苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

トトアーシュが失踪していた件

おやっさんの傷口を綺麗な水でそそぎ痛み止めも無い中縫合をしていく。


感覚でだが、3時間は掛かっただろうか。
何とか無事終わり包帯を腰に巻き付け、脈を図るがやはり素人には手術は難しすぎた。


上手くいったとは言いがたいだろう。


治療していた肉屋の自室から出ていくと奥方が待ち構えていた。


「旦那は!あの人はどうなったんだい!?」


俺は目を伏せ「このままだと不味いかもしれない」と嘘はつかず正直に話すと奥方は泣き崩れた。


ーー「くそっ!」


家に帰るなり壁を殴り付けると驚いたロゼが心配そうに俺を抱き締めた。


「お疲れ様...ユウキくんはよく頑張ったよ。」


「そんな事は...!」


ガバッと彼女を引き離し彼女の顔を見ると俺を心配で仕方ないのか隈が出来ていた。


「ああ...そうだな...だがこのままじゃあ...」


感情が高ぶり声がくぐもる。


そんな折りに空気を読まず扉を叩く音に2人して頭を傾げる。


すると反対側のトリスリアとフェニアの元は俺の部屋の共同部屋が開き2人がのそのそと出てきた。


「主、お帰りなさって」


「ご主人様ぁ、お客様ですかぁ?こんな夜更けにぃ」


もう夜中なのもあって寝ていたのだろう。
2人揃って目を擦る姿はまるで姉妹のようだ。


「すまんすまん。寝てていいぞ」


「「やだぁ、起きてるぅ」」


「な、何この娘達!可愛い!」


一応かなり年上の筈の2人の年齢逆行にギャップを感じたのかロゼが昇天しそうになっている。


意外にもロゼとトリスリアは相性がよく、最初ほどいがみ合っていない。


「あのー、ユウキさん。夜分に失礼します。アルです。」


今度は遠慮気味に小さくとんとんと叩く。


「ああ、悪いな。今帰ってきたばっかりでな」


「そうでしたか、それは申し訳ありません。あら、お嬢様方もご就寝でしたか。それは重ねて...」


「それはもういい。どうした?」


「少々込み入った話が御座いまして...」


アルの花が萎れているのを見て警戒を司る部分が警鐘を鳴らす。
嫌な予感しかしない。


ーー「ええ!?トトさんが...いない!?」


「トトってどやつなぞ?」


「トトさんわぁ、ルーシェさんとぉ、ミスティーさんのぉ、お友達ですぅ」


それを聞いたら怒りそうだぞ。


「ふうん、興味なしなし」


「なら聞くなよ」


俺のつっこみにアンが少し微笑む。
多少は元気になったみたいだ。


「アン、大丈夫なら聞きたいんだがいつから居ないんだ?」


「はい...それがあの、防衛会議がありましたよね?」


「まさかとは思うが...あの後か...?」


察したことをそのまま伝えるとこくりと頷く。


...俺のミスだ...あの時追っていれば...
いや、そもそもがルーシェとの件で限界だったのかもしれない。
だが悔やまずにはいられない。


「すまない」


「ユウキくん...」


申し訳ない、とアルに頭を下げると彼女は微笑んだ。


「頭を上げてください。ユウキさんは悪くありません。それどころかこの村で一番働いてくれているじゃないですか。村長としても、私個人としてもユウキさんが居てくれてとても助かっていますから...」


「そう...か...だが...」


いつまでも俯いていると頭にふわりと何かがかかり、気持ちが落ち着いてきた。
ふと、何かの香りが漂っているのを感じ、顔を上げるとアルが触手の一つに花を咲かせていた。


「これは気持ちを落ち着ける花なんですよ。ユウキさんは落ち込むよりも前を向いてる方が素敵ですよ」


「「むう...」」


「ふわあ...ご主人様やり手ですぅ。そんなやり方がぁ...めもめもぉ」


人が落ち込んでるのに何だ、こいつら?


「ではこれで...話して何ですけど余り気にしないでください。皆は余り負担にさせたくないからと黙ってたんですけど、私は知らせておきたかったんで。」


「何でだ?」 


「何故でしょうか...多分...あなたの怒る顔が思い浮かんだからでしょうか...それでは」


「あ、ああ...何だお前らその顔」


アルが玄関から出ていくのを見届けていると3人が冷ややかな目を向けていた。


「「「別に...」」」


「そんな感じには見えんぞ」


「「「別に...」」」


「おい」


「「「別に...」」」


「.......」


疲れた...もう寝ようかな...


...それにしてもトトアーシュが行方不明か。
タイミングが良すぎるな。
ルーシェも怪しかったが、トトアーシュも気を付けるべきかもしれない。
今度は後手に回らなければいいんだがな。





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