苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

ユウキの家族の件

「ユウキくん!....はあはあ....ユウキくん!好き!大好き!」


「ロゼ!....愛してる...」


俺達二人はプロポーズの後、予想以上に盛り上がってしまい、誰か来るかもしれないというのに時計塔で肌を重ね合わせた。


1時間程経った頃ようやく落ち着いた俺とロゼは外を眺めながらくつろいでいた。


そんな折にロゼが遠慮気味に口を開く。


「ねえ...ユウキくん....このロケットなんだけど」


ロゼが首から下げているロケットを開き似顔絵を見せてくる。


「ああ、親父とお袋だ。それがどうした?」


「うん...もしよかったらさ、ユウキくんの家族のこと知りたいな」


俺はうつむき顔を強ばらせる。


「ダメ...かな?」


少し悲しげな表情のロゼに意を決し語ることにした。


「わかった。....俺の家族はちょっと歪だった。それは分かるよな?」


「....そっか....異種族婚...しかもハイエルフとだから?」


「ああ。エルフは排他的だ。その中でもハイエルフは特にな。」


空を見つめ両親が死んだ時を思い出し少し胸がざわつく。


「俺がまだ幼い頃、だいたい10歳くらいか、その頃まだ両親は生きていて、人里から離れた山の中で暮らしていたんだ。でもある日....」


「ある日?」


「.....その日も俺は剣の修行で木刀を振る日課の後、森で動物と遊んでいた時だ。夕方近くになり、家に帰った。そこで....」


ぎりっと歯軋りをさせ、痕が残りそうなぐらいの握力で拳を握りしめる。


「親父とお袋が斬り殺されていた...無惨に...」


「....」


ロゼも自分の事のように顔をしかめさせている。


「犯人は...誰なの?」


「犯人は分かってる...ダークエルフだ。しかもエルフ一の武の使い手。血濡れのリグレイン。」


「血濡れのリグレイン!?それって雷の大精霊使いでのエルフ族一最強の!?」


俺が頷くとロゼは目を丸くしていた。


「そいつが両親を殺した仇だ...今でも奴のナイフに付着した血を覚えている。」


「そうだったんだ...それからどうしたの?」


「ああ、子供だったからか分からないが見逃された俺は途方にくれ、両親の亡骸に寄り添っていた時、たまたま依頼で近辺に来た傭兵団に拾われてな」


その傭兵団も魔族と人間の戦争に巻き込まれて俺以外全滅したのだが、それは伝える必要は無いだろう。


「そして一人立ちして、傭兵として活動している時...今から2年前、レオンに誘われて勇者パーティーに入った。」


「そうなんだ。それで魔王を倒して私と出会ったんだ?」


「ああ、そうだ。」


複雑な表情をしていたがそのお陰で出会えたことが嬉しいのか次第に笑顔になり肩に頭を乗せてきた。


「そっか...そういえば仇は討ててないんだよね?」


「ああ、あれから姿を眩ましているらしくてな。ダークエルフの里にも行ったんだが理由は分からないが追放されたらしい」


「追放か...ダークエルフは余程の事が無いと追放しないらしいけど...」


「みたいだな。エルフとリグレインが密会していたらしいという話を聞いたんだが、エルフに会ったらどんな目に遭うか分かったもんじゃないからな。近寄らなかった。レオン達との旅でもな。」


その密会がもしお袋を殺すために行われたのだとしたら俺が闘うべき相手はエルフ族かもしれない。
憶測でしかないが。


「辛かったよね?話すの...ごめんね?」


「いや、ロゼにはいつか話そうと思っていた。丁度良い機会だったかもしれない」


「そっか...なら良かった...」


また俺を傷つけたんじゃないかと気に病んでいたらしいロゼの安堵の表情を見るなり立ち上がる。


「そろそろ行くぞ。村に早く帰らねえと。心配だ」


「うん。あれから2日経ってるから余計にね」


「2日...だと...」


それだけ眠っていたのか?
ロゼの言葉に背筋が凍り、ロゼの腕を乱暴に引っ張る。


「ユウキくん?ど、どうしたの?」


「アルヴィンとフィニはレオンと繋がってた!なら奴に村の場所を知られた可能性がある!今頃手遅れになっているかもしれない!」


「そ、そんな!なら早く行かないと!」


「走るぞ、ロゼ!」


ロゼと共に時計塔を降り、城へ行くとそのまま謁見の間に駆け込んだ。


「グリード!今すぐ船を出してくれ!」


「は?いきなり何だ?少し休んでからにしたらどうだ?」


「そんな暇は無い!もしかしたらレオンの野郎が...!アテナが村を襲撃するかもしれん!」


「な、なに?それは本当なのか!?」


深刻そうに頷くとグリードの頬に冷や汗が流れた。


「分かった。なら今すぐ俺の船で...」


「いや、お前は予定どおりに頼む!俺達は別の船で...!」


「ならわたくしがお送りいたしましよ?主」


謁見の間がバンっと豪快に開け放たれるとそこに現れた影はあの珍妙な言葉遣いの幼女が仁王立ちしていた。


「トリスリア?それはどういう...」


「わたくしがドラゴンとお忘れかしらかしら?」


「あっ!その姿に慣れちゃって忘れてました!ユウキくん!トリスリアさんの速度なら直ぐに着きますよ!」


確かに船を使うより相当早いだろう...だが...


「良いのか?お前の背に乗ることになるんだろう?」


「ふっ!主様を乗せるなら本望じゃして!いずれ妻として別の意味で乗りなんしたりなんし!」


「は?...おい、蜥蜴....今何て言った...?」


今の声は俺ではない。ロゼが普段出さないドスの聞いた声を発したのだ。
その恐ろしさ足るや、この場の全員を一斉に黙らせるほど。
かくいう俺とトリスリア、フェニアやドミノすら縮み上がっている。


「説明しろ...丸焼きにするわよ」


「は、はい!あの...ですね...ドラゴンの姫たるわたくしはファブニールを持つ人間族の男性に身を捧げ、妻として奉仕するのが掟で...」


「ならその掟、今すぐ捨てなさいよ」


「いえ、それは...その...わたくし一人残され、それでも尚生き残ることを魂に込めた矜持に反すると申しましたりなんかして...」


あの基本上から目線のトリスリアが正座をさせられ、汗を湯水の如く流し、目がトルネードに巻き込まれたかのように泳ぎまくっている。


「きょうじぃ...」


ロゼが俺を一瞥すると視線をトリスリアに戻す。


「まあじゃあそれはいい...それはいいとしてもう一つ。私の前で妻の態度を取るな。分かったな?」


「は、はい...気を付けまし...ひっ!」


また放った一睨みで殺せそうな眼力とトリスリアが目を合わすと恐怖が最高潮に達したのかバイブレーションの様に震え始めた。


「あと私と話す時はその喋り方止めろ」


「え...あの....これは...その....わたくしのアイデンティティーと申しませるというか...」


「丸焼き、素揚げ、串刺し、ぶつ切り...蜥蜴はどれが美味しいんでしょうね?」


「仰せのままに-!」


これほど迄に笑顔が恐ろしいことがそうあるだろうか。
余りの恐ろしさにトリスリアは涙を流しながら土下座し、忠誠を誓った。
俺の妻、めちゃくちゃ怖いな。


「あー、こほん!それじゃあ行くんだろ、兄弟?」


「あ、ああ。それじゃあ...トリスリアよろしく頼んだぞ」


「はい....」


これ以上ないくらいの落ち込みように若干心配しながら俺達は外に出た。
背後からはグリードや大臣、兵士達のほっとした溜め息が耳に届いた。





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