時代が移り変わろうとも俺達は恋をする 

ベレット

10話 生徒会長に悩みはつきもの

「やあ、秋人。昨日は大変だったね。ははは、怒っているのかい?そんな君も悪くないね。」


「イズルよくもお前昨日、見捨てやがったな?お陰で大変な目に...何だよ?」


相変わらず飄々とした態度を取りながらその右手
の親指で中庭を指差している。


「君も色々大変だと思うけど、僕も女の子に囲まれて大変だったから。だけどそれよりも彼女の方が疲れてると思わないかい?」


「彼女?彼女って誰だ....あっ。」


イズルの言動をいぶかしみながら中庭に目をやると疲労からか項垂れている白井生徒会長を発見してしまった。


ああなっているのは明らかに雪穂+αのせいだろうと思い至り、正直関わりたくは無いがフォローしなければいけないようだ。


「~~~っはあぁ...分かった。行ってくるよ...多分あいつらのせいだし。それに話もあるしな。」


「はは、秋人ならそう言うと思ったよ。君は女性が困ってたら自分を犠牲にしてでも助けるだろう?」


俺のそういう性分が気に食わないらしくわざと嫌味を含んだ言葉を投げ掛けてきた。


それを耳にし若干腹がたってしまい、歩きながら振り向様に指を指し、挑発紛いな態度をとる。


「だったらイズルがやったらどうだ?俺よりイケメンのお前の方が女の子は喜ぶんじゃないか?」


「君からそう言われるのは光栄だけどそれは無理だ。冗談も程ほどにしてくれ。それは君が一番理解しているんじゃないかい?」


イズルは俺の尊大な態度と言動を歯牙にも掛けず、未だ爽やかな笑顔を保っている。


まあイズルの昔経験した時を思うと仕方ないとは思う...だがいくら心配だからと言って束縛紛いの事は止めてほしい...


だが中学生のイズルと出会った時の事を思い出すと、それ以上責める気にもならず。


「ったく分かったよ!とりあえずもう行くわ!後なイズル!お前もいい加減前に進んで良いんだからなっ!」


そう吐き捨て中庭に差し掛かり柱を掴みながら曲がる際にイズルの様子を確認すると、こちらを見ながら苦笑していた。


その表情に俺も呆れたような笑みを滲ませていると、これまた厄介そうな人物と目が合ってしまい。


「秋人くん...お疲れ様...」


「か、会長...どうしたんですか...」


目の下にクマを作ってしまっている白井生徒会長に恐る恐る近づきながら様子を観察しているとやはり何かあったらしく、いつもの覇気の無さが見てとれる。


「隣...座ってくれる?」


「はあ、まあ良いですけど。」


促された通りにベンチに腰を下ろすと白井さんが学校規定を守った膝竹下ぐらいまであるスカートに顔を埋め始めた。


「もういやっ!!何なのあの子達、めちゃくちゃじゃないのっ!こんなに私頑張ってるのにっ!!」


「会長!落ち着いてっ!」


余りの取り乱しっぷりについ俺も取り乱してしまう。


確実にあいつらのせいなのもあり焦りを感じ始めていると、かばっと頭を上げ俺の肩に会長の綺麗な手の冷たい感触を感じ、少し緊張していたのだがその疲れきった表情に浮わついた感情など吹き飛んでしまった。


「ふふっ...君は凄いわね...あの子達と付き合えて...。尊敬するわ...」


「はあ、どうも。それで何があったんですか?クマ凄いですけど。」


宥めようと優しく問いかけると相当ストレスが貯まっていたのか突然、矢継ぎ早に捲し立ててきた。


「何があったですって!?ならちょっと聞いてくれる!?」


「は、はいっ!」


そこからは愚痴のオンパレードだった。


「夏川さんは秋人君が見てないことを良いことに授業サボったり、部室でゲームしだすのよ!?凛花さんに至っては胸ぐら掴んできて脅迫紛いの口調で問いただしてきて、しまいにはガクガク頭揺らされるし、黒崎さんに何とかさせようと思ったら鍵閉めて閉じ籠るしっ!やっと鍵を開けれたと思ったら塩投げつけられたのよっ!?信じられる!?君なら分かるわよね?分かるって言って!!もういや!!誰のためにこんなに働いてると思ってるの!」


いつもの清楚さは何処へやら、目に写るのは俺の見知った会長ではなく、猛り狂った少女の姿だった。


拝聴し終えその憐れみから来る申し訳の無さが滲み出た顔を右手で覆い隠す。


「すいまっせん!...本当にあいつらが...あっ、それはそうと話があるんですけど。あの後の事なんですが。」


「えっ...ああ...はい。どうぞ...」


せっかく話したのに蔑ろにされたように思われたのか目の色が若干薄くなった気がする...だが一応は聞いてくれるようだ。


「実はですね...」


そこからは懇切丁寧に、時間をかけて説明していく。冬科つららと夏川雪穂の関係性、冬科家の事情...それとひなたの願いとつららの目的を。


「って事でして。」


「なるほど。それはなんというか...大変そうね...それで貴方はどうするつもりなの?」


憔悴しきった様子の会長だったがやはり根っからの真面目っ子らしく、真剣に話を聞いてくれた。


しかしここからが問題だ...どうやってこの黒魔術研究部の被害者に話をしよう、と頭を悩ませていると。


「どうしたの?...何か嫌な予感がするのだけど気のせいかしら?...気のせいよね?」


「そ、それは...」


今までも大分きていた様子だったがこの話をしかけた所その無駄に回る脳のせいでどうやら勘づき始めているようだ。


心苦しいがこれ以上引き伸ばしても話しにくくなるだけだと判断し。


「すみませんけど少しの間あいつらの事よろしくお願いします!俺、当分学校来れないんで!後生徒会の仕事の延長って感じなんで処理もお願いしまーす!...てへ!」


凛花を真似して可愛い子ぶるも俺みたいなフツメンがやっても気持ち悪いだけだった。


だが会長はそんな事よりも重大な問題に直面し、瞳孔が開いており、俺の肩を掴むやいなやガクガクと揺さぶり始め、涙をポロポロ流し始め。


「無理無理無理!!何を言ってるの?考え直して?ねえ、ねえってば!!あっ!ちょっと!!どこ行くの!」


「ふぅ...ちょっとトイレに...あああああ~!脳が揺れる~!ちょっと、はな、離してくださいよっ!このっ!ってえい!!」


掴んだ腕を無理矢理引き剥がし、何とか解放されるなり距離を置こうとベンチから腰を上げ、そそくさとグラウンド側の渡り廊下にある自動販売機に逃げ込み一旦事なきを得た。


渡り廊下の柱からそっと覗き項垂れている会長を眺めていると大粒の涙を流しながら。


「うぅ~~どうしたらいいのぉ~?もう嫌よ~~」


と、気丈な白井会長の声とは思えない年相応の痛々しい呻き声が聞こえてきた。


「聞かなかった事にしよう。そうしようっと。...おっ、ここ良いの揃ってるじゃんか。これからここ通お」


コーヒーとカフェオレのボタンを押して筐体の下部に設置してあるスキャナーにパスを通すと、更に下にある扉から飲み物が入った缶が2つ精製される。


完成したそれを取り出す為しゃがむとサイドポニーで余裕をみて買ったと思われるブカブカの制服を来た少女が自販機の影から現れた。


そしてまじまじと缶を見つめると。


「さっすが師匠!!わざわざトイレに行くと見せかけて女の子の為に甘いコーヒーを買うなんて洒落てるっすね!!」


「は?」


余りの突然の出来事に固まってしまう。


俺もついまじまじと目の前に現れたUMAに目を奪われてある感情が芽生え始めた。


「なんだこいつ?つーか誰?師匠って何?」


「まあまあそんなの今は良いじゃないっすか!ほらほら彼女さんが待ってるっすよ!」


その奇天烈な女の子を上から下まで視線を這わせ怪しんでいるとまた妙な事を言い出した。


「誰が彼女だ。あの人は生徒会長だっての。変な妄想すんな。...でお前誰なん...」


「私の事より..いいんすか、ほっといて?ほらほら!いつもの師匠のお姿を見せてくださいっす!」


言葉を遮りながらその女の子が俺の背中を押して中庭に追いやろうとしてくるが、確かにそろそろ戻らないと時間的に部活を終えて帰る生徒が来そうなので戻ることにした。


未だ項垂れている会長の隣に座り直し。


「これどうぞ。疲れた時は甘いものが良いって言いますし。」


「...ありがと。秋人君は優しい子ね。あの子達とは大違い。」


先輩はともかくあの2人と一緒と思われるのは酷く心外だ。


「そうですかね...そんな事無いと思いますけど...。」


そう言いつつ目から滴り落ちる涙を指で拭う。


「あんまり泣かないで下さい。何か俺が泣かしたみたいじゃないですか...それにそんなに泣いて目を腫らしでもしたら可愛い顔が台無しですよ。」


「ほえ?...なな、ななに言って...秋人君は..その..黒崎さんが好きなのよね?」


何やら急いで缶の蓋を開け一気に飲み干している。
よっぽど喉が乾いていたらしい...それにしても何故急にそんな事を言い出したんだ?


「そんなの当たり前じゃないですか。好きってより愛してますけど。それがどうかしたんですか?うおっ!」


「べっ、別にどうもしませんけどっ!?それじゃあ私は行きますからっ!!」


急に立ち上がるもんだからベンチが揺れてバランスを崩しそうになる。


だがまだ伝えてない事が1つあるので腕を掴む。


「きゃっ!なになになに!?急にどうしたの!?」


何があったのか耳まで真っ赤にした会長が全く目を合わせずに先輩のように挙動不審になっているが構わず続けていく。


「伝え忘れてたことがありまして。...もし3人が何かやらかしたりどうしても手に余る時は電話でもメッセージでも良いんで教えてくださいね?会長に何かあったら困りますし。」


もしも俺達の誰かがこれ以上問題を起こすもんなら謹慎どころか退学もあり得る。


それだけはどうしても避けなければならないと腕に力を込めるが会長は振り払おうとしている。


「分かった!分かったからっ!もう勘弁して...こんなとこ見られたら君も困るでしょ?ね?」


「あー、そうですね。確かに勘違いされて先輩の耳に入ったら...死にたくなりますね...」


「そこまで?そこまでなの?何かバカらしくなってきたわね...きっと秋人君はいずれ女の子に後ろから刺されて死ぬと思うわ。気を付けなさい。」


いきなり冷静さを取り戻した会長がそんな事を告げてきた。
イズルでもあるまいしそれは無いだろう。


「あるわけ無いじゃ無いですか。出来るなら一度でいいからモテたいですけどね。」


「...離しなさい。」


「あっ、はい。」


会長から聞いた覚えの無い冷たい声に咄嗟に掴んでいた手を離し身を引いていると。


「それじゃあ私行くから。秋人君、好きなだけ何処にでも行ってなさい。ふんっ!!」


「はあ...どうもありがとうございます。」


先程までと違い理由も分からず怒っている会長を見送るしかなかった。


呆然と会長が去った先を眺めていると背後の草むらからがさがさ音がするので身体を捻って振り向いてみる。


「いや~流石っすね師匠。あの堅物生徒会長を骨抜きにするなんてやりますねー。」


「ぎゃあああああ!!」


そこにはサイドポニーの少女がベンチの背もたれにのし掛かっていた。


まるで忍者の様に気配を消しており全く気付かず叫び声をあげてしまい、勢いよくベンチから飛び出し。


「お前、何のつもりだっ!!ったく勘弁してくれ!」


「あはは、ごめんなさいっす。それにしても上手いもんっすね。」


「上手いって何がだよ?」


すると目を点に呆然としているかと思いきや今度はいきなり爛々と輝かせ始め、草むらから這い出てベンチに座り始めた。


「もしかして天然?それ罪作りっすよ。」


「だから何の...ん?あれは...」


グラウンド側の渡り廊下から数人の声が聞こえてくる。
どうやらサッカー部らしくゆったりとしたユニフォームに身を包んでいる。


その中心辺りに見知った顔を発見した。


「いやーさっきの結構上手く行ったな。」


「だよなー。俺のお陰じゃねっ!?」


「調子に乗んなよ~智也~!はははっ!」


どうやらもう一人の戦犯がこちらに向かってきているようだ。


ふとベンチに座っていた筈のサイドポニーの少女の方を見るといつの間にか居なくなっていた。


「どこ行った?...まさかまた幽霊じゃ無いだろうな?2人目はいらんぞ...」


「おっ、秋人じゃん。ここで何してんだ?つーか学校来てたんかよ?休みだったんじゃねえの?」


「まあ、色々事情がな...それはともかく...智也~...お前よくもあの場を盛り上げてくれやがったな?」


「げ、やべぇ!わりぃ皆ちょっと用事思い出したから帰るわ!」


そこには俺の怒気に当てられすっかり忘れていたらしい昨日の出来事を思い出し、顔を青くしている智也が居た。


すかさず逃げようとするがそうは問屋が卸さんとばかりに追いかけ、渡り廊下の段差を利用してジャンプをするとそのままドロップキックをお見舞いする。


「逃がすかあっ!!」


「ぐおぉぉぉぅ!!秋人おま...やりすぎ...」


「ぺっ!黙れ、裏切り者が。」


どうやら背中にクリーンヒットしたらしく地面に激突し、動かなくなったみたいだ。


悪に天誅が下った瞬間である。


「うわっ...鈴木秋人じゃん。相変わらずイカれてんなー。」


「ドロップキック始めて見た。」


智也の友人らしき人物達が遠巻きに見て何やらひそひそ話をしているが、どうせ俺がどうこう等の下らない会話なのを今までの経験から判る為放置しておく。


「おー、いてー。悪かったって。これで許してくんね?」


「ったく、しゃーねーなー。後彼女出来ないのはお前の普段のバカさ加減のせいだからな?」


倒れている智也に俺が手を差し出すと慣れた手つきで掴んでくるのを肌で感じとり引っ張り上げる。


周りから見ると俺の悪評が強いためよく悪く見られがちだがこれが俺と智也のバカをやりあえる仲だからこそ出来るじゃれあいだ。


大体智也がふざけて俺が過度な突っ込みを入れて智也が謝るというルーティーンになっている。


そんな事とは露しらず、他二人は俺と目が合うなり逃げていった。


「わりい、友達の前で。謝っといてくれないか?」


「別にいいって!ってかあいつら部活仲間なだけで友達じゃねえしな。そん前に秋人の事悪く言う奴とは友達になるつもりねぇし。」


智也は確かにバカだがそこらに居る頭が良いからってふんぞり返ってるプライドだけ高い奴らより何百倍もマシだ。


じゃなきゃここまでの付き合いにならなかっただろうな。


「ならいいけどさ。とにかくやりすぎた。」


「なに言ってんだよ。俺とお前の仲じゃん?いつもの事だし...つうかマジで秋人何で学校居るんだ?何か夏川さんも機嫌悪かったし。」


それは嫌な話を聞いた...俄然行きたくなくなったんだが。


しかしそろそろ行くべきだろう。霊菜も待っているかもしれない。


「当分学校休むと思うから。」


「ん、そっか。また何か面白いことすんなら呼べよ~?んじゃあ俺も部活戻るわ。またなー。」


深く聞くこともせず行ってしまった。


本当に智也は友達がいのある奴だ。


「俺も行くか...行きたくねぇ...」


そしてこの先に目も当てたくない物が転がってるかも知れないと思うと足が重く感じるが、ネガティブな気持ちを置いていくように床を蹴り上げて小走りで部活棟に入っていった。





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