時代が移り変わろうとも俺達は恋をする
4話 桃色の侵入者
「なにあれ...」
「夏川さんに挑戦者らしいね。何でも去年のeスポーツ全国大会2位だとか。」
相変わらずの情報通である親友のイズルから話を聞き、早速嫌な予感がした。
雪穂が関わっている以上想像の斜め上を行く問題に発展する恐れがある。
人混みを掻き分けながら先頭らへんに到達すると、雪穂ともう一人の女の子が暴れまわっているのが見えた。
「....何やってんだよほんとに。...ん?...あれは...」
ふとある事に気がついた...二人の眼の色が日本人特有の黒茶色ではなく、青色に輝いていた。
その色と光には既視感がある...あれはVR用のコンタクトレンズだ。
ゴーグル型だったのは昔の話で今はあれが主流になっている。
開発者は一人の女性らしいが今はもう亡くなっているらしく、その技術を流用してVRコンタクトレンズを複製してはいるが、その中にはブラックボックスといえるデータが眠っているらしい。
が解析は思うように進んでいないというのをテレビで見た記憶がある。
その内容を思い出しながら周囲に群がっていた人達が写真でも撮っているのかと思っていたがどうやら違うらしく、どうも俺が制作した携帯のカメラを使ったVRデバイスでゲーム観戦をしているみたいだった。
俺もそれに習いアプリを起動し覗き込むと...どうやらチャンバラをやっているらしく、三点先取のゲームなのだが既に雪穂が二点、もう一人のピンク髪が一点取っているようで、雪穂が優勢なようだ。
だがゲームよりも気になる点がある。
何故あの少女がうちの学校にいるのか理解に苦しむ。
やはり俺のセンサーは正しく機能しているらしく、この場から逃げ出そうと踵を返すと、背後からgamesetのアナウンスが二人の携帯から流れた。
やはり雪穂の方がゲームにおいても身体能力でも一枚上手なようで2点差で勝利を納めており、ピンク髪のラビットこと冬科つららが悔しそうな表情を浮かべていた。
「うぅ....くそっ!っまた敗けたっ!!」
「....?また...?君と勝負したことないよ...?」
その言葉を聞いて冬科が怒りを露にしてこう告げる。
「はあっ!?き、去年のEスポーツ大会の決勝戦でやりあったでしょうがっ!!何で覚えてないわけ!?」
「....?..そうだっけ?あんまり強くなかったからあんまり覚えてない...」
「はは、まあ夏川さんなら覚えてないかもね。」
イズルの発した言葉通りだと思う...何故なら夏川雪穂という人物は人の顔を覚えるのが大の苦手だ。
それこそイズルの顔さえ最近ようやく認識し始めたのだが未だに名前を覚えてすらいない、自分の興味がある事以外には昔から見向きもしないからな。
ある意味それが天才故かもしれない、世間的に見ても天才と呼ばれる一握りの人達は往々にして変人が多い。
黒魔術研究部なんて良い例だろう...先輩に雪穂それと凛花も大体変な行動や言動が多い気がする。
「だけど、あの子は2位なんだよな?...そりゃあ怒るぞ。っていうか怒らない方がおかしいかもな。昔からそんな感じの理由でよく喧嘩になってたし...まあ大体雪穂が実力行使で黙らせていたけど。」
「...ふーん、なら今みたいにかい?大変な事態になってるけど。」
イズルから目線を離し二人に目を向けると、案の定ある程度予想してはいたものの余り見たくない状況に様変わりしていた。
「あんたいい加減にしなさいよっ!!覚えてないってどういう事!?」
「....弱い人は覚える必要がないから...」
「あーあ、言っちゃったよ。」
その言葉を聞いた冬科は当然ながら顔を真っ赤にゆでダコの様に染め上げ、見た目そのままの不良少女らしい雪穂の胸ぐらを掴み初めたのを見て周囲を固めていた野次馬達がざわざわと騒ぎ始めた。
「先生呼んだ方がよくないか?銀髪の子危ないだろ。」
「だよね...私呼んでこようか?」
実際危ないのはピンクのほうだろう...雪穂は喧嘩が強いので明らかにラビットがぼこぼこにされる未来しか見えてこない。
だがこの騒ぎにも関わらず先生方は何処にいるのか...本来なら学校でゲームしている時点で止めに入るべきでは?
俺が不思議に思いながら二階にある職員室辺りの窓を見上げると...我関せずといった感じに数人の教師が目を背けた。
.....これはあれか、最近はモンスターペアレントだとかPTAがうるさいからとかで出来るだけ関わらない様にしているのかもしれない。
職務怠慢もいいとこだと思うのだが...と呆れているとこれまた怒りのオーラを纏った我らが白井生徒会長様が玄関口からこちらを睨みながら此方に歩いてきている。
「そこっ!!何をやっているのっ!!今すぐ解散しなさ...」
「誰よあれ...いっ、いたっ!あーーーーっ!!」
「うざい...」
相手が女の子だろうと顔面にアイアンクローをお見舞いしている雪穂をよそに俺は友人の背中に隠れたのだが。
「止めなさいっ!夏川さん、一体どれだけ暴力振るえば気がすむのかしらっ!?...鈴木秋人君っ!近くにいるわね!出てきなさい!」
「何でばれてんねん....」
余りの展開に頭がついていかず、つい普段はまず使うことは絶対に無い関西風の言葉が口を衝いて出た。
そもそも何で居る事を前提にしているのかと、憤りと困惑を表情に出しているとそれを察した親友イズルが口を開く。
「出てった方が良いと思うけどね。秋人しか夏川さんは止められないと思うよ。何て言ったって彼女の保護者な訳だしね。」
「.....ったくしゃーねーなあー。じゃあちょっと行ってくるわ....おいちょっと待てや、保護者ってなんだよ!いつの間にそんな立ち位置にっ!!」
イズルのその芸能アイドル顔負けの美形から漏れ出た笑顔に苛立ちを感じ文句の一つでも言ってやろうか...と、睨むが。
「鈴木君!早く出てきなさい!」
「は、はいっ!!お前後で覚えとけよっ!」
「ははっ忘れたのかい?僕はMだからね、どんとこいだよ。」
こいつも例に漏れず変人なのを忘れていた。
普段が完璧超人なので分かりづらいがイズルもなかなか厄介な人物である。
だが顔が良いというのは女の子にとっては何よりも重要なのか俺が離れると同時にイズルの周りは女子達に固められてしまっていた。
うーん、餌に群がる魚みたいだ...たが残念ながらその男の性癖はそうとうネジ曲がっているので恋人の様なS成分強めか逆にロリにしか興味が無いので、その行動は無駄にしかならない。
もしイズルの前にドS型幼女が現れたらどうなるか見てみたい気もする。
そんな妄想を振り切り雪穂、ラビットこと冬科さんと白井生徒会長に向き直るやいなや俺は...
「今回の件、俺は全く関係ありませんっ!なので勘弁して欲しいんですけど!」
と、情けない言動をもって公衆の面前で抗議する。
その姿を見て白井会長は冷たい目線を浴びせてくるが、一通り終わると胸元で腕組をして溜め息を吐いた。
そして知的さを感じさせる黒色の眼鏡をくいっと上げると。
「鈴木君、君が今回の件に関わってないのは分かってるわ。そもそも君自信が主導で問題起こしたのは放送事件だけなのだし、他の件でも中心にいたけれど巻き込まれたり、無理矢理手伝わされたりしたのは分かってます。それに昨日もしっかりと働いてくれましたから。」
「あー、ならもういいですかね?ほんとに関係無さそうですし...」
だがそうは問屋が卸さないらしく、更に白井さんの言葉に耳を傾けていると、大変困った事態になっていたらしく再度抗議を試みる。
「待ちなさい。何のためにあなたを呼んだと思っているの?鈴木君は黒魔術研究部の責任者なのだからちゃんとこの場を収めなさい。」
「あー、はいはい、なるほどなるほど...ってなんですかそれっ!責任者って!!初めて聞きましたよっ!!」
俺は先輩と居たいが為にあの部活に入っているだけなのでそんな役職につくつもりはない。
それも相談も無しにとはいささか酷くは無いだろうか。
「だって仕方無いと思わない?黒崎さんに出来ると思うかしら?仲裁や会議とか諸々。」
「無理ですね。出来るわけ無いじゃないですか。.......あ....」
これは完璧に手玉にとられてしまった。
男子足るもの好きな娘の話になるとテンションが上がり、つい弄ってしまうものだ。
やはりこと言葉遊びに関して女性の方が上手だ、しかも今回は白井会長が相手だというのに注意散漫すぎたと反省しなければいけない。
「そうでしょう?なら他のメンバーは問題外よね?だとすると一番の常識人である君が代表者になるしかない...そうでしょう?」
「嵌めましたね?はあ...全く...」
「あら?何のことか分からないわ。でも鈴木君の今の想像は意外と間違いではないかもしれないわね?」
やはりこの人は一筋縄ではいかない。
あいつらとは違う意味で厄介だ...腕っぷしが強いよりこういうタイプの人は敵に回したくはない。
そしてその当人はというと、頬に人差し指を置いて悪戯っ子の様な笑みをこぼしている。
俺の心は当然先輩の物だが不覚にもその可愛らしい仕草に少しドキッとしてしまった。
在学中は恋人は作らないようだが正直勿体無いとは思う。
牽制をしあっている俺たちを周りからすると、仲良く見えているらしく、俺と会長の間に雪穂が割ってはいる。
「むー、あきちゃんとかいちょー、ちかい....」
「んん?そうか?ってかそんな事よりもお前ら校内で堂々とゲーム...」
注意喚起しようと、そこまで言い終わりふとピンク髪を見てみると目を爛々と輝かせながら鼻息を荒くしていた。
「あ、アキトさん!昨日ぶりですね!」
「お、おお。冬科さんここで何してんの?」
まあ先程の会話を聞く限り雪穂の関係者なのだろうが。
「え、ええ少し...あのーアキトさんはこの銀髪と知り合い何ですか?」
「知り合いっていうか」
「おさななじみ…」
雪穂の言葉を聞くなり冬科つららは目を丸く見開き俺と雪穂を交互に何度も見返している。
余程信じられないのか行き場の無くなった両手がパントマイムの様に忙しく動き回っている。
その動揺っぷりを見て落ち着かせようと。
「お、落ち着けって。雪穂とは幼なじみと言っても最近再開したばかりでそこまでの付き合いじゃないぞ…何で俺言い訳してるんだ…ま、まあそういうわけだから。なあ、雪穂?…あのー雪穂さん?」
「……………」
珍しく頬を膨らまして不機嫌そうな表情を表に出している。
何度呼び掛けても此方を見ようとしない。
「鈴木君…デリカシー無いのね、君。」
「ぐうっ…そ、そうですか?そんな事は…」
周りにいる野次馬達に目を向けるとなにやら俺をちらちら見ながらひそひそて話をしているようだ。
何となくだがまた鈴木秋人の評判が悪くなった気がする…
その空気に耐えきれないでいると突然、冬科つららが発狂し始めた。
「うあぁぁぁっ!!何でよっ!理不尽過ぎでしょ!プロゲーマーの地位だけじゃなくアキトさんの幼なじみとかどんだけ勝ち組な訳!?」
「あー、その…大丈夫か?」
俺が呆気にとられながらも気をつかって宥めていると言うのに周囲から謂れの無いヤジが飛び交ってくる。
内容はとてもじゃないが俺にとっては聞くに耐えない物だ。
「うわっ、あれってあの放送室ジャックの鈴木秋人って人でしょ?いい加減にしてほしいよねー。」
「またあいつかよ!ほんと迷惑な奴だな!」
「つーか鈴木っていつも女子に囲まれてね?裏山なんだけど。」
「そーだそーだ!一人に絞れーっ!そして俺にも一人紹介しろー!」
好き勝手言ってくれている中に聞き覚えのある声が混じっているのを聞き取れた。
「勝手な事ばっか言いやがって……ん?…ああっ!智也てめえそこで何やってんだ!?」
「あ…やべ。」
この人工島と言われている2031年…今から49年前に出来た第2日本島の南側に俺が通う南部高校が建っている。
その南部高校に入学した日にこの茶髪で馬鹿面な貝塚智也と出会い意気投合し親友となったのだ。
その阿呆が俺に見つかるとそそくさと人混みに紛れて視界から消えていった。
智也は後で何かしら罰を与えることを胸に刻み込んでいると、突然冬科つららが俺の手を掴み校外に連れ出そうとしている。
「ちょっ!何なんだよ!?なに何なの!?」
「ちょっと付き合ってください!」
「むう、あきちゃんから離れて。」
引っ張られる俺、引っ張る冬科さん二人の手に雪穂が薪割りでもするかの勢い良く手刀を振り下ろした。
「いってぇぇぇぇっ!!」
「いったっ!!あんた何すんのよ!」
がっちり手を握られていたのでその雪穂の攻撃が思いの外効いた俺たちは少しの間悶絶した。
が、当の雪穂は構わず何時かを彷彿とさせるかの様に無表情のまま右手に小振りを作り。
「うざいからなぐる。」
「えええええっっ!!!り、理不尽っ!!いたっ!ちょっ、顔は、顔は止めなさいよぉぉぉっ!!」
つい最近聞き覚えのある台詞を放ちながら冬科つららの顔と肩、胸元に一発ずつ、合計で三発入れた。
「雪穂お前何やってんだ。やめっ!やめろおっ!もー何ですぐ殴んの?ほんと止めて?」
「なにやってるの!夏川さんそういうのを控えなさいって言ったでしょう!」
「うぅ…ぐすっ…」
会長と俺が止めに入ると常に強気の姿勢を保っていた冬科さんがポロポロと涙を流しながら俺の背中に隠れてしまった。
前門のゴリラ、後門の兎に挟まれどうすることも出来ない。
それにしても雪穂は本当に女なのか?
暴力的で喧嘩っぱやい所もだが腕力なんて成人男性顔負けでは無いだろうか…俺の幼なじみが怖すぎる。
だが会長も予想だにしない行動に移りだした。
「鈴木君!一旦その子と一緒に夏川さんから離れなさい!」
「えっ!でも会長が…」
「いいからっ!」
何やら考えがあるのか俺が距離を取ると予想外な展開に変わっていく。
「てやぁっ!」
「うっ…」
まさかあの清楚な会長が綺麗な一本背負いを決め、雪穂を地面に叩きつけた。
そのまま雪穂は気を失ったようだ。
「おおぉ……すげぇ。」
「ふぅ…さてとそれじゃあ、そうね…鈴木君その子校外に連れ出してちょうだい。」
「え…いや今から学校…」
断ろうとすると優しく微笑んでいるもののその奥から鬼気迫るものを感じ。
「やってくれるわね?」
「は、はいぃっ!!直ちにっ!」
余りにもその笑顔が怖かったので反射的に冬科さんの手を握り。
「冬科さんとりあえず何か俺にも用事あるんだよな?なら行かないか?ここにいても…危なそうだし… 」
「……うん…」
出来るだけ優しい言葉遣いで語りかけ意気消沈している冬科つららを今度は俺が引っ張っていき、人混みを掻き分け、校門に何とか辿り着いた。
すると後ろから声が聞こえてきたので振り返ると携帯からメッセージアプリの通知音が聞こえた。
確認すると相手は白井会長の様で内容は『学業や成績はなんとかするから問題解決に注力しなさい。』と書いてある。
それを読み終わると、乾いた笑いが自然と零れ、会長がいるグラウンドの中央辺りを見据えながら、『とんだ不良生徒会長ですね。』と返すと直ぐ様『二人だけの秘密よ?』そう返ってきた。
あざとい人だというのが素直な感想だ、これが小悪魔系女子というやつか。
俺は頭を振り、アプリを閉じると意識を切り替えそのまま校外に出て最寄りのバス停へと歩を進めた。
去り際にイズルが此方を見ながらイケメン風な笑いかたをしていたのを見つけ、その内あいつはしめておこうと心に誓った。
「夏川さんに挑戦者らしいね。何でも去年のeスポーツ全国大会2位だとか。」
相変わらずの情報通である親友のイズルから話を聞き、早速嫌な予感がした。
雪穂が関わっている以上想像の斜め上を行く問題に発展する恐れがある。
人混みを掻き分けながら先頭らへんに到達すると、雪穂ともう一人の女の子が暴れまわっているのが見えた。
「....何やってんだよほんとに。...ん?...あれは...」
ふとある事に気がついた...二人の眼の色が日本人特有の黒茶色ではなく、青色に輝いていた。
その色と光には既視感がある...あれはVR用のコンタクトレンズだ。
ゴーグル型だったのは昔の話で今はあれが主流になっている。
開発者は一人の女性らしいが今はもう亡くなっているらしく、その技術を流用してVRコンタクトレンズを複製してはいるが、その中にはブラックボックスといえるデータが眠っているらしい。
が解析は思うように進んでいないというのをテレビで見た記憶がある。
その内容を思い出しながら周囲に群がっていた人達が写真でも撮っているのかと思っていたがどうやら違うらしく、どうも俺が制作した携帯のカメラを使ったVRデバイスでゲーム観戦をしているみたいだった。
俺もそれに習いアプリを起動し覗き込むと...どうやらチャンバラをやっているらしく、三点先取のゲームなのだが既に雪穂が二点、もう一人のピンク髪が一点取っているようで、雪穂が優勢なようだ。
だがゲームよりも気になる点がある。
何故あの少女がうちの学校にいるのか理解に苦しむ。
やはり俺のセンサーは正しく機能しているらしく、この場から逃げ出そうと踵を返すと、背後からgamesetのアナウンスが二人の携帯から流れた。
やはり雪穂の方がゲームにおいても身体能力でも一枚上手なようで2点差で勝利を納めており、ピンク髪のラビットこと冬科つららが悔しそうな表情を浮かべていた。
「うぅ....くそっ!っまた敗けたっ!!」
「....?また...?君と勝負したことないよ...?」
その言葉を聞いて冬科が怒りを露にしてこう告げる。
「はあっ!?き、去年のEスポーツ大会の決勝戦でやりあったでしょうがっ!!何で覚えてないわけ!?」
「....?..そうだっけ?あんまり強くなかったからあんまり覚えてない...」
「はは、まあ夏川さんなら覚えてないかもね。」
イズルの発した言葉通りだと思う...何故なら夏川雪穂という人物は人の顔を覚えるのが大の苦手だ。
それこそイズルの顔さえ最近ようやく認識し始めたのだが未だに名前を覚えてすらいない、自分の興味がある事以外には昔から見向きもしないからな。
ある意味それが天才故かもしれない、世間的に見ても天才と呼ばれる一握りの人達は往々にして変人が多い。
黒魔術研究部なんて良い例だろう...先輩に雪穂それと凛花も大体変な行動や言動が多い気がする。
「だけど、あの子は2位なんだよな?...そりゃあ怒るぞ。っていうか怒らない方がおかしいかもな。昔からそんな感じの理由でよく喧嘩になってたし...まあ大体雪穂が実力行使で黙らせていたけど。」
「...ふーん、なら今みたいにかい?大変な事態になってるけど。」
イズルから目線を離し二人に目を向けると、案の定ある程度予想してはいたものの余り見たくない状況に様変わりしていた。
「あんたいい加減にしなさいよっ!!覚えてないってどういう事!?」
「....弱い人は覚える必要がないから...」
「あーあ、言っちゃったよ。」
その言葉を聞いた冬科は当然ながら顔を真っ赤にゆでダコの様に染め上げ、見た目そのままの不良少女らしい雪穂の胸ぐらを掴み初めたのを見て周囲を固めていた野次馬達がざわざわと騒ぎ始めた。
「先生呼んだ方がよくないか?銀髪の子危ないだろ。」
「だよね...私呼んでこようか?」
実際危ないのはピンクのほうだろう...雪穂は喧嘩が強いので明らかにラビットがぼこぼこにされる未来しか見えてこない。
だがこの騒ぎにも関わらず先生方は何処にいるのか...本来なら学校でゲームしている時点で止めに入るべきでは?
俺が不思議に思いながら二階にある職員室辺りの窓を見上げると...我関せずといった感じに数人の教師が目を背けた。
.....これはあれか、最近はモンスターペアレントだとかPTAがうるさいからとかで出来るだけ関わらない様にしているのかもしれない。
職務怠慢もいいとこだと思うのだが...と呆れているとこれまた怒りのオーラを纏った我らが白井生徒会長様が玄関口からこちらを睨みながら此方に歩いてきている。
「そこっ!!何をやっているのっ!!今すぐ解散しなさ...」
「誰よあれ...いっ、いたっ!あーーーーっ!!」
「うざい...」
相手が女の子だろうと顔面にアイアンクローをお見舞いしている雪穂をよそに俺は友人の背中に隠れたのだが。
「止めなさいっ!夏川さん、一体どれだけ暴力振るえば気がすむのかしらっ!?...鈴木秋人君っ!近くにいるわね!出てきなさい!」
「何でばれてんねん....」
余りの展開に頭がついていかず、つい普段はまず使うことは絶対に無い関西風の言葉が口を衝いて出た。
そもそも何で居る事を前提にしているのかと、憤りと困惑を表情に出しているとそれを察した親友イズルが口を開く。
「出てった方が良いと思うけどね。秋人しか夏川さんは止められないと思うよ。何て言ったって彼女の保護者な訳だしね。」
「.....ったくしゃーねーなあー。じゃあちょっと行ってくるわ....おいちょっと待てや、保護者ってなんだよ!いつの間にそんな立ち位置にっ!!」
イズルのその芸能アイドル顔負けの美形から漏れ出た笑顔に苛立ちを感じ文句の一つでも言ってやろうか...と、睨むが。
「鈴木君!早く出てきなさい!」
「は、はいっ!!お前後で覚えとけよっ!」
「ははっ忘れたのかい?僕はMだからね、どんとこいだよ。」
こいつも例に漏れず変人なのを忘れていた。
普段が完璧超人なので分かりづらいがイズルもなかなか厄介な人物である。
だが顔が良いというのは女の子にとっては何よりも重要なのか俺が離れると同時にイズルの周りは女子達に固められてしまっていた。
うーん、餌に群がる魚みたいだ...たが残念ながらその男の性癖はそうとうネジ曲がっているので恋人の様なS成分強めか逆にロリにしか興味が無いので、その行動は無駄にしかならない。
もしイズルの前にドS型幼女が現れたらどうなるか見てみたい気もする。
そんな妄想を振り切り雪穂、ラビットこと冬科さんと白井生徒会長に向き直るやいなや俺は...
「今回の件、俺は全く関係ありませんっ!なので勘弁して欲しいんですけど!」
と、情けない言動をもって公衆の面前で抗議する。
その姿を見て白井会長は冷たい目線を浴びせてくるが、一通り終わると胸元で腕組をして溜め息を吐いた。
そして知的さを感じさせる黒色の眼鏡をくいっと上げると。
「鈴木君、君が今回の件に関わってないのは分かってるわ。そもそも君自信が主導で問題起こしたのは放送事件だけなのだし、他の件でも中心にいたけれど巻き込まれたり、無理矢理手伝わされたりしたのは分かってます。それに昨日もしっかりと働いてくれましたから。」
「あー、ならもういいですかね?ほんとに関係無さそうですし...」
だがそうは問屋が卸さないらしく、更に白井さんの言葉に耳を傾けていると、大変困った事態になっていたらしく再度抗議を試みる。
「待ちなさい。何のためにあなたを呼んだと思っているの?鈴木君は黒魔術研究部の責任者なのだからちゃんとこの場を収めなさい。」
「あー、はいはい、なるほどなるほど...ってなんですかそれっ!責任者って!!初めて聞きましたよっ!!」
俺は先輩と居たいが為にあの部活に入っているだけなのでそんな役職につくつもりはない。
それも相談も無しにとはいささか酷くは無いだろうか。
「だって仕方無いと思わない?黒崎さんに出来ると思うかしら?仲裁や会議とか諸々。」
「無理ですね。出来るわけ無いじゃないですか。.......あ....」
これは完璧に手玉にとられてしまった。
男子足るもの好きな娘の話になるとテンションが上がり、つい弄ってしまうものだ。
やはりこと言葉遊びに関して女性の方が上手だ、しかも今回は白井会長が相手だというのに注意散漫すぎたと反省しなければいけない。
「そうでしょう?なら他のメンバーは問題外よね?だとすると一番の常識人である君が代表者になるしかない...そうでしょう?」
「嵌めましたね?はあ...全く...」
「あら?何のことか分からないわ。でも鈴木君の今の想像は意外と間違いではないかもしれないわね?」
やはりこの人は一筋縄ではいかない。
あいつらとは違う意味で厄介だ...腕っぷしが強いよりこういうタイプの人は敵に回したくはない。
そしてその当人はというと、頬に人差し指を置いて悪戯っ子の様な笑みをこぼしている。
俺の心は当然先輩の物だが不覚にもその可愛らしい仕草に少しドキッとしてしまった。
在学中は恋人は作らないようだが正直勿体無いとは思う。
牽制をしあっている俺たちを周りからすると、仲良く見えているらしく、俺と会長の間に雪穂が割ってはいる。
「むー、あきちゃんとかいちょー、ちかい....」
「んん?そうか?ってかそんな事よりもお前ら校内で堂々とゲーム...」
注意喚起しようと、そこまで言い終わりふとピンク髪を見てみると目を爛々と輝かせながら鼻息を荒くしていた。
「あ、アキトさん!昨日ぶりですね!」
「お、おお。冬科さんここで何してんの?」
まあ先程の会話を聞く限り雪穂の関係者なのだろうが。
「え、ええ少し...あのーアキトさんはこの銀髪と知り合い何ですか?」
「知り合いっていうか」
「おさななじみ…」
雪穂の言葉を聞くなり冬科つららは目を丸く見開き俺と雪穂を交互に何度も見返している。
余程信じられないのか行き場の無くなった両手がパントマイムの様に忙しく動き回っている。
その動揺っぷりを見て落ち着かせようと。
「お、落ち着けって。雪穂とは幼なじみと言っても最近再開したばかりでそこまでの付き合いじゃないぞ…何で俺言い訳してるんだ…ま、まあそういうわけだから。なあ、雪穂?…あのー雪穂さん?」
「……………」
珍しく頬を膨らまして不機嫌そうな表情を表に出している。
何度呼び掛けても此方を見ようとしない。
「鈴木君…デリカシー無いのね、君。」
「ぐうっ…そ、そうですか?そんな事は…」
周りにいる野次馬達に目を向けるとなにやら俺をちらちら見ながらひそひそて話をしているようだ。
何となくだがまた鈴木秋人の評判が悪くなった気がする…
その空気に耐えきれないでいると突然、冬科つららが発狂し始めた。
「うあぁぁぁっ!!何でよっ!理不尽過ぎでしょ!プロゲーマーの地位だけじゃなくアキトさんの幼なじみとかどんだけ勝ち組な訳!?」
「あー、その…大丈夫か?」
俺が呆気にとられながらも気をつかって宥めていると言うのに周囲から謂れの無いヤジが飛び交ってくる。
内容はとてもじゃないが俺にとっては聞くに耐えない物だ。
「うわっ、あれってあの放送室ジャックの鈴木秋人って人でしょ?いい加減にしてほしいよねー。」
「またあいつかよ!ほんと迷惑な奴だな!」
「つーか鈴木っていつも女子に囲まれてね?裏山なんだけど。」
「そーだそーだ!一人に絞れーっ!そして俺にも一人紹介しろー!」
好き勝手言ってくれている中に聞き覚えのある声が混じっているのを聞き取れた。
「勝手な事ばっか言いやがって……ん?…ああっ!智也てめえそこで何やってんだ!?」
「あ…やべ。」
この人工島と言われている2031年…今から49年前に出来た第2日本島の南側に俺が通う南部高校が建っている。
その南部高校に入学した日にこの茶髪で馬鹿面な貝塚智也と出会い意気投合し親友となったのだ。
その阿呆が俺に見つかるとそそくさと人混みに紛れて視界から消えていった。
智也は後で何かしら罰を与えることを胸に刻み込んでいると、突然冬科つららが俺の手を掴み校外に連れ出そうとしている。
「ちょっ!何なんだよ!?なに何なの!?」
「ちょっと付き合ってください!」
「むう、あきちゃんから離れて。」
引っ張られる俺、引っ張る冬科さん二人の手に雪穂が薪割りでもするかの勢い良く手刀を振り下ろした。
「いってぇぇぇぇっ!!」
「いったっ!!あんた何すんのよ!」
がっちり手を握られていたのでその雪穂の攻撃が思いの外効いた俺たちは少しの間悶絶した。
が、当の雪穂は構わず何時かを彷彿とさせるかの様に無表情のまま右手に小振りを作り。
「うざいからなぐる。」
「えええええっっ!!!り、理不尽っ!!いたっ!ちょっ、顔は、顔は止めなさいよぉぉぉっ!!」
つい最近聞き覚えのある台詞を放ちながら冬科つららの顔と肩、胸元に一発ずつ、合計で三発入れた。
「雪穂お前何やってんだ。やめっ!やめろおっ!もー何ですぐ殴んの?ほんと止めて?」
「なにやってるの!夏川さんそういうのを控えなさいって言ったでしょう!」
「うぅ…ぐすっ…」
会長と俺が止めに入ると常に強気の姿勢を保っていた冬科さんがポロポロと涙を流しながら俺の背中に隠れてしまった。
前門のゴリラ、後門の兎に挟まれどうすることも出来ない。
それにしても雪穂は本当に女なのか?
暴力的で喧嘩っぱやい所もだが腕力なんて成人男性顔負けでは無いだろうか…俺の幼なじみが怖すぎる。
だが会長も予想だにしない行動に移りだした。
「鈴木君!一旦その子と一緒に夏川さんから離れなさい!」
「えっ!でも会長が…」
「いいからっ!」
何やら考えがあるのか俺が距離を取ると予想外な展開に変わっていく。
「てやぁっ!」
「うっ…」
まさかあの清楚な会長が綺麗な一本背負いを決め、雪穂を地面に叩きつけた。
そのまま雪穂は気を失ったようだ。
「おおぉ……すげぇ。」
「ふぅ…さてとそれじゃあ、そうね…鈴木君その子校外に連れ出してちょうだい。」
「え…いや今から学校…」
断ろうとすると優しく微笑んでいるもののその奥から鬼気迫るものを感じ。
「やってくれるわね?」
「は、はいぃっ!!直ちにっ!」
余りにもその笑顔が怖かったので反射的に冬科さんの手を握り。
「冬科さんとりあえず何か俺にも用事あるんだよな?なら行かないか?ここにいても…危なそうだし… 」
「……うん…」
出来るだけ優しい言葉遣いで語りかけ意気消沈している冬科つららを今度は俺が引っ張っていき、人混みを掻き分け、校門に何とか辿り着いた。
すると後ろから声が聞こえてきたので振り返ると携帯からメッセージアプリの通知音が聞こえた。
確認すると相手は白井会長の様で内容は『学業や成績はなんとかするから問題解決に注力しなさい。』と書いてある。
それを読み終わると、乾いた笑いが自然と零れ、会長がいるグラウンドの中央辺りを見据えながら、『とんだ不良生徒会長ですね。』と返すと直ぐ様『二人だけの秘密よ?』そう返ってきた。
あざとい人だというのが素直な感想だ、これが小悪魔系女子というやつか。
俺は頭を振り、アプリを閉じると意識を切り替えそのまま校外に出て最寄りのバス停へと歩を進めた。
去り際にイズルが此方を見ながらイケメン風な笑いかたをしていたのを見つけ、その内あいつはしめておこうと心に誓った。
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