異世界転生で貰ったチートがTS魔法少女変身能力でしたがこの世界で頑張るしか無いようです
9 アイドル系アニメで良く見るやつ
「あっ、そういえばギルドのスタッフさん達にお礼言わないとなー。」
リンスから聞いていたがこの魔法少女アイドルイオンちゃんの握手会の設営はどうやらギルド職員の方達が主にして頂いたらしく、お礼ぐらいしないとな...と、思い立ちイオンに変身し露店で買った菓子折りを用意して会場に戻る時だった。
「あんたさあ、ちょっと人気出始めて調子乗ってるんじゃないの?」
「そうよ、そうよ!私達踊り子に挨拶も無くあんな事して恥を知りなさいよ!」
「つうか客も客で見る目無いわよねぇ?こんな不細工に嵌まるなんてさ!私達の方がよっぽど可愛いでしょ!」
旅芸人一座の踊り子三人娘に難癖をつけられ、町の端にある人通りの少ない裏通りに連れてこられてしまった。
「ふぐう...うう...うう...」
「何こいつ、泣いてんのっ!?うわっ~...」
「こんなんで泣くぐらいなら辞めたらどうなの?あんたアイドル?だっけ?...向いてないんじゃない?」
「そうよ!そうよ!あんたみたいな不細工が居たら私達の品位が下がんのよっ!分かりなさいよねっ!」
そう罵倒しながら洗練を浴びせてきていたリーダー格っぽい俺と同じ赤い髪でウェーブのかかった長髪の女を中心に群がってきていた取り巻き二人にびびってしまい、俺は大粒の涙をポロポロと地面に溢し始めた。
「あ、あの...」
「何よ!言いたいことがあるんならハッキリ言いなさいよっ!」
こんな奴ら魔法少女の力を使えば直ぐにでも退けられる...のだが過去に不良から長いこと虐げられていた記憶から、足は震え汗も止まらず、歯はガチガチと恐怖心を表し、身体は縮こまってしまっている。
「ひっ!」
またしても浴びせられた強めの言葉に肩を小刻みに震わせ小さい叫び声を上げた時だった。
「こっちです、ギルド員さんっ!ここで女の子がっ!」
どうやらただ事ではないと感じ取った町人がギルドに助け船を出してくれたらしく、その後に続いて来たのはサファイアみたいな綺麗な青髪を後頭部でお団子状にしたいつもお世話になっているギルドのお姉さん(26歳既婚)だった。
そのお姉さんが膨らみが無い胸元のポケットから手帳を取り出し、このギルド手帳が目に入らぬかと言わんかの如く前に突き出しながら怒気を孕んだ足取りでにじり寄って行くと...
「貴女達その子に何をしているの!事と次第によっては騎士団に引き渡すわよ!!」
もう格好良すぎやしませんか?御姉様。未婚者なら惚れるところです。
颯爽と現れた正真正銘のヒーローに心を奪われ、虐めを受けていた俺は途端に目を輝かせ、完璧に乙女に転心させている最中、たじろぎながら焦りに顔を歪めていた虐めっ子の踊り子達が...
「ま、まずいって!捕まるのは洒落になんないからっ!私は逃げるからねっ!」
「私も私も!!ほらっ、シャンテ!逃げよっ!」
「ちっ!仕方ないか...いおり...あんた今回は運が良かったわね。次はないから覚悟しておきなさいよっ!」
シャンテと呼ばれた狐目をした女の負け惜しみと共に路地の奥から繋がっている暗がりに姿を消したのを見終えると安心感からかどっと疲れが吹き出し、地面にへたりこんだ....
「はあ~~~~...怖かったぁ....でも何で...」
虐められた事実よりも気になる言葉が頭の中を巡っていた。
どうして俺の本名を知っている?シャンテの所属している一座はつい二日前に来たばかりで当然面識なんて無い。
だからといってこの町の人達が余所者にわざわざ教える奴なんていないだろう...と考え込んでいると...
「いおりさん!大丈夫ですかっ!?」
「.....う....」
しゃがんで俺と目線を合わせてくれたのが安堵を生み、先程までよりも更に激しく子供の様に泣きじゃくってしまった。
「うわあああんっ!お姉さんーー!怖かったよおおお!!」
だばだばと粒にもならない滝のような涙を流していると、不意にお姉さんが俺の頭をポンポンと優しく撫でると...
「もう大丈夫ですからね?」
と、優しく微笑んでくれた。お姉さんがお兄さんだったらこのまま女として生きる道を選びそうだなと妄想していると、助けを呼んでくれた30代ぐらいのエプロンをした女性が声を掛けてきた。
「もし良かったら向こうにある私の経営する店で休んでいってください。」
この路地裏から大通りに抜けた先にあるレストランがどうやらこの人のお店らしい。
俺とお姉さんはお互いに頷き合うとお願いしますと返事をし案内して貰う事にした。
カランカランとまるで喫茶店にあるようなベルの音を発てながらドアを潜ると、正に其処は喫茶店そのものだったが店員はどうやら獣人やエルフ、ドワーフといった亜種族の女性を雇っているらしく客も多くて中々に盛況な様だ。
「ではこちらでお待ちください。」
店長さんだったらしいエプロン姿の人間の女性がそう告げるとフロアを抜け、厨房に入っていった。
それを見届け腰を落ち着けていると何やら落ち着く匂いが鼻を掠め、不思議に思いながら周りを見渡すとどうやらこの店、建物からテーブル、椅子...果ては小物まで全てが木製な様でリラックス出来る様に寛ぎ空間を提供しているらしい。
その何だか懐かしさの残る香りを肺に充満させるべく大きく息を吸い込んでいると、店長さんが飲み物と白色の布を持ってきてくれて、それを受け取った。
「こちらハーブティーです。気持ちを落ち着けるのに良いですよ。それと宜しければこのハンケチ使ってください。」
行きすぎた気がしないでもない心遣いにこの世界に来てから荒み始めていた心に春風が舞い込んできてまた涙が目に溜まり始めたので、早速ハンケチで拭き取る。
「ありがとうございます!本当に何てお礼を言ったら!」
「構いませんよ?あっ、でも一つだけお願いが...」
またしてもお姉さんと顔を見合せると、店長さんがエプロンをピンと伸ばし羽ペンを手渡してきた。
俺が頭を捻っていると、赤面させながら...
「私実はイオンさんといおりさん、お二人のファンでしてっ!サインをお願いします!」
と目をギュっと閉じそう告げてきた。
最初こそは驚いたものの何だか嬉しくなり、羽ペンを用いてエプロンにそれぞれの書いたことのないサインを不器用に描いていく。
すると他の店員や客も一気に詰め寄ってきていきなりサイン会を無償で開くことになった。
「俺もっ!この服にお願いします!」
「あっ!私はこの筆箱にっ!」
「は、はいっ!サインしますので押さないでください!並んでくださーいっ!」
男女問わず人気なのは知らず面食らったが何だかこの街に馴染んで来たのが嬉しくて次から次へとサインしていく。
当然リンスには言えない行為だがこの街の住人ならリンスの恐ろしさをよく知っているので口外はしないだろう。
1時間くらいで描き終わり散り散りになった後、ようやくハーブティーに手を伸ばすと冷めきってしまっていたが、店長さんがお代わりを入れてくれた。
「すみません、こんな騒ぎになるとは思わなくて。」
「それは良いんですけど、どうしていおりのサインまで皆欲しがるんですか?イオンのなら分かりますが。」
別に自虐をしている訳でも無く、本当に気になったので聞いてみる事にした。
するとまた嬉しいことを言ってくれたので次第に心も暖まってくる。
「当然ですよ。確かにギルド協会や冒険者の方々はいおりさんを煙たがっていますが、私達町民はいつも助けてくれるいおりさんを仲間だと思ってますし、アイドル活動で癒しをくれるイオンさんは大事な家族ですから!」
その言葉が俺には何よりも嬉しかった。
最初こそは酷い世界だと思っていたが案外悪くないかも知れないと思い感動していると...。
「いおりの兄ちゃんもイオンの姉ちゃんも居ねえとなんかしっくり来ないもんな。」
「そうそう!いおりくんが一生懸命働いてるのを見ると私も頑張らなきゃっ!てなるしね!」
「だよなー。俺、イオンちゃんの催し無かったら生きてけねえよ...」
それを聞いたギルドのお姉さんは嫌な顔を一切せず、それどころか嬉しそうな表情に感情が高まってしまい立ち上がるなり、右目すれすれで横向きピースをしながらポーズを取る。
「皆さんありがとうございます!応援しててくださいねっ!!」
すると口笛と歓声が沸き上がった。
その光景にまるでイオンファン御用達店舗となりつつあり店長さんに申し訳無いと思い視線を移動させると、特に気にした様子もないので良しとする。
俺がほっとしていると、座っていたお姉さんが咳払いをした。
「こほん。ではそろそろお話させて貰いますね。座ってください。皆さんもお静かにお願いします。」
大衆にそう告げるとやはりギルドの権力は侮れず、皆一様に静まり返っている。
それを見た俺もすすっと静かに座り直す。
「あっ、はい。すいません。ちょっと気持ちが乗っちゃって。」
「構いませんよ。大分落ち着かれた様で安心しました。本当に元は男性なのですか?元々女の子なのでは?」
「男ですが?」
俺を知る人がそう言うという事はそろそろ末期かも知れない...諦めた方が良いのだろうか、とも思うが最後の抵抗を見せておいた。
一呼吸置いて姿勢を正すとお姉さんは外回りでよく使っている大きめのショルダーバックから金貨袋を取り出すなり、すっと俺の目の前に置くと。
「ここに200万レア入っております。お渡ししておきますね。」
「200万!?な、何ですかそのお金はっ!怖いんですがっ!?」
その金額に驚きずるっと椅子から滑り落ちそうになる。
だがそれを渡してきた肝心のギルド職員さんは眉一つ動かさず、代わりに頭を深々と丁寧に下げていた。
「ど、どうしましたか?一体何なんです?」
「大変遅くなってしまい申し訳ありません。金額が金額だけに少々集めるのに苦労しまして...ギガントゴーレムの討伐金です。お納めください。」
「え....ええっ!討伐金!?多すぎませんか!?だって普通のモンスターですよね!?」
「はあ?」
先程まで動じなかったギルドの方が困り果てた様子だ。
「あの...」
俺は俺でその反応に困惑し言い淀んでいると指を顎に置いて俯きながら考え事をしていたお姉さんがはっとし、頭を上げるなりこんな事を言ってきた。
「モンスターって誰から聞いたんですか?そんな言い方誰もしませんが...」
「え?あー、誰だったかなあ?」
分からないのも当然だ。俺が勝手に名付けたのだから。
日本のゲームから取ったから説明のしようが無いのでどう理由を付けようか悩んでいるとおもむろにショルダーバックから布を取り出しては、置きっぱなしの羽ペンで書いた文字をスキル『アナライズ』で読み取る。
「モンスター等では無く、彼らは魔物...いえ最近では差別になりますので、魔者と言います。」
「魔者?」
確かにそんな言い方をする時も向こうであったし、聞いた事もある。だがこの書き方は見たことが無い。
その俺の反応に怪訝な表情をしたお姉さんがまたもや説明しようの無い質問をしてきた。
「いおりさん、貴方は変なところで常識無いですよね。」
「ははは...すいません...」
苦笑するしかなかった。文字ですらアナライズを習得してやっとなのに、この世界に来て一月ほどで常識なんて学ぶ暇もない。
怪しまれない為、話題を変えようと話を振る事にした。
「そのー、それでギガントゴーレムとその話が関係あるんですか?」
「勿論関係ありますよ。だってあのゴーレムは魔獣ですから...」
(魔獣?また新しい単語だな...それよりもこの金どうしよう...)
何か小難しい話になってきたけど目の前に積まれた大金のせいでそれ所では無かったのだった。
リンスから聞いていたがこの魔法少女アイドルイオンちゃんの握手会の設営はどうやらギルド職員の方達が主にして頂いたらしく、お礼ぐらいしないとな...と、思い立ちイオンに変身し露店で買った菓子折りを用意して会場に戻る時だった。
「あんたさあ、ちょっと人気出始めて調子乗ってるんじゃないの?」
「そうよ、そうよ!私達踊り子に挨拶も無くあんな事して恥を知りなさいよ!」
「つうか客も客で見る目無いわよねぇ?こんな不細工に嵌まるなんてさ!私達の方がよっぽど可愛いでしょ!」
旅芸人一座の踊り子三人娘に難癖をつけられ、町の端にある人通りの少ない裏通りに連れてこられてしまった。
「ふぐう...うう...うう...」
「何こいつ、泣いてんのっ!?うわっ~...」
「こんなんで泣くぐらいなら辞めたらどうなの?あんたアイドル?だっけ?...向いてないんじゃない?」
「そうよ!そうよ!あんたみたいな不細工が居たら私達の品位が下がんのよっ!分かりなさいよねっ!」
そう罵倒しながら洗練を浴びせてきていたリーダー格っぽい俺と同じ赤い髪でウェーブのかかった長髪の女を中心に群がってきていた取り巻き二人にびびってしまい、俺は大粒の涙をポロポロと地面に溢し始めた。
「あ、あの...」
「何よ!言いたいことがあるんならハッキリ言いなさいよっ!」
こんな奴ら魔法少女の力を使えば直ぐにでも退けられる...のだが過去に不良から長いこと虐げられていた記憶から、足は震え汗も止まらず、歯はガチガチと恐怖心を表し、身体は縮こまってしまっている。
「ひっ!」
またしても浴びせられた強めの言葉に肩を小刻みに震わせ小さい叫び声を上げた時だった。
「こっちです、ギルド員さんっ!ここで女の子がっ!」
どうやらただ事ではないと感じ取った町人がギルドに助け船を出してくれたらしく、その後に続いて来たのはサファイアみたいな綺麗な青髪を後頭部でお団子状にしたいつもお世話になっているギルドのお姉さん(26歳既婚)だった。
そのお姉さんが膨らみが無い胸元のポケットから手帳を取り出し、このギルド手帳が目に入らぬかと言わんかの如く前に突き出しながら怒気を孕んだ足取りでにじり寄って行くと...
「貴女達その子に何をしているの!事と次第によっては騎士団に引き渡すわよ!!」
もう格好良すぎやしませんか?御姉様。未婚者なら惚れるところです。
颯爽と現れた正真正銘のヒーローに心を奪われ、虐めを受けていた俺は途端に目を輝かせ、完璧に乙女に転心させている最中、たじろぎながら焦りに顔を歪めていた虐めっ子の踊り子達が...
「ま、まずいって!捕まるのは洒落になんないからっ!私は逃げるからねっ!」
「私も私も!!ほらっ、シャンテ!逃げよっ!」
「ちっ!仕方ないか...いおり...あんた今回は運が良かったわね。次はないから覚悟しておきなさいよっ!」
シャンテと呼ばれた狐目をした女の負け惜しみと共に路地の奥から繋がっている暗がりに姿を消したのを見終えると安心感からかどっと疲れが吹き出し、地面にへたりこんだ....
「はあ~~~~...怖かったぁ....でも何で...」
虐められた事実よりも気になる言葉が頭の中を巡っていた。
どうして俺の本名を知っている?シャンテの所属している一座はつい二日前に来たばかりで当然面識なんて無い。
だからといってこの町の人達が余所者にわざわざ教える奴なんていないだろう...と考え込んでいると...
「いおりさん!大丈夫ですかっ!?」
「.....う....」
しゃがんで俺と目線を合わせてくれたのが安堵を生み、先程までよりも更に激しく子供の様に泣きじゃくってしまった。
「うわあああんっ!お姉さんーー!怖かったよおおお!!」
だばだばと粒にもならない滝のような涙を流していると、不意にお姉さんが俺の頭をポンポンと優しく撫でると...
「もう大丈夫ですからね?」
と、優しく微笑んでくれた。お姉さんがお兄さんだったらこのまま女として生きる道を選びそうだなと妄想していると、助けを呼んでくれた30代ぐらいのエプロンをした女性が声を掛けてきた。
「もし良かったら向こうにある私の経営する店で休んでいってください。」
この路地裏から大通りに抜けた先にあるレストランがどうやらこの人のお店らしい。
俺とお姉さんはお互いに頷き合うとお願いしますと返事をし案内して貰う事にした。
カランカランとまるで喫茶店にあるようなベルの音を発てながらドアを潜ると、正に其処は喫茶店そのものだったが店員はどうやら獣人やエルフ、ドワーフといった亜種族の女性を雇っているらしく客も多くて中々に盛況な様だ。
「ではこちらでお待ちください。」
店長さんだったらしいエプロン姿の人間の女性がそう告げるとフロアを抜け、厨房に入っていった。
それを見届け腰を落ち着けていると何やら落ち着く匂いが鼻を掠め、不思議に思いながら周りを見渡すとどうやらこの店、建物からテーブル、椅子...果ては小物まで全てが木製な様でリラックス出来る様に寛ぎ空間を提供しているらしい。
その何だか懐かしさの残る香りを肺に充満させるべく大きく息を吸い込んでいると、店長さんが飲み物と白色の布を持ってきてくれて、それを受け取った。
「こちらハーブティーです。気持ちを落ち着けるのに良いですよ。それと宜しければこのハンケチ使ってください。」
行きすぎた気がしないでもない心遣いにこの世界に来てから荒み始めていた心に春風が舞い込んできてまた涙が目に溜まり始めたので、早速ハンケチで拭き取る。
「ありがとうございます!本当に何てお礼を言ったら!」
「構いませんよ?あっ、でも一つだけお願いが...」
またしてもお姉さんと顔を見合せると、店長さんがエプロンをピンと伸ばし羽ペンを手渡してきた。
俺が頭を捻っていると、赤面させながら...
「私実はイオンさんといおりさん、お二人のファンでしてっ!サインをお願いします!」
と目をギュっと閉じそう告げてきた。
最初こそは驚いたものの何だか嬉しくなり、羽ペンを用いてエプロンにそれぞれの書いたことのないサインを不器用に描いていく。
すると他の店員や客も一気に詰め寄ってきていきなりサイン会を無償で開くことになった。
「俺もっ!この服にお願いします!」
「あっ!私はこの筆箱にっ!」
「は、はいっ!サインしますので押さないでください!並んでくださーいっ!」
男女問わず人気なのは知らず面食らったが何だかこの街に馴染んで来たのが嬉しくて次から次へとサインしていく。
当然リンスには言えない行為だがこの街の住人ならリンスの恐ろしさをよく知っているので口外はしないだろう。
1時間くらいで描き終わり散り散りになった後、ようやくハーブティーに手を伸ばすと冷めきってしまっていたが、店長さんがお代わりを入れてくれた。
「すみません、こんな騒ぎになるとは思わなくて。」
「それは良いんですけど、どうしていおりのサインまで皆欲しがるんですか?イオンのなら分かりますが。」
別に自虐をしている訳でも無く、本当に気になったので聞いてみる事にした。
するとまた嬉しいことを言ってくれたので次第に心も暖まってくる。
「当然ですよ。確かにギルド協会や冒険者の方々はいおりさんを煙たがっていますが、私達町民はいつも助けてくれるいおりさんを仲間だと思ってますし、アイドル活動で癒しをくれるイオンさんは大事な家族ですから!」
その言葉が俺には何よりも嬉しかった。
最初こそは酷い世界だと思っていたが案外悪くないかも知れないと思い感動していると...。
「いおりの兄ちゃんもイオンの姉ちゃんも居ねえとなんかしっくり来ないもんな。」
「そうそう!いおりくんが一生懸命働いてるのを見ると私も頑張らなきゃっ!てなるしね!」
「だよなー。俺、イオンちゃんの催し無かったら生きてけねえよ...」
それを聞いたギルドのお姉さんは嫌な顔を一切せず、それどころか嬉しそうな表情に感情が高まってしまい立ち上がるなり、右目すれすれで横向きピースをしながらポーズを取る。
「皆さんありがとうございます!応援しててくださいねっ!!」
すると口笛と歓声が沸き上がった。
その光景にまるでイオンファン御用達店舗となりつつあり店長さんに申し訳無いと思い視線を移動させると、特に気にした様子もないので良しとする。
俺がほっとしていると、座っていたお姉さんが咳払いをした。
「こほん。ではそろそろお話させて貰いますね。座ってください。皆さんもお静かにお願いします。」
大衆にそう告げるとやはりギルドの権力は侮れず、皆一様に静まり返っている。
それを見た俺もすすっと静かに座り直す。
「あっ、はい。すいません。ちょっと気持ちが乗っちゃって。」
「構いませんよ。大分落ち着かれた様で安心しました。本当に元は男性なのですか?元々女の子なのでは?」
「男ですが?」
俺を知る人がそう言うという事はそろそろ末期かも知れない...諦めた方が良いのだろうか、とも思うが最後の抵抗を見せておいた。
一呼吸置いて姿勢を正すとお姉さんは外回りでよく使っている大きめのショルダーバックから金貨袋を取り出すなり、すっと俺の目の前に置くと。
「ここに200万レア入っております。お渡ししておきますね。」
「200万!?な、何ですかそのお金はっ!怖いんですがっ!?」
その金額に驚きずるっと椅子から滑り落ちそうになる。
だがそれを渡してきた肝心のギルド職員さんは眉一つ動かさず、代わりに頭を深々と丁寧に下げていた。
「ど、どうしましたか?一体何なんです?」
「大変遅くなってしまい申し訳ありません。金額が金額だけに少々集めるのに苦労しまして...ギガントゴーレムの討伐金です。お納めください。」
「え....ええっ!討伐金!?多すぎませんか!?だって普通のモンスターですよね!?」
「はあ?」
先程まで動じなかったギルドの方が困り果てた様子だ。
「あの...」
俺は俺でその反応に困惑し言い淀んでいると指を顎に置いて俯きながら考え事をしていたお姉さんがはっとし、頭を上げるなりこんな事を言ってきた。
「モンスターって誰から聞いたんですか?そんな言い方誰もしませんが...」
「え?あー、誰だったかなあ?」
分からないのも当然だ。俺が勝手に名付けたのだから。
日本のゲームから取ったから説明のしようが無いのでどう理由を付けようか悩んでいるとおもむろにショルダーバックから布を取り出しては、置きっぱなしの羽ペンで書いた文字をスキル『アナライズ』で読み取る。
「モンスター等では無く、彼らは魔物...いえ最近では差別になりますので、魔者と言います。」
「魔者?」
確かにそんな言い方をする時も向こうであったし、聞いた事もある。だがこの書き方は見たことが無い。
その俺の反応に怪訝な表情をしたお姉さんがまたもや説明しようの無い質問をしてきた。
「いおりさん、貴方は変なところで常識無いですよね。」
「ははは...すいません...」
苦笑するしかなかった。文字ですらアナライズを習得してやっとなのに、この世界に来て一月ほどで常識なんて学ぶ暇もない。
怪しまれない為、話題を変えようと話を振る事にした。
「そのー、それでギガントゴーレムとその話が関係あるんですか?」
「勿論関係ありますよ。だってあのゴーレムは魔獣ですから...」
(魔獣?また新しい単語だな...それよりもこの金どうしよう...)
何か小難しい話になってきたけど目の前に積まれた大金のせいでそれ所では無かったのだった。
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