異世界に来ましたが俺はスローライフを送りたいだけです

ベレット

“買う”だけでなく“替え”なければいけなかった。

これでクリアしたのか、とパンフレットを開くが特に何も変化なく、未クリアのままだった。
「うーん、何が駄目なんだ?ちゃんと買ったぞ」
「なんだろう....買い替えたよね....」
「あ、あの....いい....ですか?」
ルカがおどおどした態度で手を挙げ、俺の持つパンフレットをミゼットの小さい手で指し示す。
「これなんだけどよ。買い替えるって買って、着替えるって意味なんじゃね?.....かと....」
「なるほどな!つまり着替えなきゃクリア扱いにならないってことか!」
「え?なに?どういうこと?」
こいつは話を聞いていたのか?
いや、聞いててこれなのか。末期だな。
「だから....ああもういいや、めんどくさい」
「またユウトくん、私をバカにしたぁ!」
「したよー、だってバカなんだもん。疲れるから喋らないでー」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるリンカをあしらい、ある目的の為、ルカの屋敷に歩みを進めた。


◇◇◇


その目的とは、ファッションショーである。
「どうだ?少しは様になってるか?」
「うん。まあ普通?」
「見事な村人ファッションじゃねえか、兄貴。....こら、ミゼット....」
こらってそれ、お前の感想だろうが。
まあ、男の着替えなんか見ても面白くもないと思うがな。
俺だって女の子の方が断然良い。
「じゃあ私だね!ちょっと待ってて!」
リビングから出て衣裳室に向かうリンカを見送りながら椅子に座ると、ルカがリボンを差し出してきた。
「あの....結んで....ほしい.....です....」
「俺でいいのか?」
こくりと頷き、椅子を引っ張ってきて俺にうなじを見せ、俺はリボンを張り、ルカのさらさらの、ダイヤモンドの様な輝きを放つ髪を優しく触る。
「ん.......」
「悪い、痛かったか?」
「んーん.....くすぐったかっただけ....だいじょぶ....」
「そうか.....ならやってみるか.....ならまずは....」
思い付くのはポニーテール、片結び、後ろ結び、アレンジボブぐらいかな。
一通り試してみよう。


ーー今更だがルカって美少女だよなとそう思う。
どの髪型もめちゃくちゃ可愛いんだけど。
「お兄ちゃんは.......えと....どれがすき?」
そのミゼットで顔を隠す仕草止めてくれ。
可愛すぎて悶えるから。
「そうだなぁ....後ろ結びかな。」
「じゃあそれが....いい....です」
「分かった、すぐにやる。ちょっと我慢してな」
大人しく身を任せているルカの髪を纏め、リボンで蝶々結びにする。
これがなかなか破壊力が高い。
ルカの今にも壊れそうな雰囲気とばっちり合いながらも、決して長くはない白銀の髪がちょろっとリボンから垣間見える姿は活発な少女のよう。
俺はとんでもない兵器を開発した気がする。
「にしてもあいつ、遅いな。いつまでかかってるんだ?」
「むぅ.....女の子の髪.....さわってる時に.....他の女の子の.....話しちゃだめ......です....」
「あ、ああ。そうなのか?ごめんごめん。」
なにを怒っているんだろうか、ルカは。
集中してやれということか?女の子はよくわからん。
ルカがぷりぷりと頬を膨らませているといきなり、リンカが滑り込んできた。
「お待たせ!二人とも!どうかな!?」
「お姉ちゃん.....綺麗.....」
「.......おお.......」
やはりリンカは外見だけならトップクラスだと思う。
そして店員さんグッショブだわ。
リンカの黒の腰までありそうな長髪に合わせたような、黒色のシャツにアクセントを効かせた淡いピンクに赤のラインが入ったコート。
剣士系魔法少女が着てそうな奴。リボンはない。
.....それとシャツに合わせた黒と赤が交互になっているスカートで、下着が見えないように材質は分からないがスパッツみたいなのを装着している。
そしてロングブーツがスパッツと肌の間に隙間を作るように太ももの少し下で履いていた。
それが絶対領域を表し、エロさを引き立てている。
店員さんのセンスに脱帽です。
剣士職らしいカッコよさを残しつつ、女の子の可愛らしいさを含み、リンカの見た目委員長の雰囲気を決して崩さない。
一言で言えば完璧だ。
「ま、まあ.....いいんじゃないか....可愛くて....」
だがいかんせん、そういう女の子らしさを目の当たりにすると俺のような童貞は動揺してしまう。
なので、今みたいに顔を熱くして視線を逸らしてしまうのだ。
まあその結果、リンカに隙を与えてしまったらしい。
「ふ~ん、ふ~ん!なになに?私の格好にちょっとドキッとした?へえ~、ふ~ん!」
リンカのどや顔に先程までのときめきが吹き飛んだ。
もうただただ腹立つ。
「調子にのんじゃねえよ。見てみろ!これが本物の美少女なんだよ!」
「ふええ~!ひああ!」
俺もどや顔でルカを見せびらかすと、ルカは当然恥ずかしがり、ミゼットで顔を隠すがその反応に余計。
「きゃああああ!可愛い!ルカちゃん、凄い可愛い!抱き締めていい!?いいよね!?」
リンカは興奮し抱き締めようとする。
「ひゃああ!ひああ!」
と、怯えてしまったルカがタロットカードを取り出し。
「やべっ!ま、待てルカ!.......いっ!?」
「ルカちゃ~ん!.....はうっ!?」
気絶させる呪いでリンカをノックアウトにし、今回はどうやら俺が犠牲者らしく。
「........っ......っ!」
その伝播効果で経験したことの無い頭痛に襲われ床を転げ回るはめになった。
こんなことなら絶対気絶した方が良かった...

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