異世界に来ましたが俺はスローライフを送りたいだけです

ベレット

武器を新調するだけの話

「ねえ、ユウトくん。これで良いと思う?」
リンカが自分の縦横よりも大きい大剣を片手でぷらぷらさせながらこっちを見ている。
「お前、剣振っても当たんないだろ。こっちにしたら?持ってみ」
「え~?盾かあ....なんか格好悪いなあ」
「盾バカにしてんのか?最も冒険者を救ってきた救世主様だぞ。いいから持ってみろよ」
これまた、バカでかい鋼鉄の白銀の棺桶にスパイクを無造作に取り付けたような盾を、またしてもひょいっと持ち上げる。
「お前よくそんなん持てるよな」
「んー?ちょっとは重いけど、軽い方だと思うよ?」
ひょいひょいと何度も上げ下げしながら涼しい顔をしている。
「持ってみる?」
「いや、いい。さっきやろうとしたけど、びくともしなかった」
「ふっ.....軟弱~」
腹立つわぁ、こいつぅ、ぶっとばしてえ.....。
だが腕力では敵わないので今のところは諦める。
日常の一部となりつつある喧騒をリンカと繰り広げていると、武器屋の奥の部屋からバンダナを頭に巻いた店主さんが戻ってきた。
「本当にあれをオーダーメイドでいいんだね?10万するけど」
「じゅ...じゅうまん.....お、お兄ちゃん......」
「お願いします」
「お兄ちゃん....!兄貴ぃ......!」
ルカとミゼットが俺の服の裾を掴みながら金額に震えている。
「気にしなくてもいいぞ、これは俺の為でもあるんだからな」
「で、でもぉ......」
申し訳無さそうに俯くルカに視線を合わすようしゃがんで、彼女の手を取る。
「いいか?注文した呪い師のローブは呪い師の固有スキル『マルチキャスト』が装着者に振りかかったら無効化してくれるんだ。これでルカが危険な目に遇わずに済むんなら幾らでも出すぞ」
「お兄ちゃん........」
まだ少し悩んでいるようだが、説得に応じたのか頷いてくれた。
財布から金額分取り出し、会計用のプレートに乗せる。
「はい、毎度。出来上がったらお宅に届けるから待っといておくれよ」
「ありがとうございます。....リンカ、それ持ってこいよ。俺のと一緒に支払うから」
「はーい。」
返事をしながら持ってきた大盾を見て、目玉が飛び出そうなくらいぎょっとしている。
「よ、よく女の子がそれを持てるわねえ.....お姉さん、ビックリしちゃうわぁ....」
「これも良いですか?」
と、俺は俺で黒色の胸鎧を一つ、カウンターの上に置く。
「良いけどお金あるのかい?お嬢さんのスパイクタワーシールドが四万、お兄さんのブラックスケイルが二万だけど。」
こんな若いのがそんなに大金を持っているのかと、不安になっている武器屋のお姉さんに残金21500セルカ入っている財布の中身を見せると。
「毎度ありぃっ!しめて、六万セルカで御座いまあすっ!」
ソロバンを物凄い勢いで弾いた。


ーー「また来なよー!旦那ー!待ってるからねー!」
こんな田舎町ではまず無いであろう装備品の爆買いに、気分を良くしたお姉さんにわざわざ見送られながら、向かいの道具屋へと歩みを進める。
「ねえ、次はなに買うの?」
「俺の武器だ」
俺の言葉に二人して目を合わせている。
道具屋に武器なんか置いていないのは当たり前....そりゃあそうかもしれないが、結局それは戦闘職の考え方だ。
だが、俺のような非戦闘職は武器なんかまともに使えない。
使おうもんなら、身体を痛めるだろうし、最悪自分自身を切りかねない。
なら、どうするか....そんなの簡単だ。
ゲームで良くある戦闘用アイテムの出番って訳だ。


◇◇◇


特に大事なのはその大量のアイテムを如何にして持ち運ぶのか....それに尽きる。
そして、それはこの道具屋で解決することが出来たりする。
「あった、あった。アルケミストポーチ」
「お兄ちゃん?....それ.....なに?」
「なんかみすぼらしい鞄だねー。それが武器になるの?」
「まあな。これは俺みたいな便利屋にぴったりな道具なんだよ。これはな.....」
この少し大きめのベルトポーチはとても便利な品物だ。
なにせ、これより小さなアイテムなら幾らでも放り込める。
そう、いくらでもだ。
なんでも大昔に錬金術師が素材やアイテムを入れるのに重宝した代物で、かつ、ある程度のダメージなら自動修復する機能付きだ。
錬金術師、さまさまだな。
ちょっとお高いのがネックだが、それを差し引いても余りある性能だろう。
と、説明すると感心した様子でバカ面を引っ提げている。
「ほえー、便利だねー。じゃあそれで私たちのサポートをしてくれるの?」
リンカにしては頭を使った回答だな。
いつもそうして欲しいところだが、実のところ少し違う。
「それもあるが、こいつを使って俺も戦闘に参加する。前みたいにお前らだけに任せておけないからな。ちゃんと指示するから、その通りに動けよ?」
「うん.....頑張る.....」
ルカが気合いを入れ、ふんすふんすと鼻息を荒くしている。
「また怒られそうだなぁ.....絶対ドジるもん.....」
正反対に嫌そうなリンカ。
「俺の指示通り動けば多分大丈夫だからがんばれ。肩の力入れすぎんなよ?」
「「はーい」」
同じ返事なのに、その表情とトーンのせいで全く違うものに聞こえてくる。
「それじゃあ買ってくるわ。っと、その前にアイテム、アイテム....」
お店のかごに瓶や薬草、消耗品の魔法のカード。
それと一番大事なカテゴリー、回復アイテムを乱雑に入れ、お会計を済ませた。
合計で10万ほど飛んだが、これで多少はクエストが出来るかもしれない。
明後日がちょっとだけ楽しみになってきた。

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