異世界に来ましたが俺はスローライフを送りたいだけです

ベレット

魔王軍幹部の弟子に俺はなる

「じいさん、ハーブティー飲めるか?」
「こじゃれとるのぉ、酒は無いのか?」
「あるわけないだろ。うちは皆、未成年なんだよ。」
ラズアールと下らない問答をしながらプランターから摘んできた自家製(植えただけだが)のハーブを包んだ袋を小鍋でことこと煮出す。
その間にもラズアールは話を進めたいようで切り出してきた。
「テーブルにメモ置いておくから後で見とけ。文字は読めるんじゃな?」
「ああ、どんな文字でも読めるぞ。スキルのお陰でな」
「相変わらず便利じゃのう。人間族のスキルは」
カップにハーブティーを注ぎながらラズアールを見ると肘をテーブルにつき、不貞腐れている。
魔王軍幹部なら人間族に襲われてきたのかもしれない。
勿論、みな一様に戦闘スキルとかも使ってきただろう。
魔族からしたら、そりゃあ、たまったもんじゃ無いよな。
「大変だな、魔族ってのも」
「人間だって同じじゃろ」
「ちげえねえな」
半笑いしながら二人分カップを手に取り、テーブルに向かおうとすると、リンカが犬のように仕事がないかうろうろするので。
「ルカ!ちょっとこいつどうにかして!鬱陶しい!」
呼びつけるとリンカの邪魔をするように立ち塞がる。
「リンカお姉ちゃん........カバディ.....?」
「はっ!?カバディカバディカバディ」
「「カバディカバディカバディカバディカバディ............」」
何かが始まった.....なんでカバディやってんの?
っつうか教えたのか、リンカ。だが何故にカバディを?マニアック過ぎるだろう。
ルカになんてもんを教えてやがる。
「なんじゃあれは。何かの儀式かの?」
「一応スポーツなんだけど.....気にしないでくれ....」
俺もカバディはよく知らんが確かにあの動き....何か召喚しそうだ。
.......なんか俺の知ってるカバディの体勢じゃなくなった。
いきなり相撲に発展したんだけど。なにあれ。
「おぬしらはいつも楽しそうじゃな」
「.....俺は頭が痛いけどな.....」
ラズアールが苦痛に歪んだ俺の表情を見ると豪快に笑いだした。
ハーブティーで気持ちを落ち着けようと口に含み、テーブルに置いてある一枚の紙を拾い上げ、目を通してみる。
「......なるほど......悪くはなさそうだけどこの、俺がじいさんを斬るってところ....大丈夫なのか?人殺しなんてしたくないぞ?」
「心配せんでもいいわい。特殊な道具を作っている最中でな。....驚くじゃろうの」
「特殊な道具?どんな?」
「それはまだ言えんわい」
なかなかに慎重だな。
まあ計画が計画だけにそうなるか。
どこから漏れるか分からんからな。
「んぐ......ふう、まあいいや。どっちにしても、俺としては魔王軍とのパイプが欲しいし。幹部の一人を味方につけれるのは大きいからな。協力するよ」
「ずいぶんと打算的じゃな」
「俺みたいな弱者は他人に寄生しないと生きていけないんだよ。その為なら敵だろうと味方だろうと、家族だろうと取り入って利用するさ」
その発言にじいさんは若干引きながらハーブティーをイッキ飲みした。
「お主は魔族より魔族じゃの」
「「分かる」」
「うるさいな.....俺は生き残る為なら何だって犠牲にしますが何か問題でも?」
動きを止めた二人とラズアールが呆れ、見下げた視線を送ってくるが俺は気にも止めない。
何度も言うが俺は自分が一番可愛いのだ。
「本当に変わった人間じゃの、お主は。よいしょっと....」
「帰るのか?玄関まで送るぞ?」
「まだ帰らんわい。ちょいと裏庭借りるぞ」
立ち上がりながら、作業服のような衣服の腰辺りに差してある金槌を取り出すと、裏に繋がる扉へと向かっていく。
「それはいいけど何で?」
「ふっ、まあ見ておれ。頑張っておる若者に爺が世話を焼くだけじゃ」
俺達は顔を見合わせ、首を傾け合うとラズアールの後に続いて外に出た。


◇◇◇


「こんなもんじゃな。ちいと簡素じゃがこれなら町で働く分には問題ないじゃろ」
「これって炉と金床だよね?ラズアールさん家にあった」
「ああ、あれよりかは大分小振りだけど」
じいさんが裏から職人通りに行き、鉱石とレンガを大量に買ってきたと思ったら瞬く間に炉と金床を作り上げていた。
「これをお主にやろう。折角弟子にしたんじゃ。このくらいやってやらんと師として立つ瀬がないわい」
「え?じいさんが俺の師匠?」
「そりゃあそうじゃろ。わしが鍛冶を教えたんじゃからな。最後まで面倒見るわい」
いつの間にか俺にドワーフの師匠が出来ていたらしい。
「有難いんだけど、魔族的にありなの?」
「本来ならやらんわ。お主を気に入ったからの、特別じゃ」
なんか嬉しいかも。
これなら大成功間違いなしだろう。
レンガ造りの炉に触れているとじいさんからお声がかかった。
「おい、弟子。その営業で何を作るんじゃ?」
「あ、ああ。えーとこれなんだけど」
先程までカウンター作りをしていた場所に雑誌を取りに行き、それを手渡した。
「ほう......これなら型さえ作れば量産も出来るじゃろうし、後は装飾や細工を彫れば本物に近づけられるじゃろ。」
「俺も頼もうと思ってたとこ」
「ふんっ...なら手伝え。基礎を教えてやる」
じいさんはそう告げるなり視線を逸らし炉に火をくべ始めた。
「よろしくお願いしまーすっ!師匠っ!」
「調子の良いやつじゃ」
こうして俺の金細工修行が幕を開けたがそこは割愛とする。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品