呼ばないで!あんたに心配される程落ちぶれてないわよ。」


その言葉の壁にイオンはそれ以上口を開かなかったが、正真正銘のお人好しである彼女又は彼はその場から動こうとしなかった。
それに気を悪くしたシャンテが語気を強めに問いかける。


「あんた此処で何してんのよ?」


「別に...躍りの練習してただけだけど。」


イオンの放った内容にシャンテは動揺した。
彼女はイオンの事を甘く見ている訳ではなく、認めている部分がある。
それは踊り子...アイドルとしての才能だ。
自分とは違い、プライドも技術もないイオンに人々を惹き付ける魅力を持った彼女を危惧していた。


「...!...そ、そう...まあ無駄だと思うけどせいぜい足掻いて見なさいよ。」


「.........」


そう吐き捨てたシャンテだったが黙り込んでいるイオンを蔑んだ目で見てみると、そこにいた不敵に笑うイオンに後ずさってしまう。


「な、なによ...何なのよっ!」


得体の知れない恐怖にシャンテが叫ぶ。だがそれを物ともせずイオンは人差し指でシャンテを差し。


「足掻いてやるよ。勝つのは私だから。敗けられない理由があるからね。」


挑発するように言葉を紡いだイオンの表情はいつもの戦いを楽しむ彼女そのものだった。


「うっ....何なのよ....何なのよ、あんたはっーー!ぎ、偽善者の癖にっ!どうせ今回だって自分の為なんでしょうがっ!」


怒り狂うシャンテだったが、次に言い放ったイオンの言葉に...


「違う!確かに私はお金の為にやってきた事もあった!だけど今回は違う!シャンテ、お前を助けるために全てをなげうって正々堂々勝負したいんだ!おかねじゃない!地位じゃない!同じアイドルのシャンテを、半分だけど同じ女のお前を助けたい!それだけなんだっ!」


「う、嘘を言うなっ!自分を蔑ろにする人間なんて居るわけが...ああああーーっ!!」


シャンテは狼狽えその場から脱兎の如く逃げ出してしまった。
本当は分かっていたのだ...イオンが本当は金銭度外視で人助けをする事を。
シャンテは知っている、自分の為だけにアイドル活動をしているんじゃない事を。


走りながら彼女は叫ぶ。


「いおり!あんたは...あんたは何であの時居てくれなかったのよおーーーっ!そしたら私はっ!私はっ!こんな事っ!!」


誰よりもイオンに、いおりに助けて欲しいのはシャンテ本人だと、その時彼女は初めて気付いた。
だが、それと同じく復讐を止められない自分に自身の心が分からなくなり一心不乱に躍り狂う。
追いかけていたイオンがその姿を見て再度決意した。彼女もまた一睡もせずに1から順にダンスを何度も何度も繰り返し躍り続ける。
シャンテを今度こそ本当の意味で助けるために。





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