時代が移り変わろうとも俺達は恋をする 

ベレット

15話 電子的生命体

一階に戻りリビングに入ると既に喧嘩は終幕していたらしく、凛花は台所でお茶の準備を、父さんは隅に置いてある旅行ケースを開き、お土産やら服やらを整理整頓している。


「よお、秋人。下りてきたのか?どうした、真面目な顔して。」


「あっ、兄さん。もう少しでお茶が入りますので座って待っていて下さい。」


「そうだな...とりあえず座ろうか。」


促されたから座る訳ではない。


最初に席に着くことで場を制する為だ。


そして俺はおもむろに宣言する。


「ふぅ...今から家族会議をします...全員集合。」


「はあ?何だよ、急に?」


「あっ!私急用があったんでした!」


と、凛花はそう告げるとそそくさと逃げ出そうとしていた。


恐らく逃げようとするだろうとのはまでの経験からある程度は踏んでいたのでこれはある意味良い機会かもと思い、先程一階に下りてくる時に相談した通りに事を進める。


「霊菜。やってくれ。」




「ほんとに良いんだね?ならやっちゃうよ~。ほいっとっ!」


掛け声と共に霊菜がぱちんと指を鳴らすと不自然にリビングの扉が閉まった。


「え!?何で急に!?..あれ?あれ?嘘....何で開かないんですか!?」


「お前なにやってんだ...貸してみろ。...ふんっ!...かってえな!おい!何だこれ!」


「ふぅ...凛花そこに座りなさい。話があります!」


二人共何が起こったのか判らずあたふたしている様を見つめ、お茶を一口含み席に着くよう促す。


だが理解不能な出来事に遭っているからか俺の話を聞こうとしないので。


「集合しろっつってんだろーがっ!!はーやーく!!しゅ・う・ご・う!!」


「....お、おう...」


「ひうっ....うぅ、分かりました...」


珍しく俺が怒っているのを察知した模様で目にも止まらぬ速さで席に着く。


そして例の物体をポケットから取り出そうとしている時に父さんが口を開いた。


「秋人が何か怒ってんのは判ったけどよ?その前にあの扉どうにかしねえ?あのままじゃ出れねえぞ?」


「ああ、そういえば。霊菜!もう良いぞ。」


俺がオッケーを出すと「ほいほーい」と間抜けな声と同時に指パッチンし、その直後にガチャっとドアノブが回り勝手に開いたのを見て二人の目が点になっている。


「あ...う...な、何ですか、今の...?勝手にドアノブが...」


「.......嘘だろ....」


父さんはどうやら察したようだが、凛花は未だ何が起きたのか理解できていないようだ。


「なあ...父さん、凛花...幽霊って信じるか?....変な顔しないでくんない?マジな話だから。」


「わ、私はしんじませんよっ!幽霊なんてっ!」


まあ凛花はそうだろうが、どちらかと言うと信じたくないって方が近いだろう。


その証拠に顔が青ざめている。


「父さんはどう?」


「あー...まあ居るんじゃねえの?知らんけど。そんで、秋人には見えてんのか?」


「お父さん!?何言って!?居るわけありませんよっ、そんなの!」


父さんは俺達兄妹と違ってそういうファンタジー系が好きなので思いの外すんなり受け入れてくれた。


しかし凛花はやはり頑なに話を聞き入れようとはしない。


確かに同じ立場なら科学崇拝者からしたらそんな荒唐無稽な話信じようとはしないだろうな。


だがそんな様子を無視し、俺は親指でくいっと隣を指し。


「ここに居るぞ?何なら証拠見せようか?霊菜...んーっとどうしたら良い?っというかどうする?」


「じゃあ...タスクメモ立ち上げてホログラムペン貸して?お話してみたいから。」


「ん。ほら、いいぞ。」


携帯を机の丁度真ん中の位置に置き、アプリを起動しTシャツのポケットからペンを取り出し、霊菜のすぐ目の前に置いてやる。


するとそれがふわふわと浮き始めると。


「ひっ!うっ、浮いてるっ!!」


何時ものような冷静沈着な凛花はなりを潜め、その表情には恐怖の色が滲み出しながら椅子を後ろにガガっと引いている。


後で床が傷付いてないか確認しないと...


「そこにいるのか?やべえ!ウケる!それ持てんの?」


「持ってる訳じゃないよ。ポルターガイストか何かで浮かせれるらしい。...なあ霊菜、それどうやってるんだ?」


「うーん?あー、これ?そうだなー、簡単に言うとー。どうせならこれに書こうか?」


器用にペンを浮かせて珍しく気の効いた事を言う霊菜に任せる事にした。


それにせめて家のメンバーくらいとは話をさせてやりたい気持ちもある。
俺としか話せないのは流石に寂しいと思うし。


「任せた。父さん、これに書いて教えてくれるらしいよ。」


「ほーん。面白そうじゃねえの。」


「............」


遂に凛花が全く口を開かなくなった。
それどころか生命活動しているのかすら不安にぬる。


だがその間にもホログラムに文字を綴っており、一分ほど待つと完成したらしく、ペンを返してきた。


「終わったのか?」


「うん。」


そう短く返答しつつ、父さんをまじまじと観察している。
やはり気になるようで、また変な表情をし始めた。


とりあえず放置して霊菜の書いた文章を皆で拝見する為、CTAに指示する。


「CTA、広域モードに変更して。」


『了解しました。ホログラム領域、拡大します。』


合成音声と共にCTA...connect・two・autumnがホログラムを机の半分程覆わせるとそこから文字が浮き出てきた。


『こんにちはっ!!私は美少女幽霊霊菜ちゃんだよっ!!パパさんっ、凛ちゃん、よろしくねっ!!』


「なんつうか...幽霊ってこんななのか?めっちゃ元気っ娘って感じだな?」


「霊菜だけじゃないかな?他の幽霊見たこと無いから分かんないけど。」


「....うぅ~ん....」


その文字を目に入れた瞬間、凛花が気を失って机に突っ伏してしまった。
どうやら幽霊なんて非現実的なものを目の当たりにして脳の許容力がオーバーしたみたいだ。


しかしそっとしておきたい所ではあるがこのまま気絶させておくわけにはいかない。きっとこの機を逃したら凛花に霊菜の事を話す機会は無くなるかも...と思い身体を揺さぶる。


「凛花?おーい凛花~。起きろ~!!」


「はっ!!すいません。寝てました。」


「寝てたっつーか、気絶してたぜ?お前。」


何かすっごい既視感がある。
ついさっき似たような事があったような...


「やっぱり兄妹だね。今の反応アッキーにそっくり。」


「あんなんだったっけ?...あいつと一緒とか嫌なんですけど。冗談だよね?ねえ?...嘘だろ...」


既視感の正体はそれだったらしい。
どうやら血は繋がってなくても似てくるようで、凛花がこの家に来て9年ともなれば一番近くにいた者同士そうなるのかもしれない。


だがやはりあの犯罪者予備軍と似ているのは非常に嫌悪感が募り落ち込んでいると、有名なロボットアニメの総司令官と同じポーズを共にしていた凛花が思い口を開き、意外な言葉を口にした。


「信じたくはありません...ありませんが!!...兄さんがそこまで言うなら信じます。実際色々見てしまいましたし。...ですが1ついいですか?」


霊菜が居る場所より少し右にずれた地点を見ながら、青白くも真剣な表情で。


「害は無いんですか?それが心配なんです。当然怖いのもありますが...」


「....お前にも怖いものあったの?」


俺が知るなかで霊長類最強だと思っている凛花の口から意外な言葉が飛び出した。
普段はおかしな言動ばかりだが、やはりというか、なんというか女の子らしい部分があったらしい。


まあでも今でこそ霊菜には慣れてしまったが、他の幽霊がもし存在しておりいざ対面となったら恐らく恐怖心の方が先に来るだろう。


「それは..まあそうですね。当然じゃあないですか。勿論怖いですけど...で、どうなんです?大丈夫なんですか?その幽霊さんは?」


その意外と可愛げのある言葉に安堵と満足を感じながら霊菜を見ると相変わらず間抜け面を晒していた。


自分の危険性について協議されているのに、そのぽけーっとした顔を眺めながら呆れつつ、右手を力無く振る素振りをする。


「それは無いって。今の顔見せてやりたいくらいだぞ?自分の事を話されてんのに馬鹿面して関係なさそうな顔してんのにこんな奴が危ない訳無いだろ?」


「むっかーーっ!何だよ何だよぉっ!!馬鹿面ってぇ!!こんな美少女に向かって言うことかなぁっ!!」


「お前何言ってんの?ちゃんとした美少女はそんな馬鹿面もアホ面も間抜け面もしないと思うけどな?そんなに言うなら鏡見てこいよ?あっ、そう言えばお前確か写んなかったもんなー。なら何で自分が美少女だなんて判るわけ?」


「うあああん!!今言った!言っちゃいけないこと言ったあっ!!私美少女だもん!!絶対美少女だもん!!それにそれ、幽霊差別だよっ!!このっ、このっ!ファザコン!!」


最初こそは凛花の説得と緊張を解すため一芝居打つつもりがヒートアップして喧嘩へと発展してしまった。


俺達はどうやらお互いに触れていけない部分に触れたらしく、立ち上がり言葉の応酬をする。


「もう謝るまで絶対許さないからっ!!えーっいっ!!」


「許さないってどうする....いっ!いだだだだっ!おまっ!何してっ!あああああっ!折れる!折れるからっ!!そっちには曲がんないからぁっ!ごめっ!ごめん!...ごめんなさい!」


かと思いきや、霊菜が実力行使に出てきた為即座に謝罪した。


まさか肉体に影響を及ぼすなど霞ほども思わなかったのだが、左腕全体に静電気の様な感覚を感じるといきなり腕の自由を奪われ、曲がるはずの無い方向へ曲がろうとしていたのだ。


だが謝った所で止めるつもりは最初から無いのか更に腕を逆に行かせようとするが。


「ぷっ、くくくくく....」


「ぶはっ!お前ら仲良すぎだろ!?」


凛花と父さんが急に笑い出すもんだから、驚いてしまい、ふと我に返りお互い落ち着きを取り戻せた。


不思議に思い、ようやく解放された左腕の肘を擦りながら。


「何だよ?」


「ふふふふ...いえ、ただ兄さんがそうやって感情豊かに話してるのを見たら何だか安心して...兄さんはその霊菜さんを信じてるんですね。」


「アッキーが...私を?」


「俺が...霊菜を信用してるだって?」


その言葉を聞いて俺と霊菜が目を丸くしてお互い見合わせた。


だがそう言われて初めて不思議とそうかもしれないと何故か心に感じた。
まだ出会って数日だが確かにそれよりも付き合いの長い先輩や雪穂にすら本性をさらけ出していないかもしれない。


それを思うと凛花の言う通りなのかもと思い、先程の言動が途端に恥ずかしくなってきた。


「アッキーあのさ...」


「霊菜...その...さっきは言い過ぎた。ごめんな?」


「う、ううんっ!私もごめんね?」


そしてお互い笑いあっていると父さんが水をさしてきた。


「おっ?仲直りしたのか?ならこれ見ようぜ。結構面白いこと書いてあるんだよ。」


「空気読んでよ、パパさん...」


「空気読んでよ、父さん...」


ハモりながら文句を言いつつも霊菜の書いた文章の続きに目を通してみる事にした。


「え~と...なになに?」


『ポルターガイスト?か良く分かんないけどペンが動かせたり出来るのはなんか周りにある静電気?みたいなのがあってそれを触るとなんか遠くからでも触れるよ。あっ、でも一個までしか無理っぽいよ!』


だそうだ。


「どういう意味だ?さっぱり分からん。」


腕組みをしながら目を閉じ集中して考えてみるが全く検討もつかなかったが、父さんの口から意外な結論が出た。


「シンクロニシティ...みたいなもんか?」


「シンクロですか...何だか違う気もしますが...」


確かにそれとは違う気がする。
そもそもどうやって操っているなかすら此方は分からないのだ。


「なあ、霊菜。そもそもそれどうやって動かすんだ?書いてみてくれ。」


「んー。りょーかいー。」


またペンを用いてメモタスクにすらすらと書いていく。


そこには『説明しにくいけど、自分の考えた通りに動く感じかなぁ?でもアクションはいるよ。指動かしたりとか』と書かれていた。


考えた通り?そもそもその周りにある静電気...つまりは電気的性質ってのはどういった物なんだ?
考えられるのは先程から挙がっている静電気...後は考えた通りに...と言うことは脳波...アルファ波やベータ波みたいなものだろうか。


だがそれもピンと来ない....ならあるとするなら、とある現象に確証の様なものを得た。


「まさか....電磁波か...?いや...ちょっと待てよ?」


「どうかしましたか?兄さん?」


言葉を濁したのを聞き取り怪訝な様子の皆を見渡し、間違いかもしれないが発言してみる事にした。


「もしかしたらシンクロではなく...同期...かもしれない。」


「同期って何だ?」


「....まさか兄さん...携帯やパソコンの同期システムの事ですか?...それなら確かに分からなくも無いです。それを仮定とするなら恐らく霊菜さんは思考をコンピューターとして考えるのならアクションというのは....」


流石は凛花だ。秀才にして俺と同じ科学畑の妹なだけあり寸分違わない結論に至ったようだ。


「ああ...それらは起動スイッチの様なもので電子的な仕組みかもしれない。ネットワークシステムや送電システムみたいな。スイッチを押せば光が灯る感覚なのかも。」


「んー、どういう事?」


理解していないまたまたアホ面を晒している霊菜を一瞥し、イブを広げ、メモタスクを閉じる。


「CTA、今から入力する情報を元にサルベージ、生成までしてくれ。」


『承りました。』


合成音声の返答を聞き、俺は霊菜...というよりも幽霊に対する考察を口にし、皆の反応を伺う事にした。


「幽霊って何だと思う?」


「幽霊ですか?それは...超常現象の類いかと。」


「だよな?それ意外だと想像つかねえけど。」


イブの仮想キーボードを叩きながら自分が調べた幽霊の生体情報を言い並べる。


「なら幽霊っていつ頃から認知されたか知ってるか?」


そう質問するが全員一様に小首を傾げているのでそのまま続けた。


「1900年中期前後頃と言われてるんだ。その時代にはブラウン管テレビとか電波を使う携帯とかが台頭してきてようやくメディアに取り上げられ幽霊が話題になって俺達にとっても一般知識になったらしい。」


「んん?それと今の話と何の関係があるんだ?」


訝しげな表情で問いかけてくる父さんを無視して本題に入る。


「いいから聞いてくれ。....えーっとそんで、どんな場所に出たと思う?」


「そうですね...有名どころだと病院とか学校とかでしょうか?」


「んー、後はマンションとか?」


なかなか良いチョイスをする。
凛花も芯から信じてないわけではないらしい。
やはり怖かったからだろうか。


「そうだよな、思い付くのはさ。じゃあそこってそれぞれ何があると思う?」


「そりゃあ病院だしなあ。幽霊関係なら...亡くなったりとか。」


「学校だと...虐めでの自殺でしょうか?まあ自殺した場所は学校とは限りませんが。」


「マンションだと首吊りかなぁ。うへぇ、苦しそー。」


それぞれが思い思いの事を口に出すのを聞き、頷き肯定する。


「だな。で、ここからは俺の考えなんだが恐らく幽霊ってのは人が死ぬ瞬間に外部に放出された脳波が分散、分解される際に出来る残りカスが電波や静電気の中に漂って...んー、何て言ったら良いのかな...その電波や静電気が肌に触れた時に体内の電気を伝って脳に届いた際の幻覚だと思う。」


「ならどうして霊菜さんを兄さんは見えるんですか?」


それがわからない....だけどまあそれは置いといてこれらを基盤として検証するならマキナの言っていた霊菜は電子記号の状態と言う意味が理解出来るのかもしれない。
まあそれもこのデータがアプリ化出来たら分かるだろう。


「分かんないよ、でも俺が今言えるのは霊菜は...」


と、そこまで言うとぴぴっと音が鳴り。


『完成しました。インストールしますか?』


「頼む。VRコンタクトレンズに。」


そうCTAに伝え席を立ち自室に置いてあるVR機器を取り出しリビングに着くなり、机にワンセットずつ父さんと凛花の前に並べる。


「つけてみてくれ。」


「はい。」


「おう。」


そのコンタクトレンズにはあるアプリをインストールしてある。
アプリ名は『ガイストヴィジョン』と名付けた。


これはマキナの言っていた電子記号という単語からヒントを得たものだ。
人間では無くアンドロイドが見えているのなら幽霊等では絶対にありえなく、電子情報に他ならない
なので電子情報を直に見ることが出来るVRにインストールしたのだ。


これで霊菜の正体がはっきりする筈だ、と霊菜、凛花、父さんの順に見渡すと、どうやらセッティングが終わったらしい。


「つけたぞ?どうすんだ?」


「じゃあガイストヴィジョンって声を出して。そしたら起動するから」


「分かりました。」


返事と共にアプリ名を呼ぶと二人の目が青く輝くと同時にその顔を引きつらせている。


どうやら成功したみたいだ。


「これって...もしかして見えてるんですか?貴女が霊菜さん?...兄さん...霊菜さん美人さんですね?」


その目の奥底には嫉妬が見え隠れしており、それが作り笑顔を余計に恐怖の色が加速させている。


「ほらあっ!言ったじゃん!私美少女だって!」


「あ、ははは...そ、そうか?そんな事は...ん?父さん?」


誤魔化してはいたが霊菜はかなりの美少女だ。
性格はちょっとアホっぽいが見てくれならそこらのアイドルなんか目じゃないだろう。
見た目だけならだが...まあたまに惹かれるとこも無いことも無いがそれを伝えると鬱陶しいだろうし、何より恥ずかしい。


そんな感情を隠すように笑ってごまかしていると凛花の隣の席に座っている父さんの様子がどうも
おかしい...霊菜を見てあり得ないものを見た感じだ。
だがどうも嫌な予感がする。
幽霊を見たからでは無さそうではある...やはり霊菜の事を何か知っているのかもしれない。


「父さん?どうしたんだ?」


「あ...いや、何でもない。悪いけど外すわ。やっぱVRは肌に合わねえなぁ!はははっ!」


明らかに様子がおかしい気がする。
いつかの携帯端末のSEASONに関する質問もはぐらかした雰囲気と喋り方が全く同じだ。


一体何を知っているんだと、考えているといつもの如くまた霊菜が騒ぎ立てている。


「うわあっ!見えてる!?見えてるの!?やったあああ!!私霊菜ね!霊菜!」


「声は聞こえてないぞ。」


「えぇ~~~!!」


やはり美人だろうと、中身が大事だと霊菜を見ていると再認識出来る。


凛花の方も病んだ目付きと不自然なほど曲がった口角を晒しながら此方をずっと見ているが、霊菜がしっかりと見えているのが功を奏したのか落ち着き払っている。


「大丈夫なのか、凛花?見えてるけど。」


「はい。問題ありません。VRモデリングのキャラクターみたいな物だと思うことにしましたから。」


やはり幽霊とは思いたくないらしい。
まあ実際幽霊では“無い”のだがな。


「なあ、秋人...結局霊菜ちゃんはどういう存在なんだ?幽霊なのか?」


先程とは打って変わって今度は青ざめている父さんが積極的に話に交わってきた。
父さんと霊菜の関係性は勿論気にはなるが今話すことは別にある。


「ねえアッキー。私って何なんだろうね?本当に幽霊なのかな?」


「私はそうは思いません。VRに映るならデータの筈です。」


皆が俺の次の言葉を待っている。


指で机をトントン叩きながら考えを巡らせ、頭を悩ませていたが、肝心の霊菜が知りたいのならば伝えないわけにはいかないだろうと、口を開く事にした。


「霊菜...お前は幽霊じゃない...お前は多分...電子生命体だ。」


「電子...生命体?」


「兄さん...それって...『剥離性症候群』の?」


俺は凛花のその言葉に頷く。


剥離性症候群...2030年に起きた大感染...それが今また目の前に危機として迫っているのを感じ、背筋が凍りそうなのをこの身に感じた。


「アッキー...それってなんなの?教えてよ...」


「お前は多分死んでない...ただ身体から弾き出されて...何が原因かわからないけど...恐らくは発症した時に脳波が際限無く漏れ出たのを何らかの方法で構築されたんだと思う...それが霊菜、お前の正体だと思う。」


こんな事実酷でしかない。
まさか霊菜が...いや霊菜の本体がまだ何処かにあってしかも、まだ生きているだなんて。


生きてる事自体は喜ぶべきだろう....助ける方法があるならばだが。
そんな胸中を知ってか知らずか。


「じゃあ私は生きてるの?戻れるの?」


そう聞いてくるが望む答えなんか用意できる筈もない。


「そんな簡単な話じゃない...戻す方法なんか俺は知らないんだ....」


「そ、そんな....」




それを聞いた霊菜は落胆し、床に埋もれてしまった。


俺もこれからどうすればいいのか分からなくなっており...そしてマキナの言っていた、俺にはどうする事も出来ないと言う言葉が心を貫いていた。


そしてポケットのGPSを取り出し凛花に突っ返しておく事ぐらいしか出来ず、各々これからの事を思うと気が気じゃないようだ。



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