異世界に来ましたが俺はスローライフを送りたいだけです

ベレット

三日目にしてようやく服を買いました

所変わって服屋前。
「ええーっ!何で私のお金少ないのぉっ!?」
「当たり前だろうが。元々はお前の借金なんだ。残りの3100セルカはギルドに返すのに必要なんだよ。文句言うな」
唸りながらもようやく納得したリンカをよそに、俺の手持ち金から3000セルカをルカに差し出す。
「も、貰えない.....です.....それは.....お兄ちゃんの......服を売ったお金...だから」
な、なんて良い娘なんだ...リンカとは大違いじゃないか。
だがそう言ってくれるのは嬉しいがそれだと俺が心苦しい。
自分本意だと自分でも思うが....。
「いや、欲しいものぐらいあるだろ?とっといたらどうだ?」
「い、いいです.....。あんまりしつこいとお嬢に嫌われちゃうぜー?.....ミゼット.....そんなことない...」
「ぐっ......。分かった....ならとっといておくからな。」
たったっと小走りで店に入っていったルカの耳に届いたのか怪しいところだな。
リンカも続いて入っていったから俺も行くか。


ーー「うーん、やっぱりこっちかな。ちょっとお高いけど。」
「お客様、お決まりですか?もしよろしければ」
「結構です」
ようやく決めた上下セットの衣服を手に取るなり店員が声を掛けてきた。
地球でもそうだったが服屋の店員の押し売り加減は大っ嫌いだ。
「そう言わずにこちらなんて....」
「結構です」
店員が勧めてきたのは1000セルカもする皮製の上着だった。
そんなもん買うわけ無いだろう。
さっさと向こうに行ってくれないかな....
「あの.....」
「結構ですが?」
圧倒的な拒否に頭を垂れて去っていった。
こういうのはしっかり、はっきりと断ることが大事なのだ。
しかしふと、不安に頭をもたげる。
リンカはちゃんと断ったんだよな、勿論。
......後で聞いてみないと。


ーー「すいません、これ下さい」
「はい!では金額の確認をしますので、少々お待ちください!」
結局、安いのよりもちょっと値段が張る方が物持ちが良いだろうと300セルカの服にした。
「ふわわ~.....可愛い.......」
隣で年の離れた妹のように俺が買い物を終えるのを待っていたルカの目が輝いている。
視線のその先には可愛らしいリボンが並んでいた。
「ルカ、それ欲しいのか?買ってやろうか?」
「ん、んーん。.....いい......だいじょぶ........」
意外と頑固なルカは逃げるように去っていき、俺はその中のピンクの色のリボンを手にし。
「これも追加で」
会計に加えて貰うことにした。


ーー「悪い、遅れた。待ったか?」
「待ってないよ。ルカちゃんと話してたから気にならなかったよ」
「...です」
外に出ると大きな手提げ袋を持っているリンカの隣で、ルカが丸椅子に腰かけていた。
その手提げ袋を見て不安が胸の内で広がってくる。
「お前それなにを.....」
「見てみて、ユウトくん!店員さんに選んで貰っちゃった!」
予想が的中してしまった。
だがまだ金額を聞いていない。慌てるな。
まだ一抹の希望を捨ててはいけない。
「いくらした?怒らないから言ってみ?」
「あの.....6、6500.....。」
希望は一瞬にして打ち砕かれた。
「こんのバカたれがぁっ!それほぼ全財産じゃねえか!」
「お、怒らないって言ったのにぃ!ひやああん!」
「度合いにもよるわ!お前はほんとバカだな!今すぐ返品してこい!」
だがその服を相当気に入ってるのか、手提げ袋をぎゅっ、と大事そうに抱き抱えている。
「......あのなあ、食費とか諸々の経費どうするつもりなんだ?俺はまだ残ってるけど色々使い道があるから貸してやれんぞ」
「わ、分かってるよぉ。でも、でもぉ.....」
いつもの泣き顔よりもよっぽど悲しそうにしている表情に、俺も甘いなと痛感せざるを得ない。
ズボンのポケットから500セルカ札を掴み。
「.....はあ.....ほらよ、もう無駄遣いすんなよ。もしやったらマジでキレるからな」
手提げ袋に突っ込んだ。
「う、うん!ありがとう、ユウトくん!大事に使うね!ユウトくんってやっぱり優しいね。あっ、また騙されるところだった。」
お、お前....この期に及んでそれはどうなんだ....
お金貸さなきゃよかった....
「あっ、そうだ。ルカ、手出してくれ」
「えと.......ん」
今度は自分の手提げ袋からリボンを取り出し、ルカの小さくて可愛らしい手に収めた。
「あ、あの......これ.....貰えません....」
「返されても困るぞ。俺はそれ使わないし」
「な、なら......えと、返品か.....リンカさんに.....」
「それされたらちょっと辛いかもな....」
わざとらしく悲しそうにしてみると、心優しいルカはおずおずと自分の胸元で大事そうに抱えている。
「うぅぅ.....お兄ちゃん、意地悪です.....でもその.........ありがとうだってよ!兄貴!.....です」
「はは!気にしといてくれ。いつか働きで返して貰うからな?」
「ふええ......が、頑張ります......」
不安な表情と一緒に嬉しそうなはにかんだ笑顔をしている。
本当は欲しかったんだろうな。
「えー、私のはー?」
「ねえよ!お前には金貸しただろうが!」
こいつ一回しばいてやろうか。
いつかパラメーターで上回ったら。い、いつか....



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