異世界転生で貰ったチートがTS魔法少女変身能力でしたがこの世界で頑張るしか無いようです 

ベレット

4 女神降臨

「魔法少女アイドルイオンちゃん見参!」


とまで言ったのは良いが自分の言動に吐き気がする。
まさか自分がこんな地下アイドルの真似事をする事になるとは一月前までは思いもよらなかったがお金が稼げるのでやるしかない。
正直依頼だけではまともに食っていけないのだ...やはり世の中世知辛い...元ニートになんという仕打ちか。


だが声援を受けるのはそこまで悪くなく、自分がTS(性転換)しているのを除けばまるでヒーローの様で非常に気分がいい。
何を隠そう俺はアメコミや特撮ヒーローに憧れていたからだ。


「ふう...じゃあやろうかね?さあどうぞ。君に先攻譲って上げるよ。俺...こほん。私を倒せるかな?」


危ないところだった、一人称を間違える所だ。
殺気を感じ背後を見ると、追い付いてきていたエルフのリンスプロデューサーが眉間に皺を寄せている。ゴーレムなんかより非常に怖い...


「イオンさん!前、前!!」


「イオンちゃんあぶねえっ!!」


オーディエンスの言葉を聞きとり、ゴーレムに振り向くと大きすぎる右腕が襲いかかってきていた。
そのをパシッと左手で受け止め。


「てやっ。」


と、握り潰した。


「やわっこいんだけど。何か期待はずれだなぁ...んー、蹴りは受け止めたからそこそこやるかと思ったんだけどなぁ...まあいいや、じゃあ私の番ね。」


そうゴーレム相手に告げると同時にジャンプしゴーレムの胸板だと思われる岩石に向かって右ストレートを打ち込む。


「せやっ!」


「は?えぇぇぇぇーーーっ!!」


「ぐ、お、おお...おお...」


その一撃が胸板を消滅させその手の接地面から放たれた衝撃波がゴーレムを襲い、バラバラにしていた。


「なんだ...弱いなあ。もうっ!イオンちゃん怒っちゃうぞ!」


その光景にリンス以外が驚愕し、驚きを隠せずにいるようだが、構わずしゃがんで人差し指を残骸に向けぶりっこ気味に言ってみると男性全員が涙を流していた。


「イオンちゃんの生プンプンが見れるなんて...もう俺死んでもいいっ!」


「俺も!可愛すぎだろ!天使かっ!」


「バカあれは女神って言うんだよ!」


(ふっ...また営業をしてしまった...最近板についてきたみたいで、滅茶苦茶嫌だ...)


だがどうやらお客様に喜んで頂けたらしくリンスは満面の笑みを浮かべ...商売に励んでいる。
商魂逞しすぎるな、うちのプロデューサーは。


それにしてもTSだからこそ男のツボを心得た地味に効果のある商売だな。この世界にアイドルなんて踊り子くらいだからなあ。


「あ、あのっ!」


「はい?」


尻餅をついていた自分より数歳上の青年が話しかけてきて、振り向くと


「俺、あなたのファンなんです!!あ、握手いいですか!?」


そう言いながら詰め寄ってくるものだから一歩下がってしまった。
あまりがっつかれるとちょっと怖い...
すると、そういう事には厳しいリンスが此方に怒りながら彼と俺の間に入るなり


「イオンさんとの握手は握手会でのみ許可しています。彼処の魔法少女アイドルイオンの露天でこの額以上お買い上げだと三秒握手できますよ。握手会は三日後ルーミアで行いますから良かったら」


「あこぎな商売してらっしゃる!」


「買います!」


「買っちゃうんだ!!」


俺の...私のツッコミスキルではもう追い付けなくなってきた...


「ん?ちょっと待ってよ。リンス...握手会って何?聞いてないけど。」


「........」


「ちょっとおおおっ!もおおおっ!」


露店に戻っていったリンスはそれ以上俺とは話す気はないのか、次から次へと置かれる金銭を数え、商品を渡している。
勿論商品はイオンファン必携商品だ。俺の顔が器用に掘られたペンダントやらイオンちゃんの顔が描かれた羊皮紙など様々だ。いつの間にそんな物を作成したのかしらないが、著作権を振りかざすべきだろう。
端的に言えばお金が欲しいです。


「俺この羽ペン絶対使えないわ。」


「はっ!俺なんかイオンちゃんの抱き枕今日から使うけどなっ!」


「ペンダント...いつでもイオンちゃんと一緒...ぐふふ...」


(いやあああっ!もう本当にキモイっ!)
なんか若干女子化してきた気がしなくもないが色々聞きたくないので心を無にすることにした。
この世と隔絶するために悟りを開いていると、どうやら商品を捌き終えたらしく、ホクホク顔で此方に向かってくるなり「帰りますよ。」と告げてきたので「はははー。そっかー、私の心の傷教えようか?」と伝えるもまた無視された。
もうこの女本当に嫌い...


「スフィアさんも帰りますよね?行きますよ。」


「は、はい!待ってくださいよおっ!」


ずっと放心状態だったスフィアもその言葉でようやく我にかえりよろよろとした足取りで着いてきているのを確認すると、その更に後ろから男どもが涙ながらに手を振っていた。


「イオンちゃああん!また会いに行くからねっ!」


「イオンちゃーん!ばいばーい!」


と声が聞こえてくるが結構もううんざりなので、無視して坑道を出て、精神からくるダメージに馬車の一席に座るなり項垂れた。


「はあ...辛い...」


変身を解き、元の男の姿に戻るなり何だか懐かしく感じる唇から男らしいちょっと低めの声を溢すと、隣に座っていたスフィアがポンッと手を肩に置くとおもむろに...


「魔法少女稼業って大変ですね...あの、助けてくれてありがとうございました!やっぱり冒険って危ないですけどワクワクしますねっ!」


「ああそう...良かったね。それはそうとあんまり無茶しないで...」


「ふふ、分かりました。今度は気を付けます!」


「うん...んん?」


今度とはどういう意味か理解出来ずにいるとまた厄介な事をその女性らしい小さくも瑞々しい唇から溢したした。


「ではこれから我が家に招待しますのでもう少しお付き合い下さい。」


「私は降りますよ。ギルド前にお願いします。」


「分かりました!!」


どうやら付き合うつもりは無いらしく、俺も貴族宅に上がり込むなんて真っ平後免なので断ろうとしたのだが...


「駄目ですよ?いおりさんには来て貰わないと。」


「何故!?」


そこで床に転がっていた依頼書を見ると、パーティーメンバーの欄に俺とリンスの他にスフィアの名前があり、俺は目を丸くさせ勢い良くスフィアの顔を見ると「はは...」とポリポリと頬を描きながらそっぽを向いているお嬢様を見て、嫌な予感が胸を締め付けた。
俺はそこで思い出した...一度パーティーメンバーに入り、クエストをクリアすることでギルドメンバーまたは冒険者になれる条件があることを...嫌な予感しかしない...





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