苦労して魔王を倒したと思ったら勇者パーティーを追い出された件

ベレット

勇者が称賛された件

「勇者よ!よくぞ、魔王を討ち取ってくれた!今宵は宴じゃ!皆大いに騒ぐが良い!」


「納得いかねえ...」


俺達は今や真の勇者として称賛を浴びて鼻の下を伸ばしているクソ野郎を睨み付けている。


「アニキじゃないっすか!魔王を倒したの!こんなのおかしいっす!」


「ほんとよ!これだから真実を知ろうとしない俗人どもは!」


「これは流石に私も擁護出来ません。」


理不尽な状況は傭兵稼業にはつきものだ。
確かに腹は立てど、今更騒ぎ立てるつもりも無い俺は慕ってくれている荒ぶる3人を宥めながら勇者を眺める。


「勇者様!どうやって魔王を退治なさったので!?」


ある貴族の男がそんな事を聞き始めた。
すると酒が入り調子に乗っていた勇者の顔がみるみる青くなっていくのを見て良い気味だと葡萄酒をくいっと一杯口に含む。


「いや~、それは~」


何処を見ているのか、虚空を眺めながら嘘を考えているであろう勇者に他の貴族が別の質問をする。


「そういえば小耳に挟みましたがローゼリッタ姫と婚姻なさるとか」


「ああっ!その話ね!本当だよ!」


水を得た魚の如く今度は口数が多くなる。
現金な奴だ...


そのローゼリッタ姫は何処かと見渡すと、勇者達の話を聞き、顔色を悪くした年若い娘がバルコニーに出ていくのを見て立ち上がる。


「おっととと...ひゃー、旨そー。いっただっき...あっ!アニキ~!」


「わりいな、これ貰うぜ?」


盗賊のアルヴィンが葡萄酒を注いでいた樽製のコップをひょいっとぶん盗り左手の薬指に持ち手を引っ掛ける。
更にその横にあるウォッカを左手で掴み、近場にあったチキンの南蛮漬けみたいなものの皿を口に咥える。


「すあん。開ふぇてくれ...おい、がーふぇな!あふぇほって」


「...分かったわよ...何で私が...はい、どうぞ~?好きにナンパでも何でもしてきたら~?」


.....何を怒っているんだ。ガーフェナのやつ...
世界が変わっても女ってのはよく分からんな。


ガーフェナに目配せし、機嫌をとろうとしたがふんっと一言発しそっぽを向かれてしまった。
余程機嫌が悪いらしい。


諦めバルコニーに躍り出ると夜空を見上げ黄昏ているローゼリッタの姿に目を奪われた。


淑女らしいびしっとした姿勢に微笑ましかったがそんな幻想は瞬く間に崩壊した。


「あー!何で私があんな人とっ!いやっ!」


いきなり叫び始め肩がずるっと下がり、持っているコップから酒が数敵床に垂れてしまう。


「おわっ!やふぁっ!」


「え?...あの...どなた...ですか...?」


どうやら怯えさせてしまったようだ。
そりゃあそうだろう。
30過ぎの見知らぬ男が...しかもみすぼらしいシャツに泥まみれのズボンを履いて、更には軽鎧を身に付けた、俺が見ても怪しい男に警戒しないはずがない。


しばしの間、お互い硬直していたが、先に俺が眉と左肩を上げ、怯えさせないように隣の柵に酒と飲み物を置く。


「俺は...まあ...怪しいもんじゃないっつーかよ。...あー、ほらあそこの奴の仲間ってか...」


「...あの...もしかしてあの男の...じゃなくて勇者様の?」


「あ、ああ。まあな。仲間だ。」


聞き間違いか?今、あの男呼ばわりしていたような...


「ふむふむ...やはりそうですよね...」


「あー、その...何が...?」


困り顔をしながらローゼリッタの様子を顔色を窺っているといきなり左手を両手で包んで顔を寄せてきた。


「あの!一つお聞きしたいことがっ!本当に勇者様が魔王を倒されたのでしょうか!?」


「は...?それはそのだな...」


「その反応やはり...お話お聞かせください!」


ずずいと更に身を乗りだし詰め寄ってくる少女にたじたじになってしまったおっさんは手を振りほどき酒の入ったコップの取っ手に触れる。


「まあなんだ...一杯引っ掛けながらってのはどうだ...」


「...はいっ!お供します!!」


「あっ!おい!...大丈夫...そうだな...」


度数の少ない葡萄酒を渡すつもりだったがウォッカを引ったくり、ごくごくと飲みだした。


「こいつはなかなか...良い酒が飲めそうだ...」


と、俺もウォッカを飲もうかと葡萄酒を飲み干しウォッカの入った瓶を幾つか持ってきて柵にドンと置き、空になったコップに注いでいく。


「それでは!」


「「乾杯!」」


今日はなかなか楽しい夜になりそうだ。

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