苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

俺たち夫婦の関係性の件

「ありがとうね、お兄さん。助かったよ。はい、報酬。」


「まいど」


「あとこれ、酒代の足しにでもして?」


報酬の2000セル分の銅貨袋を手渡され、今日は少し良いものでも...と妄想に耽っていると更に500セルをズボンのポケットに突っ込まれた。


「おい、流石に受け取れねえって」


「なら返す?左手埋まってるけど。あ~、でも私も忙しいし、仮に荷物置いてポケットまさぐったりしてる間に帰っちゅうかも~」


わざとらしくそう告げてきた双剣少女は悪戯っ子の笑みを浮かべていた。


「...ったく、わあったよ。なら次この村に来たら俺を頼りな。格安で雇わせてやんよ」


「....はは。うん、そうするよ。もしまた来ることがあるならね」


「ああ。そうしろ。じゃあまたな」


彼女の言葉の並べ方に何か引っ掛かる気がするも大したことではないだろうと別れの挨拶を交わした。


「じゃあまたね~、お兄さ~ん!」


「ばいばい」


「んじゃね~、おじさーん!」


それから直ぐに三人は移動を始め、村の入り口に去っていった。


「帰り際まで騒がしいやつらだ...」


報酬の銅貨袋をぽんぽんと手の上で跳ねらせているとふとギルドに顔をだしとくかなと思い立ち、ギルドまで続く道を歩み始めた。


ーー何度も聞き慣れた鈴の音を聞きながら建物の中に入る。
もうそろそろ良い時間だからか、ギルドは夜の顔に様変わりしていた。


「よお、アル。盛況だな。」


「ああ、ユウキ。帰ってましたか。仕事は...その顔を見るに上手く行ったみたいですね。」


「まあな。忙しいか?」


アルは忙しなく手だけでなく背中から生える触手を用いて瓶の蓋を開け、グラスに注いでいく。
アルラウネだからこそ出来る芸当に客だけでなく俺まで目を奪われてしまう。


「はい、まあ働き手が見つかりましたのでもう少しの辛抱ですね」


この寂れた村でか?外からの人間か魔族だろうか。
聞いてみたくはあるもののこれ以上長居するのも悪いと思い扉の取っ手に触れる。


「そうか。また来る。」


「はい、お待ちしております。あっ、そうそう。今日は真っ直ぐ帰るのですよ。奥様が首を長くして待っていますから。たまには相手してあげて下さい。」


「....ああ、善処する。手間かけてすまない。」


「いえ、私はあなた方夫婦を気に入っていますから。木だけに」


下らないアルラウネジョークに苦笑いしつつ外に出る。
焦りに身体が火照っていたのか吹き抜ける風が気持ちいい。


焦り...いや、焦燥感と言った方が正しいか。
この気持ちの原因は分かっている。
それはやはり、いずれは俺たちの歪な関係性、ひいてはロゼの正体に感づかれてしまうかもしれないという点だ。


そうなった場合出ていかなければならなく、放浪の旅になってしまうだろう。
目的もなくそんな旅を続けてしまえば俺はともかく、ロゼは耐えられないように思う。


ならバレたとしてもここに残るか?
いや、それは出来ない。村の人達も最初こそ驚くだろうが受け入れてくれるだろう。
そうなった時、どうなる?
秘密は知られたら秘密では無くなる。
それは噂となり伝播していくだろう。
まだこの村だけならいい。
だがもし行商人にでもバレたら?
そいつがもし他所で漏らしたら?
そうなったら公国の耳に入るのは時間の問題だ。


きっとこの村に攻め込んでくる。間違いなく。
そしてここは戦場と化すだろう。


まだ兵士は良い。きっと関係ないものは殺さない筈だ。
だがレオンとアテナはそうはいかない。
あの脱獄の時に思い知った。
奴らは自分のエゴの為なら簡単に命なんて切り捨てる...そんなものは断じて駄目だ。


「....ここは...」


ぐるぐるとそんな事を考えているといつの間にやら家の前まで辿り着いていたようだ。


恐らく俺は今酷い顔をしている事だろう。
こんな暗い顔、ロゼに見せたら気にするに決まっている。


「はあ...しゃんとしろ、俺...あいつを絶対守って見せるって誓ったろうが...よし!」


無理矢理気持ちを切り替え、扉に手をかけた。

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