苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

過去と現在の件

「私の一族は当時、魔族からの依頼で、ある女魔族を追っていた。
丹念に調査をして、ようやく見つけたのが魔界にある集落の一つだった。
一族全員がその集落の外で野宿をしている時、月を眺めてた。
とても綺麗でもっとよく見えるところは無いかとつい、集落に入り一番高い屋根に登った。
でもそこで会ってしまった。ターゲットの魔族の女の子に。
私は似顔絵でその魔族を知っていたから直ぐに弓を構えた。....けど。
けど、その子は笑いかけてきて、それ射つ前にちょっとお話しない?、と話しかけてきた。
いつもなら問答無用で殺すのに何故かその時は射てなかった。それで私は....」


武器を収め雑談をしたわけか...
それがこの子の今のルーツ、魔族は極力殺さない...なのだろう。


「....話を聞くと私達が聞いた話と違ってた。
人間、魔族問わず殺し、喰らう悪魔だと聞いていた。
でも実際は...」


「違ったのか」


ミスティーはこくりと頷く。
恐らくその子には何か理由があって狙われたのだろう。
しかも魔族...いや、魔王にとって都合の悪い何かがあった....かもしれない。


「うん。でも私は話が終わって殺そうとした。
でもあの子の言った、「私は良いよでもあんたはそれで生きてるって言える?心臓が動いてても今のあんたは死んでるのと変わらない」そう言われた時何かが私の中で弾けた。
殺さなくてもいい筈の人なのに何故盲目的にそうするのか...
何故自分で考えようとしないのか。
そんな疑問を抱え始めていたらいつの間にか...手を引いて逃げ出していた。」


「......」


「でも直ぐにバレて一族全員に言われた。殺せば許すと。
でも私は弓を引けなかった。こんなのおかしいと抗議した。助けたいって。
でも遅かった...何もかも....」


ミスティーは本当に後悔しているのだろう。
眼が潤み、涙が一筋流れる。


「私の裏切りを、依頼した魔族に気付かれて皆、殺された...私のせいで...」


きっとそれがシャスティがミスティーを殺そうとした理由なのだろうな。
結局は復讐だった訳だ。


「その子はどうなった?」


「それは言えない。どこからバレるかわからないから。」


俺にもその言葉は痛い程分かる。
ロゼの事を思うと共感しないわけにはいかなかった。


「それで私は逃げた...死ぬのが怖くて...止めようとした母親を殺してでも逃げたかった...」


「そうか...」


母親殺しか...それは確かに許されざるものだ。
一般的に見たら...な。


「これが私の呪われた過去....逃げられない罪...パパは...どう思う?」


「俺は...」


本来なら慰めるか同情するのがベターだろう。
だがそんな言葉、ミスティーには届かない。...なら。


「はっ、どうでもいいわ。」


「....どうでも良いってなに...」


彼女の声に微量の怒気を感じる。
そりゃそうだ、俺を信じて話したのにそんな適当に言われたら怒るのも無理はない。
だが、それが俺の本当の気持ちだ。


「どうでもいいんだよ。母親を殺そうが、魔族を助けようが、姉を殺そうがどうでもいいわ。そんなの。大切なのは過去より今だろ。お前と俺の関係はなんだ?」


「関係...わからない」


「なら教えてやる。家族だ...だって俺はパパらしいからな」


「あ....うん...そう...家族...私の望んだ本当の...家族...」


ミスティーの頭にポンと手をおき、撫でてやると嬉しそうにはにかんだ。


「な?どうでも良いだろうが?俺達はそんなの関係ねえ。過去に何があっても今ここに居る俺らは、友達で家族で親子なんだからな」


照れくさくて余所見をしながら頭を撫でていると俺の手を取ったミスティーが胸元に持っていく。
そして暖かい水分が手を伝う。


「ありがとう...ありがとう...パパ...私を受け入れてくれて...」


「はっ、バカ言ってんじゃねえよ。前に言っただろ。そんなんじゃねえってよ。」


本当にそんなんじゃない。
ただ言いたいことを言っただけだ。
礼を言われる程の事じゃあない。


ーーひとしきり啜り泣きをしたミスティーは涙を拭き立ち上がる。


「帰るね、パパ」


「そうか。ならさっさと行っちまえ。これでも忙しいんだよ。」


なんだか照れくさくてそんな風に突っぱねてしまう。
だがミスティーは気にもせず俺の眼を見つめる。
なんだか姿勢も良くなっている気がしないでもない。
ずっと彼女の中で引っ掛かっていたのかもしれない。
話したことである程度解消されたと思いたい所だ。


「うん。...その前に1つ言っておく」


と、ミスティーは俺の耳元まで近付き「私、両刀だから」


それだけ俺に伝え、頬を染めながら去っていった。
俺もきっと同じなんだろうと思う程顔が熱いのに気が付き、悪態をつく。


「ガキがナマ言ってんじゃねえよ。へっ」と。









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