異世界に来ましたが俺はスローライフを送りたいだけです

ベレット

ラズアールのお願いごと

ラズアールが魔王軍幹部というのは、もう疑うべくもない。
どうしてかと言うと、モンスターがラズワールを脅えて近づいてこないから。
今までに無い平穏のなか、沼を抜け、参道を歩いているとラズアールが先程口にしていたお願いをしてきた。
「あんたを倒すフリをしてほしい?どうしてだ?」
「ああ、そうじゃ。わしはこの近辺の良質な鉱石で自分のダンジョンを改造したり、金細工を作るだけで満足なんじゃ。そもそも別に非道な行いをしておらんのに、人間どもがわしが幹部だからと勝手に手配書作りおってな.....」
ふ、不憫すぎる.....
「お爺さん可哀想......それにしても魔王さんと人間王さんがそんな感じだったんだね!私、応援するよ!」
「止めろ!お前そんな応援なんかしたら魔王側にも人間側にも襲われることになるかもしれんだろうが!」
リンカのいつもの考え無しの発言に叱咤すると深く落ち込んだ。
「あの......でもあの町には......挑む人.....居ないと.....思います.......」
それはそうとも限らない。一人だけ心当たりがある。
「一人、何度も挑んでくるバカが居ってな。フルプレートを着込んだ、茶髪の若者がな....」
やっぱり智也だった。
あいつの事だから事情も知らず、女神様の為にと、魔王ひいては幹部を倒そうとしているのだろう。
「いい加減鬱陶しくてな。なら一芝居打って死んだフリした方がましじゃと思ってな。どうじゃ?協力してくれんか?」
「うーん。危険は無いんだよな?俺に」
「無論じゃ。おぬしはただ、わしを奴の前で切り捨てるフリをするだけでいいんじゃ」
まあ俺に被害が無ければそのくらいなら....アクセ作りの借りもあるし.....
「わかった、やるよ。」
「おお、そうか!なら段取りが出来次第教えるでの!よろしく頼むぞ!」
「教えるってどうやって?俺が住んでるとこ人間結構居るぞ?」
「すぐに分かるわい。ほれ、行くぞ」
何か大事なことを見逃していない気もしないが、今はひとまずラズワールに付いていくことにしよう。


◇◇◇


「お爺ちゃん、いつものこれで良い?」
「すまんの、いつも。ほれ」
「はーい。ありがとねー」
なんという事だ。このじいさん、もといこの幹部、町に凄い馴染んでいるではないか。
だから町まで送れたのか、納得。
「理解したかの?ユウトとやら」
「あ、ああ。これなら確かに大丈夫そうだ。待ってるよ」
「じゃあわしは買い物も済んだからの。帰るとするわい」
「じゃあねー!おじいさーん!」
「ばいばい......です....」
酒やら食糧やらが入った紙袋を抱えているラズワールが踵を返し、町の入り口に続く街道を歩いていく姿を見送った。


ーーその後、俺達は今日はもう疲れたので、家に帰り、リビングのソファーでごろごろしている時だった。
「ユウトくーん。貯蔵庫にもう、食材無いよー」
「ああ?なら買ってこいよ。いくらお前でも買い物くらいできるだろ」
「全くユウトくんは私のこと分かってるようで分かってないよね.....私が無駄遣いせずに買い物が出来ると思ってるの?」
どや顔でアホなことを言っている。
こいつ、自分が致命的にポンコツなのを逆に利用してきやがった。
なんでそういうのには知恵が回るんだ。
普段から発揮してくれ。
「.........はあ......しゃあねえなあ.....行ってくるから留守番してろ」
「私も......お兄ちゃんと.....いく」
付いてこようとスリッパをパタパタさせながら近づいてきたが。
「何言ってんだ?こいつを一人にする気か?何するかわかったもんじゃないぞ?」
「はっ!.......う、うん.....お留守番してる.....」
リンカを一人にする危険性を語ると理解した有能な幼女は椅子に座り直した。
「え?私、子供以下?ねえ、ねえってば!ユウトくん!私そんなにヤバくないよね!?ねえってばぁ!」
「....うぅ.....お前....そんな事も分からなく....そっか.....何でもない.....行ってくる.....」
「ちょっと待って!?なにその反応!?なんで泣いてるの!?待ってってばあ!」
自分の脳の未成長を理解していないリンカに、ホロリと涙を流しながら、逃げるように家を後にした。



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