苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

海賊退治の件

無事船は出港でき、風が髪を撫でる。
しかし先程の件がまだロゼの心の中で燻っているらしい。


「まだ不機嫌なのか?」


「むー、当然だよー。やっぱり不正は不正だし...理解はしてるよ?だけど納得は難しいよ...」


鼻でふっと笑いロゼの頭に手を乗せる。


「お前はそれでいい。俺と違って純粋な...そんなお前が好きだからな」


「....ユウキくーん!私も大好きだよー!」


「く、くるし...ご主人様...たすけ...」


「離れろ...離れろって言ってるだろ、ロゼ!キスしてる場合か!フェニアが潰れてるだろ!」


何とか引き剥がし胸元に居たフェニアを救い出すとぐったりして白眼を剥いていた。


「フェニア?フェニア!?生きてるか!?」


ぺちぺち頬を人差し指で叩くとぷるぷるしながらも腕を上げサムズアップしていた。
何とか生きているらしい。


「フェニアちゃーん!」


「....今後フェニアが居るときは気を付けろよ」


「....うん...気を付ける...」


安心したからか腹がなる。
そういえば昨日から何も食べてなかったな。


「ふふ...船内に食堂あるから行ってみる?」


「行ってみるか...」


「海鮮料理が美味しそうですねぇ。じゅるり」


ロゼがフェニアのヨダレを拭き取り、それを眺めていてふと気が付く。
本当の家族みたいだと。
だがそんな幸せを砕くように爆音が反対側の甲板から衝撃と共に響いた。


「きゃっ!?なに!?」


「この揺れは...!伏せろ!」


「ご主人様ぁ!何か飛んできますぅ!」


フェニアの声に反応し視線の先を見ると海賊御用達のフックがこちらめがけて飛んできていた。
ロゼを抱え横に飛びなんとか回避する。


そのフックがガリガリと甲板を伝わり柱に引っ掛かるとまた一段と大きい揺れに船全体が悲鳴を上げる。


「お頭ぁ!捕まえましたぜ!」


男のしゃがれた声が耳に届き、その方角を見ると全体を黒で塗り固められ、帆にはドクロマークが描かれた理想的な海賊船が姿を現した。


すると海賊船の見張り台から野太い声が響き渡る。


「はーはっはっは!この国の悪事に加担する愚か者共が!ここが年貢の納め時よ!とおっ!」


まるで大海賊時代を彷彿とさせるような海賊服に海賊帽。
おまけに眼帯というどこに出してもおかしくない海賊という風貌の男が現れ、見張り台から飛び降りた。


にやっと笑みを溢しひとっ飛びに飛び越えこちらの船に渡ってきたその海賊はロゼ目掛けて曲刀を振り下ろした。


ロゼが対抗しようとレイピアを抜くが先に生成した漆黒の剣で奴の剣にぶち当てるとギインッと火花を散らしながら弾く。


「ほう、やるな!貴様!その女のなんだ!?」


「旦那だが?文句あるか?」 


男は口角をあげると再度斬りつけてきた。
それを避け、首に当てるように回転斬りをするが上空に飛び立ち重力を乗せた曲刀で重い一撃を繰り出す。


「ちっ!こいつ、強い!」


「貴様こそやるなぁ!久々に楽しい喧嘩じゃねえか!」


「舐めるな!瞬影華斬!」


身体全体を闇に染め上げ甲板の居たり所から高速で飛び出しすれ違いに斬りつける。
ギンギンギンと何度も火花が散り13連擊全て防がれてしまった。


「ちっ!」


なんだ、こいつは...普通じゃないぞ。
精霊はおろか、魔力さえ感じないただの人間に太刀打ち出来ないだと?


「......こいつまさか!」


「お?気が付いたか?そうだ、俺はぁ!」


「同化体か!」


同化体とは一種の病気みたいなものだ。
この世界に生まれた場合、人間なら精霊が共に生まれ、魔族なら魔法を持って生まれるのが理だ。


だが稀に産まれた際に存在が重なり、お互いを干渉しあった結果交わるとどちらとも言えない同化体となる。


とても珍しいがある特徴が同化体には3つある。


まず一つ目は身体能力が人間を越えている。
精霊の半物理性が干渉した結果だと言われている。
二つ目は髪の色が銀色であること。
これは人間としての色素の欠落らしい。
そして残る3つ目は双子はなる可能性が高い。


そう、ミスティーとシャスティ。
あの二人もそうなのだろう。
でなければミスティーのあの芸当は説明がつかないし、何よりあいつは一度足りとも霊技を使っていない。
弓技は使ってもな。


「まだまだ楽しめそうだな!兄弟よ!」


「誰が兄弟だ!ふざけるな!」


「本当ですよね...折角の楽しい旅行が...あなたのせいで台無しじゃ無いですか!」


「「!?」」


声の主たるロゼを見ると鬼の形相でそれはもうお怒りだった。
そして精霊力の高まりに恐怖さえ感じる。


「ちょ、ちょっと待て嬢ちゃん。一回話し合おう」


「問答無用です!洸楼落桜!」


ロゼが剣の切っ先を天に向けると太陽の光が切っ先に集まり始め、十分集まりきると剣を振り海賊の男へと向けるなり、頭上に形成されたミニ太陽から数多の熱線が曲線レーザーの様に放出され、男に吸い込まれるように向かっていく。


「ぎゃああああ!」


結果から話そう。
俺達の乗っていた船は大破。
そして俺と海賊の男は満身創痍ながらも生き延びたのだった。





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