苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

表の顔の理由の件

「.....いいわ、今よ!」


「はあはあ....もうすぐか!」


人に見つからないように闇夜に紛れ街の中を移動していく。


夜中だけあって人通りは少ないが所々に警備を担う玄武族の緑色を基調にした浴衣と甲羅のような軽鎧を着用している男達が彷徨いている。


「おっさん、今だし!」


「ああ.........!?」


なんとか潜り抜け、街の北門に到着したが門前に人影を見つけた。


「よお小僧、大活躍だな」


「セイジュウロウ....っ!」


姿を現したのは青龍の若頭、セイジュウロウだった。


俺はファフニールを作り出し、飛び出したが「待ちな」とセイジュウロウが手を前に突きだし制止する。


「そっちの姉ちゃんがリリアーシュ。偶像の殺人鬼かい?」


「.....あんた...知ってたのか....リリアーシュが冤罪だって」


「まあな...ほれ、行きな嬢ちゃん」


セイジュウロウが控えていた人物の肩に手を置き、こちらに行くように促すとその人物が御辞儀をして小走りで向かってくる。


「お兄さーん!」


「は!?何であんたが!」


「ルーシェ?...セイジュウロウ、どういう事だ。説明しろ」


抱きついてくるルーシェの顔を掴み、引き剥がしながらセイジュウロウを睨み付けると葉っぱを咥え、火をつけた。


「......そいつは帰してやる。その代わりにリリアーシュとトトアーシュをお前の村に匿ってやれ」


トトだけなら分かるがリリアーシュも?


「断るわ。あの男の...白狐族の暴挙をまだ私は止めていないもの....!」


セイジュウロウは葉っぱを一息吸い、深く吐き出した。


「ああ、分かっている。だからこそだ。」


「だからこそ?意味が分からないわよ!」


「いいか?お前は全国民の敵にさせられている。白狐に嵌められてな。顔もバレたし、ほれ、これを見な」


二枚の紙を俺の足元に放り投げそれを拾う。


「これは俺とリリアーシュの指名手配書!?」


「ああ、そうだ。ギルドが発行した。もうこの国のギルド、大多数の部族に民間人、更には首長もお前達を危険分子と認めた。お前達にこの国での居場所はねえのよ」


「.....なんなんよ、これ!濡れ衣もいいとこじゃない!おっさんも姉さんもやってない!」


罪状は国家転覆罪だそうだ。
きっと白狐の秘密を目撃したからだろう。


「でも私は...っ!まだこの国でやるべき事が...!」


「はあ...わかんねえ奴だな。てめえが暴れるとこっちの調査が中断されんだよ!本当に救いてえんなら引き際を見極めろ、姉ちゃん!」


「.......っ!」


これ以上の問答に意味はないと理解し口を挟む。


「分かった...リリアーシュ、ここは退こう」


「.....でも...っ!」


「セイジュウロウの言う通りだ。こうなってはもうこの国で動けなくなる。手詰まりだ。」


「.....くっ!........わ、分かったわ...あなたの村に行く...」


それは俺にとっても御の字だ。
帰ったらリリアーシュにおやっさん診て貰おう。


「だがこの子達はどうする?」


ゴーレムが我が子のように大事そうに抱えている女の子二人を見上げ、目を合わす。
とても不安そうだ。


「助けた子達を預かってくれている場所が郊外にあるわ。そこに連れていく。」


「分かった...そこで夜も明かせるか?」


「ええ、問題ないわ」


「ならもう行け。多少なら抑えといてやる」


俺達は頷き、門から横にずれたセイジュウロウの脇を通りすぎる。


「わるかったな、ユグドラシルの」


セイジュウロウの呟きが聞こえたが反応せず、そのまま俺達は駆け抜け、メリザリンから辛くも脱出した。


ーー「これに乗りましょう」


「ああ、っしょと。ルーシェ、後ろ乗れ」


「あーしは姉さんの後ろ乗るわ」


「うへぇですぅ。食べないですよねぇ?うひゃあ!」


やはり虫に見えるのか、大蜥蜴が長い舌を伸ばした。


「もうここにいろよ」


「そうしますぅ...」


全員が乗り込んだのを確認し出発の合図を蜥蜴に送る。


「よし!なるべく早く退避するぞ!場所はどっちだ、リリアーシュ!」


「ここから東にある一軒家よ!それと私の事はリリと呼んでちょうだい!」


「分かった!頼むぞ、お前達!」


蜥蜴の脇腹を足で小突くと鳴き声をあげて走り出した。


ーー「だから何であんたがおっさんに着いてきてんのよ!」


「別にいいじゃん。トトには関係ないでしょ」


「あるっつーの!だってあんたは....」


早く着かないだろうか...
こんな時にも喧嘩すんなよ。


「ほら着いたわよ。ユウキ、この子達を繋いできて」


「ああ、任せろ。お前らいい加減にしろよ。また怒られたいのか?」


「はーい」


「むー...分かったしー」


リリが蜥蜴から降りるとこっちに寄ってきた蜥蜴の顎をなで尻尾の根本を叩くと砂漠で寝っ転び始めた。


それを見届け、家の中に入ろうとする時にふと看板が目に入る。


『アミシア孤児院』と手書きで描いてあった。


扉を開け、屋内に入るとシスター服の女性とリリが神妙な面持ちで話し合っている。


「では朝方には出国なさるのですか?」


「ええ、ごめんなさい。結局あなたの娘は...」


「いえ...」


「あの子達をよろしくね」


「はい。お任せください。」


あの人の子供も犠牲に?
一体なにをしているんだ、あの男は...いや、あの部族は...


「こんばんわ、リリさんの味方をして貰えているみたいで」


「あんなものを見たらな。あー、その...」


「ああ...聞こえてましたよね。気になさらないで下さい。」


「....すまない...そういえばここの名前って」


「はい。リリさんの表の顔は医者でして。そのお金でこちらを」


リリアーシュはどうやら尊敬できる人物のようだ。
働いて得た金で孤児院を建てて維持費まで出しているんだろう。
なかなか出来ることではない。


「そうか....」


「はい....もう日の出まで時間はそうありませんが宜しければそこでお休みください」


「助かる。ありがとう」


「いえ、それでは...」


丁寧に頭を下げると奥へと引っ込んでいった。


お言葉に甘えてソファで横になろうと座ると先程助けた女の子の一人が裾を摘まんできた。


「あの....ありがとう...助けてくれて」


「気にするな。無事でよかったな」  


頭をポンポンとすると顔を赤くして。


「あとあと!怖がってごめんなさい!おやすみなさい!」


ぱたぱたと足音を立ててトトアーシュの元へと去っていった。


眠い...そういえば最近まともに寝てなかったな。


横になると直ぐ眠りに落ちた。
余程疲れていたのだろう。







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